2020年2月28日金曜日

質の高い低体温療法/平熱維持療法を行うために

Taccone FS, Picetti E, Vincent JL.
Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6. doi: 10.1186/s13054-019-2721-1.  PMID: 31907075

背景
蘇生後の目標体温管理療法(TTM)は、TTM trial(NEJM 2013)の結果を受けて平熱維持が増えている。しかし、TTM trialには患者背景の異質性、蘇生時間が短すぎる点、TTM導入の遅さと復温の速さなどの問題点も指摘されており、実際、HYPERION study(NEJM 2019)において33℃に冷却したほうが予後が良いという結果であった。TTMについてはまだ議論の余地があり、臨床においては様々な”やり方”が横行している。臨床研究を行ってTTMの効果を検証するためには、まず正しい”やり方”を定義すべきではないか?

質の高いTTMとは?
開始時期:
虚血再灌流障害の軽減という観点からはできるだけ早期にTTMを開始することが望ましいが、冷却輸液を用いた早期冷却は有効ではない。一方、経鼻デバイスを蘇生中から用いた場合は有効との報告がある
体温測定:
膀胱温、食道温、血液温のような深部体温を指標にすべきである(実際の脳温はこれよりも0.4~2.0℃高いという研究があるが)。口腔温、腋窩温、直腸温は避ける。また、体温は持続的に測定して変動をできるだけ小さくすべきである
目標体温:
依然として何℃が最もよいのかはわかっていないが、厳密にコントロールする方が良いのは間違いなさそう。議論はあるが、出血、血行動態不安定などの問題点がある場合は36℃などの平熱を、長時間のCPR、痙攣、脳浮腫などの神経学的問題がある場合は33℃のような低い体温を目標にした方が良いかもしれない
冷却期間:
最低でも24時間は続けるべきである。24時間と48時間では神経学的予後に有意な差が無いが長時間の方が5%改善してはいる。新生児における長時間冷却(72時間など)や48時間以上のTTMで合併症が特に増えるわけではないという報告もある。いずれにしろ、TTMを短時間にとどめることはしない
復温速度:
専用の体温調節デバイスを用いてできるだけゆっくり(0.15~0.25℃/hr)復温すべきである。”Post-TTM fever”は有害だと言われており、患者の状態に応じて(目が覚めるなら短時間、脳損傷の証拠があるなら長時間)復温修了後48時間は体温を慎重に調節すべきである

質の高いTTMを行うために
鎮痛鎮静:
シバリングの抑制は重要である。薬剤の蓄積を考えると短時間作用型の薬剤(プロポフォールやレミフェンタニルなど)が好ましいがプロポフォールは血行動態に与える影響が大きい。鎮痛鎮静薬はTTM開始時に投与を始め、平熱になってから中止すべきである。平熱時にシバリングが起きた場合は鎮痛薬や少量の鎮静薬、マグネシウム、α2アゴニストで対処する。アセトアミノフェンやNSAIDsはTTMの最中にはあまり意義が無いが平熱復温後の体温管理には使用できる。筋弛緩薬はTTMにおいて体温管理を容易にし、特に高用量の鎮痛鎮静薬を使用してもシバリングを抑制できないような場合に有用である。Bedside Shivering Assessment Scale(BSAS)のような指標を用いることも考える
デバイス:
アイスパッドやアイスパックのような方法ではなく、専用の体温フィードバック機構を備えたデバイスを用いるべきである

◎私見
TTMに限らずICUで行われる介入の質の管理は、集中治療医にとって重要な職務だと考えている。人工呼吸器の設定を変える、輸液の指示を出すといった基本的な営為もそう。それこそが我々の存在意義だと思う。

2020年2月23日日曜日

鎮痛鎮静薬と非同調

de Haro C, Magrans R, López-Aguilar J, Montanyà J, Lena E, Subirà C, Fernandez-Gonzalo S, Gomà G, Fernández R, Albaiceta GM, Skrobik Y, Lucangelo U, Murias G, Ochagavia A, Kacmarek RM, Rue M, Blanch L; Asynchronies in the Intensive Care Unit (ASYNICU) Group.
Crit Care. 2019 Jul 5;23(1):245.  PMID: 31277722

