2015年7月31日金曜日

重症患者の筋委縮(MUSCLE study)

Acute skeletal muscle wasting in critical illness.
Puthucheary ZA, Rawal J, McPhail M, Connolly B, Ratnayake G, Chan P, Hopkinson NS, Phadke R, Dew T, Sidhu PS, Velloso C, Seymour J, Agley CC, Selby A, Limb M, Edwards LM, Smith K, Rowlerson A, Rennie MJ, Moxham J, Harridge SD, Hart N, Montgomery HE.
JAMA. 2013 Oct 16;310(15):1591-600. PMID: 24108501


✔ 背景
 重症患者では機能障害を伴う骨格筋委縮が認められる。骨格筋委縮の特徴や蛋白代謝異常における病態学的役割を明らかにする事を目的として研究を行った。
✔ 方法
 平均APACHEⅡスコア 23.5、患者は18歳以上で48時間以上人工呼吸管理を受け、7日以上ICUに在室し生存退室した63人を対象として検討した。筋委縮は第1、3、7、10日目に大腿直筋の横断面積を超音波で計測して判定した。組織学的な検討や蛋白代謝についても検討した。
✔ 結果
 大腿直筋の横断面積は10日目に有意に減少していた(-17.7%)。筋生検を行った28人について、大腿直筋横断面積の減少、筋線維横断面積の減少、蛋白/DNA率の減少が観察された。大腿直筋横断面積減少は一臓器不全患者に比べて多臓器不全患者で大きかった。筋線維壊死は54.1%に認められた。筋蛋白合成は1日目に既に抑制されており、7日目には増加に転じていた。しかし、下肢の筋蛋白破壊は10日間にわたって続いており、破壊に比べて合成が抑制されている事が原因であることが示唆された。
✔ 結論
 重症患者において筋委縮は早期から速やかに生じており、その程度は多臓器不全患者で強かった。
大腿直筋横断面積の推移(文献より引用)
◎ 私見
 重症患者の筋委縮はかなりダイナミックに起きている様子。さて、この意義は何か。機能的予後を示すのか、もっと他の何かを反映するのか。筋委縮の程度を見ながら介入をするとよいのか。治療の指標になるのか。色々と興味はある。

2015年7月29日水曜日

難治性心室性不整脈に星状神経節ブロックが有用

Urgent Ultrasound-Guided Bilateral Stellate Ganglion Blocks in a Patient With Medically Refractory Ventricular Arrhythmias.
Scanlon MM, Gillespie SM, Schaff HV, Cha YM, Wittwer ED.
Crit Care Med. 2015 Aug;43(8):e316-8. PMID: 25978339


✔ 背景
 再発性心室性不整脈の治療に交感神経ブロックが有用であることが知られている。治療抵抗性の心室性不整脈への超音波ガイド下両側星状神経節ブロックの有用性について報告する。
✔ 症例
 79歳女性。NSTEMIと診断されIABP留置後にCABG(3枝バイパス)を施行した。術後、LOSに対してアドレナリンとバゾプレシンを要する状態であったが術後2日目には終了できた。しかし、術後3日目にVFとなり除細動を要した。その翌朝もVFとなり難治性であった。開胸心マッサージを行いつつECMOを導入した。術後8日目にはECMOを離脱できたが、アミオダロン、エスモロール、プロカインアミド、リドカイン、マグネシウムを最大用量で使用しているにもかかわらずVFやVTを繰り返すようになった。術後10日目、交感神経抑制のために両側星状神経節ブロックを行うことになった。
 星状神経節ブロックはICUで超音波ガイド下に行われた。消毒後に超音波で星状神経節を描出し、0.25%ブピバカインを6mlずつ両側に注入した。手技は合併症なく終えることができた。ブロック後、数日間心室性不整脈は起きなかった。アドレナリンとミルリノンを減量でき、IABPも離脱できた。両側星状神経節ブロックは4日後に再度行った(1%リドカイン+0.5%ブピバカイン混合液)。その後は、8連のVTを認めたのみであった。抗不整脈は徐々に減量できた。初回ブロックより12日後に3回目のブロックを施行したが、このときには既に人工呼吸を終了していたため呼吸器合併症の懸念から片側のブロックにとどめた。全ての薬剤を減量でき、ICD埋め込み後に退院した。星状神経節ブロック後からはショックを要する不整脈は起きていない。
✔ 考察
 超音波を用いることで血管系や筋を描出でき、局所麻酔薬の誤注入を予防できて有用である。長期の交感神経遮断効果を期待するためには胸腔内の交換神経節切除やアブレーションを考慮すべきであるが、隔週の星状神経節ブロックで十分であったとの報告はある。星状神経節ブロックは有用だが合併症(血管内誤注入~痙攣、くも膜下投与~呼吸停止・意識消失、横隔神経麻痺)に注意すべきである。
 本症例では心室性不整脈を迅速に停止させる必要があったため両側をブロックしたが、片側でも有用であるとの報告はある。その際は左側が右側に比べて有効であるとされる。

