2015年2月26日木曜日

急性腎傷害におけるフロセミド

Benefits and risks of furosemide in acute kidney injury.
Ho KM, Power BM.
Anaesthesia. 2010 Mar;65(3):283-93. PMID: 20085566





✔ 薬物動態
 フロセミドは弱有機酸で、大部分(85%)が尿から排泄される。半分が代謝体、半分が未変化体として近位尿細管から分泌される。正常でのクリアランスは19ml/kg/minである。98%以上が蛋白質に結合しており、糸球体からはごく少量しか濾過されない。蛋白質と結合することで腎尿細管からの分泌とその利尿作用が促進される。よって、低蛋白血症や他の蛋白質に結合しやすい薬剤(ワーファリンやフェニトイン)が存在すると薬効が減弱する。
 フロセミドはHenleループの上行脚の内腔側に存在するNa-K-Cl2共輸送体を阻害する。水と同時にNa、K、Mg、Caが排泄される。また、糸球体へのネガティブフィードバックを抑制する。
 フロセミドの作用を決定する因子は3つある。①フロセミドの尿細管内腔での濃度は他の有機酸の存在で低下するため、尿酸やプロベネシド、ベンジルペニシリン、セファロスポリン、シプロフロキサシン、オキシプリノール、ブメタニド、オセルタミビルなどにより作用が減弱する。②作用時間は心拍出量、腎血流量、投与方法によって変化する。一般的にボーラス投与より持続投与の方が利尿効果が高い。投与総量が変わらなくても、長時間Na-K-Cl2共輸送体を阻害し続けられるからである。③作用点における薬物反応を減弱させる要素として、脱水によるレニン・アンギオテンシン系活性化、NSAIDs、うっ血性心不全が挙げられる。AKIでは尿細管へのフロセミド分泌が減少し、共輸送体のフロセミドに対する反応も弱くなるため、利尿効果が悪くなると考えられている。
✔ 効果
 フロセミドはAKIもしくはAKI発症リスクのある患者に対して、予防的に使用しても治療的に使用しても、腎代替療法導入リスクや死亡率を減らさなかった。
✔ AKIにおけるフロセミドの役割
 腎髄質の酸素分圧は低く、ヘマトクリットも低いことが知られている。つまり、Henleループが存在する腎髄質は虚血に弱いといえる。フロセミドはNa-K-Cl2共輸送体を阻害しプロスタグランジン産生と血流を増やすことで腎髄質における酸素需給バランスを改善するかもしれないと考えられている。脱水やNSAIDsによってプロスタグランジン産生が抑制されていると、このフロセミドの腎保護作用は拮抗されてしまうのかもしれない。
✔ ピットフォール
 フロセミドは尿量を増やすが、クレアチニンクリアランスや腎機能を回復させるわけではないことを知っておかなくてはならない。尿量が増えることでAKIの原因検索(脱水、尿路閉塞、敗血症)が遅れるかもしれない。また、尿中Na濃度を使用して腎前性と腎性AKIを鑑別することができなくなる。腎不全ではフロセミド排泄が悪くなっているので、大量投与で耳毒性が問題になる。また、尿が酸性にかたむき、異常円柱を形成したりフリーラジカル生成の原因になる。その他、全身性の血管収縮を起こしたり、気管に存在するNa-K-Cl2共輸送体にも作用して粘膜機能を低下させたり、テオフィリンや他の有機酸、ゲンタマイシンの排泄を阻害したりする。また、ワーファリンの効果を減弱し、バルプロ散やアンホテリシン、RAA抑制薬の効果を増強する。

◎ 私見
 フロセミドについて復習。以前、耳毒性が問題となった症例をみたことがある。漫然と投与してはいけない薬のひとつ。まあ、漫然と投与してよいクスリなんてないのだが。



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