William F. Peacock et al.
Crit Care 2015 19:399
✔ 急性心不全の早期診断
救急外来では急性心不全(AHF)をCOPDや肺炎、敗血症などと区別することが難しいことがある。身体診察所見は感度が低く、心電図や胸部X線写真も診断的価値が高いとは言い難く、呼吸苦のため病歴をとることも難しい。これらの理由から不適切な治療・投薬がなされることがある。
1)治療の遅れと予後
AHFの診断が遅れると予後が悪化する事が分かっている。入院したAHF患者のレジストリを解析した結果、投薬が早かった群と遅れた群では予後に差があることが判明した。おおむね、治療が6時間遅れるごとに死亡率が6.8%上昇するという結果であった。
治療開始までの時間と死亡率(文献より引用) |
身体所見とバイタルサインと病歴はAHFの鑑別に有用ではあるが、検査(血算、尿検査、電解質、尿素窒素、クレアチニン、血糖、BNP、トロポニン)も行うべきである。心電図は鑑別診断を狭めることができるし、虚血や不整脈や高カリウム血症、ジゴキシンによる接合部徐脈など非代償となるにいたった原因を教えてくれることがある。以前の心電図との比較も有用であるし、全く正常な心電図のときには他の診断を考えるきっかけともなる。超音波検査は正確な診断の助けとなる。肺エコーで両側Bラインが認められるという所見は急性心原性肺水腫を感度94.1%、特異度92.4%で示唆するとされている。胸部X線写真にも価値がある。しかし、肺静脈うっ血、間質浮腫、肺胞水腫、心拡大があるとAHFの可能性は高まるが、これらの所見が無いからと言ってAHFを否定することはできない。入院したAHF患者の19%は胸部X線写真でうっ血所見が無かったという報告がある。
胸部X線写真所見の頻度(文献より引用) |
ERは敗血症性ショックや急性心筋梗塞に対する早期管理に主眼を置いて組織化されている事が多いので、AHFのような微妙な所見を呈する疾患に対しては介入が遅れがちである。また、すべての施設でバイオマーカの迅速診断キットをおいているわけではない。。AHFの標準化された管理ガイドラインがあるわけでもない。
AHF患者は高齢で重症であることが多いため薬歴を思いだせないことがある。例えばフロセミドの投与量は個別化すべきと言われており、どれくらいの量を内服していたかという点が重要となる。また、初療医、循環器科医、薬剤師などの間で情報伝達がうまくいかないことも問題である。
◎ 私見
Crit Care誌の心不全の初療に関するReview。最初のパートでは診断がいかに大変かということについてまとめてある。入院患者の診断名に「肺炎」と「心不全」が併記されていたりすると、さもありなんという気持ちになります。
個人的にはやはり身体所見を重視したいところ。これを補完するために超音波を使う、という戦略で臨むことが多いです。
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