人工呼吸管理中の非同調は、オピオイド単独の鎮痛鎮静によって減少するのかどうかを検証した前向き観察研究。79名の患者から記録したのべ14,166,469回の呼吸を解析。鎮静薬単独投与時、オピオイド単独投与時、鎮静薬オピオイド併用時の間で有意差は無いものの、鎮静薬単独投与時は鎮静薬オピオイド併用時に比べて非同調が多い傾向があった。鎮静薬を大量に投与すればするほど鎮静深度が深くなりDouble cycling(DC)が減った。オピオイドと併用している鎮静薬投与量を増やすとIneffective inspiratory efforts during expiration(IEE)が増えてAsynchrony index(AI)が増加した。一方でオピオイド投与量を増やすと鎮静深度にはそれほど影響を与えずに非同調が減少した。鎮静薬はオピオイドに比べて非同調を減らさない。オピオイドは意識障害をきたすことなくAIを減らせる。鎮静薬を増やして減らせるのはDCのみ。

◎私見
非同調を減らしたければオピオイドを増やした方が良さそう。鎮静薬で抑え込むのではなくオピオイドで「覚醒しているが静穏」な状態を目指す。でも、どうしても患者さんを寝かせたいという医療従事者は依然として多く、「眠らない」という理由で鎮静薬が増量されているのを頻繁に目にする。非同調という観点から 鎮痛優先を説くのもありかもしれない。

2020年2月19日水曜日

頭部外傷に対するトラネキサム酸の投与は妥当か?

Taccone FS, Citerio G, Stocchetti N.
Intensive Care Med. 2019  PMID:31820035

CRASH-3 trial(Lancet 2019)では、単独頭部外傷患者に対する受傷早期(3時間以内)のトラネキサム酸(TXA)投与の効果を検証したRCTだが、28日死亡率には有意な差は無かった(19.8% vs 18.5%、RR 0.94)。しかし、軽度~中等度の頭部外傷患者に限ってみると有意に死亡率が減少していた(R 0.75、95%CI 0.64-0.95)。
これをもって頭部外傷においてTXAは極めて有効であるとの言説が認められるが問題がある。そもそもサブグループ解析の結果でそこまで言えるのかどうか疑問であるし、All-cause mortalityをHead injury-related mortalityと解釈するのも問題である。研究の途中でプロトコルが変更されて多くの患者が除外されるに至っているし、機能障害には両群で差が無い(いつ機能障害を評価したのかもわからない)。血栓症に差が無かったとしているが明らかな血栓症のみを調べており実際の血栓形成を過小評価している可能性がある。GCS 13-15の軽度頭部外傷患者の背景が不明だし、もともと軽度と中等度を合わせて解析する計画ではなかった。TXAの機序に関するアウトカムデータ(血腫の量や凝固機能)についての報告もない。
ではどのように考えればよいか。まず、TXAは重度頭部外傷には推奨されないだろう。一方で軽度頭部外傷でもCTで出血があればTXA投与が正当化されるかもしれない。中等度頭部外傷(GCS 9-12)ではタイミングと瞳孔反応が許せばTXAを投与してよいだろう。

◎私見
TXAの神経毒性が心配で頭部外傷では使いづらいのではないかと思っていたが、CRASH-3でその懸念は無さそうだということが分かって安心していた。では、本来期待している作用である出血の抑制と死亡率の低下についてはどうかというと、あまり期待できるものではないのではないかというのが正直なところ。ICU入室する頭部外傷患者は軒並み重症だからだという理由もあるのだが、そのあたりのことを明確に解説したEditorial。こういうのは読んでいて面白い。

2020年2月12日水曜日

PIICSを判定するCRP値は?

C‑reactive protein clustering to clarify persistent inflammation, immunosuppression and catabolism syndrome
K Nakamura, K Ogura, H Nakano, et al
Intensive Care Med 2020

ICU患者は、ときに炎症が遷延し在院日数が伸びることがある(Persistent inflammatory, immunosuppressed, catabolic syndrome; PIICS)。PIICSを診断するためのCRPのカットオフを検討した。
5513人の入室患者から14日以上入院した539人を解析対象として抽出。14日目のCRPを解析して7つのクラスタに分類した。PIICSと判定するCRPのカットオフは3.0mg/dlであった。PIICSクラスタは退院時のBarthel index、アルブミン値、14日目のリンパ球数が有意に低かった。入院時のCK、アンチトロンビン活性、トロンボモジュリンはPIICSの独立したリスク因子であった。

