Taccone FS, Picetti E, Vincent JL.
Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6. doi: 10.1186/s13054-019-2721-1. PMID: 31907075
背景
蘇生後の目標体温管理療法(TTM)は、TTM trial(NEJM 2013)の結果を受けて平熱維持が増えている。しかし、TTM trialには患者背景の異質性、蘇生時間が短すぎる点、TTM導入の遅さと復温の速さなどの問題点も指摘されており、実際、HYPERION study(NEJM 2019)において33℃に冷却したほうが予後が良いという結果であった。TTMについてはまだ議論の余地があり、臨床においては様々な”やり方”が横行している。臨床研究を行ってTTMの効果を検証するためには、まず正しい”やり方”を定義すべきではないか?
質の高いTTMとは?
開始時期:
虚血再灌流障害の軽減という観点からはできるだけ早期にTTMを開始することが望ましいが、冷却輸液を用いた早期冷却は有効ではない。一方、経鼻デバイスを蘇生中から用いた場合は有効との報告がある
体温測定:
膀胱温、食道温、血液温のような深部体温を指標にすべきである(実際の脳温はこれよりも0.4~2.0℃高いという研究があるが)。口腔温、腋窩温、直腸温は避ける。また、体温は持続的に測定して変動をできるだけ小さくすべきである
目標体温:
依然として何℃が最もよいのかはわかっていないが、厳密にコントロールする方が良いのは間違いなさそう。議論はあるが、出血、血行動態不安定などの問題点がある場合は36℃などの平熱を、長時間のCPR、痙攣、脳浮腫などの神経学的問題がある場合は33℃のような低い体温を目標にした方が良いかもしれない
冷却期間:
最低でも24時間は続けるべきである。24時間と48時間では神経学的予後に有意な差が無いが長時間の方が5%改善してはいる。新生児における長時間冷却(72時間など)や48時間以上のTTMで合併症が特に増えるわけではないという報告もある。いずれにしろ、TTMを短時間にとどめることはしない
復温速度:
専用の体温調節デバイスを用いてできるだけゆっくり(0.15~0.25℃/hr)復温すべきである。”Post-TTM fever”は有害だと言われており、患者の状態に応じて(目が覚めるなら短時間、脳損傷の証拠があるなら長時間)復温修了後48時間は体温を慎重に調節すべきである
質の高いTTMを行うために
鎮痛鎮静:
シバリングの抑制は重要である。薬剤の蓄積を考えると短時間作用型の薬剤(プロポフォールやレミフェンタニルなど)が好ましいがプロポフォールは血行動態に与える影響が大きい。鎮痛鎮静薬はTTM開始時に投与を始め、平熱になってから中止すべきである。平熱時にシバリングが起きた場合は鎮痛薬や少量の鎮静薬、マグネシウム、α2アゴニストで対処する。アセトアミノフェンやNSAIDsはTTMの最中にはあまり意義が無いが平熱復温後の体温管理には使用できる。筋弛緩薬はTTMにおいて体温管理を容易にし、特に高用量の鎮痛鎮静薬を使用してもシバリングを抑制できないような場合に有用である。Bedside Shivering Assessment Scale(BSAS)のような指標を用いることも考える
デバイス:
アイスパッドやアイスパックのような方法ではなく、専用の体温フィードバック機構を備えたデバイスを用いるべきである
◎私見
TTMに限らずICUで行われる介入の質の管理は、集中治療医にとって重要な職務だと考えている。人工呼吸器の設定を変える、輸液の指示を出すといった基本的な営為もそう。それこそが我々の存在意義だと思う。