Suetrong B, Walley KR.
Chest. 2015 Sep 17. doi: 10.1378/chest.15-1703. PMID: 26378980
✔ 敗血症における乳酸アシドーシス
1.全身の酸素供給量低下
敗血症における乳酸アシドーシスは酸素需要に見合うような酸素供給が行われなくなることによる組織低酸素が原因であると考えられてきた。実際、初期の研究によると酸素供給量と酸素需要量の関係からCritical pointを下回ったところで嫌気性代謝が行われる、すなわち組織低酸素が起きると報告されてきた。しかし、この結果はアーチファクトによるものであるとされており、その後のヒトを対象とした酸素供給量を増やすアプローチが予後を改善しないばかりか死亡率を増やす結果になっている。しかし、敗血症早期においては血行動態を改善することで組織低酸素が改善して乳酸値が減少することも事実である。これらの結果を理解するためには、早期蘇生相と蘇生後相という時相の違いを区別することが重要である。
ショック早期では酸素供給量が低下し(まさにこれこそがショックの定義でもあるが)、組織低酸素をきたし、治療しなければ数時間で死に至る。様々な蘇生プロトコルにより(例えばEGDTのような)早期に酸素供給を増大させることが敗血症性ショックの死亡率を減らした。つまり、早期蘇生相における乳酸アシドーシスについては嫌気性代謝が重要であるということである。
蘇生後相における高乳酸血症については他の原因についても考慮する必要がある。高乳酸血症が続くときに、酸素供給量の減少のみでこれを説明することはできない。Critical pointの3倍の酸素供給量を達成しても高乳酸血症が起きたことが報告されている。さらに、乳酸アシドーシスを起こした敗血症患者における乳酸:ピルビン酸比は正常範囲に保たれていたとも言われている。組織低酸素がなくとも、筋組織、腸管粘膜、心臓、肺、脳において乳酸アシドーシスは起きうる。興味深いことに、エスモロールは酸素供給量を減らすにもかかわらず乳酸値も減少させる事が分かっている。蘇生後相においては高乳酸血症をきたす原因について、組織低酸素以外の要素を検討すべきである。
2.酸素抽出率と微小循環不全
敗血症によって酸素利用が障害される。正常では嫌気性代謝に切り替わる前に供給された酸素の約70%まで抽出率を増やすことができる。敗血症ではこの酸素抽出率が50%未満に減少する。血管内皮細胞における炎症反応により、微小循環不全が起き、ある局所における酸素供給量が減少するというメカニズムもある。さらに、ミトコンドリアの機能不全のため酸素供給が適切でも嫌気性代謝が起きてピルビン酸が乳酸産生に用いられることもある。つまり、全身の酸素供給量が正常でも局所においては嫌気性代謝が行われうるのである。
3.β2刺激による解糖系とNa-K-ATPase活性増加
敗血症では安静時代謝率が増大し、糖代謝が増加する。解糖系への糖流入が増えるとピルビン酸をアセチルCoAに変換するPDHのキャパシティを超えてしまい、増加したピルビン酸はLDHによって乳酸に代謝されてしまう。動物実験で、血中アドレナリン、ノルアドレナリン濃度と高乳酸血症に関係があることと、β2刺激によってNa-K-ATPase活性が増大して解糖系への糖流入が増えることが報告された。これは、β2遮断作用のあるエスモロールや、Na-K-ATPase阻害薬であるウアバインによってエピネフリンによる糖代謝が抑制されるという実験結果からも裏付けられている。
4.乳酸クリアランス低下
血行動態の安定した敗血症患者の高乳酸血症は、乳酸産生の増加というより乳酸排泄の障害が原因である可能性がある。病前の肝疾患や新規の肝障害が起きた場合は乳酸クリアランスが悪くなる可能性があり、余計な輸液負荷などの誘因となり得ることが問題である。
酸素供給と酸素需要の関係・酸素抽出率・Critical Point(文献より引用) |
初期蘇生がうまくいったにもかかわらず、だらだらと高乳酸血症が続く患者さんを診たことがあり、どうしてなのか常々疑問に思っていたことが解決した。
β遮断薬は以前に勉強した血管拡張薬と併せて敗血症性ショックの管理において注目している薬剤。さらなる研究を待ちたい。まあ自分でやるべきなのでしょうが…
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