◎ 私見
 麻酔科医になりたての頃に盲目的に行っていた星状神経節ブロック(SGB)。すっかり記憶から消えようとしていたところにこんな話題。この症例に関しては薬剤の使用など、もっと何とかできたのではないかと思うところはある。どうにもならない、というときの奥の手としてSGBを頭の片隅に置いておこうと思う。

2015年7月26日日曜日

ガイドラインを盲信してはいけない

Ten things you should consider before you believe a clinical practice guideline.
Jaeschke R, Guyatt GH, Schünemann H.
Intensive Care Med. 2015 Jul;41(7):1340-2. PMID: 25516088


1.臨床診療ガイドライン(CPG; Clinical practice guidelines)は最近発表されたものでなくてはならない。4年も空けば問題があると考えた方が良い

2.実用的かつ行動可能な回答に繋がるような臨床的疑問点が挙げられるべきである。この目的で我々はPICO(Population, Intervention, Comparator, Outcome)モデルを推奨する。

3.”エビデンスのもたらされた年代”を考慮しなくてはならない

4.介入と比較対象は実臨床と関連していなくてはならない

5.アウトカムは患者にとって重要なものであるか判定すべきである

6.望まない効果を避けることはできないのだから、ガイドラインは望まれる結果と望まない結果とを併記すべきである

7.効果の程度を提示するべきである

8.全ての対象に推奨される事項と、ある特定の患者群でのみ推奨される事項とを明確に区別するべきである

9.利益相反について明示すべきである

10.全ての医師が全ての患者に対して同一の治療を提供することを望んでいるわけではないことを明示すべきである

◎ 私見
 ガイドラインを丸暗記しても臨床はできない。信じる前にチェックするべきところがあるでしょうということ。一方で、「ガイドラインなんか意味が無い」とガイドラインを読むことを放り出してもだめ。

2015年7月24日金曜日

PET-CTの使い道

PET-CT for detecting the undetected in the ICU
Sakir Akin et al
Intensive Care Med 2015

 62歳の男性が化学療法中に発症した敗血症で気管挿管され、血液培養が陽性になったが感染巣が特定できなかった。PET-CTを施行したところ右心耳にFDGの集積があり、ここが感染巣であることが判明した、という内容のもの。徹底的に感染巣を探しても見つからないような場合にはPETCTも有用かもしれないと結論付けている。
 PET-CT。まあ使うことはないと思うけど、一応記憶しておくことにする。

2015年7月22日水曜日

延命治療の差し控えと死亡率

Respective impact of no escalation of treatment, withholding and withdrawal of life-sustainingtreatment on ICU patients' prognosis: a multicenter study of the Outcomerea Research Group.
Lautrette A, Garrouste-Orgeas M, Bertrand PM, Goldgran-Toledano D, Jamali S, Laurent V, Argaud L, Schwebel C, Mourvillier B, Darmon M, Ruckly S, Dumenil AS, Lemiale V, Souweine B, Timsit JF; Outcomerea Study Group.
Intensive Care Med. 2015 Jul 7. PMID: 26149302


✔ 背景
 延命治療差し控えの決断(Decisions to forgo life-sustaining treatment (DFLST))の頻度と予後に及ぼす影響を調査した
✔ 方法
 データベースを用いた前向き観察研究。DFLSTは以下のように定義された。
Stage 1:治療に最善と考えられるが必要というわけではない治療を行わない(No escalation)
Stage 2:治療に必要な治療を行わない(Withholding)
Stage 3:治療に最善と考えられる必要な治療を止める(Withdrawal
 30日死亡率との関係を重症度でマッチさせて検討した
✔ 結果
 10,080人が対象となった。1290人(13%)においてDFLSTがなされた。No escalationは26%、Withholdingは39%、Withdrawalは35%であった。ひとつ以上の慢性疾患を持つ高齢者や重症度の高い患者がDFLSTを行われる群に多くみられた。DFLSTがされなかった患者の30日死亡率は13%であったのに対し、No escalationでは35%、Withholdingでは75%、Withdrawalでは93%であった。重症度をマッチしたところ、30日死亡率のハザード比はWithholdingで5.93、Wtihdrawalで20.05と有意であったが、No escalationでは1.14と有意ではなかった。
✔ 結論
 DFLSTは13%の患者で行われていた。ただし、No escalationは死亡率を上昇させる要因では無かった。

