2020年2月3日月曜日

低体温療法と心電図変化

Khan JN, Prasad N, Glancy JM.
Europace. 2010 Feb;12(2):266-70. PMID:19948565

偶発性低体温症ではQT時間が延長することが知られているが、低体温療法でもそうなのかどうかを4名の心停止患者で調査。いずれも低体温療法導入に伴ってQT時間が延長し、復温後に元に戻った。体温とQT時間には逆相関の関係があった。


Mirzoyev SA, McLeod CJ, Bunch TJ, Bell MR, White RD.
Resuscitation. 2010 Dec;81(12):1632-6. PMID:20828913

低体温療法が低カリウム血症と不整脈に関連するかどうかを検討した院外心停止患者94人を対象とした後ろ向き研究。冷却開始10時間後にカリウムは平均3.9→3.2mEq/Lに低下した。11人に多形性心室頻拍(PVT)を発症し、そのうち8人は冷却期に発生た。QT時間も冷却に伴って延長した。低カリウム血症はPVTの発症と有意に関連しており、血清カリウム値が2.5未満で発症する可能性が最も高かった。リバウンドで高カリウム血症になる患者はいなかった。低体温療法中のカリウムは3.0以上に維持することが推奨される。


Nishiyama N, Sato T, Aizawa Y, Nakagawa S, Kanki H.
Am J Emerg Med. 2012 May;30(4):638.e5-8.  PMID:21459539

先天性QT延長症候群のある患者の蘇生後に低体温療法を導入したところ、QT時間がさらに延長したがTdPなど不整脈の再発は無かった


Lam DH, Dhingra R, Conley SM, Kono AT.
Clin Cardiol. 2014 Feb;37(2):97-102. PMID:24515670

低体温療法による心電図変化が院内死亡に関連するかどうかを検討した101人を対象とした後ろ向き研究。低体温療法に伴ってPRおよびQT間隔が延長し、心拍数・QRS間隔が減少た。対象症例のうち45人が死亡したが、生存者と非生存者では、心拍数、PR、QRS、QT時間に差は無かった。低体温に伴ってQT時間が短縮したものもいたが、延長したものと比較して死亡率には差が無かった。初期心電図で右脚ブロックがある患者は死亡率が高かった(OR 4.1)


Salinas P, Lopez-de-Sa E, Pena-Conde L, Viana-Tejedor A, Rey-Blas JR, Armada E, Lopez-Sendon JL.
World J Cardiol. 2015 Jul 26;7(7):423-30.  PMID:26225204

低体温療法に伴う心電図変化を検証。心拍数は平均19低下し再加温により16上昇。PR間隔の有意な延長はなく再加温により減少。QRS幅は延長し再加温で短縮。QT時間は平均58msec延長し細管により22.2msec短縮。J波は21.3%に認めた。新規不整脈は38.3%で発生し、その頻度は非持続性心室性頻拍(19.1%)、重度徐脈/ペースリズム(10.6%)、房室結節促進伝導(8.5%)、心房細動(6.4%)であった。致死的な不整脈は無かった。


Dietrichs ES, Tveita T, Smith G.
Cardiovasc Res. 2019 Mar 1;115(3):501-509.  PMID:30544147

低体温(治療的・偶発的)の心臓電気生理に与える影響を調査したレビュー。QT時間は延長するがQRS間隔よりも温度の低下に影響されやすいようである。重度の低体温になると催不整脈性が出現する。J波は低体温症例で常に認められるわけではない。低体温症における抗不整脈薬の有効性に関する臨床データはほとんどないが、実験データによるとクラスIII抗不整脈ブレチリウムなどの一部の薬剤が有効かもしれない。いずれにしろQTを延長させる可能性がある薬は避けるべきである。


◎私見
低体温療法が循環に与える影響とは具体的に何があるのかを知るために、心電図変化に注目していくつか研究をピックアップ。QT時間が延長することは重要だが、必ずしも予後を悪化させるわけでは無さそう。

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