2015年6月29日月曜日

気管挿管直後の循環虚脱

Incidence of and risk factors for severe cardiovascular collapse after endotracheal intubation in the ICU: a multicenter observational study
S. Pervet et al
Crit Care 2015;19:257 

✔ 背景
 ICUにおける緊急気管挿管後に見られる重篤な心血管虚脱(Cardio vascular collapse; CVC)は致命的な合併症のひとつである。様々な因子が緊急気管挿管によるCVCに関わっていると考えられるが、それを検討した研究はない。
✔ 方法
 多施設前向き観察研究。42のICUで連続する1400の気管挿管を検討した。血行動態が安定した患者(心血管作動薬を使用せずMAP>65mmHg)に重篤なCVCが認められるかを評価した。重篤なCVCは輸液負荷(500~1000ml)にもかかわらず最低収縮期血圧≦65mmHg、持続する収縮期低血圧≦90mmHgと定義した。
✔ 結果
 重篤なCVCは29.8%に認められた。年齢によらないSAPSⅡ(OR 1.02)、年齢60~75歳(OR 1.96)、年齢75歳以上(OR 2.81)、挿管の原因が急性呼吸不全(OR 1.51)、ICUにおける初回挿管(OR 1.61)、前酸素化にNIVを使用(OR 1.54)、気管挿管直後にFiO2 70%以上(OR 1.91)が独立した危険因子であった。昏睡患者はCVCを起こしにくい因子であった(OR 0.48)。
✔ 結論
 CVCは急性呼吸不全のために気管挿管を要する重篤な患者で、特に高齢者によくみられる現象である。CVCを予防するようなバンドルアプローチが気管挿管に伴う合併症や死亡を減らすかもしれない。

◎ 私見
 フランスのFRIDAREA研究の二次解析。年齢やSAPSⅡは予想通りと言ったところ。前酸素化のためのNIVが独立した危険因子というのがちょっと面白い。他には、気管挿管に使用する薬剤が興味深い。麻薬をほとんど使用していない。個人的には麻薬を併用して鎮静薬の量を減らし、場合によってはノルアドレナリンの持続投与ができるようにスタンバイして気管挿管するのだけど。こういった薬剤に使い方によっても差がでないのかとか、CVCがその後の経過を悪化させる因子なのかが知りたいところ。

2015年6月27日土曜日

敗血症治療バンドルと死亡率(IMPRESS study)

The Surviving Sepsis Campaign bundles and outcome: results from the International Multicentre Prevalence Study on Sepsis (the IMPreSS study)
A. Rhodes et al.
Intensive Care Med 2015

✔ 背景
 敗血症に対する治療には未だに施設間の違いがある。本研究ではSSCG2012に示されている敗血症管理バンドル(3時間以内に達成すべき事項、6時間以内に達成すべき事項)のコンプライアンスについて、地域間の違いと予後への影響を調査した。
✔ 方法
 重症敗血症ならびに敗血症性ショックに対する治療的介入について全世界・多施設を対象に1日観察研究を行った。
✔ 結果
 62カ国から1794名の患者が登録された。3時間バンドル全てを達成された患者は19%であり、院内死亡率低下に寄与していた(20% vs 31%)。6時間バンドル全てを達成された患者は36%であり、院内死亡率低下に寄与していた(22% vs 32%)。敗血症の重症度、感染巣、APACHEⅡスコア、国を調整しても、バンドル達成は独立した予後規定因子であった。
✔ 結論
 エビデンスに基づいたバンドルの達成率は高くなかった。3時間バンドルを達成すると40%、6時間バンドルを達成すると36%の死亡率低減効果がある。
院内死亡率とオッズ比(文献より引用)
◎ 私見
 当施設も参加したIMPRESS。日本からは17施設が参加し、33名が登録されたらしい。抗菌薬投与前の血液培養をとったのが50%だけとか、細かくみていくと考えさせられることも多い。地域差も大きくて、北米をレファレンスとすると、アジアの病院における死亡のオッズは1.22倍だが有意差無し。中央・南アメリカは1.69倍、東ヨーロッパは2.47倍とそれぞれ有意差あり。
 バンドルを盲目的に守ること、というよりはその背景にある考え方とか治療のベクトルだとかが予後を改善しているのではないかと思ったりしているので、バンドル達成率をいたずらに上昇させることが良いことかどうかは一考の余地ありと思う。

2015年6月25日木曜日

輸液蘇生はどこへいく?

