2020年1月29日水曜日

VILIを予防するためにどのようにパワーを制御するか

Marini JJ.
Crit Care. 2019 Oct 21;23(1):326.  PMID:31639025

人工呼吸器関連肺障害(VILI)は経肺圧(Stress)とそれに付随する肺容量の変化(Strain)の関係によって起きるが、それ以外にもいくつかの要因が関与する。呼吸数や呼吸管理期間、吸入酸素濃度、高体温、経肺胞肺血管圧較差、呼気(呼息)、そしてパワーである。パワーは一分あたりに加えられるエネルギーであり、分時換気量と三つの圧の合計(Flow resistive、Driving pressure、PEEP)によって定義される。このうちDriving pressureがもっとも直接的にVILIに関与する。
VILIを避けるために、まず肺の脆弱性を抑制し生体の換気・酸素化・血流の必要量を減らすことから始める。深鎮静±筋弛緩薬で経肺圧を最小にし、換気需要を減らして呼吸仕事量を軽減する。低酸素血症が重篤であったり推定した肺容量が小さい場合は腹臥位にする。腹臥位にすることで肺容量を増やして経肺圧(Stress)を小さくすることができるし、酸素化を改善することで吸入酸素濃度を減らせる。解熱、不穏への対処、原因の除去も重要である。次いで呼吸器設定を調節する。呼吸器設定は①換気駆動圧とPEEPの調節、②分時換気量の調節、③IE比と吸気パターンの調節を行う。換気駆動圧は15以下、プラトー圧は27以下にすることを目標にする(どちらも経肺圧で調節する)。PEEPは完全なリクルートメントを目的とせず、Decremental approachでリクルートメントと過膨張の最もバランスの取れた値を目指す。換気量はPaCO2 60程度までを許容することで制限する。IE比は1:1~1:1.5とする。自発吸気努力を消失させた場合は定常流の従量式換気とする。

◎私見
肺損傷を予防するために呼吸器設定をどのように調節するのかというMarini先生の解説。こうやって指導してくれる先輩が自分にはいなかったので、このような文章は貴重。

循環不全の新しい重症度スコア


Intensive Care Med. 2019 Nov 4. PMID:31686128





MIMIC-IIIとeICUデータベースを用いた解析。敗血症患者を対象に、循環の新しい重症度スコア(MAP/NEQ)の有用性を検討した。この重症度スコアは平均血圧(MAP)をノルアドレナリンの投与量で除したもので、バゾプレシンはノルアドレナリン投与量に換算して計算した(Vasopressin 0.02-0.05U/min=Noradrenaline 10μg/min)。
MAP/NEQの三分位は<136、136-324、≧325であった。Cardiovasucular-SOFA scoreやModified Cardiovasuxular-SOFA scoreと比較してICU死亡を良好に予測した。

◎私見
呼吸におけるP/Fのように、循環も比でみる指標があれば有用ではないかというアイデアを検証した研究。Cardiovascular SOFAにも血圧とカテコラミンの両方の要素が含まれるため、これを比較対象にしているが、しっかり比でみるMAP/NEQの方が勝つに決まっている気もする。
あとはこの指標を臨床応用できるようなプラスアルファのアイデアがあるかどうか。筆者らはステロイドの反応性を予測できないかどうかなどと考察している。

2020年1月25日土曜日

経頭蓋ドプラの使い方

Robba C, Taccone FS.
Crit Care. 2019 Dec 23;23(1):420. PMID:31870405

1)頭蓋内圧の評価
明らかな適応があれば侵襲的な頭蓋内圧測定法を用いるべきだが、適応がはっきりしないときや侵襲的手段がとり得ないときは経頭蓋ドプラ(Transcranial doppler; TCD)をトリアージとして使用する。Pulsatility index(PI)が増大し、かつ拡張期流速(diastolic FV)が減少した場合は頭蓋内圧が増大している可能性がある。ハイリスク群では1~2時間ごとにTCDを計測する

2)脳死の判断
TCDを副検査として使用する。Reverberating flow、Systolic spikes、Disappearance of previously recorded flow velocityのいずれかのパターンが認められた場合は脳循環停止(Cerebral circulatory arrest; CCA)と判断する

3)自己調節能
Static autoregulatory index(脳血管抵抗=平均血圧÷mean flow velocityが、血圧変化時に何%変化したか)もしくはTransient hyperemic response test(頸動脈を圧迫してSystolic flow velocityが10%以上増加するかどうか)で判定する

