2016年7月8日金曜日

ケタミンによる鎮痛鎮静①

Ketamine for Analgosedation in the Intensive Care Unit: A Systematic Review.
Patanwala AE, Martin JR, Erstad BL.
J Intensive Care Med. 2015 Dec 8. PMID: 26647407


✔ イントロダクション
 ケタミンは1962年に合成され、1964年に臨床試験された。当初、解離性麻酔薬として使用されていたが時を置かずに鎮痛薬として使用されるようになった。術後の慢性疼痛やCRPSといった非重症患者を対象とする臨床試験が数多く施行された。オピオイドは鎮痛鎮静薬の基本だが重症患者に応用する際には副作用が問題となる。ケタミンは低用量では特異な鎮痛鎮静作用を持ち、高用量では麻酔薬として作用するが、ICUにおける有用性を検討した研究はほとんどない。
 近年発表されたPADガイドラインではエビデンスの欠如が指摘されており、わずかに神経因性疼痛に対する非オピオイド性鎮痛薬の一種としてのみ触れらている程度である。現在のところ、ICU患者に対するケタミンの持続投与の効果を検証したシステマチックレビューはひとつのみである。
 エビデンスが欠けているにもかかわらずケタミンはICUで使用されているが、有効な症例や用量、モニタ法についてはわかっていない。このレビューは成人重症患者にケタミンをしようとするときに有用なガイドとなることを目的としている。

✔ 薬力学・薬理作用
 他の薬剤と同様、個々の症例において分布容積やクリアランスはかなり異なる。さらにこのばらつきは重症患者でより大きくなる。このことから、特に肥満患者で持続的に投与することで脂肪組織に蓄積し、再分布によって作用が遷延するのではないかと考えられる。血漿中でアルブミンやα1棟蛋白と結合するケタミンは50%未満であり、臨床的に有意な蛋白結合による作用の変化はないと考えられる。米国においてケタミンはラセミ体で提供されているが、より鎮痛作用の強いS体の製剤が他国では売られている。ケタミンはP450系で代謝されて約3分の1の活性のあるノルケタミンとなるが、特定のミクソームの酵素や代謝部位、薬物ー酵素連関、薬物相互作用についてはまだ明らかになっていない。
 ケタミンの薬理作用はNMDA受容体を遮断することによってもたらされるが、用量や濃度によってはオピオイド受容体遮断作用やGABA抑制、中枢神経や末梢組織における神経伝達を修飾するような作用もある。濃度依存性の鎮痛作用や麻酔作用が示されているが、TDMが行えるような体制とはなっていない。
ケタミンの薬理(文献より引用)
◎ 私見
 ケタミンはICUではほとんど使ったことがなく、もっぱら救急外来における処置時の鎮痛鎮静に用いていた。オピオイドなどの手段による鎮痛に限界を感じる症例が数例あり、新しいアプローチを模索している最中であったのでこのショートレビューを読んだ。大学院生の時に神経保護の観点からケタミンを勉強したことがあり、自分にとってはなんとなく身近に感じる薬で使うことに抵抗はないのだけど、他の先生方はどうなのだろう?

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