2016年2月26日金曜日

乳酸値を指標とした蘇生は有用かーYes

Lactate-guided resuscitation saves lives: yes.
Bloos F, Zhang Z, Boulain T.
Intensive Care Med. 2016 Mar;42(3):466-9. PMID: 26831674


✔ はじめに
 ショックは組織における酸素需要と酸素供給のミスマッチと定義される。低血圧はショック患者にしばしばみられるが、病期が進んでから現れることもあるし血圧が下がらないものもある。血圧を測ることは容易だが組織の酸素化を評価することは難しい。乳酸値をショックの診断や治療戦略における指標として用いることには議論がある。

✔ ショックと乳酸値
 解糖系では糖をピルビン酸に分解するのに酸素を必要としない。ピルビン酸はミトコンドリアに輸送され、PDHの作用を受けてアセチルCoAとなり、TCAサイクルに入って酸素を燃料としてATPを合成するか、LDHの作用を受けて乳酸となるか、どちらかの経路をたどる。作られた乳酸はその場で使用されるか血流に放出される。この経路をみると、ショックやストレス下で乳酸が上昇する理由がよくわかる。
 酸素需要が供給量を上回ると細胞低酸素が起き、ミトコンドリアの呼吸鎖における酸化還元反応が抑制される。これにより、ピルビン酸がミトコンドリアに輸送されなくなり、乳酸形成がすすむ。一方、高炎症状態によってサイトカインが放出され、解糖系が刺激される。このため乳酸産生がすすむことになるが、ミトコンドリアの機能が酸素需要に対して十分である限りは細胞質における乳酸とピルビン酸の比は一定に保たれる。これまでは前者の経路のみが強調されてきたが、近年は後者の経路(解糖系亢進)が重要であると考えられるようになってきている。しかし、HIFを介して低酸素そのものも解糖系を更新することが分かってきており、事態はさらに複雑である。
乳酸産生経路(文献より引用)
✔ ショックにおける高乳酸血症
 組織低酸素により乳酸値は上昇するので、高乳酸血症が予後不良に関係すると考えることができる。実際、敗血症をはじめとするいくつかの研究で高乳酸血症が短期予後不良に関係していることが報告されている。在院死亡率との線形関係が指摘されているだけでなく、救急外来受診患者の短期予後(3日以内)とも関係しているといわれている。必ずしも低血圧を伴っておらず(Cyptic shock)、ショック患者における警告サインとして有用であると考えられる。カットオフ値としては4mmol/Lを我々は推奨している。

✔ ショックにおけるクレアチニンクリアランス
 蘇生によって組織の酸素化が改善すると乳酸値は減少に転じると予想できる。乳酸クリアランスは継時的乳酸値の減少(一般に2~6時間)と定義される。実際、乳酸値が下がらなかった患者は予後不良であったのに対し、クリアランスが良好であった例は予後もよかったことが報告されている。敗血症早期に乳酸値を指標とした蘇生方法の有用性を評価した4つのRCTを用いたメタアナリシスで、乳酸クリアランスを指標にすると予後が改善することが分かった。しかし、乳酸が上昇することそのものが問題なのではない。乳酸値だけを下げようとしても意味はないし、過剰産生を直接的に制御するすべも持ち合わせていない。それに、一つの指標だけで血行動態を代表させることにも疑問がある。よって、早期の高乳酸血症を原因追及の警告機能ととらえ、クリアランスを指標とした介入をおこなう方向性が正しいのだろう。

◎ 私見
 乳酸値そのものよりはクリアランスを重要と考えれば、蘇生のフェーズにおいて有用だろうという意見。固執しちゃだめだけど、ちゃんとメカニズムを理解していれば使えるのじゃないかとは僕も思う。

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