2015年6月25日木曜日

輸液蘇生はどこへいく?

Fluid resuscitation in ICU patients: quo vadis?
A. Perner et al.
Intensive Care Med. 2015

✔ 低血圧は輸液の適応か
 輸液をすると必ず血圧が上昇するわけではない。輸液によって血圧が上昇するにしても、そもそも組織灌流が障害されていないのであれば意味が無い。心拍出量が増えたとしても血圧が上昇しないことはよくある。輸液そのものが組織低灌流の指標を改善するというデータはほとんどない。
 輸液を十分にしないと組織低灌流が改善しないという恐怖感が蔓延している。少なくとも敗血症ガイドラインにおいては非常に低いエビデンスしか存在しないにもかかわらず輸液負荷を推奨している。一回拍出量を最大にして組織灌流を適切化しようという概念は明らかにコンテキストに依存しており、さらなる臨床研究が必要であると考えられる。

✔ 輸液蘇生と高度な血行動態評価法
 専門科が推奨しているにもかかわらず、例えば心エコーのような高度な血行動態評価ツールは、ほとんど使用されていないのが現状である。質の高いエビデンスが無いからであろう。高度なツールによって治療をガイドすることによって予後が改善すると信じることは要求しすぎなのかもしれない。高度なツールは通常の状況においても平均的な医師が使用するには複雑すぎるのかもしれない。

✔ 輸液負荷とはなにか
 輸液負荷、輸液蘇生、維持輸液、いずれもを定義でき得ていない。例えばPasive leg raisingは輸液試験に対する反応性を予測する試験として報告されたが、一方では可逆的な真の輸液試験と考えられ、輸液負荷に対する反応性を予測するものであるとも考えられるようになっている。

✔ どうすべきか
 我々はこの複雑な領域んついてほとんど何も分かっていないことを自覚するべきである。基礎に立ち返り、観察研究や介入研究を行うべきである。いくつかの研究のデータベースをビッグデータとして使用するアプローチもあるだろう。もっとデータが集まるまではガイドラインでの推奨には慎重になるべきと考える。


重要なリサーチ・クエスチョン(文献より引用)

◎ 私見
 最近Editorialを読むのが楽しい。個人の思いが文章にあらわれるから。なんとなく先輩からためになる話を聞いているのに近い。同感だなと思うこともあれば、それは言い過ぎなんじゃないのと思うこともある。 このEditorialは2013年にESICMが主導して行った輸液に関する観察研究(FENICE、本文はまだ読めない)の結果を受けての文章。最近自分が思っている事に近い内容だったので面白かった。研修医に輸液の話をするときにどうしても切れ味が悪くなるのはあたりまえだったのだと納得。さて、「輸液」はどこにいく(quo vadis?)のでしょう?

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