Fluid resuscitation in ICU patients: quo vadis?
A. Perner et al.
Intensive Care Med. 2015

✔ 低血圧は輸液の適応か
 輸液をすると必ず血圧が上昇するわけではない。輸液によって血圧が上昇するにしても、そもそも組織灌流が障害されていないのであれば意味が無い。心拍出量が増えたとしても血圧が上昇しないことはよくある。輸液そのものが組織低灌流の指標を改善するというデータはほとんどない。
 輸液を十分にしないと組織低灌流が改善しないという恐怖感が蔓延している。少なくとも敗血症ガイドラインにおいては非常に低いエビデンスしか存在しないにもかかわらず輸液負荷を推奨している。一回拍出量を最大にして組織灌流を適切化しようという概念は明らかにコンテキストに依存しており、さらなる臨床研究が必要であると考えられる。

✔ 輸液蘇生と高度な血行動態評価法
 専門科が推奨しているにもかかわらず、例えば心エコーのような高度な血行動態評価ツールは、ほとんど使用されていないのが現状である。質の高いエビデンスが無いからであろう。高度なツールによって治療をガイドすることによって予後が改善すると信じることは要求しすぎなのかもしれない。高度なツールは通常の状況においても平均的な医師が使用するには複雑すぎるのかもしれない。

✔ 輸液負荷とはなにか
 輸液負荷、輸液蘇生、維持輸液、いずれもを定義でき得ていない。例えばPasive leg raisingは輸液試験に対する反応性を予測する試験として報告されたが、一方では可逆的な真の輸液試験と考えられ、輸液負荷に対する反応性を予測するものであるとも考えられるようになっている。

✔ どうすべきか
 我々はこの複雑な領域んついてほとんど何も分かっていないことを自覚するべきである。基礎に立ち返り、観察研究や介入研究を行うべきである。いくつかの研究のデータベースをビッグデータとして使用するアプローチもあるだろう。もっとデータが集まるまではガイドラインでの推奨には慎重になるべきと考える。


重要なリサーチ・クエスチョン(文献より引用)

◎ 私見
 最近Editorialを読むのが楽しい。個人の思いが文章にあらわれるから。なんとなく先輩からためになる話を聞いているのに近い。同感だなと思うこともあれば、それは言い過ぎなんじゃないのと思うこともある。 このEditorialは2013年にESICMが主導して行った輸液に関する観察研究(FENICE、本文はまだ読めない)の結果を受けての文章。最近自分が思っている事に近い内容だったので面白かった。研修医に輸液の話をするときにどうしても切れ味が悪くなるのはあたりまえだったのだと納得。さて、「輸液」はどこにいく(quo vadis?)のでしょう?

2015年6月23日火曜日

穿孔性腹膜炎の予後予測

POSSUM: A Scoring System for Perforative Peritonitis.
Chatterjee AS, Renganathan DN.
J Clin Diagn Res. 2015 Apr;9(4):PC05-9.PMID: 26046021


