2015年8月30日日曜日

抜管失敗率と予後

Clinical outcomes associated with high, intermediate, and low rates of failed extubation in anintensive care unit.
Kapnadak SG, Herndon SE, Burns SM, Shim YM, Enfield K, Brown C, Truwit JD, Vinayak AG.
J Crit Care. 2015 Jun;30(3):449-54. PMID: 25746585


✔ 背景
 抜管失敗は人工呼吸管理患者の予後悪化と関係しているため、予定抜管の失敗率は高くない方が良いと考えられている。しかし、抜管失敗率が極端に低いと、人工呼吸離脱を過剰に遅くしている可能性があり、やはり望ましくないと考えられている。そこで、予後と抜管失敗率の関係を調査し、もっとも適している抜管失敗率を明らかにするために調査を行った。
✔ 方法
 1395回の抜管を対象として調査した。月毎の抜管失敗率を計算して三分割し、それぞれの非人工呼吸期間(Ventilator free days; VFD)、非ICU在院日数(ICU free days; IFD)、死亡率を比較した
✔ 結果
 抜管失敗率は低率(<7%)、中率(7~15%)、高率(>15%)に分割された。VFDはそれぞれ、11.8、12.1、9.9で低率群と高率群で有意差があった。IFDはそれぞれ10.5、10.7、9.0で低率群と高率群で有意差があった。Post hoc解析では中率群と高率群も有意な差を認めた。死亡率は三群間で有意差はなかった(31.0%、31.9%、37.6%)
✔ 結論
 少なくとも高率の抜管失敗率は避けるべきであることが判明した。低率よりも中率がより人工呼吸管理としては有用かもしれない。

◎ 私見
 なんだか全体の死亡率が高すぎる気がするが…。抜管失敗(再挿管や気管切開)が高すぎるのも低すぎるのもよくないのではないかという疑問に端を発した研究だが、単施設の月毎の比較なので解釈が難しい。抜管に対する施設毎の考え方の違い(どんどん抜いてしまう施設と石橋を何度も叩いてから抜く施設)を比較しないと意味が無いのではないだろうか。
 ところで、抜管失敗率とか死亡率とか、月毎にしっかりデータをまとめている施設ってどれくらいあるのだろう。

2015年8月28日金曜日

もともと心房細動の患者は予後が悪いか?

Pre-existing atrial fibrillation and risk of arterial thromboembolism and death following pneumonia: a population-based cohort study.
Gamst J, Christiansen CF, Rasmussen BS, Rasmussen LH, Thomsen RW.
Crit Care. 2015 PMID: 25398678


✔ 背景
 もともと心房細動の既往のある患者はICU入室後の予後が悪くなるのかどうかはよくわかっていない。
✔ 方法
 2005~2011年にデンマークでICUに入室した患者57,110人を対象として解析した。もともと心房細動のある患者(AF)とそうではない患者で血栓症や30日死亡率、365日死亡率を比較した。さらに、年齢、性別、併存心疾患、ICUにおける治療で層別化して同様の検討を加えた。
✔ 結果
 5,065人(9%)が入室時にAFであった。AF群は年齢が高く(75 vs 62)、併存疾患が多かった。心房血栓症は30日時点ではAF群の2.8%で認められ、非AF群の2.0%で認められた。365日の時点ではAF群の4.3%、非AF群の2.9%に認められた。30日目の調整相対危険度は1.14、365日時点では1.20であった。30日死亡率は27%と16%であり、調整相対危険度は1.04であった。365日死亡率は40.9%と25.4%であり、調整相対危険度は1.03であった。層別解析では、55歳未満においてAFは有意に死亡率を上昇させていた(30日死亡率 調整相対危険度1.73、365日死亡率 調整相対危険度1.34)。人工呼吸管理患者のみで検討しても、AFは予後を悪化させていた。性別や併存心疾患の有無で層別化してもAFによる予後悪化傾向はなかった。
✔ 結論
 心房細動がもともと存在している場合、血栓症のリスクが上がるが死亡率についてはそれほど影響していない。ただし、55歳未満や人工呼吸管理中の患者では予後を悪化させる可能性が示唆される

