2015年12月6日日曜日

急性心不全の初期管理③

Considerations for initial therapy in the treatment of acute heart failure
William F. Peacock et al.
Crit Care 2015 19:399

✔ 鑑別のついていない呼吸苦の初期管理
 急性心不全(AHF)患者の主訴として呼吸苦は最も多く認められるものだが、他の疾患(COPDや肺炎)でも呼吸苦を呈する。また、呼吸器疾患と心不全が同時に起きることも珍しくない。呼吸苦を呈する患者の鑑別診断では、病歴、バイタルサイン、胸部X線写真、検査結果を総合的に判断しなくてはならない。BNPでは鑑別が難しいような症例では心エコーが有用である。高体温や低体温は敗血症や甲状腺機能異常を示唆する所見である。頻脈は非代償性心不全を示唆し、徐脈は低カリウム血症、ジギタリス中毒、β遮断薬中毒、房室ブロックを示す。低血圧は重症敗血症、心原性ショック、心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症を考えるきっかけとなる。
呼吸苦を呈する患者の鑑別(文献より引用)
 AHFとCOPDの両方のリスクを持ち、BNPも境界値(100~500)を示している際には治療が難しくなる。この群の患者に対してはAHFとCOPD両者に無害な薬剤を選択して治療する必要がある。表を参考にして選択する。なお、クラリスロマイシンはCOPDや肺炎患者の心血管リスクを増加させることに注意する。
治療薬のAHF・COPD・肺炎に対する有用性と有害性(文献より引用)
 非侵襲的陽圧換気はAHFによる肺水腫に良い適応である。血行動態が安定していて重度の呼吸窮迫を呈しているが診断がついていない場合、非侵襲的陽圧換気に血管拡張薬、気管支拡張薬、ステロイドを組み合わせて使用するとよいかもしれない。非侵襲的陽圧換気は気管挿管率を減らし、呼吸仕事量を減らし、機能的残気量を増やし、ガス交換を改善し、前負荷/後負荷を減らすことで血行動態を改善する。一方、不快感をもたらしたり、皮膚潰瘍、誤嚥のリスク増大、静脈環流量の減少といった問題もある。近年ではHigh flow nasal cannulaの有用性も報告されている。
 近年、バイオリアクタントを使用して座位から仰臥位への体位変換時の胸郭内水分量の変化を非侵襲的に計測することでAHFとCOPD/Asthmaを鑑別できるという報告がなされた。AHF患者ではもともと胸郭内水分量が大きく、体位変換に伴う心拍出量の変化が小さかった。
 肺エコーも有用である。両側のBラインの存在はAHFによる肺水腫を示唆する。肺エコー、心エコー、下大静脈径評価を組み合わせることでAHFとCOPDを感度94.3%、特異度91.9%、正確度93.3%で診断できたとする報告がある。BNPが鑑別には微妙な値の時は左室の拡張末期径が有用である。さらに下大静脈を測定することも有用である。
 埋め込み型除細動器(ICD)がある患者では、場合によっては心拍変動や心インピーダンスの変化を調べることで心不全発症を知ることができる。

◎ 私見
 診断しつつ治療する際に考えるべきポイントがまとめてあって面白かった。呼吸器疾患との鑑別がついていない時に何をどのように使うのかという点をこのように解説したものは多くないので。あと、非侵襲的陽圧換気をどれくらいうまく使えるか、がポイントかなと思う。救急外来に一台買ってもらえないものかな…

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