4)血管攣縮
くも膜下出血後には毎日1~2回血管攣縮をTCDで評価する。臨床的に血管攣縮を疑う神経所見があり、かつ中大脳動脈(MCA)のmean flow velocity>200cm/secであった場合には直ちに治療を開始する。もしmean flow velocityが120から200の間であった場合は頭蓋外の内頚動脈のmean flowvelocityで割ってLindegaard ratioを計測し、血管攣縮と脳過灌流を鑑別する。なお、MCAのmean flow velocityが120を下回っていても神経学的所見から血管攣縮を疑う場合はCTや脳血管撮影を行う

◎私見
TCDは流行ってもいいと思うのだが、技術的にやや難しいのと患者さんによってはまったく見えないのが問題。ただ、難しいからとプローブをあてもしないのは違うと思う。当然ながら神経学的所見もしっかりとるべきで、TCDだけやればよいというわけではないことは強調すべき。

2020年1月18日土曜日

P/Fに影響する因子

Benefits and risks of the P/F approach.
Gattinoni L, Vassalli F, Romitti F.
Intensive Care Med. 2018 Dec;44(12):2245-2247. PMID:30353385

P/Fは様々な要因によって影響を受けてしまうため、その解釈には注意を要する。P/Fが同じ値であっても、全く別の臨床状況を意味することがある。

1)肺胞酸素分圧の影響
本来PaO2/PAO2で考えるべきなのに、P/FにおいてはFIO2でPAO2を代用している点に注意が必要。肺胞換気式 PAO2 = FIO2 × (Pb―47)― (PaCO2 ÷ R)を考えると、大気圧すなわち高度が高くなるとPAO2 が小さくなり、PaO2/PAO2が大きくなる可能性がある。ECCO2Rを行っていると呼吸商 Rが小さくなるためPAO2が小さくなり、PaO2/PAO2は大きくなる。

2)シャント率や酸素需給バランスの影響
Rileyモデルによると、Venous admixture(シャント率)=(CcO2-CaO2)/(CcO2-CvO2)である。ここで、CcO2は肺胞気によって酸素化された血液の酸素含量、CaO2・CvO2は動脈・静脈血酸素含量である。P/FはCcO2-CaO2ないしCaO2/CcO2と同じ意味を持つ。P/FすなわちCcO2-CaO2=Venous admixture × (CcO2-CvO2)なので、P/Fはシャント率や混合静脈血酸素飽和度の影響を受けることになる。また、CvO2=CaO2-酸素消費量VO2/心拍出量Qtなので、酸素消費量や心拍出量の影響もうけることになる。

文献より引用
・Qva/Q:シャント率、幅は心拍出量による影響を示している、酸素消費量は一定としてある
・シャント率が高くなるとP/Fが低くなる
・心拍出量が大きくなると混合静脈血酸素飽和度が低下するためPaO2が上昇する(P/Fが上昇する)
・例えばシャント率20%で心拍出量6L/minのとき、FIO2 0.3~0.7ではmild ARDSと診断されても0.7~1.0ではARDSではないと診断されてしまうことになる

3)臨床応用
重症度を評価する際にはFIO2を一定に保って比較する方が良いかもしれない。PEEPはシャント率を低下させるが心拍出量を減少させる可能性もある。つまり、P/Fを上昇させることもあれば低下させることもあることに注意する。リクルートメントを行うときには注意。

◎私見
P/Fも単純なようでいて奥が深い。シャントが多くなるとP/Fは低くなる(酸素投与に全く反応しなくなる)こと、心拍出量の影響を受けること、FIO2が高い時はP/Fを過小評価する可能性があることあたりをおさえておけばよいか。

2020年1月13日月曜日

血圧ではなく臓器灌流を指標とした蘇生戦略

From a pressure-guided to a perfusion-centered resuscitation strategy in septic shock: Critical literature review and illustrative case
Raúl J.GazmuriMD, PhD, FCCMaCristina Añezde GomezMDb
Journal of critical care 2020

敗血症初期に低血圧と低灌流が同時に生じる。低血圧は炎症反応の結果として生じた血管拡張が原因であり、低灌流は相対的な前負荷不足や心機能障害もしくはもともとの弁膜症などの器質的心疾患の影響によって生じる。炎症反応の改善には時間がかかるため、低灌流が例えば輸液負荷によって改善しても低血圧が改善するには時間がかかることがある。血圧を指標にするのではなく、灌流状態を指標に敗血症蘇生を行うべきではないか?