◎ 私見
 もともと心房細動だからといってそれほど恐れる必要はなさそう。しっかり予防して血栓症を防ぐ努力は一段と必要となるだろうが。比較的若いのに心房細動、というパターンは要注意。

2015年8月26日水曜日

VAEの疫学

Ventilator-Associated Events: Prevalence, Outcome, and Relationship With Ventilator-Associated Pneumonia.
Bouadma L, Sonneville R, Garrouste-Orgeas M, Darmon M, Souweine B, Voiriot G, Kallel H, Schwebel C, Goldgran-Toledano D, Dumenil AS, Argaud L, Ruckly S, Jamali S, Planquette B, Adrie C, Lucet JC, Azoulay E, Timsit JF; OUTCOMEREA Study Group.
Crit Care Med. 2015 Sep;43(9):1798-806. PMID: 25978340


✔ 背景
 CDCは人工呼吸患者のサーベイランスのためにVentilator associated conditions(VAC)とInfection-related ventilatro associated complications(IVAC)からなるVentilator associated events(VAE)を提唱した。VAEの疫学とVAPとの関係、抗菌薬消費量や人工呼吸管理機関への影響を調査した。
✔ 方法
 フランス多施設前向きデータベース(OUTCOMEREA)を使用。5日以上連続して人工呼吸管理を受けた患者を対象として、CDCの提唱する定義に若干の修正を加えてVAEを抽出した。
VACとIVAC(文献より引用)
✔ 結果
 3,028人の患者のうち、2,331人(77%)に少なくとも1回のVACが認められ、869人(29%)にIVACを認めた。原因が多岐にわたるもの、原因不明のものも多く認められたが、最も多いVACとIVACの原因は院内感染(それぞれ27.3%、43.8%)であり、VAPはそれぞれ14.5%、27.6%に認めた。VACのVAP診断の感度は92%、特異度は28%であった。IVACのVAP診断の感度は67%、特異度は75%であった。VACやIVACとVAP発生には良い相関が認められた。28日目における抗菌薬と人工呼吸管理を要しなかった日数を比較したところ、何らかのVAEが認められなかった患者ではこの日数が有意に長くなっていた。VACとIVACは抗菌薬消費量と有意に相関していた。
✔ 結論
 VAEはリスクのある患者群で比較的多く認められており、抗菌薬消費量増大と関係しており、質改善プログラムにおける有用なサロゲートマーカとなり得る。

◎ 私見
 対象としているのが「5日以上人工呼吸管理を行っている」患者なので、もともとかなりリスクの高い患者であることは注意しなくてはならない。当施設でもVAEサーベイランスが始まっているが、まだ臨床に還元されていない。調査して還元するって集中治療医の存在意義のひとつではないかとも思う。

2015年8月24日月曜日

グルタミン経腸投与の効果(メタ解析)

Enteral glutamine supplementation in critically ill patients: a systematic review and meta-analysis
Arthur R. H. van Zanten et al
Crit Care 2015

✔ 背景
 グルタミン(GLN)は重症患者の予後に良い影響を及ぼすと考えられてきたが、近年の大規模研究では有害であるとの報告もされている。GLNの静脈投与に関するシステマチックレビューはあるが経腸投与に関するレビューはない。
✔ 方法
 1980年から2014年までに行われた、重症成人患者に対してGLNを経腸投与した研究を対象とした。静脈投与単独、ないし静脈投与との併用をしていた研究は除外した。熱傷と外傷についてはサブグループ解析を行った。
✔ 結果
 11研究(1079人)が対象となった。GLN投与は在院に死亡率を変化させず(RR 0.94)、感染症併発率を変えず(RR 0.93)、ICU在室日数も変えなかった(-1.36日; P=0.74)。しかし、在院日数は有意に短縮した(4.73日; P=0.02)。熱傷患者では在院死亡率を減らし(RR 0.19)、在院日数を短縮した(-9.16日)が、外傷患者ではこのような差は見られなかった
✔ 結論
 GLNの経腸投与は在院日数以外には影響しない。熱傷患者では有意な予後改善効果がある。