✔ 背景
 穿孔性腹膜炎の術後合併症や術後死亡は多いため、予後予測のためのスコアが必要である。POSSUM (Physiological and Operative Severity Score for the enumeration of Morality and Morbidity)は12の生理学的因子と6つの手術因子からなるスコアである。これに穿孔から手術までの時間や併存疾患の情報を含んでスコアの精度を検討した。
✔ 方法
 単施設前向き研究。50人の穿孔性腹膜炎患者を対象とした。
✔ 結果
 50人中9人(18%)が死亡した。最も多い死因は敗血症であった。POSSUMスコアは死亡や術後合併症発生率を高い精度で予測した。陽性的中率はそれぞれ100%と94%、陰性的中率はそれぞれ78%と82%、ROC-AUCは0.943、0.93であった。
 穿孔から手術までの時間が延びると死亡率が上昇し、48時間以上では前例死亡していた。また、併存疾患(糖尿病、高血圧、喘息、腎不全、低蛋白血症)が多いと死亡率が増加していた。
✔ 結論
 穿孔性腹膜炎患者に対して、POSSUMスコアは有用である。さらに穿孔から手術までの時間や併存疾患の情報を加味することで精度が上がると考えられる。

◎ 私見
 消化管穿孔による腹膜炎の予後予測について。POSSUMスコアは20年以上前に開発された予後予測指標であり目新しいものではないのだが、手術までの時間が重要であることが併せて示されていて興味深かった。

2015年6月21日日曜日

バソプレシン

What's new in vasopressin?
O'Callaghan DJ, Gordon AC.
Intensive Care Med. 2015 May 7.PMID: 25947955


✔ 敗血症性ショックとVasopressin
 敗血症性ショックはストレスホルモンの一種であるVasopressinの相対的欠乏を伴う。Vasopressinによって血管平滑筋が収縮することで血圧が上昇する。近年のふたつのメタアナリシスによると、VasopressinはNoradrenalineに比較して短期予後を改善する傾向が認められ、SSCG2012でもNoradrenalineの補助として追加投与することが推奨されている。
 VASST(Vasopressin in Septic Shock Trial)ではNoradrenalineと比較して28日死亡率を変えなかったが、軽症群(Noradrenaline<15µg/min)では予後を改善した。同様にLactateが低い群では予後が改善するとの報告もある。Vasopressinを投与すると心拍数が減少する傾向があるが、近年の敗血症性ショックに対するβ遮断薬使用報告と通じるものがあり、興味深い。

✔ 腎機能やステロイドとの相互作用
 VasopressinはNoradrenalineに比べて腎灌流を改善する可能性がある。RIFLE分類でRiskにあたる患者にVasopressinを使用するとFailureやLossに進行する率が低下する傾向があったと報告されている。また、Vasopressinをステロイドと併用すると予後が改善するとも報告されている。これらの報告をすべて鑑みると、Vasopressinは敗血症性ショックの早期でそれほど重症化していない段階で、場合によってはステロイドと併用して投与すると利益が最大になるようである。VANISH(Basopressin versus Noradrenaline as Initial Therapy in Septic Shock)などの臨床研究の結果が待たれるところである。

✔ 免疫修飾作用
 ステロイドとの併用で有効であるなど、免疫修飾作用が推測されている。VASSTにおいてVasopressin投与群ではサイトカインが低い傾向であった。

✔ 副作用
 すべての昇圧薬は血管収縮作用に伴う副作用を起こしうる。血管拡張性ショックにおいて、Vasopressinが副作用を増加させるという証拠はない。

✔ Selepressin(選択的V1aアゴニスト)
 Vasopressinは全ての受容体サブタイプに結合する。血管収縮を含む有用な効果はV1a受容体を介して行われる。一方、V2受容体を介した作用は血管拡張や凝固亢進作用などあまり好ましくない。そこで、V1a受容体選択的なアゴニストであるSelepressinが注目されている。

✔ 敗血症以外のVasopressin
 心肺蘇生において、AdrenalineとVasopressinの同時投与が予後を改善したとの多施設研究がある。また、心臓手術後のVasoplegic shockに対しても有効である可能性がある(Vasopressin versus Noradrenaline for the Management of Shock After Cardiac Surgery; VaNCS)。さらに、動物実験ではあるが、出血性ショックに対しても有効である可能性がある。外傷患者に対する効果を検証したVITRIS(Vasopressin in Traunmatic Haemorrhagic Shock)がこの領域における回答を示すかもしれない。
Vasopressin受容体サブタイプ(文献より引用)
◎ 私見
 個人的にはかなり使いやすい薬剤であると思う。まあ、そんなに頻繁に使うわけではないが。Vasopressinひとつとっても、どう使うべきかがまだ定まっていない。VITRISの結果も含めて、要注意。

2015年6月18日木曜日

敗血症に対する輸液の効果は動脈系で緩衝される

Effects of fluid administration on arterial load in septic shock patients
Mannuel Ignaci Monge Carcia et al.

