2015年2月27日金曜日

せん妄は人工呼吸患者の予後を悪くする(SLEAP二次解析)

Prevalence, Risk Factors, and Outcomes of Delirium in Mechanically Ventilated Adults
for the SLEAP Investigators and the Canadian Critical Care Trials Group

Critical Care Medicine:March 2015 - Volume 43 - Issue 3 - p 557–566

✔ 背景
 重症患者でせん妄はよくみられ、予後悪化因子であることが知られている。プロトコルに基づいた鎮静管理をうけた人工呼吸管理患者において、せん妄の有無で予後や患者背景を比較した。
✔ 方法
 SLEAP studyは16の施設で行われた人工呼吸管理中の鎮静中断の効果を検討する無作為化試験であるが、このデータを用いて二次解析を行った。
✔ 結果
 全ての患者がプロトコルに基づいて鎮静管理が行われた。せん妄はICDSCを用いて毎日チェックした。せん妄は226人(53.8%)に認められた。昏睡はせん妄患者の32.7%に認められ、せん妄のない群(22.7%)より有意に多かった。せん妄発症のタイミングの中央値は3.5日であり、せん妄持続時間の中央値は2日であった。せん妄患者では男性、外傷/術後、喫煙、喫酒が多かった。せん妄患者は人工呼吸管理期間、ICU在室日数、在院日数が長かった。また、せん妄患者は身体抑制を受ける比率が高く、気管切開を受ける率も高かった。せん妄発症に関与する独立した危険因子は、身体抑制(HR 1.87)、抗精神病薬(HR 1.67)であった。ミダゾラムのHRは0.998であった。鎮静中断の有無とせん妄発症は関係が無かった。
✔ 結論
 人工呼吸患者において、せん妄は頻繁に認められ、人工呼吸管理期間や在院日数延長に関与していた。身体抑制が最もせん妄と関係していた。

せん妄の有無と抜管成功(文献より引用)


◎ 私見
 せん妄が予後を悪くするのか、予後の悪いような疾患がせん妄を起こすのか、という点についてはまだ明らかにはならない。それにしても、危険因子についてすらまだまだ判っていないことがあるのだなというのが率直な感想。

2015年2月26日木曜日

急性腎傷害におけるフロセミド

Benefits and risks of furosemide in acute kidney injury.
Ho KM, Power BM.
Anaesthesia. 2010 Mar;65(3):283-93. PMID: 20085566





✔ 薬物動態
 フロセミドは弱有機酸で、大部分(85%)が尿から排泄される。半分が代謝体、半分が未変化体として近位尿細管から分泌される。正常でのクリアランスは19ml/kg/minである。98%以上が蛋白質に結合しており、糸球体からはごく少量しか濾過されない。蛋白質と結合することで腎尿細管からの分泌とその利尿作用が促進される。よって、低蛋白血症や他の蛋白質に結合しやすい薬剤(ワーファリンやフェニトイン)が存在すると薬効が減弱する。
 フロセミドはHenleループの上行脚の内腔側に存在するNa-K-Cl2共輸送体を阻害する。水と同時にNa、K、Mg、Caが排泄される。また、糸球体へのネガティブフィードバックを抑制する。
 フロセミドの作用を決定する因子は3つある。①フロセミドの尿細管内腔での濃度は他の有機酸の存在で低下するため、尿酸やプロベネシド、ベンジルペニシリン、セファロスポリン、シプロフロキサシン、オキシプリノール、ブメタニド、オセルタミビルなどにより作用が減弱する。②作用時間は心拍出量、腎血流量、投与方法によって変化する。一般的にボーラス投与より持続投与の方が利尿効果が高い。投与総量が変わらなくても、長時間Na-K-Cl2共輸送体を阻害し続けられるからである。③作用点における薬物反応を減弱させる要素として、脱水によるレニン・アンギオテンシン系活性化、NSAIDs、うっ血性心不全が挙げられる。AKIでは尿細管へのフロセミド分泌が減少し、共輸送体のフロセミドに対する反応も弱くなるため、利尿効果が悪くなると考えられている。
✔ 効果
 フロセミドはAKIもしくはAKI発症リスクのある患者に対して、予防的に使用しても治療的に使用しても、腎代替療法導入リスクや死亡率を減らさなかった。
✔ AKIにおけるフロセミドの役割
 腎髄質の酸素分圧は低く、ヘマトクリットも低いことが知られている。つまり、Henleループが存在する腎髄質は虚血に弱いといえる。フロセミドはNa-K-Cl2共輸送体を阻害しプロスタグランジン産生と血流を増やすことで腎髄質における酸素需給バランスを改善するかもしれないと考えられている。脱水やNSAIDsによってプロスタグランジン産生が抑制されていると、このフロセミドの腎保護作用は拮抗されてしまうのかもしれない。
✔ ピットフォール
 フロセミドは尿量を増やすが、クレアチニンクリアランスや腎機能を回復させるわけではないことを知っておかなくてはならない。尿量が増えることでAKIの原因検索(脱水、尿路閉塞、敗血症)が遅れるかもしれない。また、尿中Na濃度を使用して腎前性と腎性AKIを鑑別することができなくなる。腎不全ではフロセミド排泄が悪くなっているので、大量投与で耳毒性が問題になる。また、尿が酸性にかたむき、異常円柱を形成したりフリーラジカル生成の原因になる。その他、全身性の血管収縮を起こしたり、気管に存在するNa-K-Cl2共輸送体にも作用して粘膜機能を低下させたり、テオフィリンや他の有機酸、ゲンタマイシンの排泄を阻害したりする。また、ワーファリンの効果を減弱し、バルプロ散やアンホテリシン、RAA抑制薬の効果を増強する。

◎ 私見
 フロセミドについて復習。以前、耳毒性が問題となった症例をみたことがある。漫然と投与してはいけない薬のひとつ。まあ、漫然と投与してよいクスリなんてないのだが。



2015年2月25日水曜日

敗血症に対するヘパリンの効果

The Efficacy and Safety of Heparin in Patients With Sepsis: A Systematic Review andMetaanalysis.
Zarychanski R, Abou-Setta AM, Kanji S, Turgeon AF, Kumar A, Houston DS, Rimmer E, Houston BL, McIntyre L, Fox-Robichaud AE, Hébert P, Cook DJ, Fergusson DA; for the Canadian Critical Care Trials Group.
Crit Care Med. 2014 Dec 9. PMID: 25493972


✔ 背景
 敗血症の病態には全身性炎症反応、血管内膜障害、生体反応としての過凝固がある。凝固系と炎症反応の間には関係があり、これまでも様々な抗凝固療法が試みられてきた。ヘパリンはアンチトロンビンの作用を増強して抗凝固作用を発揮する。トロンビンを抑制することで炎症を抑制できるかもしれない。また、ヘパリンそのものが抗炎症作用を持つとの報告もある。重症敗血症、敗血症性ショック、感染性DICに対するヘパリンの意義について調査した。
✔ 方法
 システマチックレビューとメタアナリシスを行った。未分画ヘパリンもしくは低分子ヘパリンを敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック、感染性DICに対して使用した臨床研究を対象とした。プライマリアウトカムとして死亡率を採用した。安全性アウトカムとして出血、輸血、血小板減少の頻度を調査した。
✔ 結果
 9つの臨床研究から2,637人の患者を対象とした。ヘパリンをプラセボと比較した場合、死亡のリスクは0.88であった。他の抗凝固療法と比較した場合、死亡のリスクは1.30であった。出血のリスクは、プラセボと比較した場合は有意な差が無かったが(×0.79)、他の抗凝固療法と比較した場合、有意に高かった(×2.14)。
✔ 結論
 ヘパリンは死亡率の低下と関係していた。しかし、その臨床的インパクトはまだ不明確である。安全性についてはさらなる研究が必要であるが、出血が増えることについては否定できない。

