2016年4月21日木曜日

イオン化カルシウム③


Ionized Calcium in the ICU: Should It Be Measured and Corrected?
Aberegg SK.
Chest. 2016 Mar;149(3):846-55. PMID: 26836894

イオン化カルシウムに関するReview。

✔ カルシウム補正の理論的背景
 ICU以外の状況においては、重篤な低イオン化カルシウム血症は凝固障害、心原性ショック、うっ血性心不全、房室ブロック、けいれん、喉頭痙攣などと関連して報告されている。しかし、これらの報告は慢性的な、もしくは重篤なカルシウムホメオスタシス異常の存在に基づくものであることに注意が必要である。より程度の軽い敗血症などにみられる低カルシウム血症に一般化すべきではない。
 ルーチンの測定と補正が正当化されるには、低カルシウム血症が死亡率上昇や予後悪化の原因であることを示す必要がある。しかし、現状では因果関係は明らかではない。低カルシウム血症は重症患者における適応反応のひとつであるとする意見もあるが、よくわかっていない。これが本当なら、より重篤な患者ではより強い適応反応が起きることを反映してカルシウムがより低下することになる。入院患者のカルシウム値の分布は健常者とほぼ一緒だが平均値は低い。つまり、重症患者でみられる低カルシウム血症は”Sick eucalcemia syndrome”とでもいうべきものである(Sick euthyroid syndromeと同様に)。要約すると、まだ証明されているわけではないがあり得る仮説としては、健常者と患者ではイオン化カルシウムのホメオスタシスのセットポイントが変化するということである。
 カルシウムを補正する行為は、正常値への固執、過剰な異常値への恐怖を示しているにすぎないように見える。もし、カルシウムが低値になることが正常な適応反応であるとすると、カルシウムの補正は有害である可能性もあるのである。似たような正常値への固執の有害性を示す例としては、ヘモグロビンと輸血、血糖値、発熱などが挙げられる。
 さらに、カルシウム投与が有害であることを示す報告もある。Collageらは敗血症マウスにカルシウムを投与すると炎症を悪化させ、血漿漏出を増やし、死亡率を上昇させることを示している。また、ICU患者を対象とした後ろ向きコホート研究でもカルシウムを投与された患者の死亡率が高いことが報告されている。また、頻回の採血に伴う貧血や投与に伴う静脈炎といった問題もある。

✔ 特殊な状況
 低マグネシウム血症は低カルシウム血症の原因となり、補正に抵抗性となるため、低栄養、アミノグリコシド投与、化学療法、PPI投与中は注意が必要である。多くの観察研究では輸血を擁した患者を除外しているが、赤血球輸血におけるキレート剤の影響を除外するためである。大量輸血に伴う低カルシウム血症への対応はよくわかっていないが、この場合は補正するほうが良いとする意見が多い。周術期におけるカルシウム補正についてもよく分かっていない。

◎ 私見
 カルシウムが敗血症モデルマウスの死亡率を上昇させることは知らなかった。勉強不足。低血圧+低カルシウム血症で輸液や昇圧剤などを組み合わせてもうまくいかないときは低カルシウム血症を補正するとよいと考えていたのだが、一から考え直さなくてはならないようだ。

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