Intensive Care Med. 2015

✔ 背景
 敗血症性ショック患者に対する輸液が動脈系にどのような負荷をかけているのかを調査した
✔ 方法
 敗血症性ショックの状態で食道ドプラと間欠的動脈圧ラインを使用している患者を対象とした。平均血圧65mmHg未満、収縮期血圧90mmHg未満、昇圧剤の投与、乏尿、頻脈、乳酸アシドーシス、毛細血管再充満時間遅延などの所見を根拠に輸液負荷を行った。輸液製剤は生食かHES(130/0.4)を使用し、500mlを約30分でボーラス投与した。動脈負荷はウインドケッセルのモデルを用いて評価した。
✔ 結果
 81名の患者が対象となった。54名(67%)が輸液負荷によって10%以上心拍出量が増加した。一方、平均血圧が10%以上増加したのは29名(36%)にすぎなかった。心拍出量が増加した群(Preload responders)のうち、平均血圧が増加したのは24名(44%)であった。輸液負荷によって有意に有効動脈エラスタンス(Ea)と全身血管抵抗(SVR)が減少した。
✔ 結論
 輸液投与は有意に動脈負荷を減らす。心拍出量が増加したものでも同様の変化が起きる。つまり、敗血症性ショック患者で輸液を負荷して心拍出量が増えても血圧が改善しないことがあることを示している。

◎ 私見
 平均血圧65mmHg以上を目標に輸液負荷すると過剰輸液になる可能性があるということだろう。個人的には平均血圧65mmHgに固執して輸液することはない。心拍出量が増えるかどうかが重要だと思う…が。はたして心拍出量が増えさえすればよいのだろうか? 灌流圧なのか、灌流量なのか。そもそも圧や量は真の目標(組織の酸素需給バランスの改善)を達成しているかどうかを評価する指標なのか。輸液はまだまだよくわからない。

2015年6月16日火曜日

腹部コンパートメント症候群の危険因子

Risk factors for intra-abdominal hypertension and abdominal compartment syndrome among adult intensive care unit patients: a systematic review and meta-analysis
Holodinsky et al. Critical Care 2013, 17:R249


✔ 背景
 腹腔内高血圧(IAH)や腹部コンパートメント症候群(ACS)は重症患者の合併症や死亡と関連しているがその予防や治療が予後を改善するかどうかは分かっていない。今後、IAH/ACSの治療効果を判定する臨床研究を行うにあたり、リスクによって患者を層別化できるように、IAH/ACS発症の危険因子をメタアナリシスで検討した
✔ 方法
 1950年から2013年まで、MEDLINE、EMBASE、PubMed、Cochrane Databaseに発表されたIAHやACSの危険因子に関する観察研究を対象とし、ランダム効果モデルとNarrative synthesisの手法を用いて解析した。
✔ 結果
 1,224の研究から14研究・2,500名の患者が抽出された。これまでに知られているIAHに関する38の危険因子とACSに関する24の危険因子を3つのテーマと8つのサブテーマに分類した。大量の晶質液輸液、呼吸状態、ショックは多くの患者に共通して認められる因子であった。Mixed ICUにおけるIAHの危険因子としては肥満(OR 5.1)、敗血症(OR 2.38)、腹部手術(OR 1.93)、イレウス(OR 2.05)、大量輸液(OR 2.17)が挙げられた。外傷患者や術後患者においては、大量輸液やショック、代謝障害や臓器不全が危険因子であった。急性膵炎では重症度、クレアチニンがACSの危険因子であった。
✔ 結論
 いくつかの危険因子は全患者群で共通して認められるものであったが、特定の患者群に特異的な危険因子も存在した。今回の研究で明らかとなった危険因子はあくまで候補であると考え、今後の多施設前向き観察研究で確認すべきである。

