2016年5月12日木曜日

ARDSの血行動態管理③

Experts' opinion on management of hemodynamics in ARDS patients: focus on the effects ofmechanical ventilation.
Vieillard-Baron A, Matthay M, Teboul JL, Bein T, Schultz M, Magder S, Marini JJ.
Intensive Care Med. 2016 May;42(5):739-49. PMID: 27038480

✔ 血行動態管理
 人工呼吸管理中のARDS患者の管理における最初のステップは組織灌流が適切かどうかを評価することである。血管内容量、つまり前負荷が適切かどうかを調べるためには3つの方法がある。すなわち超音波による下大静脈径の観察、PPV、治療介入によるCVPの変化である。尿量と代謝性アシドーシスも標準的な組織灌流評価法である。輸液蘇生は等張晶質液を用い、ヘモグロビンが8g/dL以下では赤血球輸血も考える。敗血症性ARDSや重度の低アルブミン血症ではアルブミン投与も考慮する。ただし、肺水腫と肺性心を増悪させて酸素化が悪化することがあるので注意深く輸液すべきである。逆に輸液の制限はWest zone 2領域を増やす可能性がある。リスクと利益を注意深く考慮しなくてはならない。組織灌流や酸素化、CVPなど様々なパラメータを考慮しなくてはならないため、輸液反応性をみる単一のアプローチがすべてにおいて正しいということはない。肺血管閉塞による右心不全におけるいくつかの実験的研究により、ノルアドレナリンに比べて過剰輸液は心拍出量、血圧、右心機能を悪化させるとされている。さらに、右心不全は組織灌流を回復されるために投与される輸液の有効性を制限する主因であると報告されている。
 ARDSネットワークによるFluid And Catheter Treatment Trial(FACTT)では、血管作動薬を必要としない患者を対象としていたにもかかわらず、多くのARDS患者ではショックが回復していれば輸液を制限した管理が優れていることが示された。輸液制限プロトコルにより人工呼吸管理を必要としない日数が増えたが死亡率には有意な差がなかった。輸液制限プロトコルは複雑なため、ARDSネットワークはショックではないARDS患者に対する単純化した輸液管理を示した。この単純化した輸液管理法はCVPと尿量に基づいて行われ、FACTT-liteと命名された。FACTT-liteとFACTTのプロトコルを比較した試験では同等の非人工呼吸管理日数であった。興味深いことに、FACTT-liteでは新規のショックが少なく、AKIの頻度は同等であった。
ARDSの輸液管理(文献より引用)
 次のステップはARDS患者で20~25%に合併するといわれる急性肺性心を見つけることである。肺性心がある場合、優先されるのは右室機能を最適化することである。大事なことなので繰り返すが、さらなる輸液負荷は無効であるばかりでなく有害である。ノルアドレナリンは平均血圧を上昇させて右室からの血液供給を増加させ、有意に右室機能を改善することが報告されている。右室機能(強心作用)と肺循環(血管拡張作用)の両者を併せ持つため、このような状況ではカルシウム感受性改善薬であるレボシメンダンは有用である可能性があるが、この薬剤を使用した試験もある。しかし、低血圧をきたすため、推奨するにはさらなるデータが必要である。
 選択的肺血管拡張薬の吸入も治療抵抗性の低酸素血症を呈する患者に用いられる。この薬剤は右室機能も改善すると考えられるが、それを適応としてARDSに使用されたという試験はない。ふたつ薬剤があり、NO(5-10ppm)やプロスタサイクリン(20-30ng/kg/min)が酸素化を改善することが示されているが、予後を改善することは証明されていない。両者とも肺血管抵抗を減少させ、換気血流費を改善するが体血圧は下げないとされる。これらの薬剤は使い始めは有効であってもすぐに効果が減少していくことがある。全身血管の血管拡張薬はARDSにおいて有益性を示せていない。いくつかの研究では抗凝固療法が有用性についてその可能性を報告しているが、臨床研究では有益性を示せていない。実際、活性化プロテインCをARDSに対して用いた第二相試験では有益性を証明できなかった。
ARDSの血行動態管理(文献より引用)
 血行動態管理の要は、右室への負荷を減らすような呼吸器設定を行うことである。輸液の過負荷は、肺の虚脱、肺の過膨張、低酸素や高炭酸ガス血症による肺血管収縮によって起きる。重度の右心不全は独立した死亡予後の規定因子であるため、心機能に配慮した呼吸管理戦略が行われるべきである。近年、右心不全を助長する4つの危険因子が報告された。肺炎によるARDS、P/F<150、換気駆動圧>18㎝H2O、PaCO2>48mmHgである。すべてが揃うと右心不全のリスクは60%を超え、すべてが無いと10%を下回る。最初の一つの因子を除けば呼吸器設定で調節可能である。リスク因子を避けることが血行動態を適正化し、既に存在する右心機能不全を改善し、予後を改善する助けになる。理想的にはPEEPは肺胞の開通性を維持できると同時に肺循環への悪影響を避けられる設定にすべきである。一方、PEEPは肺の虚脱を避けることで右心系への負荷を減らすために十分なレベルに設定すべきともいえる。豚を用いた研究によると、高PEEP(15㎝H2O以上)を健常肺に適用すると過膨張をきたし、右室の収縮機能を悪化させ、全身の血行動態を悪化させることが示されている。平均気道内圧を上昇させたり肺過膨張をきたすような設定は避けるべきである。これにはHFOVが含まれている。血行動態の観点からも、高度の自発呼吸窮迫も避けるべきである。強い吸気努力は経血管圧を変化させ、肺水腫が形成されやすくなる。肺胞や漏出しやすい血管を覆う間質の圧は胸膜表面で測定された圧と同等であると考えられてきたが、不均質に障害された肺ではそうではない。換気圧は胸膜で生じるため、血管にかかる圧も強い自発吸気があると高くなる。
間質の圧と血管内にかかる圧(文献より引用)
 最後に、非同調や振り子現象(Pendelluft)も肺循環と右室機能を悪化させる可能性がある。腹臥位は換気を均質にすることでVILIを減らすと考えられているが、右室負荷を減らす可能性もある。二つの研究で、腹臥位は実際に負荷のかかった右室機能を改善させることが示されている。

◎ 私見
 血行動態を実際にどのように管理するかが解説されている。まずは血管内容量を適正化し、その後に右心機能に重点を置いた薬剤投与や人工呼吸器設定をする。この領域にはとても興味があって。たとえば敗血症性ショックのように重篤な循環不全がすでにあるような場合、ARDSを合併したらどのような管理をするとよいのだろうといつも悩んでいた。右心機能に焦点を当てることで、その答えが出そうな気もする。

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