2015年11月30日月曜日

急性心不全の初期管理①

Considerations for initial therapy in the treatment of acute heart failure
William F. Peacock et al.
Crit Care 2015 19:399


✔ 急性心不全の早期診断
 救急外来では急性心不全(AHF)をCOPDや肺炎、敗血症などと区別することが難しいことがある。身体診察所見は感度が低く、心電図や胸部X線写真も診断的価値が高いとは言い難く、呼吸苦のため病歴をとることも難しい。これらの理由から不適切な治療・投薬がなされることがある。

1)治療の遅れと予後
 AHFの診断が遅れると予後が悪化する事が分かっている。入院したAHF患者のレジストリを解析した結果、投薬が早かった群と遅れた群では予後に差があることが判明した。おおむね、治療が6時間遅れるごとに死亡率が6.8%上昇するという結果であった。
治療開始までの時間と死亡率(文献より引用)
2)早期診断のためのツール
 身体所見とバイタルサインと病歴はAHFの鑑別に有用ではあるが、検査(血算、尿検査、電解質、尿素窒素、クレアチニン、血糖、BNP、トロポニン)も行うべきである。心電図は鑑別診断を狭めることができるし、虚血や不整脈や高カリウム血症、ジゴキシンによる接合部徐脈など非代償となるにいたった原因を教えてくれることがある。以前の心電図との比較も有用であるし、全く正常な心電図のときには他の診断を考えるきっかけともなる。超音波検査は正確な診断の助けとなる。肺エコーで両側Bラインが認められるという所見は急性心原性肺水腫を感度94.1%、特異度92.4%で示唆するとされている。胸部X線写真にも価値がある。しかし、肺静脈うっ血、間質浮腫、肺胞水腫、心拡大があるとAHFの可能性は高まるが、これらの所見が無いからと言ってAHFを否定することはできない。入院したAHF患者の19%は胸部X線写真でうっ血所見が無かったという報告がある。
胸部X線写真所見の頻度(文献より引用)
3)施設における問題
 ERは敗血症性ショックや急性心筋梗塞に対する早期管理に主眼を置いて組織化されている事が多いので、AHFのような微妙な所見を呈する疾患に対しては介入が遅れがちである。また、すべての施設でバイオマーカの迅速診断キットをおいているわけではない。。AHFの標準化された管理ガイドラインがあるわけでもない。
 AHF患者は高齢で重症であることが多いため薬歴を思いだせないことがある。例えばフロセミドの投与量は個別化すべきと言われており、どれくらいの量を内服していたかという点が重要となる。また、初療医、循環器科医、薬剤師などの間で情報伝達がうまくいかないことも問題である。

◎ 私見
 Crit Care誌の心不全の初療に関するReview。最初のパートでは診断がいかに大変かということについてまとめてある。入院患者の診断名に「肺炎」と「心不全」が併記されていたりすると、さもありなんという気持ちになります。
 個人的にはやはり身体所見を重視したいところ。これを補完するために超音波を使う、という戦略で臨むことが多いです。

2015年11月26日木曜日

敗血症の微小循環障害にNOは無効

Randomized controlled trial of inhaled nitric oxide for the treatment of microcirculatory dysfunction in patients with sepsis*.
Trzeciak S, Glaspey LJ, Dellinger RP, Durflinger P, Anderson K, Dezfulian C, Roberts BW, Chansky ME, Parrillo JE, Hollenberg SM.
Crit Care Med. 2014 Dec;42(12):2482-92. PMID: 25080051


✔ 背景
 敗血症ガイドラインでは血行動態管理の適正化が述べられているが、敗血症に伴う微小循環障害については言及されていない。NOは敗血症などで産生が増加しており、低血圧の原因となる。一方で微小血管の開通性を維持するための生理的反応とも考えられる。血行動態適正化の後にNOを吸入させることで微小循環が改善し、乳酸値や臓器不全が改善するかどうかを検討した。
✔ 方法
 単施設無作為化比較試験。輸液負荷にもかかわらず収縮期血圧90mmHg未満もしくは乳酸値≧4mmol/Lの成人重症敗血症患者を対象とした。血行動態が安定した後に、40ppmのNOもしくはSham NOを6時間吸入させた。特別な機材を用い、調査者やスタッフに対して盲検化した。Sidestream darkfield videomicroscopyを用い、舌下部微小循環を吸入直前と吸入終了2時間後に解析した。プライマリアウトカムは微小循環指数の変化、セカンダリアウトカムは乳酸クリアランス、SOFAスコアの推移とした。
✔ 結果
 50例の患者が対象となった。56%で血管作動薬を要し、30%の患者が死亡した。NOは血中硝酸値を上昇させたが、微小循環指数、乳酸クリアランス、SOFAスコアを改善しなかった。なお、血行動態の悪化はNO群で19%、Sham群で13%であった。
✔ 結論
 NO吸入は微小循環障害を改善しないのみならず、乳酸クリアランスや臓器不全を改善しない。