◎ 私見
 特に目新しい危険因子があるわけではないが、こうやってメタアナリシスで示されるとそれなりの説得力があると思った。危険な患者群を認識するだけでは意味が無くて、その後になにをするのかが大事。

2015年6月14日日曜日

抗菌薬投与は早い方がよい

Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock.
Kumar A, Roberts D, Wood KE, Light B, Parrillo JE, Sharma S, Suppes R, Feinstein D, Zanotti S, Taiberg L, Gurka D, Kumar A, Cheang M.
Crit Care Med. 2006 Jun;34(6):1589-96. PMID: 16625125


✔ 背景
 低血圧出現/再発から有効な抗菌薬投与までの時間と予後との関係を明らかにする事を目的として研究を計画した
✔ 方法
 カナダ・アメリカの14のICU。敗血症性ショックの患者2,731名について後向きに調査。
✔ 結果
 敗血症の感染巣は肺(37.2%)、腹腔内(29.3%)、泌尿器(10.7%)が多かった。78.9%の患者(2,154名)は低血圧発生ないし再発の後に有効な抗菌薬を投与されており、低血圧から抗菌薬投与までの時間と死亡率には強い相関関係があった(OR 1.119(1.103-1.136, p<0.0001)。分離された、もしくは疑いのある菌種に有効な抗菌薬を低血圧から1時間以内に投与した場合の生存退院率は79.9%であった。APACHEⅡスコアや治療内容で調整して多変量解析を行ったところ、有効な抗菌薬投与までの時間は独立した予後規定因子であり、その中央値は6時間であった。
✔ 結論
 有効な抗菌薬を低血圧発生から1時間以内に投与すると生存率が高くなる。敗血症性ショックの患者において、6時間以内に有効な抗菌薬を投与されたのは50%程度であり、改善の余地がある。
抗菌薬投与までの時間と生存率(文献より引用)
抗菌薬投与までの時間と死亡のオッズ比(文献より引用)
◎ 私見
 敗血症発症からではなく、低血圧発生からの時間であることに注意。有効な抗菌薬を推定することも重要だし、しっかりとした量を投与しなくてはならないことも重要。初回投与量はその時点の腎機能とは関係が無いことは、改めて強調することでもないかな。

2015年6月11日木曜日

高リスク緊急手術患者の死亡率には施設間格差がある

Mortality in high-risk emergency general surgical admissions.
Symons NR, Moorthy K, Almoudaris AM, Bottle A, Aylin P, Vincent CA, Faiz OD.
Br J Surg. 2013 Sep;100(10):1318-25. PMID: 23864490


✔ 背景
 緊急手術の多様性とその予後は明らかになっていない。施設による違いとその因子を解析した。
✔ 方法
 Hospital Episode Statistics(HES)データベースを用い、高リスク緊急手術(30日死亡率5%以上)となる診断名を同定した。2000年~2009年の10年間にNational Health Service(NHS; England)を受診した患者を対象とした。患者背景と病院の特性を調整した30日死亡率をアウトカムとした。
✔ 結果
 145の病院に入院した367,796名の患者が対象となった。30日死亡率は15.6%(施設間較差9.2~18.2%)であった。高死亡率のはずれ値をとる施設が14施設、低死亡率のはずれ値をとる施設が24施設あった。集中治療室やCTの使用は死亡率低減と関係する因子であった。低死亡率施設ではICU病床の比率が高く(20.8 vs 14.0 /1000)、CTや超音波診断装置を頻繁に利用していた。
✔ 結論
 多様な緊急手術患者が入院していた。施設間格差をなくすうえで医療資源の整備も重要かもしれない。
疾患分類(文献より引用)
死亡率に関与する因子(文献より引用)