ヘパリン vs プラセボ/通常治療(文献より引用)
ヘパリン vs 他の抗凝固療法(文献より引用)

◎ 私見
 血栓症予防では抗凝固薬を使用しているが…。さて、この論文。何もしない<ヘパリン<他の抗凝固療法ということだろうか? 比較対象となった他の抗凝固療法というのがアンチトロンビンⅢであったりART-123であったりなのだが、これらの薬剤の評価が定まっているとは言い難いので、どのように評価してよいのかちょっと判りづらい。

2015年2月24日火曜日

アセトアミノフェンは敗血症における酸化ストレスを軽減する

Randomized, Placebo-Controlled Trial of Acetaminophen for the Reduction of Oxidative Injury in Severe Sepsis: The Acetaminophen for the Reduction of Oxidative Injury in Severe Sepsis Trial
David R. Janz, MD, MSc1; Julie A. Bastarache, MD2; Todd W. Rice, MD, MSc2; Gordon R. Bernard, MD2; Melissa A. Warren, MD2; Nancy Wickersham, BS2; Gillian Sills, BS2; John A. Oates, MD;3 L. Jackson Roberts II, MD3; Lorraine B. Ware, MD2,4; for the Acetaminophen for the Reduction of Oxidative Injury in Severe Sepsis Study Group

Crit Care Med 2015; 43:534–541

✔ 背景
 さまざまな重症疾患で血漿中の遊離ヘモグロビンが上昇することが知られており、AKI発症や敗血症における死亡率上昇と関係している事が報告されている。このメカニズムとしては、NOスカベンジャーとなり血管を収縮させる、血管内膜障害、F2-isoprotanes(F2-IsoP)遊離作用が考えられている。アセトアミノフェンは遊離ヘモグロビン内のプロトポルフィリンラジカルを減らすことにより脂質の過酸化を抑制し、F2-IsoPsの遊離を減らし、酸化ストレスを軽減できるかもしれない。
✔ 方法
 単施設で行われた無作為化試験。ICU入室24時間以内の重症敗血症患者を対象とし、遊離ヘモグロビン≧10mg/dLであった患者のみを無作為化した。48時間以内にアセトアミノフェンの投与を受けていた患者、アレルギー、24時間以内にASTもしくはALTが400以上であった患者、慢性肝疾患、妊娠、内服や経腸投与ができない患者、主治医の拒否があった場合は除外した。アセトアミノフェンもしくはプラセボ 1gを6時間毎に3日間経腸ないし経口投与した。
✔ 結果
 245人が重症敗血症で、このうち51人が対象となった。さらに5人が遊離ヘモグロビンが検出されず除外され、1人が主治医の意向で対象から外れた。このうち40人が治療プロトコルを完遂した。
 ベースラインはプラセボ群で高齢、F2-IsoP、Creなどが高い傾向にあった。遊離ヘモグロビンに差はなかった。感染原因としてもっとも多いのは肺炎で、次に尿路感染症であった。
 プライマリアウトカムである3日目のF2-IsoPには両群間で差が無かったが、2日目ではアセトアミノフェン群で有意に低くなっていた。セカンダリアウトカムである3日目のCreはアセトアミノフェン群で有意に低かった。院内死亡率、副作用の発生率には有意な差が無かったが、アセトアミノフェン群で死亡率が低く、副作用が多い傾向があった。
✔ 結論
 遊離ヘモグロビン上昇を伴う重症敗血症ではアセトアミノフェンにより酸化ストレスを軽減して腎機能を改善することができるかもしれない。

Creatinineの推移(文献より引用)
生存率のカプランマイヤー曲線(文献より引用)
◎ 私見
 酸化ストレスの軽減という観点からアセトアミノフェンを使用するとどうかという研究。かなり人数が少ないので確定的なことは言えないけど。副作用もあるので、追試があればその結果を見たい(いまのところClinicalTrial.govには掲載されていない)。


2015年2月23日月曜日

High flow nasalで挿管が遅れると予後が悪化するかもしれない

Failure of high-flow nasal cannula therapy may delay intubation and increase mortality.
Kang BJ, Koh Y, Lim CM, Huh JW, Baek S, Han M, Seo HS, Suh HJ, Seo GJ, Kim EY, Hong SB.
Intensive Care Med. 2015 Feb 18. PMID: 25691263


✔ 背景
 High flow nasal cannula(HFNC)で呼吸不全患者の挿管を避けることができるかもしれないと言われている。一方で、HFNCによる管理が失敗し、気管挿管遅れることでどのような不利益が生じるのかは分かっていなかった。
✔ 方法
 単施設後向き観察研究。HFNCを使用したが気管挿管に至った症例を対象とし、HFNC開始から48時間未満で気管挿管を行った早期群と48時間以降に気管挿管した晩期群の予後を比較した。
・HFNCはどのような患者で使用されたか
 SpO2>92%を達成するために9L/min以上の酸素を投与、持続する呼吸窮迫(呼吸数>24/min、副呼吸筋使用、胸郭と腹部の非同調性呼吸運動)、抜管後呼吸不全のハイリスク
・各種定義
 気管挿管を必要とした場合を「HFNC失敗」と定義した。気管挿管の適応は、純酸素投与でもSpO2<90%となることが予想される低酸素性呼吸不全、pH<7.3の高炭酸ガス血症、重度呼吸窮迫(呼吸数>35)、コントロールできない低血圧(SBP<90mmHg or mAP<65mmHg)を伴う代謝性アシドーシス、意識障害や誤嚥のために気道確保が必要な状態、心肺停止
 抜管後48時間人工呼吸を要さなかった状態を「抜管成功」と定義した。
 「免疫抑制療法」は免疫抑制剤の使用、過去6カ月以内に総計1680mg以上のプレドニゾロンと等力価のステロイドしようと定義した。
・呼吸不全の病因
 Demouleらの報告をもとに、①新規急性呼吸不全(肺炎、ARDSなど)、②慢性肺疾患急性増悪、③心原性肺水腫、④腎不全による肺水腫、⑤呼吸器感染症以外による敗血症性ショック、⑥抜管後、の六つに分類した。
✔ 結果
 期間中、616人がHFNCで管理され、そのうち177人が気管挿管に至った。ICUに入室しなかった2人を除き解析した。早期群が130人、晩期群が45人であった。大部分の患者が免疫抑制療法を行っており(40%)、血液がん(31.4%)、固形癌(24.6%)も多かった。SOFAスコアは早期群で高い傾向にあった。早期群で最も多い呼吸不全の原因は新規急性呼吸不全で、晩期群では慢性肺疾患急性増悪であった。14日死亡率、28日死亡率ICU在室日数は両群間で有意差が無かったが、ICU死亡率、抜管成功率、人工呼吸離脱率、人工呼吸不要日数はいずれも早期群で良好であった。Propensity scoreでマッチさせた37人ずつで検討しても同様の結果であった。
✔ 結論
 HFNC開始後48時間以降で気管挿管に至ると予後が悪い傾向がある。