◎ 私見
 微小循環を改善させるためのNOは無効。血行動態が安定した後に微小循環を改善しようと思うようなシチュエーションが果たして敗血症全例に生じるかどうか、ちょっと考えてみるとそうでもない気がする。敗血症性ショックの中でも四肢冷感が強い例とかScvO2が高い例だとかに限ってはこういう血管拡張薬が有用かもしれないとは思うが。重症度や病態による層別化が必要なのではないだろうか。

2015年11月24日火曜日

乳酸値を指標とした管理は予後を改善するかもしれない

Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients: a multicenter, open-label, randomized controlled trial.
Jansen TC, van Bommel J, Schoonderbeek FJ, Sleeswijk Visser SJ, van der Klooster JM, Lima AP, Willemsen SP, Bakker J; LACTATE study group.
Am J Respir Crit Care Med. 2010 Sep 15;182(6):752-61. PMID: 20463176


✔ 背景
 乳酸値を指標にした重症患者管理が予後を改善するかどうかは分かっていない。乳酸値が3mEq/Lを超えていた重症患者を対象に、これを早期に減少させることを目的とした治療的介入が予後を改善するかどうかを検討した。
✔ 方法
 患者は無作為に2群に振り分けられた。Lactate群はICU入室後8時間において乳酸値を2時間あたり20%以上減少させることを目標として治療を行った。Control群では入室時以外は乳酸値を知らされずに治療介入を行った。在院死亡をプライマリアウトカムとして検討した。
Lactate群の治療プロトコル(文献より引用)
✔ 結果
 Lactate群はControl群に比較してより多くの輸液と血管拡張薬を投与された。しかし、両群間で乳酸値に有意な差は無かった。348例においてITT解析を行ったところ、在院死亡はControl群は43.5%、Lactate群は33.9%で有意差は無かった(p=0.067)。リスク因子を補正して解析したところ、Lactate群で在院死亡率は有意に低くなった(HR 0.61 p=0.006)。Lactate群では入室9~72時間のSOFAスコアが低く、昇圧剤は早期に終了でき、人工呼吸器からの離脱とICU退室が早かった。
✔ 結論
 ICU入室時に高乳酸血症を認める患者では、乳酸値を指標とした治療的介入が予後を改善する可能性がある。
治療内容(文献より引用)
生存率(文献より引用)
◎ 私見
 ちょっと古いけど有名な論文。興味があったのは治療内容で血管拡張薬が使用されていたというところ。最近、重症敗血症患者で血管拡張薬はどうかと思うシチュエーションがあったのでこの論文をひっぱりだして読み直してみた。Lactate群で4割、Contorol群でも2割以上使ってる。当施設ではまず見かけないが…。他の施設ではどうなのでしょうか。

2015年11月22日日曜日

院内心停止の予後と乳酸値

Monitoring of serum lactate level during cardiopulmonary resuscitation in adult in-hospital cardiac arrest.
Wang CH, Huang CH, Chang WT, Tsai MS, Yu PH, Wu YW, Hung KY, Chen WJ.
Crit Care. 2015 Sep 21;19(1):344. PMID: 26387668


