Patanwala AE, Martin JR, Erstad BL.
J Intensive Care Med. 2015 Dec 8. PMID: 26647407
✔ 副作用
ケタミンはその特異な薬理作用のため、副作用についても他の鎮痛薬とは全く異なっている。例えばNSAIDSのような消化管や腎への悪影響がない。またオピオイドと異なりµ受容体に作用しないため消化管運動障害がない。また、咽頭や喉頭の防御的反射機能に影響せず、気道抵抗を低減し、肺コンプライアンスを高め、呼吸抑制を起こすこともない(大量急速投与しなければ)。このような呼吸器系への有用な作用のため、喘息重責発作の人工呼吸管理のような状況における有用性が示唆される。気道内にかかる圧が高くなることにより(訳者註:圧がかかりやすくなる、という意味か?)肺高血圧を悪化させる可能性があるため、そのような状況では注意が必要である。要約すると、オピオイドのような他の鎮痛薬と異なりケタミンは消化管や呼吸器系に重篤な副作用を起こしづらく、重症患者においても十分に従来の鎮痛薬の代替となりうると言える。
中枢神経系に関しては、オピオイドが全般的に抑制を起こすのとは対照的にケタミンは興奮と抑制の両者を引き起こす。このため、ケタミンは痙攣を誘発すると考えられており、実際痙攣が誘発されたとする症例報告がある。しかし、もともと転換の既往のある患者を対象とした研究では、痙攣を誘発することなくむしろ痙攣脳波を抑制したと報告している。初期の研究で報告された痙攣誘発については、モニタが適切ではなかった、脳波記録と中枢神経興奮に関する誤った結論、他の誘因の存在、ケタミン投与に伴う骨格筋痙攣をてんかん発作と誤認した、などの解釈がなされている。近年の報告ではてんかん重積に有用であったとするものもあるが、エビデンスが欠けておりガイドラインにおいても最終手段として紹介されているに過ぎない。以上より、頭部外傷のような痙攣のリスクの高い患者においても、ICUで短期間使用するのであれば特に問題はないであろうと考えられる。
ケタミンは精神作用があることがよく知られている。約30%の成人において、覚醒時に幻覚や精神病様の症状のような”覚醒時反応”が認められた。投与量と精神作用には関連がなく、徐々に投与量を変化させることで精神作用を減じることができたとする報告がある。低用量(1㎎/kg緩徐投与)、低血漿濃度(<100ng/ml)でも統合失調症様ないし解離症状が出現しうる。この点から、重症患者ではせん妄の原因となって予後を悪化させるのではないかと考えられてきた。例えば、近年のシステマチックレビューで、せん妄を起こした重症患者はそうではない患者と比べて死亡のリスクが高くICU在室日数や在院日数が長くなることが示されている。この精神作用に対し、それ自体もせん妄の原因とはなりうるが、ベンゾジアゼピンが予防のために用いられている。ベンゾジアゼピンはP450系を介してケタミンと相互作用し、その作用を延長する。一般に精神症状や離脱症候群を起こしたことがある患者ではケタミンは避けたほうが良い。ケタミンを鎮痛鎮静に用いるのであれば徐々に投与量を増減し、精神症状について注意深くモニタすることを推奨する。
ケタミンの心血管系に対する作用は他の鎮静薬とは全く異なっており、注目に値する。ケタミンは交感神経系刺激作用があり、アドレナリンの作用を増強するが、これによって心筋に対する直接的な収縮抑制作用が拮抗される。また、再取り込みを抑制することで全身のカテコラミン濃度を増加させる。心拍数や血圧は上昇するため、他の鎮静薬とは全く反対の作用をもたらすことになる。これは健常者で認められる効果であるが、カテコラミンが減っている万世紀にある重症患者でも同様の効果があるかどうかはわからない。一つの研究ではあるが、重症患者ではケタミンで血圧が低下することが報告されている。ケタミンにより頭蓋内圧が上昇する可能性があるが、システマチックレビューではこのような現象の証拠は示されなかった。ケタミンは投与量を調整すれば血行動態が不安定な重症患者でも安全であるが、虚血性心疾患がある患者では避けたほうがよいだろう。
ケタミンの薬理作用(文献より引用) |
このあたりの記述は麻酔科医ならほぼ常識かな。頭蓋内圧や痙攣誘発、重症患者の血行動態に与える影響などのニュアンスについても同様。こういう癖のある薬を協働する他の科の医師やパラメディカルの方々に合わせて調整していけるかどうかが実は大変なのではないかと思ったりする。
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