Propensity scoreでマッチさせて比較(文献より引用)

◎ 私見
 HFNCの利点は、①加温加湿された酸素を供給できること、②高流量を使用することで、酸素化を改善し、小さいながらもPEEPを付与し、呼吸仕事量を軽減できること、③会話や咳、経口摂取を可能にすること、④肺炎、圧損傷などの合併症を増やさないとされること、である。本研究で、HFNCが長くなった後に気管挿管されると予後が悪いことが示された。Propensity scoreでマッチさせているとはいえ、あくまで後向きの観察研究なので必ずしもHFNCのせいで気管挿管が遅れたとは言えないとは思うが、同様の結果は非侵襲的陽圧換気で言われているし、やはり無理は禁物ということなのだろう。

2015年2月22日日曜日

NAVAは抜管後非侵襲的陽圧換気の同調性を改善する

Neurally adjusted ventilatory assist improves patient-ventilator interaction during postextubation prophylactic noninvasive ventilation.
Schmidt M, Dres M, Raux M, Deslandes-Boutmy E, Kindler F, Mayaux J, Similowski T, Demoule A.
Crit Care Med. 2012 Jun;40(6):1738-44.PMID: 22610179


✔ 背景
 抜管後の非侵襲的換気(NIV)が再挿管を予防する目的で行われている。急性期においては経腸栄養のための経鼻胃管の部位におけるエアリークが問題になるため、各社はリーク補正機能をもたせて同調性の改善を図ってきた。そこで、NAVAがこのりーくにまつわる非同調を改善するかどうかを調べた。
✔ 方法
 単施設前向き研究。患者はPSVでNIVアルゴリズムのない群(PSV-NIV-)、PSVでNIVアルゴリズムのある群(PSV-NIV+)、NAVAでNIVアルゴリズムのない群(NAVA-NIV-)、NAVAでNIVアルゴリズムのある群(NAVA-NIV+)に無作為に割りつけられた。
 抜管後、まずはPSV-NIV+に設定した。EPAP 4cmH2Oとし、IPAPは一回換気量 6-8ml/kgを達成で切るように設定した。吸気スロープは100msec、呼気トリガーはデフォルトの30%とした。FiO2はSpO2が92~96%になるように設定した。その後、NAVAに変更した。NAVAレベルはPSVの場合とおなじピーク圧となるように調節した。その後、無作為に割りつけられた換気モードに変更して10分間換気した。
・対象患者
 2時間以内に抜管が予定されている、既にNAVA用の胃管が挿入されている、予防的NIVが必要と判断されている、12時間以上前に鎮静薬が中止されている、抜管後のGCSが14点以上のものを対象とした。
・この施設におけるNAVAの適応
 サポート圧20cmH2Oを超えない範囲で6~8ml/kgを達成するように設定したPSVに2時間耐えられない、Ramsayスコアが4未満、FiO2が50%以下でPEEPは10cmH2O以下、循環動態が安定、48時間以上の呼吸管理が予想されていること、である。
・予防的NIVの必要性の判断
 65歳以上、少なくとも2回のWeaning失敗、人工呼吸の原因が心不全、抜管後PaCO2が45mmHg以上、咳が弱い、SBT時の高炭酸ガス血症を参考にして決定した。
・非同調の判定
非同調の定義(文献より引用)

✔ 結果
 ピーク圧と横隔膜電位は4群間で特に差はなかった。PSV、NAVAどちらにおいてもNIVアルゴリズムはリークを有意に減少させた。吸気トリガーの遅れはNAVAで短い傾向があった。非同調係数はNAVAで小さかった。ただし、NAVAでダブルトリガーが多く見られる傾向があった。
✔ 結論
 NIVアルゴリズムとNAVAの組み合わせが抜管後NIVにおいて最も非同調を少なくする。

各群における実測値(文献より引用)
非同調係数(文献より引用)



◎ 私見
 抜管後のNIVは有用だが、まさしく文献中に指摘されているようにマスクと頬とのあいだにはさまれる胃管で生じるリークが問題になる。ベッドサイドから離れられなくなってしまいがち。NAVAはこの問題に対処でき得る可能性がある。この研究ではNAVAがもともと行われていた患者を対象としているため、結果の解釈には注意が必要である。つまりPSVが元々うまくいかない患者を対処としている可能性が高く、NAVAが決定的に優れているとは言えないからである。すくなくとも胃管があってもNAVAならば適切に換気補助ができそうではある。


2015年2月21日土曜日

ICUに入室した悪性腫瘍患者の予後規定因子

Prognostic factors in critically ill cancer patients admitted to the intensive care unit.
Aygencel G, Turkoglu M, Turkoz Sucak G, Benekli M.
J Crit Care. 2014 Aug;29(4):618-26. PMID: 24612762


✔ 背景
 悪性腫瘍の生存率が改善すると共に悪性腫瘍を背景疾患として持つ患者がICUに入室する数も増えてきている。ICUにおける治療は無益であると言われてきたが、最近の研究では生存率の改善が報告されている。そこで、悪性腫瘍をもつICU入室患者の予後規定因子について検討した。
✔ 方法
 18歳以上の組織学的に診断された悪性腫瘍患者を対象として後向きに検討した。
✔ 結果
 固形がん104人(64.2%)、血液がん58人(35.8%)が対象となった。ICU入室原因で最も多かったのは敗血症(66.7%)、呼吸不全(63.6%)であった。ICU死亡率は55%で、固形がんと血液がんで有意差はなかった(57% vs 53.8%)。ICU死亡率に寄与する因子が4つであり、寛解期であること(OR 0.113)、APACHEⅡスコア高値(OR 1.12)、ICU在室中の敗血症(OR 8.94)、昇圧剤使用(OR 16.84)であった。APACHEⅡスコア、救急外来経由の入室、昇圧剤使用は血液がんでの独立した寄与因子であったが、SOFAスコア、LDH、敗血症、寛解期は固形がんでの独立した寄与因子であった。
✔ 結論
 悪性腫瘍患者のICU死亡率は55%であり、これらの患者群もICU入室による恩恵を受けられうることがわかった。血液がんと固形がんでは予後に大きな差はなかった。

ICU死亡に対するオッズ比(文献より引用)
◎ 私見
 トルコの単施設で行われた後向き観察研究。乱暴に言うと「ショックで臓器障害が多い人は予後が悪い」ということなので、結果は特に目新しいものではない。化学療法の有無や好中球減少症が寄与因子とはならなかたことが面白いくらいか。それにしても、血液検査の結果やカテーテル使用の有無など70以上の因子について網羅的に調べているのがすごい。

2015年2月20日金曜日

PEEPはARDS患者の心拍出量に影響しない

The relationship between positive end-expiratory pressure and cardiac index in patients with acute respiratory distress syndrome.
Fares WH, Carson SS; NIH NHLBI ARDS Network.
J Crit Care. 2013 Dec;28(6):992-7. PMID: 23993772