◎ 私見
 とても興味深い論文。治療の差し控えにはNo escalation、Withholding、Withdrawalの三段階があってNo escalationだけは死亡に寄与しない。その理由として必要な可能性の低い治療を”しない”としただけかもしれないとか、医原性の合併症が減ったからではないかとか考察している。この最後の「医原性合併症の減少」というのが面白い。積極的になんでもすることが患者さんにとって良いことではないことを間接的に示しているのではないだろうか。延命治療の考え方を整理するうえでもよい論文でした。

2015年7月20日月曜日

重症患者のビタミンD欠乏

Understanding vitamin D deficiency in intensive care patients
K. Amrein et al
Intensive Care Med. 2015

✔ 背景
 ビタミンD欠乏は筋骨格系疾患の原因となることが知られている。近年、重症ICU患者の予後に関わる修飾因子であるといわれるようになった。
✔ 頻度
 血液中の25-hydroxyvitanin D(25OHD)はビタミンDの状態を知るマーカである。議論はあるが、75nmol/L以下をビタミンD低下、50nmol/L以下をビタミンD欠乏、30nmol/L以下を重度の欠乏と定義されている。50mmol/Lを閾値としたとき、ICU患者におけるビタミンD欠乏の頻度は60~100%である。
 ICU入室後に様々な原因でビタミンDは欠乏する。まず、食事(卵、アボカド、魚など)からほとんど摂取できなくなる。さらにいくつかの遺伝的・行動学的因子がビタミンDの光合成を抑制していることもある。これらの要因の影響は入院することによって増幅される。手術、輸液、ECMO、CPB、血漿交換は著明にビタミンDを低下させる。さらに、ICU患者は肝機能障害、副甲状腺機能障害、腎機能障害を合併して25OHDから活性体への変換がうまくいかなくなるリスクがある。
✔ ビタミンDの補充
 ICUの患者は必要最低限の量のビタミンDを摂取していないか低い量(200~800IU/day)しか補充されない。しかし、その量では補充に数カ月必要となってしまう。つまり、入院患者のビタミンDを正常なレベルまで戻すのはほとんど不可能である。
✔ ビタミンD欠乏は重要なのか?
 ビタミンDは消化管・腎・骨に作用してカルシウムの調節に重要な役割を持つ。さらに、重症疾患の病態生理に関わる重要臓器にその受容体が見つかっている。基礎実験や観察研究のデータによると、ビタミンD欠乏は重症疾患の重症化や予後悪化に関与するとされている。
✔ 介入試験
 現時点では検討に耐えうるRCTはひとつしかない(VITdAL-ICU)。この研究では475名の重症患者を無作為にカルシウム補充群(Cholecalciferol 540,000IU負荷投与+90,000IU/month)とプラセボ群に振り分けて検討したが、プライマリエンドポイントである在院日数には有意な差が無かったが、有意ではないもののビタミンD群では院内死亡率を7%低下させていた。ビタミンD<30nmol/Lの重度の欠乏群で検討すると死亡率低減効果は有意となった。
✔ 展望
 これまでの研究を総合すると、高用量ビタミンD補充は魅力的な介入と考えられるが、ビタミンD欠乏が直接的に予後悪化に関係しているのかはまだ明らかになっておらず、高ビタミンD血症(>200nmol/L)がもたらす副作用(高カルシウム血症・高カルシウム尿症)があり得ることを考えると、さらなる研究を要すると言わざるを得ない。
 これらの研究を行うにあたってはいくつかの問題があることを認識すべきである。まず、25OHDの閾値が定まっていないことが挙げられる。VITdAL-ICUの結果を考えれば30nmol/Lを採用すべきかもしれないが、ベースラインの25OHDが30~50の患者の身体機能も長期間かけて改善してきている事を無視してはいけない。ふたつめに、ビタミンD値の結果が数週間遅れて報告されることも考えに入れなくてはいけない。みっつめに、ビタミンD代謝物や用量設定の問題が挙げられる。最後に、適切なエンドポイントの設定が挙げられる。25OHDが著明に低下している患者では死亡率が良いのかもしれないが、そうでない患者では別のエンドポイントを設定すべきかもしれない。
✔ 結論
 重症患者でビタミンDは欠乏しており、介入することは有用である可能性があるが、さらなる研究が必要である。