症例
77歳の肺炎球菌性肺炎に伴う敗血症性ショック。輸液蘇生にもかかわらず血圧が低下しノルアドレナリンを投与しつつ気管挿管。肺動脈カテーテルを挿入して血行動態管理を行った。平均血圧は体血管抵抗の減少を反映して低いものの心拍出量は高く、酸素供給量も酸素消費量に比して十分であった。平均血圧は65未満であったもののノルアドレナリンを漸減中止した。患者は特に問題なく回復した。

▶ ガイドラインでは昇圧剤を必要とする敗血症性ショックでは平均血圧65以上を目標とするとされているが、そもそも昇圧剤の投与の根拠となる研究のエビデンスレベルは低い(昇圧剤を使った場合と使わなかった場合を比較した質の高い研究は無い)。
▶ 低血圧と臓器障害(心筋虚血や腎障害など)の関連を報告した研究は多いため”血圧を守る”パラダイムが生じたと思われるが、低血圧が直接的に臓器障害を引き起こしたことを証明した研究は無く、低血圧を治療するための薬剤が臓器障害をもたらした可能性すら指摘されている。
▶ 敗血症性ショックのメカニズムのひとつに過剰なNO産生がある。NO合成酵素阻害薬の効果を検証したRCTがあるが、血圧は有意に上昇するものの死亡率も上昇してしまったため早期に中止されている。肺動脈圧が上昇し心拍出量が低下したことが要因の一つと考えられている。つまり、血管拡張を治療することで平均血圧を上昇させても臓器灌流が改善するとは考えるべきではないことになる。
▶ カテコラミンは褥瘡、消化管血流減少、ICU-AW、敗血症性免疫麻痺、脳組織酸素飽和度低下、心筋障害・心房細動、Symmetric peripheral gangrene(SPG)に関与しており予後を悪化させる。もともと心機能が悪かったり弁膜症が存在したりする場合は後負荷の影響が大きくなるため昇圧剤は心拍出量を激減させ臓器灌流を悪化させる可能性がある。実際、輸液ではなくカテコラミンで平均血圧を維持しようとした研究では予後が悪化している。MIMIC-Ⅲを用いた解析では低血圧や他の因子とは独立してカテコラミン投与量が増えると死亡率が上昇することが示されている。低血圧は疾患の表現型であるのに対し、カテコラミンは人為的に行われることに注目すべきである。高用量のノルアドレナリンによる血管収縮がショックを悪化させたり過剰なβ1刺激が心機能を悪化させたりすることでこのような弊害がもたらされるのではないかと考えられる。
▶ ノルアドレナリンは静脈を収縮させて静脈還流を増やし(=前負荷が増え)心拍出量も増加する。Permpikulらはノルアドレナリン早期投与の効果をRCTで検証し、心原性肺水腫や新規不整脈が有意に減少し、死亡率も減少する傾向があったと報告している。ただし、蘇生後期にはOpen-labelでカテコラミンを使用することを許可しているため、これが本当に必要だったかどうかを検証する必要がある。
▶ Vasopressin、Selepressin、Terlepressinをノルアドレナリンと比較した試験では死亡率は改善していない。AngiotensinⅡの効果を検証したATHOS-3 studyでもカテコラミン必要量は減らすものの感染症が増加し、多臓器不全も減らさず、血栓症の危険性も指摘されている。しかし、腎代替療法を行っている患者では腎機能回復を促進し生存率が増加する可能性が指摘されている。
▶ 重症度が低いからなのか昇圧剤を使わなかったからなのかは不明だが、遷延する低血圧に対して昇圧剤を使わなかった方が死亡率が低かったという観察研究の結果がある(JAMA 2016)。また、EGDTは重症度が低い群には有用だが重症例では輸液過剰がネックとなって有用ではないことが示唆されており、平均血圧を指標にすることの限界が示されていると考えられる。
▶ ノルアドレナリンは心拍出量を増やすと言われるが、実際はその作用はそれほど大きくはなく、体血管抵抗を24~35%上昇させるのに対して心拍出量は3.4~10%程度しか上昇しない。