*PIICS
慢性重症疾患Chronic critical illness(CCI)が知られているが、そのなかには遷延する炎症、持続する臓器不全、免疫抑制と異化に特徴づけられるPIICSが含まれていることが分かってきた。以下のような基準が低用されているが、これらはエビデンスに基づいた閾値ではない
14日以上の入院、CRP>0.15mg/dl、リンパ球数<800/㎜3、入院中の10%を超える体重減少もしくはBMI18未満への減少、アルブミン<10mg/dl、Retinol結合蛋白<10μg/dl

◎私見
PIICSについて少し調べていたところに発表された日本発の研究。
「なかなかすっきりよくならない」とあいまいに見られていた患者に名前がつくことで治療方法などが検証されやすくなる。”名づける”(≒定義づける)ことが観察研究の意義のひとつなのだと思う。

2020年2月8日土曜日

ARDSにデキサメタゾンは有効かもしれない

【DEXA-ARDS study】
Dexamethasone treatment for the acute respiratory distress syndrome: a multicentre, randomised controlled trial
Jesús Villar, MD , Carlos Ferrando, MD, Domingo Martínez, MD,Alfonso Ambrós, MD
Tomás Muñoz, MD, Juan A Soler, MD et al.
Lancet Respiratory Meidicne
February 07, 2020  DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30417-5

ARDSに対してステロイドが有効かどうかについては相反する報告があるため検証した。スペインの17のICUにおいて中等度~重度ARDS(P/F≦200かつPEEP≧5 OR FIO2≧0.5 OR ARDS発症から24時間以上)と診断された277人の患者を対象とし、デキサメタゾン(20mg/dayを5日間+10mg/dayを5日間)群139人と通常治療群138人に無作為に割り付けた。予定症例数の88%を組み込んだところで患者登録に時間がかかっているという理由で試験は中断された。デキサメタゾン群はVFDが大きく(群間差 4.8)、60日死亡率が低く(21% vs 36%)、副作用に差はなかった(高血糖 76% vs 70%、新規感染症 24% vs 25%、圧損傷 10% vs 7%)。

◎私見
2013年から始まっている研究で、途中で中断しているとはいえ9割近い症例数を集めることができている。これで微妙な結果だったら注目しないが、予想外にステロイド投与群の予後が良かった。現環境では抄録しか読むことができず患者背景が不明だが、外的妥当性が十分ならステロイド投与を考慮しても良いのかもしれない。

2020年2月6日木曜日

敗血症のタイプとステロイド

Antcliffe DB, Gordon AC.
Crit Care Med. 2019 Dec;47(12):1782-1784. PMID:31162195

敗血症は発現しているRNAによって二つのタイプに分けられる(Sepsis response signature (SRS) 1とSRS 2)。SRS1はSRS2に比べて免疫抑制と死亡率の高さで特徴づけられる。
敗血症性ショックにおけるHydrocortisoneの効果をみると、SRS1では死亡率がほとんど変わらず(OR 0.85)、SRS2では死亡率が悪化する(OR 7.9)。血圧はSRS1にしろSRS2にしろ上昇傾向になる。ADRENAL study(90日死亡率28%)ではステロイドの効果が証明できず、APROCCHSS study(90日死亡率46%)では有効であったという過去の研究はこのタイプの違いによって説明できるかもしれない。
ステロイドには糖質コルチコイド作用と鉱質コルチコイド作用があり、それぞれ免疫・代謝調整作用とNa・水貯留作用を有する。Hydrocortisoneは1:1の割合でそれぞれの作用を持つ。SRS2では免疫機能がある程度正常なので免疫抑制作用のある薬剤より鉱質コルチコイド作用がメインのFludrocortisoneによる心血管系作用を期待するのが良いかもしれない。

◎私見
こうやって自分の意見を開陳してくれる先輩にめぐまれなかった自分としては、このような文献はありがたい。正しい、誤っている、どちらにしろ考えるきっかけになるから。
ステロイドを敗血症性ショックだからとむやみに使ってはいけないということを示しているのだが、では、この二つのタイプをどうやって簡便に見分けることができるか。

2020年2月3日月曜日

低体温療法と心電図変化

Khan JN, Prasad N, Glancy JM.
Europace. 2010 Feb;12(2):266-70. PMID:19948565

偶発性低体温症ではQT時間が延長することが知られているが、低体温療法でもそうなのかどうかを4名の心停止患者で調査。いずれも低体温療法導入に伴ってQT時間が延長し、復温後に元に戻った。体温とQT時間には逆相関の関係があった。


