Ackland GL, Prowle JR.
Intensive Care Med. 2015 Feb;41(2):351-3. PMID: 25608923
✔ プレセプシン(可溶性CD14)は敗血症の魅力的なバイオマーカとみなされている。MassonらはALBIOSのサブグループ解析で2日目と7日目のプレセプシンの値の予後予測因子としての有用性を示しており、敗血症の診断や重症度評価としての有用性に新知見を加えた。
このサブグループ解析からは三つのことが言える。まず、ベースラインのプレセプシン値が高いと重症度や不全臓器数が大きいということである。多変量解析ではプレセプシン高値は腎機能障害や肝機能障害と強い相関があった。可溶性CD14は13kDaのペプチドで腎臓から排泄されると考えられる。よって、プレセプシン高値と腎機能障害の強い相関は腎機能障害に起因するクリアランスの悪化で部分的に説明することができる。
ふたつめはベースラインのプレセプシン値が高い場合はグラム陰性桿菌による腹部ないし尿路感染症と強い関係があるということである。つまり、敗血症の予後予測因子としての臨床的有用性はエンドトキシンの暴露がある場合に限られる可能性があるということである。生存者ではプレセプシンが継時的に減少したのに対し、抗菌薬が不適切であった場合はプレセプシンが増加していったことも興味深い。プレセプシンを指標とした抗菌薬選択戦略をとれる可能性があるからである。しかし、不適切な抗菌薬治療は多剤耐性グラム陰性桿菌でそのほとんどが起きており、耐性グラム陽性球菌においてどのような意義があるのかはまだ不明である。
みっつめはベースラインのプレセプシンが高いほどICU死亡率や90日未満の死亡率が高くなったということである。プレセプシンをリスク予想モデルに加えることでその有用性が高まったとしているが、この点については解釈に注意が必要である。Category free net reclassification indexが良くなった、ということは分類の方向性(つまりどれだけふるい分けが正確だったか)が改善したといえても、そのリスクの程度を反映するものではないからである。
バイオマーカは確立された確固たる基礎メカニズムと臨床状況をリンクさせることにその根本的意義がある。プレセプシンの生物学的意義にはまだ不確実な部分がある。細胞膜に存在するCD14はTLR2やTLR4と共役してエンドトキシン受容体として作用している。エンドトキシンは多臓器不全を引き起こす因子であると考えられている。さらにエンドトキシンは敗血症を合併しやすい傾向のあるいくつかの慢性疾患とも関係している。プレセプシンは心血管系のリスク因子でもある。しかし、CD14は単球やマクロファージだけに発現しているわけではなく、非血液系の細胞でも細胞膜に存在したり分泌されたりしている。エンドトキシンはいくつかの臓器(肺、腎、肝、血管内皮、ミクログリア、血管平滑筋など)の上皮細胞においてCD14 mRNAの転写を誘導する。可溶性CD14は活性化した単球の蛋白切断、もしくは大きな56kDaの形態での分泌によって生産される。重要なのは、可溶性CD14は遊離したリガンドが膜結合状態の受容体へ結合するのに対して競合的に作用し、サイトカイン放出を抑制してLPSがリポ蛋白になるのを促進するということである。つまり、sCD14はB細胞からの免疫グロブリン産生を促進することで免疫賦活作用を起こし、抗炎症作用をもたらす可能性があるということである。CD14はTLR4とは関係なく重症疾患において代謝調節の重要な役割を担っている。高脂肪肥満モデル動物においてCD14を欠損させると脂質が減り、骨ミネラルが維持され、心血管イベントが減って生存期間が延びる。いずれにしろ可溶性CD14と多臓器不全の直接的な関係性についてはまだわかっていないことがほとんどであると言わざるを得ない。内因性物質、薬剤、治療的介入によってCD14はダウンレギュレートされるので予後予測因子としての有用性がマスクされる可能性がある。例えば、ステロイドは単球のCD14発現を低下させるし、プロポフォールは全血のCD14を減らすがHLA-DRは減らさない。これらのことから、バイオマーカとして有用であると謳われる分子の発現の状況とその機序についてしっかりと理解することが重要であることが分かる。
プレセプシンはこれまでの数多くのバイオマーカ(いくつかはすでに見捨てられ、いくつかはまだ研究が進んでいる)を相互に結び付け、集中治療を精緻にするかもしれない。プレセプシンの機序を明らかにする前向き研究が必要なことは明白である。
◎ 私見
CD14(文献より引用) |
プレセプシン測定値をみる機会があったので少し前のEditorialを引っ張り出してみた。ちなみに自分から測ったことは一度もない。敗血症に特異的、とキーフレーズで理解してしまうとかなり危険な感じがしている。