Boris Jung, Rosanna Vaschetto and Samir Jaber
Intensive Care Med 2020
人工呼吸管理期間の50%は離脱に費やされるといわれている(最初に離脱を試みてから実際に離脱に至るまでの期間)。この過程をいかに良くするかについてコツを10個まとめた
1.不必要な鎮静を避ける
筋弛緩薬の使用を制限し、鎮静レベルを最適化する必要がある。鎮静プロトコルの使用が推奨される。
2.呼吸筋合併症を避けるために横隔膜保護を意識する
長期間調節換気(Controlled ventilation)するとVentilator induced diaphragm dysfunction(VIDD)という呼吸筋の機能不全が生じて予後が悪化する。一方、高一回換気量、強い吸気努力、非同調もまた肺や横隔膜を傷害する。これはPatient self inflicted lung injury(P-SILI)といわれる。
3.自発呼吸テスト(SBT)の候補となるか毎日評価する
気管挿管に至った原因が改善しており、バイタルサインが安定して臓器補助をほとんど要さない状態であればSBTの候補である。ただし、いくつかのクライテリアについては最高の余地がある(古典的にはP/F>150、FIO2<40%、PEEP<8)
4.SBTの方法を考える
このSBTの方法・設定で呼吸器から離脱しても再挿管のリスクは低いか?という視点でSBTの方法を考えるべきである。強い設定のPressure support ventilation(PS 7とPEEP 5など)で短時間(30分など)でSBTを行った場合は、T-tubeで60~120分間SBTを行った場合に比べて抜管後呼吸不全のリスクが高いことに注意する。一方、T-tubeはSBT失敗率を高めて抜管を遅らせがちなので、”弱い設定のPSVで短時間”が望ましいだろう(PS 7+PEEP 0で30分など)
5.プロトコルもしくは半自動離脱戦略
チェックリストを毎日用いて呼吸器設定を調節して離脱を試みると呼吸管理期間が短くなる。自動/半自動アルゴリズムによる離脱が同様の効果をもたらすかどうかはまだ明らかではないが離脱困難患者で有用かどうか検証されていくだろう。比例補助換気は一部の患者で有用かもしれない。
6.SBTに失敗したら直ちに介入する
SBTは一種のストレス負荷試験であり、人工呼吸管理期間を短縮するという効果のほかに陽圧換気によって隠されていた問題点をあぶりだす効果もある。SBTに失敗したら原因を検索して次のSBTまでに治療する。
7.吸気負荷/筋力比
SBTが失敗するということは吸気筋への負荷と神経筋機能とのあいだに不均衡が存在するということを意味する。呼吸筋力は四肢の筋力評価から推定することができないが、不均衡が存在すると呼気筋が動員される。このような点について近年明らかになってきている。
8.離脱失敗の危険因子と抜管失敗の危険因子
離脱困難は重症患者の約20%に生じ、その危険因子は65歳以上、心肺系の合併症であるといわれている。一方、抜管失敗(48時間以内の再挿管)の危険因子は、女性、7日以上の呼吸管理、気道分泌物過多(以上は気道トラブルによる再挿管のリスク)、非肥満、SOFAスコア8点以上(以上は気道トラブル以外による再挿管のリスク)といわれている。
9.抜管後呼吸補助
10~15%の患者は抜管後48~72時間以内に再挿管を要すると言われている。通常の酸素療法は離脱通いで抜管失敗の危険因子がほぼ無い患者に用いられる。高リスク症例ではHigh flow nasal oxygen(HFNO)にNon-invaseive ventilation(NIV)を組み合わせるとHFNO単独に比べて再挿管が減少すると言われている。低~中等度リスク症例ではHFNOが通常の酸素療法に比べて再挿管が減少すると言われている。同様に、HFNOはNIV単独に対して非劣性であるとも言われている。経験のある施設ではSBTに失敗した症例でNIVを用いて抜管し、気管チューブや鎮静による有害性を減らす試みを行っている。
10.気管切開
神経疾患患者とは異なり通常の患者群では早期気管切開と後期気管切開の予後には変わりがない。一方、離脱に時間を掛けなければならない症例や気道分泌物のコントロールに時間がかかる患者では後期(10日以降)気管切開の適応となるだろう。