◎ 私見
 まったく注目していなかったけど、さすがに無視できないので少し勉強。まだまだ発展途上の領域のようなので、今後の動向に注目。

2015年7月15日水曜日

熱傷患者の高Na血症にCVVHが有用

Treatment of acute hypernatremia in severely burned patients using continuous veno-venous hemofiltration with gradient sodium replacement fluid: a report of nine cases.
Huang C, Zhang P, Du R, Li Y, Yu Y, Zhou M, Jing R, Li L, Zheng Y, Wang H, Liu H, He L, Sun S.
Intensive Care Med. 2013 Aug;39(8):1495-6. PMID: 23653182


熱傷患者に見られる高ナトリウム血症の補正に血液浄化が有用であるというCorrespondence。

✔ 背景
 重症熱傷では人工呼吸、浸透圧利尿、二次性敗血症によって高ナトリウム血症となり、その死亡率は33.5%~66%と高い。Na摂取量の制限、Naを含まない輸液、利尿剤投与を行うがその効果は高くない。持続的血液浄化療法(CVVH)が有用かどうかを検討した。
✔ 方法
 集中治療室で高ナトリウム血症をきたした重症熱傷患者9人のコホートを対象とした。高ナトリウム血症については24時間の通常治療に反応しなかったもののみとした。
✔ 結果
 熱傷深度はⅢ度で平均したTBSAは73%であった。7人の患者はAKIを起こしており、8人の患者は人工呼吸管理下にあり、2人の患者は昇圧剤を必要としていた。Naは平均168mEq/Lで平均して入院6日目に認められ、嘔気嘔吐や痙攣、意識障害といった症状を有していた。全ての患者が平均36時間のCVVHを施行された。血流速度は200ml/minとし、置換液流量は2L/hrとした。置換液は3%NaClを添加してNa濃度を調節した。
  y(mmol/L) = 480 × (x + 0.9)/(4 + x) + 34.5
  y:置換液のNa濃度
  x:3%NaClの投与量(L)
置換液Na濃度は血漿Na濃度の8mEq/L低い濃度とし、4時間毎に2.47±0.24mEq/Lずつ減らしていった。全ての患者は有意にNa濃度が低下した。Na低下速度は0.67mEq/L/hrで合併症は起きなかった。Cre、APACHEⅡ、GCSはいずれも有意に改善した。1人は感染症により死亡したが、他8人は生存退院した。
✔ 結論
 熱傷患者に認められる高ナトリウム血症に対してCVVHは有用である。
Naの推移(文献より引用)
◎ 私見
 熱傷患者の高ナトリウム血症には悩まされるので、治療のオプションとして血液浄化も使用できること(その方法)を覚えておこうと思う。でも。やっぱり原因が治療できないとだめなんでしょうね。

2015年7月12日日曜日

高ナトリウム血症は熱傷における死亡の危険因子

Dysnatremias and survival in adult burn patients: a retrospective analysis.
Stewart IJ, Morrow BD, Tilley MA, Snow BD, Gisler C, Kramer KW, Aden JK, Renz EM, Chung KK.
Am J Nephrol. 2013;37(1):59-64. PMID: 23327805