◎ 私見
 重症患者をみれるベッドがあって、CTや超音波をしっかり使える施設の方が高リスク患者の予後がよい。当たり前の結果と言えなくもない。当然ながら、ベッドがあって検査機器がそろっていてもそれを使う側の質が悪ければ予後もよくならないだろう。

2015年6月8日月曜日

閉鎖吸引カテーテルで気道抵抗が上昇する

Effect of incomplete withdrawal of a closed-suction catheter on airway resistance
Sheng-Yuan Ruan et al
Intensive Care Med 2015

ICMに掲載されたLetter

✔ 背景
 人工呼吸管理患者の気管チューブ内吸引において、閉鎖吸引システム(CSS)は開放吸引に比べて容易で短時間に済ませることができ、大気圧に開放しないので生理学的変動をきたしづらいことが知られている。ガイドラインでもCSSが気管チューブ内吸引で推奨されている
✔ 気道抵抗との関係
 CSSのシースがねじれてしまい、吸引カテーテルが完全に引き抜かれていない状況下では気道抵抗が増加する。特に、内径6mmのような細い気管チューブで気道抵抗上昇が大きい。CSSを使用する際には、カテーテルの位置や換気障害の発生に注意すべきである。
カテーテル挿入長と気道抵抗(文献より引用)
◎ 私見
 CSSはよく用いられているが不適切な使用も散見される。こういったことをしっかり管理できているかどうかが「ICUの質」なんじゃないかな。難しい事や新しい事をいたずらにやるのよりも。

2015年6月5日金曜日

Passive leg raisingの正しいやり方

Passive leg raising: five rules, not a drop of fluid!
Xavier Monnet and Jean-Louis Teboul

Crit Care 2015

✔ Passive leg raising (PLR) は輸液負荷によって心拍出量が増えるかどうかを計測するものである。下肢を挙上して約300mlの血液を右心系に負荷することができる。実際に輸液をするわけではないので過負荷を避けることができる。呼吸サイクルによる心拍出量の変動を参考にしているわけではないので、自発呼吸や不整脈があるときや低一回換気量に設定している時や肺コンプライアンス低下時でも行うことができる方法である。
正しくPLRを行うために、下記の5つの点に注意すべきである。

1.PLR開始時の体位
 仰臥位ではなく、半座位から始めるべきである。PLRによる前負荷上昇効果をより鋭敏に検出できる。これを行わないとPLRの信頼性が低下する。

2.効果判定
 血圧ではなく心拍出量を直接測定すべきである。血圧測定ではPLRの信頼度が低下する。

3.心拍出量測定
 リアルタイムで心拍出量の変化を計測するべきである。動脈圧波形解析、心エコー、食道ドプラなどが挙げられる。分時換気量が変化しない条件下では呼気終末炭酸ガス分圧も心拍出量の変化を反映する。

4.測定時間
 心拍出量測定はPLR施行前とPLR施行中だけでなく、PLR施行後も計測すべきである。半座位で心拍出量が減少することを確認する。

5.影響因子
 疼痛、咳、不快感、覚醒など心拍出量に影響しそうな因子を極力減らす努力をすべきである。

PLR施行手順(文献より引用)
◎ 私見
 評価は毎回正しい手順で同じように行わないと、どの程度まで信頼できるのかが分からなくなってしまう。PLR、もっと流行ってもよい気がするのだけど、当方のICUではあまり見かけない。なお、PLRの最中は弾性ストッキングを脱がせるべき、という意見がある(Crit Care 2015)。こうなると面倒で流行らないかも。

2015年6月3日水曜日

ミダゾラムとプロポフォールの交互使用による長期鎮静

Midazolam and propofol used alone or sequentially for long-term sedation in critically ill, mechanically ventilated patients: a prospective, randomized study.
Zhou Y, Jin X, Kang Y, Liang G, Liu T, Deng N.
Crit Care. 2014 Jun 16;18(3):R122. PMID: 24935517