✔ 背景
 高PEEPによる胸腔内圧上昇によって心拍出量が減少する可能性が指摘されている。
✔ 方法
 ARDS発症から48時間以内の患者を対象としたFACTT trialのデータを使用して二次解析を行った。肺動脈カテーテルを使用する群に割りつけられた症例を対象とし、PEEPと心係数を同時に計測したデータを解析対象とした。
✔ 結果
 367人の患者で計測された833のデータが解析対象となった。平均PEEPは8.2±3.4cmH2Oで、平均心係数は4.2±1.2L/min/m2であった。APACHEスコア、年齢、輸液管理の方法(Liberalか、Conservativeか)、敗血症の有無を考慮に入れてもPEEPと心係数には有意な関係が無かった。
✔ 結論
 ARDSにおいて、輸液管理の方法によらずPEEPが心拍出量を減少させることはない。

PEEPと心係数の関係(文献より引用)

◎ 私見
 PEEPの設定は主治医任せであり、そもそもそれほど高く設定されているわけではない。あくまでワンポイントのデータを集めて解析しただけであり、臨床に適用するにあたっては注意を要する。PEEPを高くすると「血圧が下がる」と言ってもとの設定に戻されてしまうことがあるが、そうとは限りませんよと答えられるかもしれない。

2015年2月19日木曜日

換気駆動圧が高いと死亡率が上昇する

Driving pressure and survival in the acute respiratory distress syndrome.
N Eng J Med 2015;372:747-55

✔ 背景
 プラトー圧を制限し、低い一回換気量(Vt)、高いPEEPで行う人工呼吸管理によりARDS患者の生存率を改善させることができる。しかし、これらのどの因子がどの程度重要なのかは分かっていない。呼吸器系のコンプライアンス(Crs)は機能的肺気量と関係している。自発呼吸のない患者における駆動圧(⊿P=Vt/Crs、ここでVtは機能的肺気量であり予想肺気量ではない)はVtやPEEPそのものより生存率と強く関係していると仮定して調査した。
✔ 方法
 ARDSを対象として行われた過去の無作為化試験の3562人の患者データを使用し、マルチレベル媒介分析を用いて解析した。媒介分析によって肺病変の重症度による交絡を最小限に抑えつつ、さまざまな人工呼吸器の設定によって生じる⊿Pの変化の影響を調査した。
✔ 結果
 いくつかの人工呼吸器のパラメータのうち、⊿Pが最も強く患者生存と関係していた。⊿Pの7cmH2Oの変化は死亡率の相対リスク上昇と有意に関係していており(RR 1.41; 1.31-1.51)、この傾向は肺保護換気を達成できていた患者でも同様に認められた(RR 1.36; 1.17-1.58)。VtやPEEPの変化はそれ単独では生存率には影響せず、⊿Pの減少に寄与する場合においてのみ有意に生存率に影響した。
✔ 結論
 ⊿Pは死亡リスクを最も強く予測する因子であった。⊿Pを下げるような設定は生存と関係している。


左:PEEP一定で⊿Pが高くなると死亡率もそれにつれて高くなる
中:⊿Pが一定で気道内圧が高くなると死亡率は不変
右:気道内圧一定でPEEEPが高くなる(⊿Pは低くなる)と死亡率は低下
(文献より引用)


⊿Pが高いほど死亡のリスクが高い
(文献より引用)

◎ 私見
 大御所Amatoらの研究。PEEPを高くすればよいというわけではないし、Vtを数字だけ小さくしても意味が無い(かもしれない)。昨年講演で同じ内容の話を聞いてから、いつ論文になるんだろうと待っていた。駆動圧は最近のトピックスでカンファレンスでも話題に。⊿Pをいかに低減するか、その戦略を考えて前向き試験で検討するという流れになるか。

コンプライアンスに基づいてPEEPを設定すると予後が改善する

Individualized PEEP setting in subjects with ARDS: a randomized controlled pilot study.
Pintado MC, de Pablo R, Trascasa M, Milicua JM, Rogero S, Daguerre M, Cambronero JA, Arribas I, Sánchez-García M.
Respir Care. 2013 Sep;58(9):1416-23.PMID: 23362167


PEEPの設定方法と予後を検討したパイロット・スタディ

✔ 背景
 一回換気量を低く設定するだけでは末梢気道が繰り返し開閉される可能性があるため、PEEPで気道開放状態を維持することになる。しかし、適切なPEEPレベルを決定する方法について、臨床的に有用な方法は見つかっていない。
✔ 方法
 ARDSに対して低一回換気量かつ気道内圧30 cmH2O未満で人工呼吸管理されている患者を対象とし、コンプライアンスによってPEEPを決定する群とFiO2によってPEEPを決定する群とに無作為に割り付けた。18歳未満、妊娠、神経筋疾患、頭蓋内圧亢進、頭部外傷、左室機能障害、72時間以上人工呼吸管理を受けている患者、圧損傷のある患者は除外した。
1)人工呼吸開始~24時間後
 ARDSの診断基準を満たした患者に対し、低一回換気量(6~8ml/kg予測体重)、気道内圧30 cmH2O未満、pH 7.30~7.45となるような呼吸数(最大35回/min)、SpO2 88~95%もしくはPaO2 55~88mmHgとなるようなFiO2で設定して人工呼吸管理を行った。PEEPはできるだけ低いFiO2を達成できるようなPEEPを採用した。気道内圧が高くなりすぎる場合は一回換気量を1ml/kgずつ減らして最低4ml/kgとした。このような症例ではプラトー圧35cmH2Oまで許容した。24時間後に2群に無作為に割り付けた。
2)コンプライアンス群
 毎日、Suterらの提唱する方法を採用した。静的コンプライアンスは一回換気量を2秒間の吸気ホールドで得られた気道内圧で除して得た。PEEPは5cmH2Oから開始して2cmH2Oずつ上昇させ、もっとも静的コンプライアンスが大きくなる時の値を至適PEEPとした。
3)FIO2
 FiO2に基づきARDS network groupの提唱するPEEPに設定した。
4)呼吸管理(両群共通)
 全例で鎮静薬と麻薬を使用した。筋弛緩薬は内因性PEEPやプラトー圧計測のためだけでなく、低一回換気量を達成する目的のためにも用いた。PaO2>60mmHg、FiO2<40%、PEEP<6cmH2Oとなったら離脱を開始した。無作為化より72時間は肺動脈カテーテルを用いてPEEPの血行動態に対する影響をモニターした。
✔ 結果
 ARDSの原因で最も多かったのは感染(71.4%)であった。コンプライアンス群で多臓器不全が多かった。無作為化の時点のPEEPに差はなかった。有意ではないもののコンプライアンス群で酸素化(P/F)が改善し、28日死亡率が低い傾向があった。また、多臓器不全、呼吸不全、循環不全の存在しない時間が有意に長くなった。
✔ 結論
 ARDSに対してコンプライアンスに基づいてPEEPを決定する方法は臨床的なアウトカムを改善しうる。




◎ 私見
 小規模のパイロットスタディであるとか、盲検化されていないとか、静的コンプライアンス測定に伴うわずらわしさとかのLimitationはあるが興味深い内容。筋弛緩薬を使わなくてはならないところが問題か。それにしても。毎日いじっているありふれた人工呼吸器の設定ひとつですらこんなに判っていないことがある、ということを肝に銘じるべきと思う。新しいモードや派手な治療に飛びつく前に。

2015年2月18日水曜日

血液ガス分析装置で計測したNa値の方が信頼できる

Direct sodium measurement prevents underestimation of hyponatremia in critically ill patients.
van den Ancker W, Haagen IA, van der Voort PH.
Intensive Care Med. 2015 Feb 12. PMID: 25672273