✔ 背景
 Na異常は多くの疾患群における予後不良因子であることが知られているが、熱傷患者における意義はあまり知られていない。
✔ 方法
 2003年から2008年に入院した熱傷患者を対象として後向きに検討した。性別、年齢、%TBSA、Ⅲ度熱傷範囲、気道熱傷の有無、ISS、AKINステージ、高ナトリウム血症(>150)、低ナトリウム血症(<130)を独立因子として検討した。
✔ 結果
 1,969人が対象となった。平均年齢は36.3歳で%TBSAの中央値は9%、ISSの中央値は5であった。高ナトリウム血症は9.9%に認められ、低ナトリウム血症は6.8%に認められた。死亡率はそれぞれ33.5%と13.8%であった。ナトリウム異常のない群の死亡率は4.3%であった。年齢、%TBSA、ISS、AKINステージは有意な死亡の予測因子であった。低ナトリウム血症ではなく高ナトリウム血症のみが死亡の予測因子(HR 2.0)であった。
✔ 結論
 熱傷患者では低ナトリウム血症ではなく高ナトリウム血症が死亡の独立した危険因子である。
死亡の危険因子(文献より引用)
◎ 私見
 対象としている患者の年齢が若く、軽症も含まれているので解釈には注意が必要だが、ナトリウムの恒常性を維持できなくなると死亡率が上昇するということ。確かに重症熱傷患者では高ナトリウム血症が認められるので、注目すべき点であることに異存はない。では、これを人為的に操作・治療すると予後が改善するかというとそんなことはなく、原因(例えば敗血症など)を治療しないとだめ…なはず。

2015年7月9日木曜日

熱傷患者の急性期輸液法の観察研究

New management strategy for fluid resuscitation: quantifying volume in the first 48 hours after burn injury.
Mitchell KB, Khalil E, Brennan A, Shao H, Rabbitts A, Leahy NE, Yurt RW, Gallagher JJ.
J Burn Care Res. 2013 Jan-Feb;34(1):196-202. PMID: 23292589


✔ 背景
 重症熱傷においてParklandの式に基づいた輸液量を大きく超える輸液がなされることが多いが(Fluid creep)、腹部コンパートメント症候群に代表されるような問題が生じることがある。本研究では24時間の蘇生プロトコルを評価し、次の24時間の輸液量を規定する公式を確立し、どのような患者で大量の補液が必要になるのかを明らかにする。
✔ 方法
 TBSA 15%以上の患者を対象とした。初期輸液はParklandの式を参考に開始し、1時間毎に目標とする尿量を達成するように調節した。最初の24時間の輸液が終わると、総投与量(ml/kg/%)を予測投与量(4ml/kg/%)で割って比率を計算した(観察/予測比)。次の24時間の輸液はプロトコルを用いずに投与し、その観察/予測比は実際の投与量を((25+%TBSA)×体表面積)×24+膠質液 0.3~0.5ml/kg/%+維持輸液(4-2-1法)で割って計算した。
✔ 結果
 40人の熱傷患者が対象となった。平均年齢 47歳、平均TBSA 29.9%、最初の24時間と次の24時間の輸液量は7.4ml/kg/%で観察/予測比は1.9であった。次の24時間の輸液の観察/予測比も1.9であった。プロトコル遵守率は34%であった。気管挿管、高齢、麻薬投与量は輸液量を増大させる要因であった。
 最初の24時間の平均輸液量は15,649mlで、次の24時間の平均輸液量は9,464mlであった。観察/予測比が2を超えると死亡率が10倍であった。
✔ 結論
 最初の24時間と次の24時間の輸液量には関連がある。観察/予測比を用いて評価できる。



◎ 私見
 熱傷に限らず、輸液はまだまだ分からない。何を、どれくらい量、どれくらいの速さで、どこまで投与するのか。理屈では分かっていても、そのとおりには絶対にいかないのが臨床。熱傷輸液もParklandから先になかなか進まないし。
 

2015年7月7日火曜日

人工呼吸器関連事象の疫学研究

Ventilator-Associated Events: Prevalence, Outcome, and Relationship With Ventilator-Associated Pneumonia.
Bouadma L, Sonneville R, Garrouste-Orgeas M, Darmon M, Souweine B, Voiriot G, Kallel H, Schwebel C, Goldgran-Toledano D, Dumenil AS, Argaud L, Ruckly S, Jamali S, Planquette B, Adrie C, Lucet JC, Azoulay E, Timsit JF; OUTCOMEREA Study Group.
Crit Care Med. 2015 May 14. PMID: 25978340


✔ 背景
 人工呼吸管理患者のサーベイランスの新しいパラダイムとしてCDCはVentilator associated events (VAE)という概念を導入した。このVAEの現時点における疫学、VAPとの関係、抗菌薬消費量や人工呼吸管理機関との関係を調査した
✔ 方法
 フランスの多施設データベース(OUTCOMEREA)を使用したコホート研究。5日以上人工呼吸管理を要した患者を対象とした。Ventilator associated condition (VAC)、Infection-related ventilator -assodiated complication (IVAC)について調査した。
✔ 結果
 3028人が対象となった。77%にVAC、29%にIVACが認められた。VAC・IVACの原因は多岐にわたるが、最も多いのはVAPを含む院内感染であった。VACとIVACのVAP診断に対する感度と特異度は、それぞれ0.92/0.28、0.67/0.75であった。VAC・IVACとVAPには有意な相関があった。VAEのなかった患者では人工呼吸管理期間が短かった。VAC・IVACと抗菌薬消費量は有意な相関があった。
✔ 結論
 VAEは頻繁に認められる合併症であり、抗菌薬の消費や人工呼吸管理期間延長と関係している。質改善の計画における有用な代替指標であると考えられる

