Aberegg SK.
Chest. 2016 Mar;149(3):846-55. PMID: 26836894
✔ カルシウムの生理
カルシウムは神経伝達や筋収縮、凝固系などで重要な役割を担っている。生体のカルシウムの99%が骨に存在し、残りは細胞外にあり、細胞内にはほとんどない。細胞外カルシウムの量は厳密にコントロールされており、血清検体で計測することができるが、およそ半分は陰性に荷電したアルブミンなどに結合して存在しており、残り半分がイオン化カルシウムとして存在している。このイオン化カルシウムが生理活性を持っており、アルブミン濃度や酸塩基平衡の状態に影響されないためICUでよく計測される。カルシウムのホメオスタシスは副甲状腺ホルモン、ビタミンD、影響は少ないがカルシトニンによって調整されている。摂取量の減少、血管内でのキレート化、細胞外への沈着によってバランスは崩れる。バランスが崩れるとテタニー、筋力低下、不整脈、けいれんなどの症状が出現する。
✔ ICUにおけるイオン化カルシウムの異常
腎不全や低マグネシウム血症を除けば、カルシウムのホメオスタシスに影響する疾患は一般的にはまれであり、通常テタニーや筋力低下といった症状があったり、副甲状腺手術後、骨粗鬆症、シスプラチンのようなカルシウムの異常を容易に予測できる臨床状況であったりするため、カルシウムの異常の存在を想起することは難しくない。それゆえ、特殊な臨床状況によってカルシウム異常の検査前確率が高まったときのみカルシウムを測定することになると考えられている。反対にICUではイオン化カルシウムの異常は頻繁にみられるが、カルシウムのホメオスタシスに影響するような背景疾患があるということはほとんどない。また、ICUでは無症状であったり鎮静などの影響でマスクされたり、他の疾患の影響を受けたりするため、低カルシウム血症の症状が議論になることはほとんどない。つまり、ICUにおいてはイオン化カルシウムをルーチンに計測することは診断的検査の原則に沿うとは思われない。ICUではむしろスクリーニングや恒常性の維持、異常の検出のために計測されている。このような目的で行われる検査は、イオン化カルシウムの異常を検出して治療的介入を行うことが患者の利益になる場合によってのみ正当化される。本論文では①ICUでイオン化カルシウムを計測すべきか? ②異常値を補正すべきか? という2点について述べる。なお、本論文では低カルシウム血症について特に述べる。
◎ 私見
イオン化カルシウムは血液ガス検査装置でルーチンに表示されるようになっている。血行動態が悪かったり凝固機能に不安がある状況では補正してしまっていたが、それが本当に正しいことなのかどうかを考えたことはなかったのでこの論文を読んでみた。その行為に本当に意味があるのか、という視点は確かに重要。でも、根拠に縛られすぎても身動きできなくなってしまうのではないかと思ったりする。
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