Pinto BB, Siegenthaler N, Tassaux D, Banfi C, Bendjelid K, Giraud R.
Int J Cardiol. 2015;186:45-7. PMID: 25804468
✔ H1N1インフルエンザは重症ARDSを合併し死亡率が高いが、VV-ECMOが予後を改善することが知られている。しかし、カニューレを正しい位置に留置してECMO流量を最大にしても難治性低酸素血症が遷延することがある。β遮断薬を用いて心機能を抑制することで低酸素血症を改善できたので報告する。
✔ 34歳の肥満(BMI34)男性が発熱、呼吸苦、咳、痰が2週間の経過で悪化したため救急外来を受診した。血行動態は安定しているものの頻呼吸であり、動脈血酸素飽和度は室内気で89%であった。胸部X線写真では右肺の浸潤影を認め、血液検査では白血球減少、CRP上昇、クレアチニン上昇を認めた。オセルタミビルとクラリスロマイシン、セフトリアキソンによる治療開始24時間後に重症ARDSとなりICUに入室した。鎮静して気管挿管し、筋弛緩のうえで低一回換気量による肺保護換気を行った。ステロイドとNOも開始した。この時点でインフルエンザと判明した。
リクルートメント手技、PEEP 18~20cmH2O、腹臥位を行ったがP/F比は低いままだった。6日目にVV-ECMOを開始し、Lung-restとした。ECMO開始2日後、ECMO流量6.5L/min、Sweep gas 7L/min、FIO2 100%でも低酸素血症が遷延した。
脱血カニューレの酸素飽和度は持続的にモニタしている。最初は80%であり、かなりのRecirculationが存在することを示唆するものであった。まず、カニューレをそれぞれ少しずつ引き抜いてみたが患者の状態が悪化するためうまくいかなかった。この状況では熱希釈法による心拍出モニタは計測できないため、スワンガンツカテーテルは抜去して食道ドップラープローブを挿入したところ、頻脈に伴う高心拍出量状態であった(11~12L/min)。
SIRSにともなう高心拍出量状態がECMO流量の占める割合を減らして酸素化を悪化させていると判断した。これはVV-ECMOの弱点として知られるものである。そこで、メトプロロールを投与したところ血圧は変わらないものの心拍数が約70まで低下して心拍出量も8L/min程度まで減少した。脱血側酸素飽和度は70%まで減少し、動脈血酸素飽和度は上昇した。ECMOは18日目に離脱し、26日目に抜管、35日目にICUを退室した。
✔ 重症ARDSではVV-ECMO導入後も遷延する低酸素血症を認めることがある。低酸素はECMO流量が心拍出量よりもかなり低いときに起きることがある。本症例でもβ遮断薬による適切なECMO流量/心拍出量比が保たれたことが低酸素血症の改善に有用であったと考える。食道ドプラによる心拍出量モニタと近赤外スペクトロスコピーによるRecirculation率のモニタが患者予後の改善に有用だろう。
✔ VV-ECMOにおける遷延する低酸素血症に対しては三つの要素を検討すべきである。Schmidtらは大腿静脈-頚静脈VV-ECMOは血流量とECMO流量/心拍出量比が0.6以上あればよいと報告している。ふたつめ脱血/送血カニューレの先端間の距離が15cm以上でRecirculationが最小になるということである。みっつめはデュアルルーメンカニューレが有効であるということである。
さらに我々はβ遮断薬による心拍出量コントロールを成功裏に行うことができた。食道ドプラでメトプロロール投与に伴う心拍出量の変化をモニタできた。ECMO流量/心拍出量比が低いときはECMO流量を増やすのがセオリーではあるが、本症例ではすでに最大流量となっていた。
心拍出量を減らすことによる酸素化の改善には二つのメカニズムがある。ひとつめは心拍出量に占めるECMO流量が増えることによる酸素化の効率上昇である。もうひとつは心拍数減少に伴う拡張期の延長と収縮期の短縮である。なぜならRecirculationは三尖弁の閉じた収縮期に多くなると考えられるからである。
◎ 私見