ICMに掲載されたLetter。

✔ 背景
 輸液と電解質管理はICUで重症な職務である。偽性低ナトリウム血症はよく知られているが、偽性高ナトリウム血症はあまり知られていない。多くの生化学検査機器は6~46倍に希釈して電解質濃度を計測しているが、最終的に濃度を計算するにあたり、検体の7%が脂質や蛋白質でのこり93%水であると仮定している。したがって、低アルブミン血症がある重症患者では過大評価してしまう。一方、直接測定法である血液ガス分析装置ではこのような問題はない。
✔ 方法
 2,336人の患者から得られた検体を後向きに解析した。間接測定法ではNa、アルブミン、総蛋白をCobas systemを用いて計測した。希釈率は31倍であった。直接法ではNaを血液ガス分析装置(Radiometer)で計測した。
✔ 結果
 198人(8.5%)の患者で間接法のNa値が4 mmol/L以上直接法に比べて高くなっていた。このうち、40%の患者で偽性高ナトリウム血症(>145 mEq/L)もしくは偽性正ナトリウム血症(135-145 mmol/L)の状態となっていた。総蛋白の値は直接法・間接法のNa値の較差と有意に相関していた。アルブミン値に関しても同様の結果であった。
✔ 結論
 血液ガス分析装置で計測されるナトリウム値の方が信頼できる。



◎ 私見
 検査方法に伴う誤差は有名な話だと思っていたのですが、実はそうではないのかも。血糖値も血液ガスで測った方が信頼できる。まあ、Na値どうこうより、どんな症状があって何に困っているのかをしっかり把握することが大事。

2015年2月16日月曜日

末梢循環を指標とした敗血症性ショックの輸液管理

Early Peripheral Perfusion-guided Fluid Therapy in Patients with Septic Shock.
van Genderen ME, Engels N, van der Valk RJ, Lima A, Klijn E, Bakker J, van Bommel J.
Am J Respir Crit Care Med. 2015 Feb 15;191(4):477-80. PMID: 25679107 

ブルージャーナルに掲載されていたCorrespondence。

✔ 背景
 敗血症性ショックに対する輸液療法は重要だが、過小輸液は組織への酸素供給不足の遷延を意味し、過剰輸液は肺水腫や人工呼吸管理期間延長、死亡率の上昇に関連すると言われている。末梢循環不全は敗血症性ショックの予後予測因子として通常の血行動態パラメータより有用であると言われているが、これを指標とした輸液戦略は無く、そもそも適切な末梢循環を示す閾値も明らかでない。
✔ 方法
 前向き無作為化比較対象試験をパイロットスタディとして計画した。敗血症性ショックで入室した患者(MAP<65mmHg or Lac>3mmol/L)を無作為に通常治療群と末梢循環標的群(Peripheral perfusion-targeted fluid management; PPTFM)に割り付け、6時間にわたって輸液管理を行った。PPTEM群では、末梢循環指標(毛細血管再充満時間; CRT、Peripheral perfusion index; PPI、前腕-指尖部体温格差、組織酸素飽和度)を用い、このうち三つ以上が異常な場合を輸液療法の適応と判断した。通常治療群ではEGDTに基づいて管理した。その後、72時間後まで観察した。
✔ 結果
 両群間のベースラインには差が無かった。また、治療経過中の乳酸値や中心静脈血酸素飽和度にも差が無かった。PPTFM群は有意ではないものの6時間の輸液量が1.8L少なくなった。また、72時間の総輸液量も有意ではないものの2.5L少なくなった。PPTFM群では在院日数が少なく、臓器不全数が少なくなった。
✔ 結論
 末梢循環を標的とした早期輸液戦略についてさらなる研究が待たれる。




◎ 私見
 ショックの際に最初に犠牲になる末梢組織循環を指標にして輸液をしてはどうかという研究。ショックから離脱すれば末梢組織循環が回復するので、そこまでで輸液を終えれば過剰輸液の害を被らなくて済む。ショックに対して輸液と昇圧剤投与を行うのは、組織における酸素需給バランスを是正することが目的であり、血圧を上げることでもCVPを上げることでもない。そこで、乳酸値や中心静脈血酸素飽和度を指標にするというアイデアがでてきたが、本研究ではこれらの数値には両群間で差が無かったとのこと。さて、末梢循環指向型の輸液戦略が今後どうなるのか楽しみです。

2015年2月15日日曜日

ミースの言葉

Less is more.

集中治療において過剰な介入を戒めるような研究結果が多くみられます。肺動脈カテーテルの適応、輸液戦略、輸血の閾値などで、多くの論文中に”Less is more”の文言が散見されます。これは近代建築の礎を築いた三大巨匠のひとり、ミース・ファン・デル・ローエの言葉。ミースの代表作のファンズワース邸を写真で見たのが高校生の頃。無駄の少ない軽やかな外観に心を奪われたものですが、”20年後のいまに通じていたのかも”と思うと感慨深いです。


God is in the detail.

ミースの言葉でもう一つ有名なものと言えばこれ。”Less is more”とあわせて自分もこうありたいと思う大事な言葉になっています。

2015年2月13日金曜日

バソプレシン追加は敗血症性ショックの臓器障害を軽減する

Low-dose vasopressin in addition to noradrenaline may lead to faster resolution of organ failure in patients with severe sepsis/septic shock.
Bihari D, Prakash S, Bersten A.
Anaesth Intensive Care. 2014 Sep;42(5):671-4. PMID: 25233186


✔ 背景
 バソプレシンは敗血症性ショックに用いても死亡率を低下させないが、ノルアドレナリンの必要量を減らし、尿量を増やし、クレアチニンクリアランスを改善させる。一方で、肝機能障害、血小板減少、四肢末端の虚血が問題となる。
✔ 方法
 重症敗血症/敗血症性ショックに対するボーラス輸液の効果を見た研究(Price study)のデータを用いて、最初の24時間においてノルアドレナリンのみを投与された患者30名とバゾプレシンを併用した患者20名で、SOFAスコアの推移を比較した。
✔ 結果
 両群間でベースラインには大きな差はなかった。バソプレシンは治療開始より4~14時間後に1~1.5単位/時で開始されていた。48時間後と72時間後のSOFAスコアはバソプレシン併用群で有意に低下していた。バソプレシン投与による合併症増加は無かった。
✔ 結論
 早期(24時間以内)にバソプレシンを併用することで臓器障害を軽減できる可能性がある。

SOFAスコアの推移(文献より引用)

◎ 私見
 Journal of Critical Careに掲載されたCorrespondence。バソプレシン追加は血行動態を改善して臓器障害を軽減しているのかもしれない。では、なぜ死亡率を変えないのかが分からないままである。さて、論文としての出来栄えとか内容とかより、掲載された図に注目した。各個のSOFAの推移をすべて明示してあるこの図。ある先生が「個々のデータを無視して平均や偏差だけで示しただけのデータは信用できない」と言っていたのを思い出した。大規模スタディなどでは塗りつぶされてしまう患者個々の変化に思いを馳せることができるこの図は、結構好き。

2015年2月11日水曜日

ICUにおける100のTips

100 thoughts for the critical care practitioner in the new millennium.
Franklin C.
Crit Care Med. 2000 Aug;28(8):3050-2. PMID: 10966294


