Persistent fever in the ICU.
Rehman T, Deboisblanc BP.
Chest. 2014 Jan;145(1):158-65. PMID: 24394828
✔ 発熱の病態生理
発熱のメカニズムには二つある。
1)体温調節のセットポイントの上昇。LPSやTNFα、IL-1がPGE2産生を促し、セットポイントが上昇する。これをうけ、シバリングや代謝亢進とともに末梢血管が収縮し、体温が上昇する。
2)体温調節そのものの異常。悪性高熱や熱中症。
✔ 発熱の定義
口腔で計測した体温の正常値は36.8℃で、0.5℃程度の日内変動がある。ACCMとIDSAの合同タスクフォースによる定義では、38.3℃以上をICUにおける発熱と定義している。臨床状態を勘案して発熱の閾値を考えるべきである。
✔ 体温測定
口腔温や腋窩温は重症患者では信頼できない。肺動脈カテーテルで測定した血液温を核心温とする。直腸温、膀胱温、鼓膜温が核心温に近くなる。同一患者では、同じ部位・同じ機器・同じ測定方法で体温を測定するべきである。
✔ 疫学
定義と対象患者によるが、ICUにおける発熱の頻度は26%~70%とされる。感染性発熱と非感染性発熱はほぼ同率で認められる。若年、男性、敗血症性ショック、外傷、緊急手術、中枢神経疾患では発熱しやすい。遷延性発熱(6日以上持続)と高熱(39.3℃以上)は感染性を示唆する。術後一日目は発熱しやすい。入院時の発熱と低体温はICU在室日数延長のリスクである。遷延性発熱と高熱は死亡のリスクである。
✔ 鑑別診断
ICUでの発熱は時に感染性発熱とみなされ反射的にワークアップがなされる。培養(血液、痰、尿)を提出し、胸腹部の画像検査を行い、広域抗菌薬を投与される。より理性的にアプローチするために2008年のACCMとIDSAのガイドラインが策定された。頭の先からつま先までを詳細に評価する。
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鑑別診断(文献より引用) |
✔ 感染性発熱
ICUにおける発熱の50%を占める。ほぼ全ての患者は何らかのカテーテルが挿入されており、これらを抜去できるかどうかを毎日評価することで感染を減らすことができる。感染性の発熱が疑われたら血液培養を行う。
1.CLABSI
サーベイランスでは48時間以上中心静脈カテーテル挿入されている患者の血流感染で他の部位の感染が無いと考えられた場合をCLABSIと定義している。この定義によるとCLABSIの発生率は1.4~5.5/1,000catheter-daysである。発熱の評価をする際には刺入部位の局所感染徴候を探す。浸出液はグラム染色と培養に提出する。血行動態が安定している場合は培養結果がでるまで局所感染徴候のないカテーテルを留置したままにしておける。不安定な患者ではカテーテルはすべて抜去した方が良い。カテーテルと末梢静脈から同時に2セットの血液培養を採取する。末梢血液よりカテーテルから採取した血液の方から2時間以上早く細菌が培養されたらCLABSIと確定診断できる。定量培養でカテーテル血が5倍以上細菌が培養された場合もCLABSIを示唆する。カテーテル末端5cmを半定量培養し15CFU以上細菌が検出された場合もCLABSIと考える。真にCLABSIというためには末梢静脈からも同じ菌が検出される必要がある。
2.VAP
人工呼吸によって気道感染の確率は6~20倍になる。VAPは予防可能で即時治療により予後を改善することができる。発熱、白血球増多、膿性痰、酸素化悪化がある場合は胸部X線写真の適応である。画像所見はどのようなパターンもあり得るが、新規の浸潤影は診断的価値がある。浸潤影が無い場合はVAPの前段階と考えられているVATである。下気道検体の採取方法はいくつかあるが、2012年に報告されたメタアナリシスではどの方法でも予後には影響が無いとされている。
3.UTI
尿道カテーテルに関連したUTIは多い(9~10/1,000catheter-days)が、菌血症は1~5%と少ない。排尿障害などの典型的な症状はICUではまれである。尿培養陽性でも発熱・白血球増多が無いこともある。尿検査をルーチンにしても診断の感度は上がらないが特異度は上がる。尿培養は他に感染源が無い尿道カテーテルのある患者に限って行うことが推奨されている。10*5CFU/mL以上という診断基準は尿道カテーテルのある患者では感度が足りない。他に感染源のない発熱患者で尿検査陽性であった場合はエンピリカルに抗菌薬を投与することが推奨されている。尿培養の結果をもってDe-escaltionする。
