From a pressure-guided to a perfusion-centered resuscitation strategy in septic shock: Critical literature review and illustrative case
Raúl J.GazmuriMD, PhD, FCCMaCristina Añezde GomezMDb
Journal of critical care 2020
敗血症初期に低血圧と低灌流が同時に生じる。低血圧は炎症反応の結果として生じた血管拡張が原因であり、低灌流は相対的な前負荷不足や心機能障害もしくはもともとの弁膜症などの器質的心疾患の影響によって生じる。炎症反応の改善には時間がかかるため、低灌流が例えば輸液負荷によって改善しても低血圧が改善するには時間がかかることがある。血圧を指標にするのではなく、灌流状態を指標に敗血症蘇生を行うべきではないか?
症例
77歳の肺炎球菌性肺炎に伴う敗血症性ショック。輸液蘇生にもかかわらず血圧が低下しノルアドレナリンを投与しつつ気管挿管。肺動脈カテーテルを挿入して血行動態管理を行った。平均血圧は体血管抵抗の減少を反映して低いものの心拍出量は高く、酸素供給量も酸素消費量に比して十分であった。平均血圧は65未満であったもののノルアドレナリンを漸減中止した。患者は特に問題なく回復した。
▶ ガイドラインでは昇圧剤を必要とする敗血症性ショックでは平均血圧65以上を目標とするとされているが、そもそも昇圧剤の投与の根拠となる研究のエビデンスレベルは低い(昇圧剤を使った場合と使わなかった場合を比較した質の高い研究は無い)。
▶ 低血圧と臓器障害(心筋虚血や腎障害など)の関連を報告した研究は多いため”血圧を守る”パラダイムが生じたと思われるが、低血圧が直接的に臓器障害を引き起こしたことを証明した研究は無く、低血圧を治療するための薬剤が臓器障害をもたらした可能性すら指摘されている。
▶ 敗血症性ショックのメカニズムのひとつに過剰なNO産生がある。NO合成酵素阻害薬の効果を検証したRCTがあるが、血圧は有意に上昇するものの死亡率も上昇してしまったため早期に中止されている。肺動脈圧が上昇し心拍出量が低下したことが要因の一つと考えられている。つまり、血管拡張を治療することで平均血圧を上昇させても臓器灌流が改善するとは考えるべきではないことになる。
▶ カテコラミンは褥瘡、消化管血流減少、ICU-AW、敗血症性免疫麻痺、脳組織酸素飽和度低下、心筋障害・心房細動、Symmetric peripheral gangrene(SPG)に関与しており予後を悪化させる。もともと心機能が悪かったり弁膜症が存在したりする場合は後負荷の影響が大きくなるため昇圧剤は心拍出量を激減させ臓器灌流を悪化させる可能性がある。実際、輸液ではなくカテコラミンで平均血圧を維持しようとした研究では予後が悪化している。MIMIC-Ⅲを用いた解析では低血圧や他の因子とは独立してカテコラミン投与量が増えると死亡率が上昇することが示されている。低血圧は疾患の表現型であるのに対し、カテコラミンは人為的に行われることに注目すべきである。高用量のノルアドレナリンによる血管収縮がショックを悪化させたり過剰なβ1刺激が心機能を悪化させたりすることでこのような弊害がもたらされるのではないかと考えられる。
▶ ノルアドレナリンは静脈を収縮させて静脈還流を増やし(=前負荷が増え)心拍出量も増加する。Permpikulらはノルアドレナリン早期投与の効果をRCTで検証し、心原性肺水腫や新規不整脈が有意に減少し、死亡率も減少する傾向があったと報告している。ただし、蘇生後期にはOpen-labelでカテコラミンを使用することを許可しているため、これが本当に必要だったかどうかを検証する必要がある。
