Guérin C, Moss M, Talmor D.
Intensive Care Med. 2016 Mar 2.PMID: 26935053
✔ はじめに
初学者は医学論文に怯みがちである。論文は経験のある医師や熟練の研究者に向けて書かれることが多く、その分野の特別な語彙に疎い医師にとっては読解しづらいものである。この論文ではARDSに関する文献に頻出する単語について短くまとめている。ARDSの包括的な解説をするのではなく、道しるべを示すことが目標である
✔ 診断
・Baby lung
Baby lungとはARDSの患者のCT画像からはじまった概念である。ARDSの肺障害は非常に不均質であり、換気の良い部位、換気の悪い部位、過膨張している部位、完全に閉塞している部位が混在する。その正常に換気されている肺組織が5~6歳の子供とほぼ同じ肺容量(300~500g)であるため、Baby lungというのである。この正常肺組織領域の圧損傷を避けるため、低用量換気が用いられるべきなのである
・Berlin定義
2011年、新しいARDSの定義を開発するために専門家が招集された。合意を得るためのプロセスを用い(Consensus process)、実行可能性、信頼性、妥当性に焦点を置き、客観的診断性能の評価を行った。ARDSのベルリン定義には下記の4項目が含まれる
A. 経過:既知の臨床的侵襲、新規もしくは増悪する呼吸器症状の出現から1週間以内
B. 胸部画像所見において、胸水や無気肺、結節では完全に説明できない両側性浸潤影
C. 心不全や輸液過負荷では完全に説明できない呼吸不全。危険因子がない場合、静水圧性肺水腫を除外するために心エコーのような客観的評価が必要である
D. 低酸素血症の程度によって3つのカテゴリーに分かれる
Mild:200<P/F≦300 + PEEP or CPAP≧5
Moderate:100<P/F≦200 + PEEP≧5
Severe:P/F≦100 + PEEP≧5
・Diffuse alveolar damage
Diffuse alveolar damage(びまん性肺胞障害;DAD)とはARDS患者に認められる古典的組織所見である。肺水腫、急性炎症、出血、ヒアリン膜形成、肺胞上皮細胞障害に特徴づけられる。近年の肺生検ならびに剖検の研究で、DADはARDSの診断基準を満たす患者の約50%にしか認められないが、これが認められると予後が悪いことが分かっている。DADはARDS以外の器質性肺炎、薬剤性肺炎、肺胞出血症候群などでも認められることがある
・P/F比
ARDS患者の低酸素血症の程度を評価するために用いられる。低ければ低いほど重症の低酸素血症である。P/F比はPaO2をFIO2で割ることで計算できる。例えばPaO2 60mmHgの患者が50%(0.5)のFIO2であった場合、P/F比は120(60/0.5)と計算される
✔ 肺メカニクス
・Driving pressure
Driving pressure(換気駆動圧)とは一回の換気の間に肺に生じる圧変化のことである。この圧は一回換気量(TV)と呼吸器系コンプライアンス(Crs)の両変数によって規定される(Driving pressure = TV/Crs)。換気駆動圧が低いほどARDSの死亡率は低くなる
・Lung strain
Strain(ひずみ、歪み)は対象物の安静時の大きさや形からの変形を意味する。ARDS肺の理想的な安静時の形状は知られていない。多くの患者は肺にある程度のPEEPが適用されており、安静時の形状につぶれて戻らないようになっている。そのため、Lung strainは一回換気量とは同等ではなく、臨床において真のLung strainを知ることはできない
・Lung stress
物理学的には、ストレスとは外的負荷に拮抗する単位領域あたりの内的応力のことを意味する。肺を拡張させる圧としては経肺圧を用いるのが最も適切であるが、この圧が吸気時にさらされる負荷に対する全肺ストレスを意味している
・Plateau pressure
吸気終末時にポーズをおくことで気道が開放され、計測される圧のこと。このとき、気流は生じていないので抵抗を考える必要がなくなり、プラトー圧は肺胞内圧を反映することになる
・Tidal volume
各呼吸で肺に送り込まれるガスの量のことである。従量式換気では医師が設定することができる。従圧式換気では肺コンプライアンスによって変わる。ARDSでは一回換気量は低いほうが有用であることが分かっている
・Transpulmonary pressure
肺を拡張させる真の駆動圧は経肺圧である。気道内圧から胸腔内圧に打ち克つために必要な圧を引いて求められる(生理学的には、経肺圧=気道内圧-胸腔内圧で求められる)。臨床的には真の胸腔内圧を求めることはできないが、食道内圧で代用できる
✔ 治療
・ECMO
上記の換気戦略を行っても重度の低酸素血症(P/F<80)を呈する患者では、ECMOを用いることで生存の確率を高めることができるかもしれない。特別に組織化された状況において行われたひとつの無作為化試験で有用性が示されている
・筋弛緩薬(NMBA)