Mirzoyev SA, McLeod CJ, Bunch TJ, Bell MR, White RD.
Resuscitation. 2010 Dec;81(12):1632-6. PMID:20828913

低体温療法が低カリウム血症と不整脈に関連するかどうかを検討した院外心停止患者94人を対象とした後ろ向き研究。冷却開始10時間後にカリウムは平均3.9→3.2mEq/Lに低下した。11人に多形性心室頻拍(PVT)を発症し、そのうち8人は冷却期に発生た。QT時間も冷却に伴って延長した。低カリウム血症はPVTの発症と有意に関連しており、血清カリウム値が2.5未満で発症する可能性が最も高かった。リバウンドで高カリウム血症になる患者はいなかった。低体温療法中のカリウムは3.0以上に維持することが推奨される。


Nishiyama N, Sato T, Aizawa Y, Nakagawa S, Kanki H.
Am J Emerg Med. 2012 May;30(4):638.e5-8.  PMID:21459539

先天性QT延長症候群のある患者の蘇生後に低体温療法を導入したところ、QT時間がさらに延長したがTdPなど不整脈の再発は無かった


Lam DH, Dhingra R, Conley SM, Kono AT.
Clin Cardiol. 2014 Feb;37(2):97-102. PMID:24515670

低体温療法による心電図変化が院内死亡に関連するかどうかを検討した101人を対象とした後ろ向き研究。低体温療法に伴ってPRおよびQT間隔が延長し、心拍数・QRS間隔が減少た。対象症例のうち45人が死亡したが、生存者と非生存者では、心拍数、PR、QRS、QT時間に差は無かった。低体温に伴ってQT時間が短縮したものもいたが、延長したものと比較して死亡率には差が無かった。初期心電図で右脚ブロックがある患者は死亡率が高かった(OR 4.1)


Salinas P, Lopez-de-Sa E, Pena-Conde L, Viana-Tejedor A, Rey-Blas JR, Armada E, Lopez-Sendon JL.
World J Cardiol. 2015 Jul 26;7(7):423-30.  PMID:26225204

低体温療法に伴う心電図変化を検証。心拍数は平均19低下し再加温により16上昇。PR間隔の有意な延長はなく再加温により減少。QRS幅は延長し再加温で短縮。QT時間は平均58msec延長し細管により22.2msec短縮。J波は21.3%に認めた。新規不整脈は38.3%で発生し、その頻度は非持続性心室性頻拍(19.1%)、重度徐脈/ペースリズム(10.6%)、房室結節促進伝導(8.5%)、心房細動(6.4%)であった。致死的な不整脈は無かった。


Dietrichs ES, Tveita T, Smith G.
Cardiovasc Res. 2019 Mar 1;115(3):501-509.  PMID:30544147

低体温(治療的・偶発的)の心臓電気生理に与える影響を調査したレビュー。QT時間は延長するがQRS間隔よりも温度の低下に影響されやすいようである。重度の低体温になると催不整脈性が出現する。J波は低体温症例で常に認められるわけではない。低体温症における抗不整脈薬の有効性に関する臨床データはほとんどないが、実験データによるとクラスIII抗不整脈ブレチリウムなどの一部の薬剤が有効かもしれない。いずれにしろQTを延長させる可能性がある薬は避けるべきである。


◎私見
低体温療法が循環に与える影響とは具体的に何があるのかを知るために、心電図変化に注目していくつか研究をピックアップ。QT時間が延長することは重要だが、必ずしも予後を悪化させるわけでは無さそう。

2020年2月1日土曜日

重症筋無力症と呼吸器離脱

Liu Z, Yao S, Zhou Q, Deng Z, Zou J, Feng H, Zhu H, Cheng C.
J Int Med Res. 2016 Dec;44(6):1524-1533.  PMID:27856933

重症筋無力症クリーゼを発症した33名の患者の76のエピソードについて、早期抜管(7日以下)と長期呼吸管理(15日以上)に関連する因子を後ろ向きに検討。血漿交換は早期抜管に関与する因子であった。男性、高齢(50歳以上)、無気肺、人工呼吸器関連肺炎は長期呼吸管理の危険因子であった。


Seneviratne J, Mandrekar J, Wijdicks EF, Rabinstein AA.
Arch Neurol. 2008 Jul;65(7):929-33.  PMID:18625860