VV-ECMOにおける酸素需給バランス評価で特に重要なのは、動脈血酸素飽和度、脱血側酸素飽和度、そしてECMO流量/心拍出量比だと思う。もちろん乳酸値や体温・意識レベル管理(酸素消費量に関わる)なども見ますが。麻薬をうまく使うのがコツだと思っていて、徐脈になるし、酸素消費量も減るし、何となくよい感じがしている。Remifentanilとか使えるともっと楽なのかもしれないが、長期間の使用でどうなるかが分からないのが問題か。
✔ 34歳の肥満(BMI34)男性が発熱、呼吸苦、咳、痰が2週間の経過で悪化したため救急外来を受診した。血行動態は安定しているものの頻呼吸であり、動脈血酸素飽和度は室内気で89%であった。胸部X線写真では右肺の浸潤影を認め、血液検査では白血球減少、CRP上昇、クレアチニン上昇を認めた。オセルタミビルとクラリスロマイシン、セフトリアキソンによる治療開始24時間後に重症ARDSとなりICUに入室した。鎮静して気管挿管し、筋弛緩のうえで低一回換気量による肺保護換気を行った。ステロイドとNOも開始した。この時点でインフルエンザと判明した。
リクルートメント手技、PEEP 18~20cmH2O、腹臥位を行ったがP/F比は低いままだった。6日目にVV-ECMOを開始し、Lung-restとした。ECMO開始2日後、ECMO流量6.5L/min、Sweep gas 7L/min、FIO2 100%でも低酸素血症が遷延した。
脱血カニューレの酸素飽和度は持続的にモニタしている。最初は80%であり、かなりのRecirculationが存在することを示唆するものであった。まず、カニューレをそれぞれ少しずつ引き抜いてみたが患者の状態が悪化するためうまくいかなかった。この状況では熱希釈法による心拍出モニタは計測できないため、スワンガンツカテーテルは抜去して食道ドップラープローブを挿入したところ、頻脈に伴う高心拍出量状態であった(11~12L/min)。
SIRSにともなう高心拍出量状態がECMO流量の占める割合を減らして酸素化を悪化させていると判断した。これはVV-ECMOの弱点として知られるものである。そこで、メトプロロールを投与したところ血圧は変わらないものの心拍数が約70まで低下して心拍出量も8L/min程度まで減少した。脱血側酸素飽和度は70%まで減少し、動脈血酸素飽和度は上昇した。ECMOは18日目に離脱し、26日目に抜管、35日目にICUを退室した。
✔ 重症ARDSではVV-ECMO導入後も遷延する低酸素血症を認めることがある。低酸素はECMO流量が心拍出量よりもかなり低いときに起きることがある。本症例でもβ遮断薬による適切なECMO流量/心拍出量比が保たれたことが低酸素血症の改善に有用であったと考える。食道ドプラによる心拍出量モニタと近赤外スペクトロスコピーによるRecirculation率のモニタが患者予後の改善に有用だろう。
✔ VV-ECMOにおける遷延する低酸素血症に対しては三つの要素を検討すべきである。Schmidtらは大腿静脈-頚静脈VV-ECMOは血流量とECMO流量/心拍出量比が0.6以上あればよいと報告している。ふたつめ脱血/送血カニューレの先端間の距離が15cm以上でRecirculationが最小になるということである。みっつめはデュアルルーメンカニューレが有効であるということである。
さらに我々はβ遮断薬による心拍出量コントロールを成功裏に行うことができた。食道ドプラでメトプロロール投与に伴う心拍出量の変化をモニタできた。ECMO流量/心拍出量比が低いときはECMO流量を増やすのがセオリーではあるが、本症例ではすでに最大流量となっていた。
心拍出量を減らすことによる酸素化の改善には二つのメカニズムがある。ひとつめは心拍出量に占めるECMO流量が増えることによる酸素化の効率上昇である。もうひとつは心拍数減少に伴う拡張期の延長と収縮期の短縮である。なぜならRecirculationは三尖弁の閉じた収縮期に多くなると考えられるからである。
◎ 私見
VV-ECMOにおける酸素需給バランス評価で特に重要なのは、動脈血酸素飽和度、脱血側酸素飽和度、そしてECMO流量/心拍出量比だと思う。もちろん乳酸値や体温・意識レベル管理(酸素消費量に関わる)なども見ますが。麻薬をうまく使うのがコツだと思っていて、徐脈になるし、酸素消費量も減るし、何となくよい感じがしている。Remifentanilとか使えるともっと楽なのかもしれないが、長期間の使用でどうなるかが分からないのが問題か。
0 件のコメント:
コメントを投稿