◎ 私見
 医療のセントラルドグマのひとつに「介入と効果判定」がある。質改善プログラムとサーベイランスもその代表。当施設でもVAEサーベイランスを行っているが、半分は人手に頼っているのが現状。電子カルテ上で自動的に判定してくれるようになるとよいのだけど。
 
 

2015年7月5日日曜日

輸液量と尿量の比は熱傷患者の予後予測に有用

A novel means to classify response to resuscitation in the severely burned: Derivation of the KMAC value.
Kelly JF, McLaughlin DF, Oppenheimer JH, Simmons JW 2nd, Cancio LC, Wade CE, Wolf SE.
Burns. 2013 Sep;39(6):1060-6. PMID: 23773791


✔ 背景
 重症熱傷に対する輸液量は体重と熱傷面積によって計算し、尿量をみながら調節する。生理学的反応に関わらず、伝統的に24時間の輸液蘇生が行われてきた。この輸液量と尿量の比が熱傷患者の予後を予測できるかを検討した。
✔ 方法
 2003年~2006年に熱傷センターに入室した%TBSA≧20、受傷8時間以内、24時間以上生存した重症熱傷患者を対象とした。輸液量、尿量、予後を記録した。入院24時間の時点での輸液(cc/kg/%TBSA/h)と尿量(cc/kg/h)を計算した。予測される輸液量は4cc/kg/%TBSA/24hで尿量は0.5~1.0cc/kg/hであることから、輸液量と尿量の比は0.166~0.334となるはずである。患者群をOver-responder(<0.1666)、Under-responder(>0.344)に分類し、最終的な予後や12時間の時点での比率と比較した。
✔ 結果
 102人が対象となった。29人がOver-responder、37人が期待通りの比率、36人がUnder-responderと判定され、死亡率はそれぞれ、21%、11%、44%であった。アルブミンはUnder-responderで多く投与される傾向があった。死亡を除外して検討したところ、Under-responderでは人工呼吸器フリーの日数が短く、ICUフリーの日数も短かった。12時間の時点と24時間の時点で両方ともUnder-responderと判断されたのは67%であった。
✔ 結論
 輸液量と尿量の比は熱傷患者の予後推定に有用である

◎ 私見
 Under-responder、すなわち尿量が少なく輸液が多い群では予後が悪いという結果。一方で、有意ではないもののOver responder(尿量が多く輸液が少ない)も予後が若干悪いという結果であった。ベースラインをみるとUnder群は重症なので、「具合の悪い熱傷には大量に輸液しても尿がでない」を別の形でみているにすぎないかもしれない。

2015年7月3日金曜日

熱傷に酢酸リンゲルを用いた輸液蘇生は有用かもしれない

Safety of resuscitation with Ringer's acetate solution in severe burn (VolTRAB)--an observational trial.
Gille J, Klezcewski B, Malcharek M, Raff T, Mogk M, Sablotzki A, Taha H.
Burns. 2014 Aug;40(5):871-80. PMID: 24342121