▷ 組成の指標を血圧ではなく臓器灌流、とりわけ微小循環にパラダイムシフトする必要があるのではないか
▷ 臓器灌流と微小循環には関連がある。ノルアドレナリンは血圧などの血行動態を改善する効果を持つが微小循環に与える影響は様々であり、血圧を上昇させたからと言って微小循環が改善しないことも実際に示されている。ドブタミンは心拍出量とは無関係に微小循環を改善することが示されている。毛細血管再充満時間(CRT)や末梢皮膚温などを指標とした灌流指向型の蘇生の有用性を検証する研究(TARTARE-2S trial)や65未満の血圧を指標とした研究(65 trial)が既に行われている。いわゆる血行動態指標(血圧など)と微小循環との間には細動脈が存在したい血管抵抗を規定する因子の一つとして作用する。そのため、平均血圧は毛細血管灌流圧の指標とはなり得ない。
▷ 心拍出量が不変で体血管抵抗が上昇すると平均血圧は上昇するが微小血管灌流圧は不変である。心拍出量が体血管抵抗上昇に伴って減少する場合は平均血圧はさほど上昇せず微小血管灌流圧はむしろ減少する。体血管抵抗が不変で心拍出量を増やすことができれば微小血管灌流圧は増加する。また、心拍出量が増えて体血管抵抗が減少した場合も平均血圧は増加しないものの微小血管灌流圧は増加する。つまり、心拍出量の増加が無ければ微小血管灌流圧は増加しないと思われるし、平均血圧が上昇しないことが微小血管灌流圧が改善していないことを示唆するものではないことになる。皮膚は細動脈収縮によって真っ先に犠牲になる臓器(それによって脳や心臓の血流を増やそうとする生理的反応)であり、皮膚温やCRTを指標に微小血管灌流圧を評価することは理に適っている。
▷ 灌流指向型蘇生戦略は輸液によって心拍出量が増えるかどうかを判断するところから始まる。心拍出量が増えないのであればそれ以上の輸液はしない。心血管作動薬は血管拡張作用を持つドブタミンやミルリノンを用いる。純粋な血管拡張薬であるニトログリセリンを使用する方法も考えられる。臓器灌流は皮膚温やCRTを指標とする。
▷ それでは血圧はどこまで低くなっても許容できるのだろうか? 明確な研究は無いが、平均血圧36±11で心停止に至るという研究があり、脳や冠動脈の灌流を維持できる最低ライン(45~50)を考えると、45~55mmHgではないかと推測される。

◎私見
読んでいてとても楽しかった。自分は平均血圧65mmHg以上を金科玉条のごとく守ることは無いし、循環管理は心拍出量をしっかり評価すべしというのは体に染みついているので、すごく意外というわけではない内容。血管拡張薬を用いるというアイデアも知っていたし、実際にSPGに対して使用したこともある。
しかし、こうやって網羅的かつ緻密に組み立てて説明できるかというと全く自信が無い。これができるのが真の集中治療医なのかもしれない。





2020年1月12日日曜日

輸液過剰という言葉は使わない方が良い

Vincent JL, Pinsky MR.
Crit Care2018 Sep 11;22(1):214. PMID:30205826

・循環管理において心拍出量を規定しているのは有効循環血液量(Effective circulation blood volume)であり、循環血液量の60~70%を占めるUnstressed volumeを除いたStressed volumeがその指標となる
・動脈血圧は抵抗の高い細動脈によって規定されているため、動脈血圧は有効循環血液量の指標とはならない
・静脈コンプライアンスとStressed volumeによって生じる圧が平均循環充満圧(Mean circulatory/systemic filling pressure; Pms)であり、蘇生における輸液の第一の目的は、Stressed volumeを増やしてPmsを増加させることということになる
・Hypovolemiaは血液量が少なくPmsが低い状態の事であり、血管外から血管内への水分や電解質の移動が起きている
・Hypervolemiaは血液量が多くPmsが高い状態の事であり、血管内から血管外へ水分や電解質が移動して浮腫を形成する
・Hypervolemiaは浮腫を伴うが、浮腫が生じているからと言ってHypervolemiaとは限らない。例えば敗血症性ショックなど炎症反応が高度な病態では血管透過性が亢進しており、浮腫を形成しつつ血管内容量が小さいということがありえる。つまり、高度の浮腫と全身の水分量増加があるにもかかわらずHypovolemiaとなっている
・ひとたび患者の状態が安定すれば循環蘇生の段階で負荷された水分を取り除くために利尿剤が投与されることがあるが、これはHypervolemiaが明らかな時にのみ行われるべきである。つまり、StabilizationからEvacuationのPhaseである
・Fluid overloadという言葉は取り除くべき水分の過剰を暗に示唆しており、利尿剤投与というPracticeに繋がりがちであるが、Hypovolemiaである可能性があるため、この言葉は不適切である