訳に自信がありません…

できるだけシンプルにまとめてみました。

✔ 診断に関するTips
1.治療につながる診断だけが重要。
2.急に意識状態が悪化したら薬歴を調べよ。
3.症状の有無で敗血症や肺塞栓を除外することはできない。
4.足を触ってショックの有無を探れ。爪先があたたかければ心原性ショックはない。
5.薬物中毒患者の病歴は信用できない。
6.血液ガスが異常なのに患者が元気そうなら、解釈が間違っているか測定ミスである。
7.「肺塞栓を除外した」とされる患者の多くは肺塞栓症ではない。
8.四肢軟部組織感染症では必ずX線写真、外科コンサルト、壊死創辺縁部の培養を行う。
9.ICUにおける神経診察は標準的な方法とは異なる。診察のために神経内科医を呼ばない。
10.もともとNa正常の患者が低/高Na血症となったら、それは医原性である。
11.稀な中毒患者に出会ったら血清検体をふたつとっておく。
12.慢性の経過をとる重度の低酸素血症をみたら職歴を聴取する。
13.いくつかの診断は自分以外の人によってなされる。
✔ 治療に関するTips
14.気道の問題には常に敬意を払って対処せよ。
15.リスクのない治療はない。
16.洞性頻脈では心拍数ではなく原因を治療する。
17.四肢の浮腫では死なない。ゆっくり形成されゆっくり消える。早く消失させようとしないこと。
18.産婦人科・麻酔科・新生児科が集まって重症妊婦の児を出すか決めるべき(だが、難しい)。
19.代謝性アシドーシスを呈するショックの患者は陽圧換気を要することが多い。
20.人工呼吸管理では筋弛緩薬を要さないことがほとんどである。
21.敗血症かどうか迷ったら患者を見よ。具合が悪そうなら直ちに抗菌薬を投与する。
22.抗菌薬治療のゴールはカバーを狭くすることである。
23.蘇生時はROSCの有無に関わらず協力してくれたメンバーに謝意を示すべきである。
24.振戦せん妄と診断された患者が振戦せん妄とは限らない。
25.新しい薬剤を広く浅く覚えるより、数種類の薬剤を深く理解する方が良い。
26.毎日回診時に使用薬剤をチェックし、不要なものは直ちにやめる。
27.モルヒネは鎮痛・鎮静・肺水腫の治療・呼吸仕事量軽減に用いる。深く知るべし。
✔ カテーテルとチューブに関するTips
28.人工呼吸患者が突然不穏になったら、チューブ閉塞・呼吸音・酸素飽和度をチェックせよ。
29.挿管の適応は、気道閉塞の解除・陽圧換気の提供・気道保護・気管清浄化である。
30.点滴ラインが詰まったら「このラインは本当に必要か?」と考える。
31.肺動脈カテーテルはデータを提供してくれるが判断はしてくれない。
32.肺動脈カテーテルが無いと治療できないと言っている医者はカテがあっても治療できない。
33.肺動脈カテーテルのある患者が呼吸器に問題を起こしたら混合静脈血酸素飽和度を見る。
✔ 診療に関するTips
34.重症疾患は24時間進行するが、常に患者のそばにいることはできない。よって有能な集中治療医とは問題を予測し、理路整然とした治療計画を他の医師に引き継げなくてはならない。
35.病院を去る前に重要な臨床的決断をした場合、1~2時間後に電話でチェックする。
36.難しい決断に迫られた場合、何もしないというのも良いアイデアである。時間が解決する。
37.少なくとも月に1回は新しい技術や治療アプローチを試せ。3回連続して失敗したら、他の誰かがそれに挑戦できるようにしておく。
38.集中治療における診療は人生のようだ。誰にとっても困難だが、愚かならなお困難となる。
39.最良の集中治療医とは細部に注意を払える医師のことだ。
40.誰しも最初はICUを恐ろしい場所と感じるが、診療技能はそれを克服した事実にある。
41.訴訟を避けたければ、懸命かつ誠実に働き、患者とその家族と良好な関係を確立せよ。
✔ 判断・成功・失敗に関するTips
42.良い判断は経験に基づく。経験は悪い判断に基づく。
43.成功してもそこにこだわると自信過剰になる。すぐに次の行動に移れ。
44.失敗から学ぶべきだがそこにこだわると優柔不断になる。すぐに次の行動に移れ。
45.良くなると思った患者の何人かは悪くなる。
46.悪くなると思った患者の何人かは良くなる。
47.回診で決断を下す時には個人的な問題をわきに置いておく。
✔ 非集中治療医とのかかわりに関するTips
48.ある専門科の医師のみが集中治療を行えると信じている医師がいる。専門性をもった良い集中治療医もいれば悪い集中治療医もいる。歌い手ではなく、歌が重要である。
49.ICUで他科の医師と話すとき、意味するところを喋り、話した内容の意味を語れ。
50.時に、正しい事をするとICUは大騒ぎになる。
51.救急外来の医師とメモのやり取りをして知識を共有せよ。
52.集中治療室で働いたことのない老医師は賢明である。彼らから学べ。
53.集中治療室で働いたことのない老医師は賢明ではない。彼らから学べ。
54.コンサルトにはみっつの理由がある。助けや助言を要するとき、何かを学びたいとき、いまみている現象を専門科にも見てもらいたいときである。
55.よいコンサルタントは重症患者を1日に数回見に来る。
56.あなたから学ぼうとしているコンサルタントを敬え。
57.内科医が外科医にコンサルトする時に犯すふたつの大きな間違いは、彼らの言うことを全て信じてしまうか、全て信じないかである。意見はひとつの視点に過ぎない。外科医は常に正しいわけでも常に間違っているわけでもないから。
58.外科医が内科医にコンサルトする時に犯す大きな間違いは、彼らを無視してしまうことである。よって聞き逃してしまうか、時に分析の過程で麻痺してしまった内科医を信じてしまって学ぶことができない。
59.手術しないことを判断できる外科医は手術することを判断できる医師と同じくらい貴重である。
✔ 看護師や他の職種とのかかわりに関するTips
60.看護師の言うことに耳を傾けなさい。あなたと同じく正しいことを言うことも間違ったことを言うこともある。
61.看護師の名前を覚えて、彼ら/彼女らが望むならその名前で呼びなさい。
62.看護師も予定表を持っている。最終的な目標は看護師の予定表と自分の予定表をあわせて患者の予定表とすることである。
63.看護師と研修医は夜中に良いニュースで電話してくることはない。
64.ICUでもっとも過小評価されているのは病棟秘書である。
65.呼吸療法士は僅差で二位である。
✔ 患者とその家族に関するTips
66.集中治療で最も難しいのは家族に、家族の予期しない死を伝えることである。
67.人工呼吸中の患者が覚醒している時は、回診時に声をかける努力をしなさい。
68.人工呼吸中の患者が覚醒していない時は、回診時に声が聞こえているとみなしなさい。
69.重症患者が退院して1年後にICUにやってきたらスタッフとともに写真を撮りなさい。士気を高めることだろう。
70.回診時に死に瀕している患者に行きあった場合、亡くなった近親者のことを思い出しなさい。近親者が亡くなっていない場合は他の人に聞きなさい。
71.ICUに電話がかかってきたら2分以内に出なさい。
72.可能ならばベッドサイドに行く時間を人によって固定しなさい。その方が家族にとって便利である。
73.可能ならば家族に患者ケアに参加してもらいなさい。好きな食べ物を持ってきてもらいなさい。お風呂に入れるのを手伝ってもらいなさい。
74.ICUから退室した患者にはその日に一度訪室しなさい。
75.集中治療医としての役割は患者の擁護者となることである。時に唯一の擁護者であることもある。
✔ 示唆的なTips
76.疑わしい場合は手を洗え。
77.自分の患者が手術室でなぜその薬剤を投与されたのか麻酔記録を学びなさい。
78.一般病棟や救急外来にはひとりかふたりはICUに入るべき患者がいるものである。彼らを見つけ出し、ICUにたどり着けるように努力せよ。
79.病院で最も重症な患者はICUにいる。つぎに重症な患者はICUから移送されていく患者である。彼らから目を離すな。
80.看護師や研修医が担当患者について「昨日と変わりがありません」と言ったら、すべての患者は昨日より良くなるか悪くなるかどちらかしかない事を思い出せ。
81.ほとんどの場合、症例プレゼンテーションは5分以下にできる。検査データはできるだけ少なくするようにする。
82.椅子に座り、自分でご飯を食べ、鼻カヌラで酸素化が維持できていればICUから退室する。
83.中毒患者の大部分は助かるが、助からない場合は遅発性毒性作用、誤嚥性肺炎、病院における自殺企図のせいである。
84.燃え尽きを避けるために、重症患者管理以外の診療にも携わるべきである。
✔ ICUの公案
85.重症患者では心臓と肺はひとつのものとして考えるべきである。片方への侵襲はもう片方の臓器への負荷となる。片方に慢性的な障害がある場合、もう片方への侵襲は致命的となることがある。
86.ある臓器に侵襲が加わった時、その経過のはやさで代償が効くかどうかが変わる。一般に慢性的な臓器障害に対しては他臓器はある程度適応できる。
87.ワンポイントの所見よりも経過が重要である。
88.腎機能改善は重症患者が回復していることを示す確かな徴候のひとつである。
89.インフォームドコンセントなどということは通常ありえない。
90.賢明な経済学者がかつて述べたように「データは事実と同義ではない」
91.「事実は情報と同義ではない」
92.「情報は真実と同義ではない」
93.「真実は知識と同義ではない」
94.「知識は英知と同義ではない」
95.ICUで経験を積むことで多くの疑問に応える術を学ぶだろう。これは良いニュースである。悪いニュースは、答えのない疑問がたくさんあり、その数はとどまることなく増えていくことも学ぶであろうことである。無限に続くジグソーパズルで、その瞬間に最適のピースを一時的にはめるようなものだと考えよ。
✔ 集中治療医のための結びの引用
96.老子の「千里の道も一歩から」は複雑な重症患者の管理に当てはまる言葉である。
97.シェークスピアの言葉を心に留めよ。「多くの驚異を聞いたが、中でも最も分からぬのは人びとが怖れることだ。最後は誰も避けられぬ、死ぬときは死ぬのだ」(ジュリアス・シーザーより)
98.ハムレットのホレーショへの助言に注意を払え。「天と地の間には君の哲学で夢想されるよりはるかに多くのものがあるのだ」
99.クロムウェルのスコットランド教会に対する勧告を心に留めよ。「あなたが間違っている事があり得ることを考えてほしい」
100.2500年前にヒポクラテスは記した。「人生は短く、学術の道は長い、機会は逃げやすく、経験は当てにならず、判断は難しい」 今日の集中治療を驚くほど適切に描写した言葉である