◎ 私見
 熱傷に対しては良いかもということだが、サブグループに含まれた3つの研究はいずれも100人未満の小規模研究なので解釈には注意を要する。そもそも、経腸投与では良くて静脈投与では予後を悪化させるというのがよくわからない。熱傷にグルタミン。たぶん使わないだろうな…

2015年8月20日木曜日

気管挿管中のHFNCは危険かもしれない

High-Flow Nasal Cannula to Prevent Desaturation in Endotracheal Intubation: A Word of Caution.
Papoff P, Luciani S, Barbàra C, Caresta E, Cicchetti R.
Crit Care Med. 2015 Aug;43(8):e327-8. PMID: 26181134


Miguel-MontanesらのHFNCで気管挿管中の低酸素を予防できるという研究(CCM2015;43:574-583)に対するLetter

✔ Miguel-Montanesらは軽度~中等度の低酸素患者の気管挿管でHFNCは非再呼吸式リザーバ付酸素マスクに比較して気管挿管中の低酸素を予防して有用であると報告した。Discussionの中で「より重症の患者を対象としていないが、この方法はそのような患者でも有用であろう」とコメントしている。我々は軽症~中等度の低酸素の患者では有用であることに異論はないが、より重症の患者ではHFNCは危険ではないかと考えている。
 まず、Miguel-Montanesらは気管挿管前の肺疾患の重症度をP/Fのみで評価しており、HFNCやNIVを使用している患者を含んでいないなど問題がある。HFNCをもともと使用していた患者では気管挿管中の低酸素を予防できなかったのではないかと推測している。PEEPを用いずに前酸素化をすることの難しさはMortらが報告しているとおりである。Engstromらも動物実験で同様の報告をしているし、NielsenらもPEEPを20cmH2Oかけないと無気肺に陥った肺を前酸素化することはできないと報告している。HFNCはPEEPと同様の効果を持つと言われているが、5cmH2Oを超えることはほとんどない。
 次に、我々の乳児を対象とした研究の結果がある。健康な乳児ともともと酸素化が障害された状態の乳児とではHFNCの効果に大きな違いがあることが判明した。小児と成人とでは異なるともいえるが、この観点は今後の研究を進める上で重要な意味を持つと思われる。

◎ 私見
 Miguel-Montanesらの回答も載っており、興味深い議論でした。どちらの意見が正しいかというより、このLetterに示されている「同じ疾患でも重症度(進行度)によって病態生理が異なるのだから、治療の有効性も違うだろう」という考え方が重要と思った。当たり前のことなのに、意外と無視されていたりする。

2015年8月18日火曜日

溺水蘇生後の小児の神経学的長期予後

Neurocognitive long term follow-up study on drowned children.
Suominen PK, Sutinen N, Valle S, Olkkola KT, Lönnqvist T.
Resuscitation. 2014 Aug;85(8):1059-64. PMID: 24709615


✔ 背景
 溺水で心肺停止となった小児の長期予後についてはほとんど報告が無い。本研究では、溺水に起因する心肺停止蘇生後の小児の神経学的予後を明らかにすることを目的としている。
✔ 方法
 1985年~2007年に溺水から心肺停止となるもCPRによって自己循環が再開し、PICUに入室した40人の患者を対象とした。このうち、21人から神経学的診察の同意を得た。
✔ 結果
 21人の溺水時の年齢の中央値は2.4歳、神経学的評価を受けたときの年齢の中央値は12.5歳であり、溺水から評価までの期間の中央値は8.1年であった。12人(57.1%)の患者に軽度~重度の神経学的機能障害を認めた。8人は全検査IQが80未満であった。全検査IQが正常であった群と低下していた群を比較したところ、水没時間に有意差を認めた(3.5分 vs 12.5分)。
✔ 結論
 57%に神経学的異常を認め、40%にIQの低下を認めた。溺水蘇生後の小児においては長期的な神経学的評価が重要である。
◎ 私見
 水没時間が予後規定因子であった。その他、BEが低かったり血糖が高いのもよくないサインである可能性がある。最初の体温が低いと「脳保護に良いかも」と言う人がいるが、水没時間が長い事を示す悪い徴候かもしれないと指摘しておく。