✔ 背景
 重症熱傷の蘇生には様々な輸液製剤が用いられているが、輸液製剤が大量に用いられて蓄積することによる予後への影響については研究がほとんどされていない。ショックの蘇生で大量に使用することで臨床的な違いが生まれるかもしれない。
 乳酸リンゲル液(LR)は肝代謝を要する、好気的代謝需要を増す、反跳性アルカローシス、好中球活性化(d-Lactateによるフリーラジカル放出)、アポトーシス誘導(d-Lactateによる)を起こす可能性があり、また、乳酸値を蘇生の指標として使用できなくなる可能性がある。
✔ 方法
 Before-After study。TBSA 20~70%の重症熱傷患者に40例続けて酢酸リンゲル液(AR)を使用した輸液蘇生を行い、LRを使用した40例と比較した。アウトカムとしてSOFAスコア、28日死亡率、60日死亡率、電解質の推移、腎機能、感染症発症率、累積輸液量、人工呼吸管理期間を設定した。
✔ 結果
 両群間の年齢、TBSA、ABSIに差はなかった。入院3日目から6日目までのSOFAスコアはAR群で有意に低く推移した。心血管系のスコアが低いことが要因であった。28日目までの累積輸液量に差はなかったが、AR群では膠質液と輸血の量が少ない傾向があった。AR群は血小板数が高く推移した。LR群では3日目までの乳酸値が高く経過した。28日目、60日目の死亡率に有意な差はなかった。
✔ 結論
 酢酸リンゲルは重症熱傷患者の輸液製剤として適切である。乳酸リンゲル液に比べて有用である可能性がある。
SOFAスコアの推移(文献より引用)
二次アウトカムの結果(文献より引用)
◎ 私見
 大量に輸液するので輸液製剤間の違いが顕在化するかもしれないという考え方が面白かった。6年間にわたるBefore-After研究なので結果の解釈には注意を要するが、可能性のある選択肢として頭に入れておこうと思う。

2015年7月1日水曜日

エコーによる心不全とARDSの鑑別

Critical Care Ultrasonography Differentiates ARDS, Pulmonary Edema, and Other Causes in the Early Course of Acute Hypoxemic Respiratory Failure.
Sekiguchi H, Schenck LA, Horie R, Suzuki J, Lee EH, McMenomy BP, Chen TE, Lekah A, Mankad SV, Gajic O.
Chest. 2015 May 21. PMID: 25996139


✔ 背景
 急性低酸素性呼吸不全(Acute hypoxic respiratory failure; AHRF)の病因を早期に把握することは難しい。心エコーと肺エコーを組み合わせた鑑別方法(critical care ultrasonography; CCUS)の精度を評価した。
✔ 方法
 2010年1月から9月までICUに入室したP/F<300の低酸素血症を認める患者を全例対象とした。CCUSは血液ガス分析をしてから6時間以内に施行した。AHRFの原因は心原性肺水腫(CPE)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、その他に分類した。

【CCUS】
・10分以内に検査を終える(10分を超えたら心臓CCUSを中止する)
・胸部CCUS
 片側の胸壁を5つの部位に分けて調査
 1~4:中鎖骨線第二肋間、中鎖骨線第四肋間、中腋窩線第二肋間、中腋窩線第四肋間
  Lung sliding、Lung pulse、Lung point、胸膜線の異常、Aライン、Bライン、
  Cパターン、胸水
 5:後腋窩線横隔膜
  Cパターン、胸水
・心臓CCUS
 肋骨弓下四腔像+IVC、傍胸骨長軸/短軸像、心尖部四腔像
 カラードプラ使用、拡張能を調べるため僧帽弁流入波形と中隔組織ドプラを心尖部から記録
 左室機能、右室サイズと機能、中等度から重度の弁異常、IVC、僧帽弁流入波形、
 中隔組織ドプラ(e'、E/e')
 
【AHRFの病因】
・CCUSの結果を知らされていない2人のReviewerがカルテを後向きに検討して判定
  2人の診断が食い違った場合は3人目が最終診断を行った
  Reviewerは通常のエコー、胸部X線写真、CTを参照することができる
 Reviewerは性別、年齢、P/F比、BNP、トロポニン、乳酸値、白血球数、Creなどを知らされない
・CPEとARDS療法の要素を持つ場合はCPEに分類した
・ARDSはAECC基準を用いて診断した

✔ 結果
 134名が対象となった。44%がCPEで31%がARDS、25%がその他と診断された。CPEやARDSからその他の原因によるAHRFを鑑別するにはBラインが認められた部位の比率が有用であった。ROCのAUCは0.82であった。
 CPEとARDSを鑑別するには、左胸水(>20mm)、中等度~重度の左室壁運動低下、IVC拡大(>23mm)が有用であった。その他の原因を除外したうえで基礎点3点とし、左胸水があれば4点を加算、最小IVC径が23mm以下なら2点を減点、中等度から重度の左室機能不全があれば3点を加算する。3点以下ならARDSに特異的で、6点以上なら肺水腫に特異的であった。
✔ 結論
 CCUSはAHRFの病因を鑑別するのに有用である。

◎ 私見
 時間制限つきのところが面白い。エコーはICUの主力。しっかり勉強しておかないと。