Chiumello D, Brioni M.
Crit Care. 2016 Jun 3;20(1):132. PMID: 27255913
✔ 筋弛緩薬
筋弛緩薬は呼吸器の同調性を改善して呼吸筋の酸素消費量を最小にし、呼吸努力を消失させるためにしばしば用いられる。さらに、自発吸気努力によって生じる胸腔内陰圧とそれによってもたらされるストレス/ストレインを減らすことができる。しかし、筋弛緩薬はICU acquired weaknessや横隔膜機能不全、人工呼吸期間延長の原因となる。ARDSにおける意義を調べるため、いくつかの臨床研究が行われた。2004年にGainnierらは重症ARDSを対象とし、深鎮静に48時間の筋弛緩薬を追加する意義を調査した。両群間で気道内圧やPEEP、鎮静薬投与量には差がなかったが、筋弛緩薬投与群では投与開始48時間、96時間、120時間後の酸素化が良好であった。さらに小規模なRCTによると、48時間の筋弛緩薬投与によって肺局所ないし全身性の炎症性サイトカイン(IL-6、IL-8)が有意に低値となり、PEEPを低くでき、酸素化が良好であった。340人の重症ARDSを対象とした大規模多施設RCTでは48時間の筋弛緩薬持続投与によって90日死亡率が有意に減少し、人工呼吸管理期間が短縮され、気胸発生率が低値であったことが報告された。ICU退室時の筋力低下には両群間に有意差はなかった。引き続いて発表されたメタアナリシスでは、筋弛緩薬投与によって死亡率が低下し(RR 0.71)、人工呼吸管理期間が短縮し、圧損傷が減ることが示された。
現状の研究結果に基づくと、筋弛緩薬は重症ARDSの急性期の数時間において、同調性を改善して危険な経肺圧が生じないようにするために用いるべきである。ただし、人工呼吸器の設定や筋弛緩薬の必要性については毎日評価すべきである。
✔ 腹臥位
30年以上前の観察研究で、腹臥位が急性呼吸不全患者の酸素化を改善することは知られており、腹臥位は重度低酸素血症におけるレスキュー治療として位置づけられるようになった。肺における含気の再分布と背側肺のリクルートメント、胸壁エラスタンスの改善、肺内シャントの減少、換気血流日の改善、換気の均質化によるVILI予防、右心不全の改善がそのメカニズムである。これに基づき、1996年からARDSを対象としたRCTがいくつか行われた。肺保護換気をしていない中等度~重度ARDSを対象として検討したところ、短時間(1日8時間まで)の腹臥位は予後を改善しなかった。より重度の低酸素血症をきたしている症例を対象としてより長時間(1日20時間)の腹臥位の効果を検討したところ、やはり有効ではなかった。しかし、これらの研究のメタアナリシスではP/F<140のような重度低酸素血症においては生存率を改善するかもしれないという結果であった。このような背景のもと、Guerinらは重度ARDSを対象とし、少なくとも1日16時間という長時間の腹臥位換気の効果を多施設無作為化研究で検討した。PEEPはALVEOLI研究のLow PEEP群で用いられた表を参考にして設定し、一回換気量は理想体重当たり6mlで厳密に管理した。28日死亡率は腹臥位換気群で有意に低く(16% vs 32%)、抜管成功率が高かった。その腹臥位換気時間の平均値は17時間であった。
人工呼吸器の有害作用を腹臥位換気と筋弛緩薬は減じることができるが、この両者を組み合わせると相乗的に作用して酸素化を改善し、人工呼吸管理期間を短縮し、最終予後を改善する。
ベルリン定義によると、腹臥位は重度ARDSの急性期(肺水腫や無気肺が多く、リクルートメント可能な肺容量も大きい)において長時間行うべきとされる。酸素化が改善しない患者もいないわけではないが、VILIを減らすという利点があることを考えるべきである。技術的には難しい点もあるが、よく訓練されたチームで管理すれば、合併症に伴う不利益を腹臥位の利益が上回る。腹臥位を行う前には妊娠、不安定な骨折、Open abdomen、循環動態不安定などの禁忌がないことを評価すべきである。
✔ ECMO
標準的には、上大静脈ないし下大静脈から脱血し、右房に送血するというVV回路で行われる。人工肺によって酸素化と換気が適正化されるため、人工呼吸器の設定を弱め、VILIを予防できる。当初、ECMOを用いても急性呼吸不全患者に利益があることを示すことができなかったが、1985年ころからいくつかの研究で死亡率を減らす可能性が報告されるようになった。しかし、無作為化研究で検討したものはCESAR試験しかない。この研究ではARDS患者はECMO管理ができる単施設に紹介され、通常治療群とECMO治療群に無作為に割り付けられた。ECMO中の人工呼吸器の設定は”Lung rest”の設定とされた。6か月後の生存率はECMO治療群で有意に高かった。ただし、通常治療群の呼吸器設定が厳密に標準化されておらず30%は肺保護換気の設定となっていなかったことや、全症例を熟練した単施設に転送しているという問題点が批判の対象となっている。よって、ECMOが通常治療に比べて優っていると断言はできない。にもかかわらず、その理論的背景からECMOは全世界で使用が増えている。まだ明らかなエビデンスとは言えないことに注意が必要である。例えば、スカンジナビアの臨床ガイドラインによると、ARDSに対する治療戦略にECMOは考慮されていない。
限られた医療資源を適切に適用するため、SchmidtらはECMOによって生存できるかどうかを正確に予測するための因子を、2355人の大規模データベースを用いて抽出した。
VILIはECMOによっても完全に予防はできないため、通常換気を行っている状態と同じように、腹臥位を組み合わせるべきである。ECMOと腹臥位の併用についてはデータがほとんどないが、KimmounらはARDSに対してECMO使用中に、24時間の腹臥位が合併症を増やすことなく酸素化を改善したことを報告している。
治療選択フローチャート(文献より引用) |
より高度な管理方法について解説。筋弛緩薬は日本では難しいと思うが、根拠は全くないものの使いようによってはもしかしたら有用かもしれないとは思う(筋弛緩モニタを用いた軽度筋弛緩など)。腹臥位とECMOはどうか。気のせいかもしれないが、腹臥位をわき目にECMOに飛び付いてしまう人が多いような気がする。腹臥位は泥臭く、ECMOは洗練されているように感じるのかもしれないが、エビデンスの強度が違う。そういうところに真摯な態度をとれる人なら「ECMOをやるなら腹臥位ももっとやるべき」となるはずで、そうでなければちょっとどうなのかなと思ってしまう。
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