2016年3月8日火曜日

VAD装着後の集中治療②

Left ventricular assist device management in the ICU.
Pratt AK, Shah NS, Boyce SW.
Crit Care Med. 2014 Jan;42(1):158-68. PMID: 24240731

✔ VAD後の合併症
 VAD後の患者はしばしば入院を要する合併症が生じるが、特に最初の6か月間に多い。合併症には、出血、心不全、神経障害、不整脈、感染、血栓症、溶血がある。

✔ 血液
 血栓症と出血それぞれのリスクのバランスをとらなくてはならない。VAD後は凝固系も線溶系も両方活性化される。血小板が回路などに接触して起きる活性化はそれほど大きな問題ではないと思われ、実際、抗血小板剤の使用の有無にかかわらず血小板機能は有意に低下していることが示されている。
 抗凝固プロトコルは施設や使用した機器、患者個々によって異なる。抗凝固薬としては抗血小板剤とワーファリンの両者が基本である。しかし、近年のデータによると、血栓症よりも出血性合併症のほうが問題であることが分かっている。よって、術後早期は抗凝固は不要かもしれない。ワーファリンは通常術後3日目のドレーン抜去後に開始する。PTINRは1.5~2.5にコントロールする。アスピリンは50~325㎎が投与されるが、血小板機能検査(後天性vW症候群の証拠など)に基づいて投与したり、臨床状態や機器によって変えている施設もある。
 血栓性合併症として最大のものはポンプ血栓と動脈血栓症である。血栓はインペラや大動脈弁・左心耳・拡張した左室などの低流量の部分で形成される。虚血性脳卒中はVADの8~10%に認められる。活動性の感染症があると、凝固系が活性化されるため脳卒中のリスクが上昇する。
 ポンプ血栓の徴候としては、溶血、血栓塞栓症、心不全、消費電力や流量表示の上昇にもかかわらず臓器灌流不全の徴候が表れること、が挙げられる。ポンプ血栓を生じた際は血栓溶解薬、ヘパリン、Lepirudinを使用する。薬物療法に反応しないときはVADを交換するか心移植を行う。
 出血は最も多い合併症である。手術を要する出血は患者の26%に認められる。早期の出血源としては縦隔が最も多く、以下、胸腔、下部消化管、胸壁、上部消化管と続く。移植を考えている場合は白血球吸着した放射線照射済みの輸血のみを用いる。
 30日を超えて起きる出血の原因としては、鼻出血、消化管出血、縦隔出血、胸腔内出血、頭蓋内出血がある。消化管出血を認めた患者ではPTINRが有意に高かったという報告がある。消化管出血の原因として最も多いのは動静脈奇形で、ポリープ、胃管による接触、胃食道逆流による粘膜びらんが挙げられる。
 脳出血は虚血性脳卒中に引き続いて起きるか、外傷性硬膜下血腫、くも膜下出血、特発性脳出血によって起きる。頭蓋内出血はVAD後の神経学的合併症の最も多い原因である。多くの脳出血患者で出血時のPTINRはコントロール良好であり、術後の抗凝固プロトコルによって脳出血の起きやすさが変わるわけではない。VADの流量や平均血圧>90mmHgの高血圧では脳出血が起きやすい。脳出血が起きると予後は悪くなり、30日死亡率は59%に達する。
 消化管出血に対しては抗凝固療法の一時中断を含む多くの対策が取られる。出血が止まれば、INRの目標値をアスピリンをやめたままワーファリンを増やして目標INRにゆっくりと近づけていく。抗凝固なしで1年以上管理できるという報告もある。脳出血が起きた後は、約1週間後からアスピリンを再開し、10日後からワーファリンを再開すると血栓のリスクもさほど上がらずによい。
 重篤な出血が起き、手術的な介入が不可能な場合、活性化第Ⅶ因子製剤を投与することができる。活性化第Ⅶ因子を大量に使用すると大量の血栓塞栓症を起こしうる。
消化管出血への対応(文献より引用)
✔ 感染
 感染症は心不全による死亡の原因として2番目に多い。ISHLT(International Society of Heart and Lung Transplantation)は感染性合併症を機器との関係で分類している。どのような感染症であっても在院日数を伸ばし、死亡率を上昇させる。機器に関連した感染症はしばしば退院後に起きる。術後感染症が起きると神経学的合併症も多くなる。VADに特異的な感染症としてはドライブライン感染とポンプポケット感染がある。これらは局所の熱感や発赤、蜂窩織炎、発熱、白血球増多で特徴づけられる。ポンプポケット感染はドライブライン刺入部からの膿の排出や腹部圧痛で気づかれる。CTや白血球シンチ、PET-CTは診断において限定的な意義しかない。超音波を用いれば液体貯留を診断し穿刺吸引ができる。もし可能なら深部組織から検体を採取し検査する。
 多くのVAD特異的感染症はグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌が最も多い原因であるが、腸球菌や連鎖球菌もしばしば分離される。グラム陰性菌としては緑膿菌が最も多い。
 どのような感染症でもVADへの感染リスクがあるため積極的に治療する。ドライブラインの局所感染やSSIは経験的にはグラム陽性菌をカバーするのみで治療されるが、耐性菌までカバーするかどうかはアンチバイオグラムや個々の症例の抗菌薬使用歴などを参考に決定する。深部組織感染やポンプポケット感染ではグラム陰性菌とグラム陽性菌両者を経験的にカバーする。ポンプを換えずにドライブラインのみを換えることはできないため、時にドライブラインを感染巣から離れた場所に移動させる手術を行うことがある。深部組織感染では手術的デブリドマンが必要となり、ポンプポケット感染は抗菌薬含有ビーズや横隔膜パッチ、筋肉フラップ、陰圧閉鎖式吸引装置を用いて治療されることがある。重症例や再発例ではVADを取り外して心移植をするか、移植ができるまでVA-ECMOに変更する。

