2016年6月28日火曜日

ICUにおける身体診察①

Bedside Diagnosis in the Intensive Care Unit. Is Looking Overlooked?
Metkus TS, Kim BS.
Ann Am Thorac Soc. 2015 Oct;12(10):1447-50. PMID: 26389653


You can observe a lot just by watching. 
-Yogi Berra


✔ 緒言
 64歳男性。大動脈弁置換術後5日目で心房細動を合併している。「混乱しているようだ」とのこと。診察してみると、左顔面の弛緩、左上下肢の脱力、左空間無視があった。3時間前の診察時には神経学的異常なし。画像所見で右中大脳動脈閉塞が判明し、緊急血栓除去が行われた。症状は改善し、最終的には軽微な後遺症のみで退院した。
 73歳女性。ショック状態でICU入室。尿中白血球陽性で尿路感染症による敗血症と診断。診察したところ、脈圧が狭小化しており頚静脈圧が20㎝H2Oであった。大腿動脈ならびに橈骨動脈拍動は吸気時に消失する奇脈を呈していた。経胸壁エコーを行ったところ心嚢液が貯留しており、心タンポナーデと判断した。心嚢ドレナージが行われ、ショックから離脱した。

 身体診察は患者評価の要であり、医学部教育や卒後教育においても重要な要素である。前述の症例のように重症患者においてもベッドサイドでの診察が救命につながることがある。しかし、ICUにおける身体診察の有用性に関するデータはほとんどなく、ガイドラインもない。
 ICUでの身体診察をどのように行っているかについては施設間でのばらつきが大きく、医学教育や患者予後への影響、診断的検査の過剰使用や過少適用が存在することを示唆するものである。

✔ 身体診察の有用性
 身体診察の有用性については様々な意見がある。Vergheseらは診断的価値だけでなく医師患者関係の構築にも有用と報告している。しかしICUにおける身体診察を支持する研究はほとんどない。クリティカルケアの場では身体診察は有用ではないと考えられがちで、教科書でも特別に章をさいて解説してあるものはない。
 これには、身体診察所見が有用ではないと報告されていることが関係しているのだろう。例えば、頚静脈圧は充満圧が高いことは予測できるが輸液反応性を予測できない。同様に、超音波検査と比較して聴診では胸水や浸潤影を正確に診断できず、両肺の呼吸音聴取だけでは片肺挿管を否定できないということが示されている。
 身体診察の有用性を評価する研究の問題は、診察者の経験である。Sapiraもショパンの法則(わたしはショパンを全く弾けないが、上手に弾ける人はいる)と言っている。もし経験豊かな診察者が関与していたら、臨床研究の結果は全く違ったものになっていたかもしれない。
 反対に身体所見が有用であると報告している研究もある。バイタルサインの異常が重大なイベント発生を予測することが示されている。これは自明のことのように思われるが、計測の正確性に依存することに注意が必要である。例えば、3分の1の症例で記録された呼吸数と実際の呼吸数とが異なっていたことが報告されている。呼吸音が肺炎発症を予測したりベッドサイドにおける呼吸窮迫のゲシュタルトが気管挿管の必要性を判定できたりすることも示されている。せん妄は予後悪化因子であるが、CAM-ICUなどによる正確な判定が必要である。
 身体診察と予後を調べた研究はないが、小規模な研究で100人中26人の診断や治療を変更させたというものがある。

◎ 私見
 冒頭の「たくさんしっかり見れば観察できる」というYogiの言葉は深いのか浅いのかよくわからないが・・・。
 身体診察は有用だと思う(思いたい)。有用だと言えるような医師になりたいし、そのような技術を身につけたい。少なくとも、ローテートしてきた研修医が患者評価をモニタの数字を見ることだと誤解してしまうようなことのないようにしなければならないと思っています。
 

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