Guérin C, Mancebo J.
Intensive Care Med. 2015 Dec;41(12):2195-7. PMID: 26399890
✔ ベルリン定義策定に関わった専門家により、酸素化の程度に応じた治療戦略が勧められている。低一回換気量戦略は重症度に関わらず適用し、PEEPは重症度に応じて高くする。専門家は重症ARDSでは腹臥位や筋弛緩薬を勧めている。腹臥位の推奨はいくつかのメタアナリシスと、近年行われた多施設無作為化試験であるPROSEVA trialに基づいている。筋弛緩薬の推奨は無作為化試験であるACURASYS trialに基づいている。
✔ 腹臥位と筋弛緩薬が重症ARDSの標準的治療となり得る理由は病態生理、臨床的有用性、安全性の3点から説明される。腹臥位も筋弛緩薬も侵襲的人工呼吸管理における安全なガス交換を達成し、人工呼吸関連肺障害を予防することを目的として行われる介入である。腹臥位では仰臥位に比べて経肺圧と換気が全肺に均等に分布するようになる。肺の過伸展が最小となり、肺容量は大きくなり、BiotraumaやVILIが減少する。筋弛緩薬は呼吸筋を休ませることで部分的な経肺圧増大を抑え、VolutraumaやBiotraumaを減らす。実際、ACURASYSでは筋弛緩薬投与群で有意に気胸が少なくなっており、また、肺の炎症の程度が低くなったとする研究報告も存在する。筋弛緩薬によって危険な呼吸同調(リバーストリガー)も抑制できる。リバーストリガーは肺を過膨張させてしまうので有害である。自発呼吸で生じるPendellufut現象、ダブルトリガーや二段吸気も抑制できる。吸気努力を抑制することで横隔膜損傷も抑止できる。
✔ ARDSの換気戦略のうち、有益であると証明されているのは低一回換気量、腹臥位、筋弛緩薬だけである。しかし、これらの介入はARDSの原因疾患の臨床経過に影響を与えるものではない。これらの介入が有効であるという臨床研究の結果は人工呼吸に伴う有害な作用を抑えることができたから得られたと解釈すべきである。
✔ ACURASYSとPROSEVAの対象患者はどのように選択されていたのだろうか。両試験共に対照群の死亡率が33%前後と同等であった。ARDSと確定されてから介入が行われる時間はACURASYSが16時間であったのに対し、PROSEVAでは32時間であった。ACURASYSでは筋弛緩薬は48時間投与され、PROSEVAでは1日17時間腹臥位を継続していた。
✔ 腹臥位ではさらに循環にもよい影響がある。酸素化が改善してPEEPを減らす事ができれば右心系への負荷を軽減し、ARDSで約50%に起きると言われる肺性心を予防できる。また、前負荷が保たれていれば、腹臥位にすることで心拍出量が増加すると言われている。
✔ 上述の利益は危険性や安全性の問題とバランスがとれているだろうか? 腹臥位については静脈ライン事故抜去や気管チューブの位置異常が考えられる。PROSEVAでは経験豊かなセンターで施行されたこともあってほとんど合併症が起きていない。腹臥位は経験のあるスタッフによって行われれば安全だろう。筋弛緩薬についてはICU acquired neuromuscular weakness(ICUAW)が問題だが、これは喘息患者にステロイドと同時に投与した際に生じたという報告が元になっている事に注意が必要である。ACURASYSでもかなりの数の患者にステロイドが使用されているが筋力低下は対照群と同等であった。
✔ 重症ARDSに対する腹臥位の有用性は再現性を持って報告されており、十分に証明されていると言える。筋弛緩薬のデータはそれほどでもないかもしれないが腹臥位と組み合わせて使用することが病態生理学的観点から有用であろうと思われる。
腹臥位と筋弛緩薬の利点欠点(文献より引用) |
◎ 私見
腹臥位と筋弛緩薬に関するPro-Con。PROSEVAのGuerin先生の意見。ということで腹臥位推しでついでに筋弛緩薬もいいのでは、という論調。
腹臥位については「経験のある施設ならば」という但し書きが曲者。たくさんやってコツのつかめているところなら合併症が少なくなるのは当然だと思うし。「経験」ってなんでしょう。「やったことない」から「経験豊か」の間にはいくつもの段階があると思うのだけど、どのあたりから安全になるのでしょう。
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