✔ 不整脈
 VADそのものの機能には影響しないが、心房細動によりatrial kickが消失すると右室の心拍出量と機能が低下してしまうため、レートコントロールやリズムコントロールが必要になる。禁忌がなければINRは2~2.5に上昇させる。
 VAD後の心室性不整脈は多い。VADのカニューレを挿入することでリエントリー回路が形成されることがある。循環血液量減少、右心不全、心室狭小化でカニューレと心室中隔が接触することでも不整脈が起きる。術後数か月たってからもカニューレの位置が変わって心室性不整脈の原因となることがある。
 心室性不整脈の治療は段階的に行う。まず、VADの流速を減らし心室充満圧を上昇させることで、心室中隔をカニューレ先端から遠ざける。循環血液量減少は輸液負荷で治療する。β遮断薬とアミオダロンがまず用いられ、難治性の場合はメキシレチンが用いられる。他のソタロールやリドカインは必要に応じて用いる。術後1か月を最大として次第に抗不整脈薬は減量できる。それでも難治性の場合はカテーテルアブレーション、カニューレの位置変更、VAD交換の適応となる。

✔ 大動脈機能不全
 VAD管理期間が長くなると大動脈機能不全の重症度や頻度が高くなる。VAD流速が早いと左室と直列となり大動脈弁が開かなくなる。流速が低いと左室と並列となり大動脈から血液を駆出する。しかし、開口面積や開口時間は著しく減少しているので機能的大動脈狭窄を呈してしまう。大動脈弁への機械的ストレスが強いと大動脈弁が癒合したり機能不全に陥り、最終的には逆流を生じる。大動脈弁逆流が起きると、VADから送り出される血液が逆流してまた左室内でポンプに吸引されるため全身に駆出されなくなり、ポンプ効率が減少し、肺水腫が生じ、赤血球シェアストレスがかかるようになる。大動脈弁が開かないと弁に血栓が生じるリスクとなり、ひいては脳卒中や他の臓器の血栓症の原因となる。心エコーを繰り返し、大動脈弁が開放され、左室に負荷がかかりすぎないように流速を調節しなくてはならない。

◎ 私見
 文献から合併症に関する記載を抽出。凝固機能の調節と感染管理が肝か。関連各科との連携が極めて重要になると予想される。だからこそ集中治療室での管理が必要といえるし、そこで築かれた関係性をそのまま病棟に持っていけるようにしないとならない。

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