筋弛緩薬のシスアトラクリウムはプラセボを対照とした無作為化試験で生存率を改善させることが示されている。この効果の機序として、NMBA群に気胸が少なかったことから肺の過膨張を避けることができたことと、肺の炎症を減らしたことが考えられている
・NO
気管内に投与すると、換気良好な部位の肺血管を選択的に拡張させて血流を増やし、酸素化を改善することができる。NOは肺血管抵抗も減らす。これまでに行われた臨床研究によると、生存率を改善させず、腎機能を悪化させる可能性が示唆されている。しかし、、これらの研究は肺保護換気が行われるようになる以前のものである
・PEEP
呼気終末に大気圧より大きい気道内圧をかけることである。PEEPは機能的残気量を増やし、換気サイクルにおけるリクルートメント(Tidal recruitment)を減らす。適切なPEEPレベルの設定方法はわかっていない。いくつかの戦略が無作為化試験で検討されているが、高PEEPを低一回換気量に組み合わせる方法以外には生存率を上昇させる戦略は見つかっていない。一回換気量を6ml/kgPBWに固定して高PEEPと低PEEPを比較した3つの大規模研究のメタアナリシスによると、高PEEPは有益であると結論付けられている
・Prone
人工呼吸管理中に患者をうつぶせにすることで酸素化を改善し、肺の換気・Strain・ストレスを均一にしてVentilator induced lung injuryを避ける方法である。メタアナリシスや一つの特殊なサブグループを対象とした臨床試験で中等度から重度のARDSの予後を改善することが示されている
・Recruitment maneuver
短時間(20~40秒)に高圧(20~40㎝H2O)で肺を膨らませる手技である。虚脱した肺胞を再動員し、無気肺による肺損傷を避ける目的がある。文献によってさまざまなリクルートメント手技がある。
◎ 私見
PROSEVAのGuerin先生の「ARDSまとめ」。ここには載せないが、表も簡潔にまとめられている。ただ、初学者がこれを読むだけで最新の論文を読みこなせるようになるかというと疑問だが…。まあ、最低でもこれくらいは知っていないと”もぐり”ってことになるのでしょうか。
・Transpulmonary pressure
肺を拡張させる真の駆動圧は経肺圧である。気道内圧から胸腔内圧に打ち克つために必要な圧を引いて求められる(生理学的には、経肺圧=気道内圧-胸腔内圧で求められる)。臨床的には真の胸腔内圧を求めることはできないが、食道内圧で代用できる
✔ 治療
・ECMO
上記の換気戦略を行っても重度の低酸素血症(P/F<80)を呈する患者では、ECMOを用いることで生存の確率を高めることができるかもしれない。特別に組織化された状況において行われたひとつの無作為化試験で有用性が示されている
・筋弛緩薬(NMBA)
筋弛緩薬のシスアトラクリウムはプラセボを対照とした無作為化試験で生存率を改善させることが示されている。この効果の機序として、NMBA群に気胸が少なかったことから肺の過膨張を避けることができたことと、肺の炎症を減らしたことが考えられている
・NO
気管内に投与すると、換気良好な部位の肺血管を選択的に拡張させて血流を増やし、酸素化を改善することができる。NOは肺血管抵抗も減らす。これまでに行われた臨床研究によると、生存率を改善させず、腎機能を悪化させる可能性が示唆されている。しかし、、これらの研究は肺保護換気が行われるようになる以前のものである
・PEEP
呼気終末に大気圧より大きい気道内圧をかけることである。PEEPは機能的残気量を増やし、換気サイクルにおけるリクルートメント(Tidal recruitment)を減らす。適切なPEEPレベルの設定方法はわかっていない。いくつかの戦略が無作為化試験で検討されているが、高PEEPを低一回換気量に組み合わせる方法以外には生存率を上昇させる戦略は見つかっていない。一回換気量を6ml/kgPBWに固定して高PEEPと低PEEPを比較した3つの大規模研究のメタアナリシスによると、高PEEPは有益であると結論付けられている
・Prone
人工呼吸管理中に患者をうつぶせにすることで酸素化を改善し、肺の換気・Strain・ストレスを均一にしてVentilator induced lung injuryを避ける方法である。メタアナリシスや一つの特殊なサブグループを対象とした臨床試験で中等度から重度のARDSの予後を改善することが示されている
・Recruitment maneuver
短時間(20~40秒)に高圧(20~40㎝H2O)で肺を膨らませる手技である。虚脱した肺胞を再動員し、無気肺による肺損傷を避ける目的がある。文献によってさまざまなリクルートメント手技がある。
◎ 私見
PROSEVAのGuerin先生の「ARDSまとめ」。ここには載せないが、表も簡潔にまとめられている。ただ、初学者がこれを読むだけで最新の論文を読みこなせるようになるかというと疑問だが…。まあ、最低でもこれくらいは知っていないと”もぐり”ってことになるのでしょうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