2015年2月9日月曜日

クロール負荷は合併症を増やす

Meta-analysis of high- versus low-chloride content in perioperative and critical care fluid resuscitation.
Krajewski ML, Raghunathan K, Paluszkiewicz SM, Schermer CR, Shaw AD.
Br J Surg. 2015 Jan;102(1):24-36. PMID: 25357011


✔ 目的
 高クロール血症は腎灌流量を減らし、免疫機能を低下させ、死亡率上昇と関係している事が示唆されている。これまで晶質液のクロール含有量に着目したメタアナリシスはない。周術期ならびに集中治療におけるクロール負荷量と患者予後の関係を明らかにする。
✔ 方法
 急性疾患や周術期の患者を対象とし、高クロール(111~154 mmol/L)輸液と低クロール(111 mmol/L以下)輸液の効果を比較している無作為化比較試験、症例対照研究、観察研究をすべて含めて検討した。エンドポイントとして、死亡率、腎機能、血清クロール値、高クロール性代謝性アシドーシス、輸血量、人工呼吸管理期間、ICU在室日数、在院日数を検討した。
✔ 結果
 6523人の患者を含む21の研究が見つかった。高クロール輸液は死亡率には影響しなかったが、腎機能悪化(RR 1.64)、高クロール性代謝性アシドーシス発生(RR 2.87)、高クロール血症(MD 3.70 mmol/L)、輸血増加(SMD 0.35)、人工呼吸管理期間延長(SMD 0.15)に関係していた。
✔ 結論
 高クロール輸液は関連は弱いが有意に予後悪化と関係していた。しかし、死亡率を増加させなかった。

結果の要約(文献より引用)
◎ 私見
 この論文の高クロール輸液に該当するのは基本的には生理食塩水のみ(該当した21研究のほとんどが生理食塩水と他の細胞外液との比較)。実際問題としてあまり生理食塩水を使用しないので実感がわきづらいが、全く使わないわけでもないので読んでみた。もともと低ナトリウム・低クロールであったらどうなのかとか、総投与量によって違いがあるのかとか、腎機能障害の既往がある場合はどうなのかとか気になることはある。
 あとは序文に書いてある通り、”蘇生輸液について晶質液と膠質液の比較が盛んに行われてきたが、晶質液としてクロールを多く含む生理食塩水が使われている”場合は結果の解釈に注意が必要、ということか。



2015年2月7日土曜日

VA-ECMOからの離脱方法

Aissaoui N, El-Banayosy A, Combes A.
Intensive Care Med. 2015 Jan 27. PMID:25619488