2015年8月16日日曜日

EFが大きすぎても予後が悪い

Hyperdynamic left ventricular ejection fraction in the intensive care unit
Joseph R. Paonessa et al.
Crit Care 2015;19:288

✔ 背景
 左室過剰運動(Hyperdynamic left ventricular ejection fraction; HDLVEF)の病因、頻度、臨床的意義に関する情報はほとんどない。本研究ではHDLVEFの特徴と予後を調査した。
✔ 方法
 単施設後向き研究。心エコーを行われた成人患者を対象とした。EF>70%をHDLVEFとした。EF<55%であった患者は除外した。
✔ 結果
 HDLVEFの頻度は8.6%であった。EFが正常であった患者と比較し、HDLVEFでは女性、高齢、高血圧・悪性腫瘍の既往が多かった。多変量解析の結果、HDLVEFは28日死亡率上昇の独立した危険因子であった(OR 1.38)。
✔ 結論
 HDLVEFは死亡率を上昇させる因子である。どのような治療介入に影響するのか、また、薬物学的修飾を行うと予後が改善するのかどうかは今後の研究課題である。
重症度・検査結果・治療介入の比較

◎ 私見
 血液分布異常にみられる、という印象の強いHDLVEF。重症患者では時折認められる所見の様子。対象がEchoを要した患者なので、真のICU患者を代表していない可能性が高いのが問題。ともあれ、中心静脈血酸素飽和度と同じようにEFも数字が大きければ安心じゃないということ。

2015年8月14日金曜日

非侵襲的陽圧換気中の鎮静は安全か? No

Is sedation safe and beneficial in patients receiving NIV? No.
Conti G, Hill NS, Nava S.
Intensive Care Med. 2015 Jul 7. PMID: 26149298


Murielらの研究に対するEditorial。Pro-ConのConの方。

✔  鎮静薬はほとんど用いられていない
鎮痛・鎮静はICUで広く用いられている。しかし、NIVの受容がうまくいかない状況での鎮痛鎮静薬投与はあまり行われていないことが分かった。Murielらの報告によると、鎮痛薬や鎮静薬を投与した患者は20%しかおらず、つまり大部分のNIV患者は鎮痛薬や鎮静薬が無くてもうまくいっている事を示唆している。
✔ 鎮静薬の投与を第一に考えてはいけない
マスクの形状、ソフトウェアの改善、グラフィックモニタの発達による細かい調節、チームアプローチにより患者-呼吸器の同調性は改善できる。NIV受容が良くない時にはまずは非薬理学的なこれらの方法を行い、鎮痛薬や鎮静薬の投与は気管挿管の一歩手前、最後の手段と考えるべきである。
✔ 経験を積んだスタッフの監視が無ければ鎮静してはいけない
鎮痛薬や鎮静薬の効果には個人差がある。ボーラス投与は時に危険な呼吸抑制をきたしうる。また、通常の病棟でNIVを導入している状況を時折見るが、これら緊密な監視が行い得ない状況での鎮静薬使用は注意が必要である。鎮痛薬や鎮静薬はバイタルサインの持続モニタ下に経験を積んだスタッフが細かく調整できる状況で投与すべきである。
✔ 危険な副作用がある
GABA作動薬、オピオイドが良く用いられる薬剤である。Propofolは患者-呼吸器同調性を阻害すると言われている。呼吸数は変わらないが、呼吸駆動力(横隔膜の電気的活動を記録することで評価できる)を抑制する。一方、オピオイドは呼吸駆動力は変えないが呼吸数を減少させる。デクスメデトミジンは呼吸抑制が無いとされるが、さらなる研究による評価が必要である。

◎ 私見
危険な側面もあるのだから「NIVに安全」とは言えないという意見。そもそも有効かつ安全な介入というのはあまりないし、ProもConも納得できる、というのが僕の感想。
Pro-Conで共通していたのは鎮痛薬や鎮静薬の効果そのものだけで議論してはいけないという点。これは重要だと思う。使う側の知識や熱意、環境や状況、医療資源の量などがどうしても関わってくる。VV-ECMOもドクターヘリも○○という薬も、なんでもそう。「有効だって言ってたから」「やりたいから」で始めてよいものではない。包丁が切れ味抜群でも美味しい料理ができるとは限らないのと一緒。

