Schetz M, Forni LG, Joannidis M.
Intensive Care Med. 2016 Jul;42(7):1155-8. PMID: 26690077
✔ 症例
右上葉切除術後5日目の65歳の患者が乏尿+低血圧となりICUに入室した(0.17ml/kg/hr×24hrs、AKI stage 3)。クレアチニンはベースラインである1.36㎎/dlから3.78mg/dlに上昇(AKI stage 2)。イレウスとなり嘔吐している。CRPが上昇したので抗菌薬が投与されている。術後の内服薬はACE阻害薬、NSAIDsである。ICU入室後に輸液を投与し、ノルアドレナリン(0.15㎎/kg/min)と広域抗菌薬を投与した。翌朝、クレアチニンは4.53㎎/dl(AKI stage 3)となっており、尿量は過去12時間が0.1ml/kg/hと減少しており、輸液バランスはプラス3300mlとなっていた。動脈血液ガスではpH 7.39、PaO2 87、Bicarbonate 25、K 3.9、Urea 128であった。酸素2Lを吸入し呼吸数は20回、胸部X線写真で両側に浸潤影と切除した部位に胸水を認めている。この患者に腎代替療法(RRT)は必要か?
1.RRTを直ちに開始すべき絶対的な適応があるか?
一般的に受け入れられている緊急RRTの古典的適応は、輸液過剰、電解質・酸塩基平衡異常、重症尿毒症(脳症や心外膜炎合併例)であるが、これらの閾値は決まっていない。本症例ではこれらの適応は生じていない。
2.古典的適応が生じるまで待つべきか/早期にRRTを始めることで予後が改善するか?
過去15年間で3つの小規模なRCTが行われており、死亡率には有意差はないものの適応を待った方が最終的なRRTを17~37%で避けることができたとしている。遅く始める群で実際に古典的適応が生じたのは1/3に過ぎなかった。観察研究では古典的適応が生じてからRRTを始めたほうが予後が良いとするものと、全く反対の結果を示したものがある。いくつかの観察研究は後ろ向きの定義を用いており、これは実際にRRTを開始した根拠とは言えないが、大部分は早期開始の有用性を示している。しかし、これらの研究はバイアスが大きいことに注意しなくてはならない。すなわち、RRTを用いない対照群が存在せず、多くの症例(特に早期群)で不必要なRRTを受ける可能性があることである。近年のRRTを要さなかった患者を含めた研究では傾向分析スコアを用いた解析でRRTは予後を悪化させることを示した。VaaraらはPre-emptive RRTの有用性を報告しているが、傾向スコアでマッチさせることのできた省令は非常に少なかった。
3.敗血症はRRTを早く始める理由になるか?
理論的にはRRTは炎症性メディエータを除去することができるため、敗血症は早期RRTの適応となりえると考える医師もいる。しかし、臨床データの裏付けはない。重症敗血症を対象にCVVHと標準的治療を比較したRCTではCVVH群で予後が悪化した。
4.全体的管理の助け(臓器支持療法の考え方)となるか?
もしくは、RRTをしないことで、例えば経腸栄養や薬剤/抗菌薬投与が輸液過剰のために適切に行えなくなるかと考えればわかりやすい。実際、利尿薬に反応しない乏尿を呈している場合、輸液過剰がしばしばRRTの適応となっている。輸液過剰と予後悪化の関係は疑いようがないのに対し、両者の因果関係まではまだわかっていない。早期RRTによる輸液過剰の予防ないし改善の有用性を証明した前向き研究は存在しておらず、重症患者で早期から水分量を管理することの有用性は不明である。しかし、ある患者群(ARDSやうっ血性心不全)では水分管理によって輸液過剰を避けることが有用であると報告されている。腎機能改善を見込めるかということ以外にも、輸液過剰に対する耐用性も重要な因子であると考えられる。
5.腎機能改善が見込めるか?
AKIの早期でRRTが必要となるかどうかは予測できないが、ループ利尿薬への反応をみることはバイオマーカよりは有用かもしれない。実臨床においては腎機能の推移や腎臓以外の因子(重症度、疾患改善までの時間)が非常に有用である。
6.不必要なRRTによる有害性とRRTが遅れることによる有害性の比較
まず害を与えないこと。AKIは独立した予後悪化予測因子であるという事実が早期RRT開始が予後に影響するのではないかという考え方を助長している。AKIは全身性に多くの影響を及ぼしているが、RRTはその一部しか補正しない。RRTを積極的に行っても予後は改善せず不必要なRRTを害悪を与えることなく行うこともできない。RRTは低血圧を起こしうるし、必要な基質(栄養や薬剤)を除去し、電解質バランスを変化させて不整脈の原因となり、抗凝固薬による出血、不均衡症候群、感染症、機械的合併症、低体温、生体不適合、輸液バランスの間違い、コストなどが問題となる。
7.無益な治療となるのであればRRTは行わない
✔ 症例のその後
本症例は病前の状態は健康であった。手術は治療的なものであったため、RRTを始めることは適当である(治療の差し控えを考えなければいけない状態ではない、ということ)。古典的適応は生じていないが、乏尿であり、酸素化は正常である。最近まで腎機能を悪化させうる薬剤(NSAIDs、ACE-I)を内服しており、このAKIは少なくとも部分的には輸液反応性がありそうである(イレウスと嘔吐)。結局、RRTは開始しなかった。翌日、クレアチニンは5.2まで上昇したがその後は改善した。
◎ 私見
RRTを始めるかどうかを考えるとき、どんなポイントを押さえておけばよいのかということが示されている。症例ベースなので、研修医とディスカッションするのにも使えそう。
RRT開始のタイミングに関する研究(AKIKI; NEJM、ELAIN; JAMA)が発表され、敗血症性ショックを対象としたIDEAL-ICU studyも進行中。いまのところはNEJMに掲載されたAKIKIがもっとも信用できそう。
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