✔ 背景
 乳酸値は心肺停止状態における低灌流/虚血状態を反映すると考えられる。現在のガイドラインでは蘇生継続時間にははっきりとした推奨事項は無い。本研究ではCPRの最中に調べられた乳酸値が生存率と関係するか、また、CPR継続時間の指標となり得るかを調査した。
✔ 方法
 単施設後向き研究。2006年から2012年までの間に院内で発生した成人の非外傷性心肺停止例1,123例中、蘇生開始から10分以内に乳酸値を計測した340例について解析した。多変量解析により、CPR中に計測された乳酸値と生存率との関係を調査した。また、CPR継続時間と生存率との関係についても調査した。
✔ 結果
 50例(14.7%)が生存退院した。乳酸値の平均値は9.6mmol/Lであり、CPR時間の平均値は28.8分であった。乳酸値が高くなるほど生存退院率が低下する関係があった。乳酸値9mmol/L未満では生存退院率に対するオッズ比は2.0となった。CPR時間と生存退院率の関係をはひとつに決めることはできないが、ショック適応の心電図波形であったか、乳酸値<9mmol/L、肝機能障害といった因子の有無によって影響を受けることが分かった。
✔ 結論
 CPR中の乳酸値は生存率と関係している。特に9mmol/Lを閾値として用いることで、生存退院の見込みや適切なCPR時間を予想できる。
関連因子の有無ごとの蘇生時間・蘇生確率の関係
◎ 私見
 生存しない確率が高いからCPRは短くてもよい、と言うための研究ではなく、①同じCPR時間でも乳酸値や心電図波形などの因子の違いで生存退院率は10倍も変わってくる(よって、一概にCPRが長いからと言って諦めるわけにはいかない)、②乳酸値が高い場合はECPRの適応になるのでは?というところを提示している。
 新しいガイドライン(AHA G2015)になって、院外心停止と院内心停止は異なるアプローチが必要とされるようになった。蘇生中の検査による予後予測や早期ECPRなど、院内心停止ならではの新しい研究は増えそう。

2015年11月20日金曜日

長期人工呼吸管理患者の予後予測(ProVent 14)

Development and Validation of a Mortality Prediction Model for Patients Receiving 14 Days ofMechanical Ventilation.
Hough CL, Caldwell ES, Cox CE, Douglas IS, Kahn JM, White DB, Seeley EJ, Bangdiwala SI, Rubenfeld GD, Angus DC, Carson SS; ProVent Investigators and the National Heart Lung and Blood Institute’s Acute Respiratory Distress Syndrome Network.
Crit Care Med. 2015 Nov;43(11):2339-45. PMID: 26247337


✔ 背景
 長期人工呼吸患者の長期予後は悪く、死亡率は40~60%にも達する。しかも意識障害などのために治療方針の決定に参加することができず、患者家族などに委ねざるを得ないことも問題である。我々はProVentモデルを開発して21日以上人工呼吸管理を受ける患者の1年死亡率を予測できることを示した。
 しかし、多くの重要な診療方針決定が21日より前になされることも事実である。人工呼吸管理開始14日目の情報から1年死亡率の高い患者と低い患者を識別できると、診療方針毛低に役立てることができると考えられる。
✔ 方法
 米国40施設が参加する多施設後向きコホート研究。少なくとも14日間の人工呼吸管理を受けた成人を対象とした。
✔ 結果
 Developmentコホートで1年死亡率を予測する因子を多変量解析してProVent 14 scoreとし、Validationコホートで検証した。491人がDevelopmentコホートに、245人がValidationコホートに含まれた。年齢、血小板数、昇圧剤の使用、血液透析の使用、非外傷が有用であった。1年後の死亡を予測するROCカーブのAUCはDevelopmentコホートで0.80、Validationコホートで0.78であった。
✔ 結論
 14日目のProVent 14 scoreで1年後に死亡するリスクの高い患者を識別することができる。

予測因子とオッズ比(文献より引用)
スコアと生存率のカプランマイヤー曲線(文献より引用)
ProVentスコアと死亡率(文献より引用)
◎ 私見
 長期人工呼吸管理患者のDecision makingに有用と考えられる予後予測スコア。年齢の要素が大きいがこの研究コホートの平均年齢は54歳くらいで、これは日本の大部分のICUの現状を反映していない可能性が高い。ちなみに当施設の人工呼吸管理をうけた成人患者の平均値より10歳も若い。高齢者だけで調べてみるとかすると、もっと良いのかも。