文献より引用

◎私見
輸液過剰に対して利尿剤を投与するのではなく、Hypervolemiaに対して利尿剤を投与すべきであるということ。「乏尿だからフロセミド」とか「浮腫があるからフロセミド」ではないということも大事。

2020年1月11日土曜日

早期急性腎傷害にフロセミドを持続投与しても効果は無い(SPARK study)

Bagshaw SM, Gibney RTN, Kruger P, Hassan I, McAlister FA, Bellomo R.
J Crit Care. 2017 Dec;42:138-146. PMID:28732314

フロセミドが急性腎傷害(AKI)患者の経過を修飾するかどうかを検討した多施設無作為化パイロット研究。RIFLE分類でRiskの早期AKI+SIRS2項目以上+循環蘇生のGoalは達成済みの患者を無作為にフロセミド群(0.4mg/kg loading+0.05mg/kg/hr Furosemide 2000mg/NS 500mlで調整)とプラセボ群に割り付けた。AKIの増悪、腎機能回復、腎代替療法導入は両群間で有意差がなかった(若干Furosemide群で悪い)。電解質異常は介入群で多かった

◎私見
体重50㎏の成人を仮定すると、Furosemide 1A(20㎎)をLoadingして1日3A(60㎎)を持続投与する計算になる。循環が安定した後も乏尿状態のAKIにFurosemideを持続投与しても良いことは無いようだ。対象のほぼすべてが内因疾患に起因する重症病態で人工呼吸管理をされており、APACHE IIスコアやSOFAスコアもかなり高いので、重症すぎて意味がないという解釈もできそうだが。
外科系の先生で同じような管理をする方がおられるのだが、さてどうしたものか。対象とする患者が違うのでこの文献は意味がない?

2020年1月7日火曜日

輸液過剰は呼息制限を起こす

Volta CA, Dalla Corte F, Ragazzi R, Marangoni E, Fogagnolo A, Scaramuzzo G, Grieco DL, Alvisi V, Rizzuto C, Spadaro S.
Crit Care. 2019 Dec 5;23(1):395. PMID: 31806045

呼息制限(Expiratory flow limitation; EFL)はCOPD、ARDS、心不全、肺線維症、脊髄損傷、肥満などで認められ、呼吸器系のみならず循環動態にも悪影響を及ぼすことが知られているが、重症患者における頻度とリスク因子を明らかになっていない。
ICUで72時間以上人工呼吸管理を受けると予想された121名の患者を前向きに集積して解析した。EFLは吸気終末でPEEPを3 cmH2Oから0 cmH2Oに下げた際に呼気流速が増えるかどうかで判断した(呼気流速が増えなかったらEFLが存在するということ;PEEP test)。PEEP testの結果はNegative Expiratory Pressure test(NEP)で確認した。さらにIncremental PEEP trialを行い、EFLが解除されるPEEPを計測した。これらのテストは入院初日と3日目に行った。
人工呼吸管理開始時にEFLを認めたのは31%で、肥満(BMI高値)、心肺疾患の既往、呼吸苦スコア高値、内因性PEEP高値、気道抵抗高値などの特徴が認められた。3日目には17%の症例に新たにEFL(New onset EFL)を認めた。New onset EFLの危険因子は輸液過剰(3日目までの輸液バランス103.3 ml/kg vs 65.8 ml/kg)であった。EFLを認めた症例は人工呼吸管理期間やICU在室期間が長く、ICU死亡率も高かった。

◎私見
先日、まさしく輸液過剰に起因すると思われるEFLを経験した。輸液過剰の有害性に無頓着な人が多すぎる気がする。その気になれば様々な合併症が起きていることがわかるのに、輸液し過ぎなのかもという思考回路がなければ気づくことすらできない。
それはさておき、EFLは注目すべき所見だと思っている。かなりの頻度で起きていると思われるため、もう少し積極的に評価してみても良いかもしれない。

