Gattinoni L, Quintel M.
Crit Care. 2016 Apr 6;20(1):86. PMID: 27048605
✔ 様々な病因で肺実質に炎症がおきるが、時にその炎症が肺全体に広がってびまん性の肺水腫をきたすことがあり、これをARDSという。肺重量が増加するに従い、下側の肺は虚脱し、上側の肺は歓喜によって開放され続けるようになる。換気のない領域が生じて、肺容量が小さくなるため、ARDSのふたつの主要な症状が引き起こされる。すなわち、酸素投与に抵抗性の低酸素血症と肺コンプライアンスの低下である。
ARDSではその原因となった疾患を治療しなくてはならない。病態生理を参考に、ステロイド、スタチン、抗メディエータ薬が試されたが、明らかに予後を改善するものはない。一方でガス交換に対する治療は原因疾患とは関係がなく、非特異的である。なぜなら、その治療目標や治療合併症は浮腫の程度によるからである。
したがって、ARDSに対しては、まず特異的な治療の対象となりうる原因疾患を特定し、ARDSの重症度を判定するという二つのステップから始まることになる。重症度を評価するために、CTやそのほかの画像検査を用いて浮腫の量を測ったり、肺外水分量を測定したりする。ベルリン分類はPEEP5㎝H2Oをかけた状態で行うが、浮腫や肺のリクルート可能領域を評価するうえで有用であるため推奨できる。
人工呼吸管理をのものはARDSを治癒させないが、生存に必要なガス交換を維持して時間を稼ぐことができる。これは呼吸筋の機能を肩代わりすることで得られる利益である。ARDSでは呼吸筋はいくつかの理由により換気に十分なパワーを供給することができなくなっている。人工呼吸管理の酸素化に与える影響はふたつある。すなわち、FIO2を厳密に調整できるということと、吸気時に虚脱した肺領域を開放するのに十分な圧を供給してこの領域を灌流する血液を酸素化することである。しかし、PEEPが十分でないと呼気時にこの肺領域は再度虚脱してしまう。PEEPが十分でないと、一回換気が酸素化に与える影響は限定的となる。一方で換気は炭酸ガスの排出に必要である。ARDSでは呼吸仕事量の増大と死腔の増大のため、正常より多い分時換気量が必要となるが、ある程度の高炭酸ガス血症は許容してよい。Baby lungという考え方は応力(換気駆動圧)とひずみ(一回換気量)が残存肺領域にとって過剰であることを意味している。これはARDSの重症度が高くなるほど問題となる。したがって、酸素化を改善しようとする時よりも換気を改善しようとする時に人工呼吸に関連する危険性が生じることになる。実際、ARDSの重症度が高くなると人工呼吸に伴う応力によって肺の細胞外組織にさらなる炎症が引き起こされることが示されている。
人工呼吸管理に伴う損傷はVentilator-induced lung injury(VILI)と言われるが、自発呼吸時にも生じる可能性があるため、正確にはVentilation-induced lung injuryというべきである。VILIは一回換気量、換気駆動圧、呼吸数、ガス流量が過剰な時に起きる。肺に過剰な力(単位時間あたりに肺に加えられるエネルギー)が過剰な時にVILIが起きると考えられる。ここで、過剰とはBaby lungにとって過剰であるという意味である。また、Meadらが指摘したように、不均一な肺に力が加わると、ある局所では加えられるエネルギーが何倍にも大きくなる。
したがって、ARDSの呼吸療法においては加えられる機械的力をできる限り小さくすべきであると考える。機械的力は一回換気量、換気駆動圧、呼吸数の総和である。なお、PEEPは換気量の変化を生み出さないのでエネルギー負荷をもたらさない。一回換気量、換気駆動圧、呼吸数を減らすアプローチはVILIを減らす。HFOが失敗に終わったのも、換気駆動圧と非常に大きい呼吸数によってもたらされる機械的負荷によって説明できる。機械的負荷が一定の時、肺がより均一で応力が大きくなるような要因がなければVILIのリスクは減る。そのためには適切なレベルのPEEPと腹臥位が有用である。PEEPは均一性を増加させ、肺領域を開放したままにできる。腹臥位も解剖学的に生じる重力の影響に拮抗することで肺の均一性を改善することができる。PEEPも腹臥位も中等度から重度のARDSでリクルートされる肺領域が大きい症例にのみ有効性が示されている。
◎ 私見
Gattiononi先生のARDS治療に関する概説。原因を特定して治療すること、陽圧換気による負荷をできるだけ(特に重症度の高いARDSであればあるほど)減らすことを強調している。ここでは触れられていないが、筋弛緩薬も関係してくるだろう。鎮痛薬や鎮静薬も見直されていくのかもしれない。今後は、いくつかの評価方法(EITや食道内圧を含む)と介入方法(PEEPや腹臥位、VVECMOなど)をどう組み合わせていくのが最も有用なのかが検証されていくのだろうか。
人工呼吸管理に伴う損傷はVentilator-induced lung injury(VILI)と言われるが、自発呼吸時にも生じる可能性があるため、正確にはVentilation-induced lung injuryというべきである。VILIは一回換気量、換気駆動圧、呼吸数、ガス流量が過剰な時に起きる。肺に過剰な力(単位時間あたりに肺に加えられるエネルギー)が過剰な時にVILIが起きると考えられる。ここで、過剰とはBaby lungにとって過剰であるという意味である。また、Meadらが指摘したように、不均一な肺に力が加わると、ある局所では加えられるエネルギーが何倍にも大きくなる。
したがって、ARDSの呼吸療法においては加えられる機械的力をできる限り小さくすべきであると考える。機械的力は一回換気量、換気駆動圧、呼吸数の総和である。なお、PEEPは換気量の変化を生み出さないのでエネルギー負荷をもたらさない。一回換気量、換気駆動圧、呼吸数を減らすアプローチはVILIを減らす。HFOが失敗に終わったのも、換気駆動圧と非常に大きい呼吸数によってもたらされる機械的負荷によって説明できる。機械的負荷が一定の時、肺がより均一で応力が大きくなるような要因がなければVILIのリスクは減る。そのためには適切なレベルのPEEPと腹臥位が有用である。PEEPは均一性を増加させ、肺領域を開放したままにできる。腹臥位も解剖学的に生じる重力の影響に拮抗することで肺の均一性を改善することができる。PEEPも腹臥位も中等度から重度のARDSでリクルートされる肺領域が大きい症例にのみ有効性が示されている。
◎ 私見
Gattiononi先生のARDS治療に関する概説。原因を特定して治療すること、陽圧換気による負荷をできるだけ(特に重症度の高いARDSであればあるほど)減らすことを強調している。ここでは触れられていないが、筋弛緩薬も関係してくるだろう。鎮痛薬や鎮静薬も見直されていくのかもしれない。今後は、いくつかの評価方法(EITや食道内圧を含む)と介入方法(PEEPや腹臥位、VVECMOなど)をどう組み合わせていくのが最も有用なのかが検証されていくのだろうか。
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