2015年11月18日水曜日

人工呼吸管理中の横隔膜厚の変化

Evolution of Diaphragm Thickness During Mechanical Ventilation: Impact of Inspiratory Effort.
Goligher EC, Fan E, Herridge MS, Murray A, Vorona S, Brace D, Rittayamai N, Lanys A, Tomlinson G, Singh JM, Bolz SS, Rubenfeld GD, Kavanagh BP, Brochard LJ, Ferguson ND.
Am J Respir Crit Care Med. 2015 Jul 13. PMID: 26167730

✔ 背景
 人工呼吸管理中の横隔膜委縮・機能不全が報告されているが、その頻度や原因は知られておらず、また、横隔膜厚がどのように変化するのかについても知られていない。そこで本研究では人工呼吸管理中の横隔膜厚の変化と横隔膜機能との関係、吸気努力がどのように影響するのかについて検討した。
✔ 方法
 3つの大学病院ICUの107人の人工呼吸管理中の患者と、10人の非人工呼吸管理患者とを対象として検討した。横隔膜厚とその活動度(吸気サイクルでの厚さの変化)は毎日超音波で検査した。
 横隔膜厚は前腋窩線と中腋窩線の間で第9肋間から13MHzのトランスデューサを使用して呼気終末で計測した。横隔膜機能は人工呼吸管理7日目に計測した。CPAPモードとし、努力吸気時と吸気ホールドで計測した。
✔ 結果
 人工呼吸管理中の患者で横隔膜厚が10%以上減少したのは44%、不変であったものも44%であった。一方で10%以上増大したものが12%いた。非人工呼吸管理患者は横隔膜厚はほぼ不変であった。横隔膜収縮活動が小さいほど横隔膜の厚さは減少した。換気駆動圧を上昇させたり調節換気モードにすると横隔膜収縮は減少した。横隔膜厚が減少ないし増加していた患者では最大横隔膜厚変化率が小さかった。
✔ 結論
 人工呼吸管理中に横隔膜厚が増大したり減少したりすることはしばしば認められる。いずれにしろ横隔膜の機能異常を示唆する所見である。患者が正常な吸気努力を維持できる程度の換気補助が望ましい。
横隔膜厚の変化(文献より引用)
◎ 私見
 横隔膜が薄くなることだけが問題ではないことが面白い。厚くなるのは余計な(過剰な)吸気努力や浮腫の存在を示しているのか? 文献中では横隔膜組織の構造変化が考えられるとしているが、こんなに短期間で起きるものだろうか。

2015年11月16日月曜日

PEEPが脳灌流に与える影響

Effects of positive end-expiratory pressure on brain tissue oxygen pressure of severe traumatic brain injury patients with acute respiratory distress syndrome: A pilot study.
Nemer SN, Caldeira JB, Santos RG, Guimarães BL, Garcia JM, Prado D, Silva RT, Azeredo LM, Faria ER, Souza PC.
J Crit Care. 2015 Jul 26. PMID: 26307004


✔ 背景
 PEEPを高く設定したことで頭部外傷患者の脳組織酸素化が悪化するかどうかは分かっていない。本研究ではPEEPが酸素飽和度、頭蓋内圧、脳灌流圧に与える影響について調査した。
✔ 方法
 20人のARDSを併発している頭部外傷患者を対象とした。全例脳室にカテーテルを留置して頭蓋内圧を測定した。頭蓋内圧はCamino MPM-1、脳組織酸素分圧はLicoxを用いて測定した。
 PEEPを5、10、15と漸増しながら20分ずつ適用し、それぞれにおいて脳組織酸素分圧、酸素飽和度、頭蓋内圧、脳灌流圧を記録した。なお、肺胞虚脱を避けるため、PEEPは漸増する方法を採用している。
 研究期間中、患者はRASS -5と深く鎮静し、必要であれば筋弛緩薬を使用した。全例30度に上体を挙上し、FIO2はSpO2≧96%となるように調整した。換気はVolume controlled ventilationとし、理想体重当たり6~7mlとなるように換気量を設定した。呼吸数は15~25回/分とし、動脈血炭酸ガス分圧が35~40mmHgとなるように調整した。平均血圧が低下したらNoradrenalineを持続静注して80mmHg以上となるようにした。頭蓋内圧20mmHg以上、脳灌流圧60mmHg未満、脳酸素分圧15mmHg未満となった場合は研究を中止した。
✔ 結果
 脳組織酸素分圧と酸素飽和度はPEEPを上昇させることで有意に増加した。一方、頭蓋内圧と脳灌流圧はPEEPによって変化しなかった。
✔ 結論
 PEEPを上昇させることで脳組織酸素分圧と酸素飽和度を上昇させることができた。PEEPは重症頭部外傷患者でも安全に使用できる。
脳組織酸素分圧とPEEP(文献より引用)
◎ 私見
 胸腔内圧が上がり過ぎると静脈圧が上昇して脳灌流が悪くなるのではないかと言われていたが、そうでもないらしい。そもそも呼吸が悪くなっている場合は灌流うんぬん以前に酸素化をよくするための介入が優先されるべきということだろう。