重症筋無力症クリーゼを発症した40名の患者の46のエピソードについて、抜管失敗(再挿管、気管切開、挿管中の死亡)ならびに再挿管に関連する因子を後ろ向きに検討。抜管失敗は44%、再挿管は26%に認められた。男性、繰り返すクリーゼ、無気肺、10日以上の挿管期間は抜管失敗の危険因子であった。低いpH、低いForced vital capacity、無気肺、抜管後のBIPAP使用は再挿管の危険因子であった。無気肺は両者に関与する強い因子であった。抜管失敗も再挿管も、長期ICU在室ならびに在院と関連していた。


Rabinstein AA, Mueller-Kronast N.
Neurocrit Care. 2005;3(3):213-5. PMID:16377831

重症筋無力症クリーゼを発症した20名の患者の26のエピソードについて、抜管失敗(再挿管、気管切開)に関連する因子を後ろ向きに検討。抜管失敗は27%に認められた。再挿管までの時間の中央値は36時間だった。高齢、無気肺、肺炎は抜管失敗の危険因子であった。抜管失敗した症例はICU在室日数や在院日数が有意に長かった。


◎私見
無気肺や肺炎を合併すると抜管は難しくなると言えそう。こういったものを起こさないように丁寧に管理するともしかすると抜管失敗を減らせるのかもしれない。ただし、これらは呼吸筋力を評価しているわけではなく、肺実質が回復過程にある呼吸筋力でも耐えうるような状態になっているかどうかを示すものに過ぎないことに注意が必要。徒手筋力テストや換気メカニクス、呼吸仕事量、呼吸筋のエコーによる評価で呼吸筋力そのものを評価し、抜管失敗を予想できないものだろうか。

PEEPの決め方

Rezoagli E, Bellani G.
Crit Care. 2019 Dec 16;23(1):412. PMID:31842915

ARDSでは虚脱する肺領域が存在するため、PEEPを付与することで呼気終末肺容量End-expiratory lung volume(EELV)が大きくなり、呼吸器系コンプライアンス(Crs)が改善し、換気駆動圧(DP)が減少する。現在のガイドラインでは中等度~重度ARDSにおいては高めのPEEPが推奨されているが、絶対値が示されているわけではないが、ここではDPと酸素化を指標にして血行動態が許す限りPEEPを高くするアプローチをとる方法を紹介する。

① 換気駆動圧DP
PEEPを高くするにつれてCrsは改善するが、過膨張が生じると逆に悪化するであろうことを利用する。換気量を一定にした状態でPEEPを増やし、DPが減少するのであればリクルートメントが生じていると判断する。この方法がうまくいくかどうかを判断する目的で軽度のリクルートメント手技(Diagnostic RM)を行うこともある(40cmH2O×20秒など)。PEEPを増やしてCrsが減少する(DPが増加する)ようであれば過膨張が生じていると判断し、PEEPもしくは一回換気量を減じる。
② 酸素化
P/Fは肺がリクルートされたかどうかの指標にはなり得ないが、PEEPによって酸素化が改善した症例の予後が良いとの報告もあるため酸素化はモニタする。PEEPによって酸素化が改善しなかった場合は吸入酸素濃度を増やす。PEEPを増やしたことによってPaCO2が増大する場合は過膨張が示唆される危険なサインである。

Electrical impedance tomography(EIT)が使用できる場合は、以下のようにPEEPを設定する。まずDiagnostic RMを行いリクルートメントが有効かどうかを判定する。次いでPEEPを2cmH2Oずつ増やしながらEELVが安定するレベルをEITで検索する。食道内圧を用いて調整をすることもある

RM+高いPEEPが死亡率を増やすという報告もある(ART trial)。しかしこの研究はPEEPを増やしたことがDPを減らしたかどうかを検討していない、循環不全をきたすほどのRM、ベストPEEPに2cmH2O上乗せしたことが局所的に過膨張を引き起こした可能性などの問題があるため自分たちの方法とは異なる。


◎私見
もちろんこれは個人の(この施設の)やり方に過ぎないのですべての症例に推奨すべきものではないが、PEEPなんてとりあえず上げときゃいいんでしょみたいなやり方に比べればはるかにまし。
なかなかうまく言えないが、強固なエビデンスがない=どうでもよいということではないことを研修医の先生たちのはしっかりと理解してもらいたい。そんなの当たり前だと思うかもしれないが、実際は”どうでもよい”やり方で患者さんを治療している人が多い気がしている。