2015年3月22日日曜日

心エコーを用いた心外術後血行動態管理

Echocardiography-based hemodynamic management in the cardiac surgical intensive care unit.
Geisen M, Spray D, Nicholas Fletcher S.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2014 Jun;28(3):733-44. PMID: 24332922


✔ 心臓血管外科術後の血行動態管理
 モニター単独で予後を改善することはできない。Goal-directed therapy(GDT)の効果は限定的である。実際、どのようなGoalが適当なのかを決めることができていない。

✔ 超音波による血行動態評価
 低心拍出量、低血圧、低灌流、高乳酸血症は重篤な病態の前触れであるが、肺動脈カテーテルなどのモニターではこれらの徴候をとらえることができても原因まで明らかにすることはできない。術後合併症として即時に診断して対処が必要なものは、心のう血腫・心タンポナーデ、右室機能不全、左室機能不全、血管拡張性ショック、出血、循環血液量減少があるが、超音波で評価可能である。
 経胸壁エコーは簡便に行えるが、術後ではWindowが狭く、描出不良となることが多い。一方、経食道エコーは術後も有用である可能性があるが、抜管後では鎮静を要する、喉頭浮腫の原因になり得るなどまだその意義は定まっていない。

✔ 血行動態パラメータの評価
・循環血液量
 血圧を目標として輸液負荷がされているが、血圧は循環血液量や組織灌流の指標としては不適当である。近年、輸液反応性の指標が有用であると報告されているが、輸液反応性があるからと言って輸液をする必要があるとは限らないことに注意が必要である。
 LVEDAやLVEDVは循環血液量の状態を示す静的指標であるが、後負荷や心筋コンプライアンスなどによって影響を受けるうえに、正常範囲も広く(LVEDV 80-130ml)、これらを単独で指標とすることはできない。
 パルスドプラ法や組織ドプラ法で計測されるE/A比やE/E'比は左房圧やPAWPと相関すると言われているが、そもそもPAWPは輸液の指標としては妥当ではないことに注意が必要である。拡張能の変化が輸液負荷をやめる指標や昇圧剤選択の指標となる可能性はある。
 術後人工呼吸は循環にも影響を及ぼす。心室中隔シフトは肺高血圧や高い換気圧を使用している患者で有用である。
 左室流出路で計測されるVelocity time integral(VTI)の呼吸性変動は輸液反応性を知る指標となる。「VTI変動率12%未満」の「輸液負荷による心拍出量増加」に対する陰性的中率は100%である。100mlの膠質液を1分間で輸液負荷した際にVTIが10%以上増加した時、輸液反応性に対する感度は95%、特異度は78%と報告されている。これらの動的指標は自発呼吸がなく比較的多めの換気量を設定し、かつ不整脈が無い場合で有用であるため、その使用には注意が必要である。また、後負荷増大による右室機能不全でも変動率が多くなり、このような場合は輸液負荷はかえって状態を悪化させてしまう。
 上大静脈や下大静脈の呼吸性変動をみる方法もあるが、これらも腹圧が上昇していたり不整脈があったり自発呼吸がある患者では有用性が検討されていない。
 受動的下肢挙上(PLR)は可逆的輸液負荷試験である。PLRの最中に心拍出量が増加するか超音波で確認する。自発呼吸がある患者でも使用できるが、これはつまりSVVや大静脈の呼吸性変動と組み合わせることができないという意味でもある。
・心収縮能と心拍出量
 視覚的に収縮能を判断する。Mモードで計測されるFSやFAC、EFを使用して心拍出量を定量する。僧帽弁逆流波形からdP/dt maxを計測する。これは心収縮能を示す指標となる。一回拍出量を左室流出路のVTIから計測し、心拍数とかけることで心拍出量を定量することができる。
 右室機能を計測することもできるが、FACやEFはその形態学的特徴から計測が困難である。心室中隔シフトから右室圧の上昇・輸液過負荷を知ることができる。またTRPGから肺動脈収縮期圧を知ることができる。TAPSE<16mmは右室機能不全を示唆する。三尖弁逆流波形からdP/dtを計測することもあるが、左室と異なり1m/sと2m/sの二点を用いる。
 術後の心タンポナーデは局在する血栓による心腔圧迫で生じることがある。超音波でなくては診断できない。
 動的左室流出路閉塞は僧帽弁修復術や重度の心肥大がある患者で重要となる合併症である。前者は手術室の中で気付かれることがほとんどである。

アルゴリズムの一例(文献より引用)
◎ 私見
 術後管理を行う上でもエコーは有用。ただし、やはり練習は必要だし、得られた所見を正しく判断して正しい介入に結びつけなくてはならない。あらゆるモニターの持つ宿命ですね。

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