Sigakis MJ, Bittner EA.
Crit Care Med. 2015 Nov;43(11):2468-78. PMID: 26308433
✔ ICUにおける疼痛管理でしばしば見受けられる通説や誤解を列挙し、解説する
1.重症患者の大部分は適切な疼痛管理を受けている
ICU退室後の患者の約半数が中等度から重度の疼痛を感じていたと報告している。疼痛を感じる頻度はMedical ICUもSurgical ICUも差が無いと言われている。医療従事者は①疼痛の存在を評価していない、②鎮痛薬の種類と投与量を知らない、③疼痛管理の優先順位が低い、④オピオイド中毒を過剰に恐れる、といった問題を抱えている。
2.疼痛は予後に関係ない
疼痛が適切に治療されないと、生理学的/精神的機能を阻害し、短期ならびに長期予後を悪化させることが知られている。例えば、疼痛は咳運動を抑制し深呼吸もできないため呼吸器合併症を増やす。不安やうつ、睡眠障害、悪夢といった問題が精神学的障害をもたらす。疼痛の記憶はPTSDのリスク因子であると言われている。
疼痛管理が予後を改善することも示されている。疼痛を減らすことでコルチゾルが減少し、高血糖が生じなくなり、リンパ系免疫機能が改善すると言われている。
3.痛みは主観的だから正確に評価できない
患者の訴えがゴールドスタンダードである。患者の元々の認知機能に関わらず、訴えをきく努力が必要である。訴えられない患者ではBPSやCPOTといった有用であることが証明されたスコアを使用する。
4.疼痛管理は看護師の仕事である
最も効果的な疼痛管理の方法はチームアプローチである。疼痛の評価と管理についてスタッフを教育することは、質改善プログラムの重要な要素である。
5.オピオイドさえあれば十分
オピオイドは面経抑制の危険が指摘されている。また、オピオイド誘発性疼痛過敏(OIH)の原因にもなり得る。オピオイドが主役であることは間違いないが、NSAIDS、アセトアミノフェン、NMDA拮抗薬、α2作動薬、三環系抗うつ薬、神経ブロックなどを組み合わせてアプローチすることが重要である。
6.オピオイドの使用量には上限がある
オピオイド依存や慢性疼痛患者などでは大量のオピオイドが必要となることがある。オピオイドの使用量には上限は無く、天井効果もない。交叉耐性は完全には生じないとされているので、オピオイドローテーションが有用かもしれない。NMDA受容体を介する作用がオピオイド耐性に寄与するとされるので、NMDA拮抗薬を添加するのもよい。Methadoneはμ受容体作動薬であると同時にNMDA受容体拮抗作用も持つ。KetamineもNMDA受容体拮抗薬として疼痛管理に使用される。
7.鎮静は鎮痛と同じこと
MidazolamやPropofolを用いた鎮静が第一であると考えられてきた。しかし、疼痛をそのままにしておくと鎮静薬の使用量が増えてしまう。現在は鎮痛を優先する考え方に変わってきている(Analgesia-first、Analgosedation)。Remifentanilは強力な鎮痛作用とともに速やかに代謝されるという疼痛管理に有用な性質を持つオピオイドであるが、OIHや耐性の問題が報告されている。
8.処置に伴う痛みは処置後に対処すればよい
処置前に疼痛を見積もられているのは35%に過ぎず、処置前に鎮痛薬を投与されたのは25%未満であったと報告されている。ICUの処置で疼痛が強いのは胸腔ドレーン抜去、創部ドレーン抜去、動脈圧ライン挿入であったと報告されている。オピオイドが前投与として用いられるが、投与量とタイミングを誤ると疼痛は強くなりがちであるとも言われている。
9.高齢者は痛みを感じづらい
心筋虚血による痛みや潰瘍による痛みなど、高齢者で疼痛が小さいという報告はあるが、ICUにおける疼痛が若年者より小さいという証拠はない。確かに疼痛の閾値は若年者より高いかもしれないが、疼痛に対する耐性が低いという点を考慮にいれなければならない。
10.慢性疼痛を発症することは無い
ICU退室後の慢性疼痛が増えており、QOLを低下させる事が問題となっている。急性疼痛が慢性疼痛を起こすのかどうかははっきりと分かっていない。
◎ 私見
ほんの数年前まで、我々の施設でもこれらの誤解がみられていた。いろいろと工夫していまはほとんどみられなくなっている。
さて、それで予後が改善したかというと、目覚ましくよくなったというわけではない。よくなったのはICUの雰囲気と他部門とのコミュニケーションであった。このあたりのことを以前学会で報告したのだけど、計測できないアウトカムが良くなったというだけでは注目されないのですよね…
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