2015年11月10日火曜日

気管挿管のタイミングと敗血症の死亡率

Impact of endotracheal intubation on septic shock outcome: A post hoc analysis of the SEPSISPAM trial.
Delbove A, Darreau C, Hamel JF, Asfar P, Lerolle N.
J Crit Care. 2015 Sep 1. PMID: 26410680


✔ 背景
 敗血症性ショックの患者の40~85%の患者が気管挿管と人工呼吸管理を要したという報告があるが、これは相当数の患者が気管挿管を要さずに改善しうることも意味している。敗血症患者の気道確保について調査した。
✔ 方法
 敗血症性ショック患者蘇生における目標平均血圧の差が予後に与える影響を調査した多施設無作為化試験であるSEPSISPAM研究のPost hoc解析。
✔ 結果
 776人中633人(82%)が研究参加の12時間以内に気管挿管されていた(早期気管挿管)。113人(15%)は最後まで気管挿管されず、30人(4%)は12時間以降に気管挿管された(気管挿管遅延)。早期気管挿管が行われた患者の割合に応じてICUを低頻度(80%未満)、中頻度(80~90%)、高頻度(90%以上)に分類した。ICUのタイプ、呼吸器感染、乳酸値>2mmol/L、P/F比低下、Glasgowスコア低値、免疫抑制の欠如が早期気管挿管の独立した予測因子であった。気管挿管しなかった患者は最初の重症度が低く、死亡率も低かった。気管挿管遅延群は早期気管挿管群に比べて28日目までの臓器サポートを要さない生存日数が短かかった。早期気管挿管が高頻度で行われるICUは中頻度のICUに比べて死亡率が高かった。低頻度のICUにおいて死亡率が有意に増えるということは無かった。
✔ 結論
 敗血症性ショックに対して気管挿管をいつどこで行うのかという点が予後に影響しうる。

気管挿管のタイミングと予後(文献より引用)
早期気管挿管実施率の違いと予後(文献より引用)
◎ 私見
 気管挿管は早い方が良いが(生存日数が長くなる)、気管挿管をしすぎる(オーバインディケーション)施設では死亡率が高くなる。やりすぎはよくないということか。適切な治療を適切なタイミングで、特に重症患者管理では早い方が良いわけだが、何も考えずに(適応を熟慮せずに)ルーチンに治療介入をしていると治療合併症によって死亡率が増加することを示唆するのではないか。あるクスリがよいと報告されたからと言って、それに飛びついてどんな患者にでも投与していたら副作用が問題になった、みたいな。
 こういう施設の雰囲気というか姿勢というか振る舞いというか、その差によって治療の有効性が変わり得るということに最近注目していて。面白い論文でした。

2015年11月8日日曜日

AKIにおける輸液バランスと死亡率

Fluid balance and mortality in critically ill patients with acute kidney injury: a multicenter prospective epidemiological study.
Wang N, Jiang L, Zhu B, Wen Y, Xi XM; Beijing Acute Kidney Injury Trial (BAKIT) Workgroup.