4.CDI
定義上、固形便の出ている患者はCDIではない。発熱、白血球増多、下痢のある患者はCDIの検査を行う。発熱は30%、白血球増多は50%に認められる。重症では腹痛、イレウス、SIRSが認められる。毒素を検出する方法は感度が低い。細胞毒性を検出する方法は特異度が高いが時間がかかる。培養は時間がかかるうえに偽陽性がある。毒素のPCR法が最も迅速で正確である。重症患者では、内視鏡所見、CTでの大腸壁肥厚・大腸周囲濃度上昇・大腸拡張がCDIを示唆する。ICUにおける重症患者ではバンコマイシン±メトロニダゾール内服が推奨されている。敗血症性ショック、中毒性巨大結腸、急性腹症、高乳酸血症(>5mM)、白血球>50,000では手術を考慮する。
5.副鼻腔炎
経鼻胃管などのデバイスがリスク因子となる。経鼻挿管された患者を対象とした研究によると、48時間以降の新規発熱の16%が副鼻腔炎単独で説明できる発熱であった。リスク因子があって他の感染源が否定的な場合はCTを撮影して診断する。超音波もCTほど正確ではないが有用である。抗菌薬を開始する前に中鼻道から検体を採取して培養に提出する。
✔ 非感染性発熱
1.高体温症候群
熱中症、悪性症候群、悪性高熱、セロトニン症候群などである。コカインやメタンフェタミン、アルコールやベンゾジアゼピン離脱も高体温となり得る。サクシニルコリンや吸入麻酔薬は悪性高熱の原因となる。投与30分以内に発症するが、24時間までは発症の可能性がある。原因薬剤を中止して体外冷却と冷輸液を行い、ダントロレンを投与する。セロトニン症候群は5-HT1a、5-HT2a受容体の過剰刺激が原因で発症する。SSRIやTCIが原因薬剤となる。意識障害、自律神経過活動、神経筋異常が3徴候である。原因薬剤を中止することで速やかに症状は改善するが、重症ではベンゾジアゼピンやセロトニン拮抗薬を使用する。悪性症候群は抗ドパミン活性が原因で起きる。セロトニン症候群は原因薬剤投与数分~数時間で発症するが、悪性症候群は原因薬剤投与中であればいつでも発症の可能性がある。原因薬剤を中止し、ブロモクリプチンを投与する。
2.薬剤熱
あらゆる薬剤が薬剤熱を起こすが、抗菌薬(特にβラクタム剤)、抗けいれん薬、抗不整脈薬で多い。比較的徐脈、皮疹、抗酸球増多が稀に認められる。薬剤開始後に発熱し、薬剤中止後に解熱すれば可能性がある。薬剤熱は除外診断である。
3.術後発熱
術後72時間は発熱はよく認められ、これは非感染性である事が多い。発熱と白血球増多以外の徴候がある場合にのみワークアップを行う。
4.VTE
PIOPED研究によると、他に原因のない37.8℃以上の発熱を認めた患者の14%に肺塞栓が見つかった。あまり高熱とはならず、短期間で、抗凝固療法によって解熱するという特徴がある。30日死亡と関連があると言われている。
5.無石性胆嚢炎
重症患者では胆嚢の虚血や炎症が起きることがある。発熱、白血球増多、右上腹部痛のある患者では常に疑う。超音波の感度と特異度はどちらも80%以上である。手術のリスクが高い患者では経皮的胆嚢ドレナージが行われる。
✔ 発熱の治療
体温を下げるために二つのアプローチ(解熱薬、クーリング)がある。アセトアミノフェンは肝障害がある患者では避けるが、凝固障害や消化管出血、腎傷害がある患者では良い適応である。体外冷却は有効だが鎮静薬や筋弛緩薬を用いてシバリングを抑制する必要がある。頭部外傷を除いた外傷患者を対象とした研究で、積極的に解熱処置(アセトアミノフェン+体外冷却)を行うと死亡率や感染率が高くなるという報告がある。肺炎による敗血症性ショックを対象とした研究では一次エンドポイント(48時間で昇圧剤を半減)に差が無いものの、いくつかの二次エンドポイントが体外冷却で良好であったと報告されている。ただし、死亡率には差が無かった。中枢神経障害を除外したメタアナリシスでも解熱療法による死亡率の低減効果は無かったとされている。
✔ 結論
高熱が遷延すると死亡のリスクとなる。反射的に感染のワークアップをするのではなく、詳細な評価を行うべきである。急性脳障害と高体温症候群を除き解熱療法の意義は定まっていない。