2015年8月12日水曜日

非侵襲的陽圧換気中の鎮静は安全か? Yes

Is sedation safe and beneficial in patients receiving NIV? Yes.
Hilbert G, Navalesi P, Girault C.
Intensive Care Med. 2015 Jul 7. PMID: 26149300


 Murielらの研究に対するEditorial。Pro-ConのProの方。

✔ 非侵襲的換気(NIV)は急性呼吸不全患者の合併症を減らして予後を改善すると言われている。しかし、痛み、不安、閉所恐怖症によってマスクに耐えられずNIVを継続できなくなり、気管挿管にいたることがある。このような場合に鎮静は有用だろう。
 Murielらは多施設前向き研究の二次解析を行い、NIV患者で鎮痛鎮静を受けた患者は20%に満たず、鎮痛や鎮静を単独で使用する限りは予後に影響が無い(一方で、併用するとNIV失敗率や死亡率を高める)ことを報告した。
 この研究の問題のひとつは、鎮痛薬や鎮静薬がNIV受容以外の理由で使用されている可能性があることである。また、鎮痛鎮静が開始されるまで、NIVがどれくらいの時間使用されていたのかも不明である。また、投与経路、薬力学、投与方法、プロトコルの有無なども検討できていない。
 いくつかの観察研究で、ミダゾラムやデクスメデトミジンのNIV患者に対する有用性が報告されている。どのような鎮痛薬・鎮静薬を使用するにしろその目的は、不快感を和らげ、望む鎮静レベルを達成し、NIV受容を高めることである。
 ミダゾラムもしくはデクスメデトミジンをCOPD急性増悪による呼吸不全でNIVを要した患者に24時間持続投与したRCTでは、両者ともNIV失敗が無く、デクスメデトミジンがより有用であると報告されている。ただし、この研究は24時間の観察期間のみをみており、最終予後を比較していない。肺水腫に対してNIVを使用した患者を対象としたRCTでは、ミダゾラムに比較してデクスメデトミジンはNIV失敗が少なく、望む鎮静レベルを維持でき、呼吸管理期間を短くできた。一方で急性呼吸不全に対してNIVを早期に開始した患者を対象としたRCTでは、プラセボに比較してデクスメデトミジンは特に有用性が無かった。これらの結果をまとめて考えると、鎮静薬の使用は有害ではないであろうと言えそうである。不穏などを治療するために使用する鎮痛・鎮静は気管挿管への移行を減らす。一方で、不穏などに対して予防的に使用した場合は、さほど有用性が示せないのだろう。
 Murielらの研究から言えることは、①NIV受容を良くする目的で使用される鎮痛・鎮静薬は単剤であれば多くの患者に利益をもたらす、②単剤でうまくいかないからといって併用すると有用でないばかりか有害である、ということである。
 我々はベンゾジアゼピンよりもデクスメデトミジンが有用であろうと考えている。今後の研究では、最も適した薬剤はなにか、また、最も適した投与方法はないかを探ることになるだろう。
 最後に、NIVにおいて鎮痛薬や鎮静薬を使用する際には、薬剤に頼る以前に除去可能な原因が無いかどうかを考えるべきであること、さらに、薬剤を使用した際には緊密なモニタと投与量調整が必要であることを強調しておきたい。

◎ 私見
 Murielらの研究については以前に投稿した。
 鎮痛薬や鎮静薬を”何のために”使用するのかをしっかり考えておくことが重要。なぜ鎮静するのか、なぜ鎮痛するのか、本当に必要なのか、どの程度を目標とするのか、いつ止めるのか。なんとなく始めた治療は有害で、注意深く始めた治療は有用となるのではないだろうか。それが同じ治療であっても。

2015年8月10日月曜日

肺エコーと酸素飽和度によるARDSの診断

Pulmonary ultrasound and pulse oximetry versus chest radiography and arterial blood gas analysis for the diagnosis of acute respiratory distress syndrome: a pilot study.
Cameron M. Bass, et al.
Crit Care 2015;19:282