Crit Care. 2015 Oct 23;19(1):371. PMID: 26494153

✔ 背景
 循環動態不安定な重症患者に対し、早期に積極的に輸液することが必要である。しかし、輸液の重要な合併症である輸液過負荷(Fluid overload; FO)により急性腎傷害AKIが発症して死亡率が上昇する可能性がある。そこで、AKI患者の死亡率と輸液バランスの関係を調査した。
✔ 方法
 Beijing Acute Kideny Injury Trial(BAKIT)は前向き多施設観察研究である。本研究ではこのBAKITのデータから2526人のデータを抽出して解析した。AKIの重症度はKDIGOの基準を用いて判断し、ICU入室後3日間の輸液バランスを解析した。体重が10%増加した時にFOと判定した。
✔ 結果
 2526人中1172人が3日間のうちにAKIを発症した。AKI発症群の死亡率は25.7%、発症しなかった群の死亡率は10.1%と有意な差があった。AKI群では1日あたりの輸液バランスと累積輸液バランス、いずれにおいても有意に多かった。輸液過負荷(FO)はAKI発症の独立したリスク因子であった(OR 4.5)。AKI発症群のうち、死亡者は生存者に比べて累積輸液バランスが有意に多かった(2.77L vs 0.93L)。多変量解析の結果、3日間の輸液バランスは28日死亡率の独立した危険因子であった。
✔ 結論
 AKI発症群では輸液バランスが多かった。FOはAKIの独立した危険因子であった。AKI発症群において3日間の累積輸液バランスが多いことは28日死亡率の独立した危険因子であった。
AKI発症者の3日目の体重増加と死亡率(文献より引用)
◎ 私見
 輸液が多いからAKIになって死亡するのか、尿がでて輸液バランスが改善するような患者ではAKIが起きず死亡しにくいのか、はたまた人為的にバランスを負に持っていくと予後が改善するのか、このあたりのことはまだ分からない...

2015年11月4日水曜日

HFNCは呼吸不全患者の予後を改善する(FLORALI)

High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure.
Frat JP, Thille AW, Mercat A, Girault C, Ragot S, Perbet S, Prat G, Boulain T, Morawiec E, Cottereau A, Devaquet J, Nseir S, Razazi K, Mira JP, Argaud L, Chakarian JC, Ricard JD, Wittebole X, Chevalier S, Herbland A, Fartoukh M, Constantin JM, Tonnelier JM, Pierrot M, Mathonnet A, Béduneau G, Delétage-Métreau C, Richard JC, Brochard L, Robert R; FLORALI Study Group; REVA Network.
N Engl J Med. 2015 Jun 4;372(23):2185-96. PMID: 25981908


✔ 背景
 急性呼吸不全に対して非侵襲的換気を行うべきかどうかという点については議論がある。High-flow nasal cannula (HFNC)が低酸素血症に対して有用かどうかを検討した
✔ 方法
 多施設オープンラベル無作為化研究。高炭酸ガス血症のない低酸素血症性呼吸不全(P/F<300)の患者をHFNC群、酸素投与群、NPPV群に無作為に割り付けた。プライマリアウトカムは28日までの気管挿管、セカンダリアウトカムはICU死亡、90日死亡、28日までのVentilator-free days (VFD)とした。
✔ 結果
 310人が解析対象となった。28日までの気管挿管率はHFNC群が38%、酸素投与群が47%、NPPV群が50%であった。VFDはHFNC群で有意に長かった。90日死亡のハザード比は酸素投与群がHFNC群に対して2.01、NPPV群がHFNC群に対して2.50といずれも有意であった。
✔ 結論
 気管挿管率には差が無かったが、90日死亡率を有意に低下させるためHFNCは酸素投与やNPPVに比較して有用である。
生存のK-M曲線
◎ 私見
 HFNCってこんなに有効かな?というのが正直な感想。案の定、多くのLetterが後に掲載されている。以下に列挙してみる。~無作為化の過程で大量のExclusionが生じている。HFNC群で敗血症性ショックが有意に少ない。あくまでセカンダリアウトカムであり標本数から考えて解釈には注意を要する。NPPVのVolutraumaが問題。NPPVの使用時間が短すぎる~などなど。いくつか追試がされるだろうし、その結果を見てみないと何とも言えないかな。

2015年11月1日日曜日

鎮痛に関する10の誤解

Ten Myths and Misconceptions Regarding Pain Management in the ICU.
Sigakis MJ, Bittner EA.
Crit Care Med. 2015 Nov;43(11):2468-78. PMID: 26308433


✔ ICUにおける疼痛管理でしばしば見受けられる通説や誤解を列挙し、解説する

1.重症患者の大部分は適切な疼痛管理を受けている
 ICU退室後の患者の約半数が中等度から重度の疼痛を感じていたと報告している。疼痛を感じる頻度はMedical ICUもSurgical ICUも差が無いと言われている。医療従事者は①疼痛の存在を評価していない、②鎮痛薬の種類と投与量を知らない、③疼痛管理の優先順位が低い、④オピオイド中毒を過剰に恐れる、といった問題を抱えている。