2020年1月6日月曜日

術中の呼息制限は術後肺合併症を予測する

Spadaro S, Caramori G, Rizzuto C, Mojoli F, Zani G, Ragazzi R, Valpiani G, Dalla Corte F, Marangoni E, Volta CA.
Anesth Analg. 2017 Feb;124(2):524-530. PMID:27537927

術中の呼息制限(Expiratory flow limitation; EFL)が術後肺合併症(Postoperative pulmonary complications; PPC)を予測するかどうかを検討した前向き観察研究。対象は腹部手術を受けた330名で、EFLが存在するかどうかはPEEPテスト(吸気終末にPEEPを突然 3 cmH2O低下させることで呼気流速が増えるかどうか)で判定した。EFLは31%に認められ、年齢やMedical Research Council dyspnea scoreと同様にEFLもPPCの予測因子(リスク比 2.7)であった。

◎私見
EFLが予後予測因子ということなので、次はEFLをカウンターするような適切なPEEPをかけたらどうかというアイデアが出てくる。実際にEFLcore studyという心臓血管外科症例を対象としたRCTが計画されているらしいので、結果を楽しみに待つことにする。

2020年1月5日日曜日

感染源をどう探すか

De Waele JJ, Sakr Y.
Crit Care. 2019 Nov 29;23(1):386. PMID:31783896

1)疫学…呼吸器感染症と腹腔内感染症が多い
2)病歴…既往歴、手術歴、各種デバイスの使用期間などを詳細に
3)所見…局所所見は感染巣を示唆する有用な証拠
4)画像…術後や原因の良くわからない感染症では腹部CTの閾値を低く
5)検査…腰椎穿刺など。緊急ドレナージが必要な病態は閾値を低く
6)血液…CRPやプロカルシトニンは変化の傾向が大事
7)時相…時間的猶予を考慮した戦略

推奨されるソースコントロールの時期
1)超緊急(1時間以内)…壊死性筋膜炎、CRBSI、創感染ドレナージ、
              腹部コンパートメント症候群を伴う腹腔内感染
2)緊急(6時間以内)…消化管穿孔、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、膿瘍ドレナージ
3)待機的…感染性膵壊死

◎私見
集中治療医にとって感染巣探しは、当たり前のことを当たり前にできるかどうかが問われる大切な営為だと思う。ここには記載がないが敗血症以外の原因で感染症のような症状を呈することもあるので、そちらの知識も必要。

2020年1月4日土曜日

輸液反応性を心拍出量以外の指標で予測できるか?

How to detect a positive response to a fluid bolus when cardiac output is not measured?
Ait-Hamou Z, Teboul JL, Anguel N, Monnet X.
Ann Intensive Care. 2019 Dec 16;9(1):138. PMID: 31845003

輸液反応性を心拍出量以外で予測できるかどうかを検討した後ろ向き研究。対象となったのは敗血症の症例が7割を占める491名。生理食塩水500mlをボーラス投与し、経肺熱希釈法で心拍出量が15%以上増加したものを輸液反応性ありとしたとき、心拍数や血圧でこれを予測できるかどうかを検討した。心拍数はほとんど役に立たず(AUROC≒0.5)。収縮期血圧、平均血圧、脈圧、脈圧変動、ショックインデックスのうち最も有用だったものは脈圧であった(AUROC=0.719、閾値 10%、感度72%、特異度64%)。輸液反応性を正確に知りたければ心拍出量を計測すべきである。

◎私見
タイトルをみて少し期待したが、結果は予想通り輸液反応性を血圧で知るのは難しいということが改めて明らかになったもの。心拍出量を計測するしかないということ。
対象患者には注意が必要。低血圧をトリガーにして輸液負荷をしたのは2割で、頻脈や乏尿をトリガーにしたものがそれぞれ4割近くいる。また、人工呼吸管理を行っていたのは67%であり、明確に記載されていないが多くの患者は自発呼吸が残っていたと思われるので、自発呼吸が全くない状態では少し結果が変わった可能性はあるだろう。この研究は後ろ向きだが、筆者らはCVPを計測してあったら補正できてよかったかもと言っているので、今後そのような前向き研究が計画されているのかもしれない。
それにしても、対象患者のノルアドレナリン投与量の中央値が0.7μg/kg/minって書いてあるんだけど本当か?