✔ 背景
医療資源が限られている状況ではARDS診断のための情報を常に集められるとは限らない。超音波とパルスオキシメータはこのような状況でも手に入る。このふたつのモニタを用いたARDSの診断精度について調査した。
✔ 方法
前向き単施設研究。医師は4時間の肺エコーのハンズオンセミナを受講した。約2カ月の間にICUに入室した人工呼吸管理患者を対象として検討した。胸部熱傷、フレイルチェスト、循環不安定、担当看護師の拒否、姑息的治療、18歳未満、腹臥位、研究日に抜管が計画されている場合などは除外した。
研究に組み入れられた場合、担当医はまず患者情報や画像所見をみないで超音波検査を行った。片側3カ所、合計6カ所をスキャンし、Bラインの有無で6段階に評価した。超音波検査は5分以内にとどめた。FiO2とSpO2は超音波記録中の値を採用した。検査は午前6時30分に行い、その後の血液ガス検査と胸部X線写真検査との時間差を無くすように努力した。
ARDSはベルリン定義に則り胸部X線写真と酸素化で診断した。CTは使用しなかった。超音波法では、両側のUIS(Ultrasound interstitial syndrome)=3本以上のBラインの存在に加えて、SpO2/FiO2定価で診断した。
✔ 結果
77人の患者に対して123回の超音波による診断が試みられた。ベルリン定義に基づくARDSは35回の評価において認められた。
SpO2/FiO2はSpO2≦97のときP/F比と有意な相関(r=0.48)を認めた。P/F≦300を診断するためのSpO2/FiO2≦315所見の感度は83%、特異度は50%であった。P/F≦200を診断するためのSpO2/FiO2≦235所見の感度は70%、特異度は90%であった。両側に合計3領域以上のUISが認められた場合の胸部X線写真上の両側浸潤影を診断する感度は80%、特異度は62%であった。両者を組み合わせた場合(SpO2/FiO2と超音波)のARDS診断感度は64%%で特異度は86%であった。
✔ 結論
超音波とSpO2/FiO2はARDS診断において使用可能である。
肺エコー所見(文献より引用)
◎ 私見
超音波と酸素飽和度のみでもARDSを診断できるかもしれないという論文。なんでも超音波な時代になってきた。繰り返し検査できる利点を患者さんに還元できるような戦略を考えるべきなのでしょう。

2015年8月7日金曜日

術中の人工呼吸器設定の現状

Current ventilation practice during general anaesthesia: a prospective audit in Melbourne, Australia.
Karalapillai D, Weinberg L, Galtieri J, Glassford N, Eastwood G, Darvall J, Geertsema J, Bangia R, Fitzgerald J, Phan T, OHallaran L, Cocciante A, Watson S, Story D, Bellomo R.

BMC Anesthesiol. 2014 Oct 1;14:85. PMID: 25302048

✔ 背景
低一回換気量とPEEPが全身麻酔中の呼吸器系合併症リスクのある患者で有利であると言われている。
✔ 方法
オーストラリアのメルボルンの8つの教育病院で全身麻酔を施行された患者を対象として術中の一回換気量とPEEPについて調査した。
✔ 結果
272人が対象となった。年齢の中央値は56歳で55%は男性であった。一般手術が31%、整形手術が20%、脳外科手術が9.6%であった。FiO2の中央値は0.6、一回換気量の中央値は500mlで、理想体重当たりの換気量は9.5ml/kgであった。PEEPは54%の患者で使用されており、中央値は5cmH2Oであった。最高気道内圧の中央値は18cmH2Oだった。呼吸器合併症のリスクと考えられる患者における一回換気量は9.8ml/kg、PEEPは64%で使用されており、その値は5cmH2Oだった。多変量解析により、男性、高身長、高体重は一回換気量が大きくなる独立した因子であった。また、三次病院、長時間手術はPEEPの使用を予測する独立した因子であった。
✔ 結論
全身麻酔で人工呼吸管理を受ける患者において、一回換気量は高く、PEEPは使われているものの全員に使用されているわけではなかった。オーストラリアにおける換気戦略の現状は、これまでの無作為化試験の対照群の換気戦略とはかけ離れていた。