▶ Vasopressin、Selepressin、Terlepressinをノルアドレナリンと比較した試験では死亡率は改善していない。AngiotensinⅡの効果を検証したATHOS-3 studyでもカテコラミン必要量は減らすものの感染症が増加し、多臓器不全も減らさず、血栓症の危険性も指摘されている。しかし、腎代替療法を行っている患者では腎機能回復を促進し生存率が増加する可能性が指摘されている。
▶ 重症度が低いからなのか昇圧剤を使わなかったからなのかは不明だが、遷延する低血圧に対して昇圧剤を使わなかった方が死亡率が低かったという観察研究の結果がある(JAMA 2016)。また、EGDTは重症度が低い群には有用だが重症例では輸液過剰がネックとなって有用ではないことが示唆されており、平均血圧を指標にすることの限界が示されていると考えられる。
▶ ノルアドレナリンは心拍出量を増やすと言われるが、実際はその作用はそれほど大きくはなく、体血管抵抗を24~35%上昇させるのに対して心拍出量は3.4~10%程度しか上昇しない。
▷ 組成の指標を血圧ではなく臓器灌流、とりわけ微小循環にパラダイムシフトする必要があるのではないか
▷ 臓器灌流と微小循環には関連がある。ノルアドレナリンは血圧などの血行動態を改善する効果を持つが微小循環に与える影響は様々であり、血圧を上昇させたからと言って微小循環が改善しないことも実際に示されている。ドブタミンは心拍出量とは無関係に微小循環を改善することが示されている。毛細血管再充満時間(CRT)や末梢皮膚温などを指標とした灌流指向型の蘇生の有用性を検証する研究(TARTARE-2S trial)や65未満の血圧を指標とした研究(65 trial)が既に行われている。いわゆる血行動態指標(血圧など)と微小循環との間には細動脈が存在したい血管抵抗を規定する因子の一つとして作用する。そのため、平均血圧は毛細血管灌流圧の指標とはなり得ない。
▷ 心拍出量が不変で体血管抵抗が上昇すると平均血圧は上昇するが微小血管灌流圧は不変である。心拍出量が体血管抵抗上昇に伴って減少する場合は平均血圧はさほど上昇せず微小血管灌流圧はむしろ減少する。体血管抵抗が不変で心拍出量を増やすことができれば微小血管灌流圧は増加する。また、心拍出量が増えて体血管抵抗が減少した場合も平均血圧は増加しないものの微小血管灌流圧は増加する。つまり、心拍出量の増加が無ければ微小血管灌流圧は増加しないと思われるし、平均血圧が上昇しないことが微小血管灌流圧が改善していないことを示唆するものではないことになる。皮膚は細動脈収縮によって真っ先に犠牲になる臓器(それによって脳や心臓の血流を増やそうとする生理的反応)であり、皮膚温やCRTを指標に微小血管灌流圧を評価することは理に適っている。
▷ 灌流指向型蘇生戦略は輸液によって心拍出量が増えるかどうかを判断するところから始まる。心拍出量が増えないのであればそれ以上の輸液はしない。心血管作動薬は血管拡張作用を持つドブタミンやミルリノンを用いる。純粋な血管拡張薬であるニトログリセリンを使用する方法も考えられる。臓器灌流は皮膚温やCRTを指標とする。
▷ それでは血圧はどこまで低くなっても許容できるのだろうか? 明確な研究は無いが、平均血圧36±11で心停止に至るという研究があり、脳や冠動脈の灌流を維持できる最低ライン(45~50)を考えると、45~55mmHgではないかと推測される。
◎私見
読んでいてとても楽しかった。自分は平均血圧65mmHg以上を金科玉条のごとく守ることは無いし、循環管理は心拍出量をしっかり評価すべしというのは体に染みついているので、すごく意外というわけではない内容。血管拡張薬を用いるというアイデアも知っていたし、実際にSPGに対して使用したこともある。
しかし、こうやって網羅的かつ緻密に組み立てて説明できるかというと全く自信が無い。これができるのが真の集中治療医なのかもしれない。