2016年6月22日水曜日

重症低酸素血症の治療戦略②

Severe hypoxemia: which strategy to choose.
Chiumello D, Brioni M.
Crit Care. 2016 Jun 3;20(1):132. PMID: 27255913

✔ 一回換気量
 VILI発生の規定因子には非生理的なストレス(圧)とストレイン(歪み)があるが、これは換気量と安静時の肺容量の両者の関係によって決まる。換気量が小さく安静時の肺容量が大きいほど、高炭酸ガス血症とは関係なく肺を傷害するストレスやストレインは小さくなる。ARMA研究によると、一貫換気量を理想体重当たり12mlに設定した群に比べて6mlに設定した群では死亡率が22%小さくなった。Cochraneのメタアナリシスによると、一貫換気量を大きくした場合に比べて、換気量を小さくしてプラトー圧を30㎝H2O以下にすると死亡率が低下することが示されている。その筆者らは、低一回換気量をARDSの換気設定のルーチンにすべきで、これ以上の研究は行われるべきではないと結論づけている。しかし、ARMA研究から20年経過し、鎮静薬や筋弛緩薬を増やす必要もなく臨床的にも安全であると証明されているにもかかわらず、低一回換気量がルーチンに用いられているとは言い難い状況が続いている。
 一回換気量は理想体重に基づいて決定されるが、理想体重は安静時肺容量とほとんど相関せず、同じような体格の患者を同じ換気量で換気しても異なるストレス/ストレインが生じることが分かっている。肺の含気と関係のある呼吸器系コンプライアンスと換気量から求められる換気駆動圧は、より正確にストレス/ストレインを反映する。Amatoらは換気駆動圧が最もARDSの予後と関係する因子であったことを報告している。つまり、換気駆動圧はVILIのリスクを勘案するにあたって有用なツールであるといえる。

✔ 人工呼吸のモード
 現在最もよく用いられる人工呼吸のモードは従圧式換気(PCV)と従量式換気(VCVである。PCVでは換気量は呼吸器系のパラメータで修飾され、流量パターンは漸減波となる。VCVでは換気量は一定となるが気道内圧は様々となり、流量パターンは矩形となる。PCVは漸減波の流量パターンであるとともに疾患の程度によって換気量が変化するため、VILI予防に有利であると考えられてきたが、PCVとVCVを比較したChackoらのメタアナリシスでは死亡率や圧損傷の頻度に有意差はなかった。
 自発呼吸のない強制換気に比べて自発呼吸のある補助換気では、鎮静レベルを減らし、呼吸金活動を維持し、より均質なガスの分布を期待できると考えられる。中等度ARDSを対象とした小規模なクロスオーバ研究では、PSV、PCV、NAVAにおいて換気量や肺にかかる圧は同等であったと報告されている。しかし、NIVと同様、重症ARDSに補助換気を不適切に用いると、経肺圧上昇や呼吸仕事量増加、浅く速い呼吸の出現によりVILIが増えてしまう。重症ARDSにおけるPSVやNAVAの意義を明らかにするにはさらなる研究が必要である。

✔ 酸素化と換気の目標
 酸素飽和度の目標値は88~95%と言われているが、実際にはより安全であろうという考えから96%以上の高い値が維持されていることが多い。このような管理方法の有用性を検証するために、PanwarらはARDS患者を酸素飽和度96%以上に維持する群と88~92%に維持する群とに無作為に振り分けて予後を検討したが、臓器不全数や予後には有意差がなかった。
 低一回換気量戦略を用いると高炭酸ガス血症となりうるが、大きな副作用もなく許容することができる。しかし、高炭酸ガス血症は吸気努力を増大させ、筋弛緩薬投与の独立した因子となる。適切な二酸化炭素分圧の値はよくわかっていないが、右心不全や頭蓋内圧上昇がなければ70㎜HgでpH 7.20までは安全であるといわれる。

◎ 私見
 ARDSの人工呼吸管理では自発吸気努力をどのように制御するのが良いのかが難しい。よい筋弛緩薬がないので鎮静薬を増やしたり鎮痛薬を増やしたりするのだが、血圧が低下したりゆっくりとした深呼吸になってしまったり。Amato先生はPEEPを増やして対処する方法を示していたけど、実臨床でうまくいったと感じたことはあまりない。やり方が悪いのかな?
 

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