✔ 背景
 ミダゾラムやプロポフォールを単剤で長期投与すると副作用が問題になる。ミダゾラムは急性離脱症候群、蓄積による覚醒遅延などであり、プロポフォールでは高中性脂肪血症や心血管抑制、Propofol infusion syndromeである。そこで、これらの薬剤を交互に使用する方法の有用性を検討した。
✔ 方法
 72時間以上人工呼吸管理を受ける135名の患者を、ミダゾラム単独投与群(M群)、プロポフォール単独投与群(P群)、交互使用群(MP群)に無作為に割りつけてSBT可能になるまで投与した。全患者でフェンタニル 1~2mcg/kg/hrを併用した。
M群:0.03~0.3mg/kg bolus + 0.04~0.2mg/kg/hr infusion
P群:0.5~3.0mg/kg bolus + 0.5~3mg/kg/hr infusion
MP群:ミダゾラムより使用開始。プロポフォールへの変更時はbolusなし。
プライマリエンドポイントは覚醒までの時間、抜管までの時間、人工呼吸管理期間とした。セカンダリエンドポイントは薬剤コスト、ICUコスト、人工呼吸管理に関連する事象で対処が必要となったものとした。
✔ 結果
 鎮静終了後の不穏はM群に比べMP群は低かった(48.7% vs 19.4%)。三群間で適切な鎮静レベルに維持できた時間は同等であった。覚醒までの時間、抜管までの時間、人工呼吸管理期間はM群でそれぞれ58時間、45時間、192時間であり、P群やMP群に比べて有意に長かった。一方でP群とMP群では違いが無かった。低血圧発生頻度はP群で高かった。薬剤コストはMP群はP群より有意に低く、ICUコストはM群より低くなった。
✔ 結論
 ミダゾラムとプロポフォールを交互に使用する方法は安全で、コストをおさえることができる方法である。
結果(文献より引用)
◎ 私見
 ミダゾラム単独長期投与がずば抜けて悪い結果だった。交互投与とプロポフォール単独投与はほぼ同等の臨床的効果を持つが、交互投与の方が低血圧が少なくコストが安かった。プロポフォールより決定的に良いと言ってよいかどうかは微妙だが、使える方法ではあることがわかった。

2015年6月1日月曜日

動静脈炭酸ガス分圧較差が大きいと術後合併症が増える

Central venous-to arterial CO2 difference as a prognostic tool in high-risk surgical patients
Emmanuel Robin et al.
Crit Care (2015)


✔ 背景
 中心静脈血炭酸ガス分圧と動脈血炭酸ガス分圧の差(PCO2 gap)は循環動態の安定性を表す指標となる可能性がある。これについて、高リスク術後患者を対象に調査した。
✔ 方法
 単施設前向き観察研究。115人の術後患者が対象となった。Schoemakerらの報告を参考に高リスク手術を分類した。
✔ 結果
 78人の患者(68%)が術後合併症を起こした。内54人は臓器不全を起こしていた。術後合併症を起こした群では、PCO2 gapが高く(8.7mmHg vs 5.1mmHg)、乳酸値も高かった(1.54 vs 1.06)。炭酸ガス分圧較差はICU入室時に最大となっていた。ICU入室時の炭酸ガス分圧較差のが術後合併症を予測できるかどうかのROCは0.86であり、SOFA(0.82)、SAPSⅡ(0.67)、乳酸値(0.67)より優れていた。多変量解析によると、炭酸ガス分圧較差とSOFAスコアのみが術後の重篤な合併症を予測する独立した因子であった。炭酸ガス分圧較差≧6mmHgは、臓器不全、長期人工呼吸管理、在院期間延長と関与していた。
✔ 結論
 組織低灌流の結果として起きているものとするなら、炭酸ガス分圧較差は中心静脈血酸素飽和度より有用であると考えられる。
臓器不全合併の有無と炭酸ガス分圧較差の推移(文献より引用)
◎ 私見
 組織中の炭酸ガスは低灌流の結果起きると考えられており、その総和として中心静脈血中の炭酸ガス分圧を用いてみるとどうかという話題。リアルタイムで計測できるといいのだけど。