2016年2月17日水曜日

敗血症性ショックの末梢循環不全の徴候

Understanding clinical signs of poor tissue perfusion during septic shock.
Ait-Oufella H, Bakker J.
Intensive Care Med. 2016 Feb 4. PMID: 26846520


✔ 感染に伴う急性循環不全である敗血症性ショックは代謝需要に対する組織灌流や酸素供給の不足によって特徴づけられる。このような不均衡は血管内皮細胞の機能的/器質的損傷によって生じる。血管内障害は細菌菌体成分や炎症性メディエータ、活性酸素、活性化白血球によって起きる。細胞や組織障害は虚血によって起き、さらにミトコンドリア機能不全なども関与する。微小循環を直接的に可視化する装置を用いた検討で、敗血症においては組織灌流が一様ではなくなり、全身的な血行動態と局所の血流量には差があることが分かってきた。局所組織灌流は舌下組織や胃粘膜を標的として評価できるが、本レビューでは対象とせず、ベッドサイドで行える皮膚循環の評価にフォーカスをおいた。
 末梢循環評価の原理は皮膚や筋肉のような末梢組織が最初に循環不全の犠牲になるという事実に基づいている。これは、皮膚循環には自己調節能が存在せず、交感神経活動更新によって初期から血管収縮が起きることによる。他にも、白血球集積、血小板活性化、フィブリン沈着などによって循環不全が起きる。皮膚循環は温度調節において重要であり、重症感染症においては直接的に皮膚の色調や温度に影響が生じる。

✔ 斑状変化
 皮膚がまだらになる斑状変化は重症患者でよくみられる所見であり、まだらな皮膚の変色として定義され、常膝周囲にはじまり指や耳に広がることもある。DICのような完全な血管閉塞を起こすような病態がなければ、この所見は皮膚の低灌流を示す所見である。NIRSを用いて評価したところ、変色部位は低灌流であると共に組織酸素化が減少している事が明らかになっている。斑状変化の客観的評価のために、皮膚から末梢組織に広がる変色部位によって点数化するシステムがある。斑状変化スコアは0点から5点までで評価され、点数が最も高いと皮膚斑状変化が膝から指まで全体に広がっている状態を示す。観察者間の一致もよい(κ=0.87)。我々は初期蘇生6時間後の斑状変化スコアが高いと14日死亡率が高いことを見出した。また、平均血圧とは全く関係していなかった。斑状変化スコアの有用性は救急外来における重症患者を対象とした試験などでも示されている。血管拡張で特徴づけられる臨床状況でも死亡率増加のリスクとなることが分かっている。肝硬変患者の敗血症で、斑状変化スコアが高いと死亡率が高くなったが、感度は低かった。感度が低くなることの理由として、コレラの患者はもともとの皮膚灌流量が多いことが理由であると推測される。

✔ 毛細血管再充満時間
 毛細血管再充満時間(CRT)は人差し指の詰めを押して、色調が元に戻るまでの時間である。CRTは末梢血管床に血液が戻るまでの時間を意味している。いくつもの観察研究が小児の重症患者をトリアージする際の有用性に言及している。非感染性の小児や重症成人を対象とした研究でも、CRTと乳酸値の挿管を報告している。健康成人を調査したSchrigerらの研究に基づき4.5秒をカットオフとしたとき、CRT延長は末梢循環の減少と臓器障害を反映している事が示された。腹部手術後の患者を対象とした研究では、人差し指のCRTが5秒を超えると術後合併症が多くなったり死亡が増えることが示されている。初期蘇生を終えた敗血症性ショックの場合、CRTは指先を用いた場合(AUC 84%)も膝を用いた場合(AUC90%)も14日死亡をよく予測できた。この研究では指先のCRT2.4秒をカットオフとして感度82%、特異度73%、膝のCRT4.9秒をカットオフとして感度82%、特異度84%と報告している。さらに重要なことに、CRTと尿量や乳酸値が相関している事も示された。さらに、近年の敗血症性ショック生存者を対象とした研究で、Hernandezらは生存はCRTの正常化によって特徴づけられるとした。

✔ 体温較差
 皮膚温を主観的に評価することで予後を予測するという研究があるが、その主観性をおいても問題なのは環境温の影響である。それゆえ、ある二つの部位の体温較差が研究で用いられる。Weilらは中枢-爪先温度較差の予後予測などの観点から有用性をひろく示した。しかし、これも低体温症であったり環境温が低い場合は影響を受ける。しばしば前腕と指先の温度較差(Tskin-diff)が末梢循環評価に用いられるが。いくつかの研究によってTskin-diffが0℃は血管収縮を意味しうるが4℃以上は重篤な血管収縮を示唆するといえる。この方法の利点は両計測部位が同様に環境温の影響を受ける点である。Tskin-diffはレーザードプラを用いた皮膚血流評価の結果と相関することが分かっている。臨床研究でも患者予後を予測することが分かっている。

✔ まとめ
 斑状変化、CRT延長、皮膚温低下で示される末梢循環不全が生じた場合、患者に対して輸液負荷などの治療がおこなわれる。初期蘇生の後に末梢循環不全が残存している場合、これを改善するために血管を標的とした治療がおこなわれることがある。例えば、Limaらはニトログリセリンによって末梢循環不全を治療した時(Max 16mg/hr)15人中12人の患者で少量(8mg/hr以下)で重武運無末梢循環を得ることができたと報告している。Tskin-diffは敗血症性ショックの輸液蘇生の指標として用いられることがある。30人を対象とした研究で、Tskin-diffやCRTが正常になった場合に輸液負荷をしないことで患者予後が改善したことが示された。末梢循環の評価はかなり有力なモニタであると考えられる。さらなる研究が必要である。
末梢循環不全の徴候(文献より引用)
◎ 私見
 どんな患者さんでも四肢末梢を必ず触るようにしている。場合によっては血圧よりも手足を触れることが重要だと思っているから。ということでこのミニレビューでは末梢循環の評価の有用性をコンパクトにまとめている。血圧の数字や検査の値だけでは集中治療の面白さは伝わらないと思っている。研修医にはこういった事をしっかり伝えられるようにならないと。


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