2.疼痛は予後に関係ない
 疼痛が適切に治療されないと、生理学的/精神的機能を阻害し、短期ならびに長期予後を悪化させることが知られている。例えば、疼痛は咳運動を抑制し深呼吸もできないため呼吸器合併症を増やす。不安やうつ、睡眠障害、悪夢といった問題が精神学的障害をもたらす。疼痛の記憶はPTSDのリスク因子であると言われている。
 疼痛管理が予後を改善することも示されている。疼痛を減らすことでコルチゾルが減少し、高血糖が生じなくなり、リンパ系免疫機能が改善すると言われている。

3.痛みは主観的だから正確に評価できない
 患者の訴えがゴールドスタンダードである。患者の元々の認知機能に関わらず、訴えをきく努力が必要である。訴えられない患者ではBPSやCPOTといった有用であることが証明されたスコアを使用する。

4.疼痛管理は看護師の仕事である
 最も効果的な疼痛管理の方法はチームアプローチである。疼痛の評価と管理についてスタッフを教育することは、質改善プログラムの重要な要素である。

5.オピオイドさえあれば十分
 オピオイドは面経抑制の危険が指摘されている。また、オピオイド誘発性疼痛過敏(OIH)の原因にもなり得る。オピオイドが主役であることは間違いないが、NSAIDS、アセトアミノフェン、NMDA拮抗薬、α2作動薬、三環系抗うつ薬、神経ブロックなどを組み合わせてアプローチすることが重要である。

6.オピオイドの使用量には上限がある
 オピオイド依存や慢性疼痛患者などでは大量のオピオイドが必要となることがある。オピオイドの使用量には上限は無く、天井効果もない。交叉耐性は完全には生じないとされているので、オピオイドローテーションが有用かもしれない。NMDA受容体を介する作用がオピオイド耐性に寄与するとされるので、NMDA拮抗薬を添加するのもよい。Methadoneはμ受容体作動薬であると同時にNMDA受容体拮抗作用も持つ。KetamineもNMDA受容体拮抗薬として疼痛管理に使用される。

7.鎮静は鎮痛と同じこと
 MidazolamやPropofolを用いた鎮静が第一であると考えられてきた。しかし、疼痛をそのままにしておくと鎮静薬の使用量が増えてしまう。現在は鎮痛を優先する考え方に変わってきている(Analgesia-first、Analgosedation)。Remifentanilは強力な鎮痛作用とともに速やかに代謝されるという疼痛管理に有用な性質を持つオピオイドであるが、OIHや耐性の問題が報告されている。

8.処置に伴う痛みは処置後に対処すればよい
 処置前に疼痛を見積もられているのは35%に過ぎず、処置前に鎮痛薬を投与されたのは25%未満であったと報告されている。ICUの処置で疼痛が強いのは胸腔ドレーン抜去、創部ドレーン抜去、動脈圧ライン挿入であったと報告されている。オピオイドが前投与として用いられるが、投与量とタイミングを誤ると疼痛は強くなりがちであるとも言われている。

9.高齢者は痛みを感じづらい
 心筋虚血による痛みや潰瘍による痛みなど、高齢者で疼痛が小さいという報告はあるが、ICUにおける疼痛が若年者より小さいという証拠はない。確かに疼痛の閾値は若年者より高いかもしれないが、疼痛に対する耐性が低いという点を考慮にいれなければならない。

10.慢性疼痛を発症することは無い
 ICU退室後の慢性疼痛が増えており、QOLを低下させる事が問題となっている。急性疼痛が慢性疼痛を起こすのかどうかははっきりと分かっていない。

◎ 私見
 ほんの数年前まで、我々の施設でもこれらの誤解がみられていた。いろいろと工夫していまはほとんどみられなくなっている。
 さて、それで予後が改善したかというと、目覚ましくよくなったというわけではない。よくなったのはICUの雰囲気と他部門とのコミュニケーションであった。このあたりのことを以前学会で報告したのだけど、計測できないアウトカムが良くなったというだけでは注目されないのですよね…