✔ はじめに
 VA-ECMOは内因性疾患や開心術後、心停止後の難治性心原性ショックの救命に用いられることがある。VA-ECMOからの離脱は「回路除去後に30日間機械的補助を要さないこと」と定義される。
✔ VA-ECMOの予後
 ショックの原因や合併症、臓器不全の重篤度によって差があるが、生存率は31~76%といわれている。心停止、腎不全・肝不全、女性であることはICU死亡の危険因子である。一方、心筋炎は予後良好であることが多い。他の研究では、高齢、再灌流療法が成功しなかった心筋梗塞、腎不全、意識障害、高乳酸血症が独立した危険因子であると報告されている。
 51人を対象とした研究で、収縮期血圧や脈圧、エコーで計測された大動脈のVelocity-time integral (VTI)、左室Ejection fraction(LVEF)、組織ドプラで計測した外側僧帽弁輪Peak systolic velocity(TDSa)が離脱成功を予測する因子であると報告されている。123人の開心術後の患者を対象とした研究では、初期乳酸値とそのクリアランスが離脱成功を予測する因子であるとしている。一方、NT-proBNP、Troponin Ic、Proatrial natriuretic peptide、Proadrenomedullin、Copeptinは予後を予測できなかった。
 VA-ECMO離脱後の多くの患者が病院内で死亡している事を考えると、回路を外してから30日間機械的な補助を要さないことを離脱成功と定義することは妥当である。
✔ いつ離脱を開始するか
 まず、心不全の原因が可逆的であるかどうかの判断が必要である。次に、触知可能な動脈圧が少なくとも24時間は維持され、平均血圧は60 mmHg以上である必要がある。最後に、肺機能障害が重篤ではない必要がある。ECMOの新鮮ガスのFiO2を21%にした時のP/F比が100未満である場合は、VV-ECMOへ変更すべきかもしれない。
 一般的に、72時間以内に離脱できることはまれであるが、薬物中毒やカテコラミン心筋症の場合は早期に離脱できるかもしれない。
✔ どのように離脱するか
 ECMO離脱試験は、送血流量を減らして右室前負荷を増加させ、左室後負荷を減少させた際に心機能の回復がどの程度であるかを評価することで行われる。脈圧の回復した51名の患者でこの方法を検証した。まず、送血流量を徐々に66~33%に減らし、最小1~1.5 L/minとする。もし平均血圧が持続的に60 mmHgを下回った場合は送血流量を元に戻した。38人がこの試験に耐え、20人が離脱できた。離脱できた患者では送血流量を最小にした時のVTI > 6 cm、LVEF > 20-25%、TDSa > 6 cm/secであった。特にTDSaは左室負荷とは独立した心機能の評価指標であり、有用である。
 Cavarocchiらは21人の患者でFour-stage strategyを検証した。ベースライン(Stage 1)、送血流量半減(Stage 2)、最小流量と輸液負荷試験(Stage 3)、昇圧剤負荷試験(Stage 4)を心拍数、血圧、TEEによる両心室機能評価の持続モニタ下に行った。輸液負荷試験に両心室機能が耐えることができ、昇圧剤に良好に反応した場合にECMOから離脱した。心室拡大があったり血圧が低下した場合はベースラインに戻した。興味深いアプローチだが、TEEに伴い鎮静を要することや主観的な心室機能評価がプロトコルに含まれているという問題がある。
 また、最近のケースシリーズでLevosimendanによる前処置が昇圧剤必要量を減らしたとの報告がある。

◎ 私見
 最近、ECMO症例が増えたので、この短いレビューを読んでみた。早期離脱可能な原因として低体温に起因する心停止を付け加えたい。ここでもエコーが有用とのこと。勉強し直さないと。

2015年2月6日金曜日

肺エコーによる肺血管外水分量予測スコア

Simplified lung ultrasound protocol shows excellent prediction of extravascular lung water in ventilated intensive care patients
Philipp Enghard, Sibylle Rademacher, Jens Nee, Dietrich Hasper, Ulrike Engert, Achim Jörres and Jan M Kruse
Critical Care. 2015 19:36


✔ 背景
 肺エコーでBラインを定量することで肺血管外水分量を推定できると言われている。本研究では肺エコーを用いた簡易プロトコルによるスコア化で肺水分量を推定できるかを検証した。
✔ 方法
 集中治療室で人工呼吸管理を受けている15人の患者を対象とした。全例でPiCCOを用いた経肺熱希釈法による肺血管外水分量係数(EVLWI)と肺エコーの結果を比較した。肺エコーは前胸部の左右2カ所ずつ(計4カ所)のBライン所見をスコア化して合計した。肺エコーはお互いの評価結果を知らされないようにした2名の集中治療医によって行われた。さらに、Numerical rating scoreでスコア化した胸部X線写真所見やCVPと肺血管外水分量EVLWIとの相関も調べた。
✔ 結果
 肺エコースコアは経肺熱希釈法によって計測されたEVLWIと有意な相関関係(r=0.91, p<0.0001)を認めた。肺エコースコアの閾値を1.5とすると、EVLWI正常上限を超える状態(>7ml/kg)を感度92.1%、特異度91.7%で診断できた。閾値を18.5とすると、EVLWI>15ml/kgである状態を感度92.3%、特異度94.6%で診断できた。一方で、CVPや胸部X線写真所見はEVLWIと相関関係が無かった。
✔ 結論
 前胸部4カ所の肺エコースコアはEVLWIと相関する。一方でEVLWIを推定するのにCVPや胸部X線写真所見はあまり役に立たない。

◎ 私見
 50例の研究であるとか、肺血管外水分量の測定がどの程度の臨床的有用性があるのかといった議論は置いておいて。侵襲的な検査に頼らずともプロ―べを4カ所胸にあてるだけで肺の水分過剰を調べることができるのは有用だと感じる。面白かったのは、CVPはさもありなんと思うが、胸部X線写真所見も少なくともEVLWIとは関係が無いということ。
 あとは、この肺エコースコアを指標にした治療が患者さんを救えるかどうかの検証が必要。というより、こちらのほうが大事。

2015年2月3日火曜日

酸素療法の功罪

集中治療室で最も多く使用される薬剤のひとつ、酸素。その功罪をまとめた短いレビュー。

Asfar P, Singer M, Radermacher P.
Intensive Care Med. 2015 Jan 30. PMID:25634474



















 「ショック」は酸素需給バランスの異常なので、酸素を高流量で投与することは理にかなっていると考えられているが、活性酸素(ROS)による副作用の危険性がある。VIP(Ventilate-infuse-pump)は重要な蘇生手順である。近年のガイドラインでは換気(Ventilate)における酸素供給量をできるだけ低くするように推奨している。

✔ 酸素供給量の維持
 高濃度酸素を投与しておくことで、気道確保やヘモグロビン減少時の酸素供給をいくらか維持できるかもしれないが、ショックにおける純酸素の効果を調査した研究はない。
✔ 肺への影響
 酸素毒性により、6~25時間純酸素に暴露されると気管支や肺胞に炎症性の変化が起きると言われている。また、換気血流比の低い肺領域では吸収性無気肺が起きることが知られているが、PEEPを付与することで予防できる。
✔ 血管への影響
 純酸素により心拍数は減少して末梢血管抵抗は上昇するため、心拍出量は減少する。この血管収縮作用は脳血管と冠動脈に著しい。さらに、実験的には消化器系に血流を分配し、糖利用を効率的にすすめる作用を持つと言われている。
✔ 急性冠症候群
 AVOID試験によると、高濃度酸素を吸入した患者では梗塞巣が大きくなり、不整脈や再梗塞を起こしやすくなった。蘇生ガイドラインでは、SpO2 94~98%を目標とするように推奨しており、明らかな低酸素血症や呼吸苦、肺うっ血が無ければ酸素投与は不要としている。
✔ 脳への影響(頭部外傷、脳卒中、心肺停止蘇生後)
 理論的には高濃度酸素による血管収縮作用は頭蓋内圧を低下させると考えられる。頭部外傷患者に対し、高圧酸素療法によって頭蓋内圧を減少させて予後を改善させたという報告がある。このように実験やパイロットスタディでは良い結果がでても、臨床研究では脳卒中や脳出血、低酸素性脳症に対しては有害であると報告されている。虚血再灌流障害がその理由なのかもしれない。
✔ 周術期
 高濃度酸素によって創感染を減らすことができると報告されているが、がん患者の2年生存率を悪化させてしまう。
✔ ICU生存率を改善するために適切な酸素分圧は?
 後向き観察研究では死亡率と動脈血酸素分圧にはU字型の関係があると報告されている。

◎ 私見
 少なくとも高濃度酸素が「確実に」良いと証明されたものはないようなので、とりあえずは「ちょうどよい」酸素投与を心がける。ちょうどよい、を定義するのは難しいけど、酸素飽和度90%で!みたいなぎりぎりの設定は大変だから、酸素飽和度97%前後を目標にすることになりそう。