◎ 私見
呼吸器の設定についての観察研究はあまり多くない。これは術中に特化したもの。最後の一文が重要。あれこれ臨床研究を持ちだして議論するのは大切だが、自分たちのおかれている現状がいったいどういうものかをしっかり考えておかないと意味が無い。現状把握って、地味でつまらない作業だったりするけど、ちゃんと意味があると思う。

2015年8月5日水曜日

入院中の出血予測スコア

Factors at admission associated with bleeding risk in medical patients: findings from the IMPROVEinvestigators.
Decousus H, Tapson VF, Bergmann JF, Chong BH, Froehlich JB, Kakkar AK, Merli GJ, Monreal M, Nakamura M, Pavanello R, Pini M, Piovella F, Spencer FA, Spyropoulos AC, Turpie AG, Zotz RB, Fitzgerald G, Anderson FA; IMPROVE Investigators.
Chest. 2011 Jan;139(1):69-79. PMID: 20453069


✔ 背景
入院中の重症患者は静脈血栓症(VTE)を発症するリスクがある。VTE予防ガイドラインがあるが抗凝固薬の投与は不十分である。これは出血リスクを恐れるためではないかと考えられる。VTEに関するデータベース(IMPROVE)を用い、出血の頻度とリスク因子を検討した。
✔ 方法
IMPROVEは深部静脈血栓症に関する前向き観察研究で、15,156人を対象としている。在院中の出血率と入院時の危険因子を検討した。
✔ 結果
入院14日以内の累積出血発症率は3.2%であった。活動性の胃十二指腸潰瘍(OR 4.15)、出血の既往(OR 3.64)、血小板減少(OR 3.37)が強い独立した危険因子であった。その他の危険因子は、高齢、肝不全、腎不全、ICU入室、中心静脈カテーテル、リウマチ性疾患、悪性腫瘍、男性であった。これらの因子を用いて出血予測スコアを作成した
✔ 結論
大規模データベースを用いて臨床的に有意な出血を起こしうる危険因子を明らかにした。このスコアを参考にしてVTE予防のための戦略を講じることができ得る。
出血予測スコア(文献より引用)
◎ 私見
予測スコアが7点以上だと出血のリスクが高いと判断される。もともとのコホートが出血をターゲットにしたものではないので解釈には注意が必要だが、使えそうではある。つい最近Chest誌にValidation studyがでたみたい。

2015年8月3日月曜日

重症患者の筋障害は超音波で診断できる

Qualitative Ultrasound in Acute Critical Illness Muscle Wasting.
Puthucheary ZA, Phadke R, Rawal J, McPhail MJ, Sidhu PS, Rowlerson A, Moxham J, Harridge S, Hart N, Montgomery HE.
Crit Care Med. 2015 Aug;43(8):1603-11. PMID: 25882765


✔ 背景
 重症患者によくみられる身体機能の低下には早期から始まり速やかに進行する骨格筋量減少が関係している。超音波による肉眼的変化が顕微鏡的変化とどのように関係するかを調査した。
✔ 方法
 前向き二施設観察研究。Musculoskeletal Ultrasound in Critical Illness Longitudinal Evaluation (MUSCLE) studyから30人のサブグループを対象として行った。外側広筋(Vastus Lateralis; VL)から得られた組織標本と大腿直筋(Rectus Femoris; RF)の超音波所見を比較検討した。
✔ 結果
 筋組織の壊死性変化が認められた患者(n=15)では超音波所見の変化が著明に認められた(+8.2% vs -15.0%)。超音波所見による筋壊死予測のROC曲線下面積は0.74で、医原性の筋障害を除外すると0.85であった。筋膜炎は60%に認められた。
✔ 結論
 超音波を用いることで筋線維の壊死や筋膜の炎症を非侵襲的に検出することができる。筋膜炎が先行し、しばしば筋壊死を合併する。重症患者の機能的予後を予測できるかもしれない。
◎ 私見
 MUSCLE studyのサブグループで組織所見と超音波所見を比較。超音波所見は組織学的な異常をよく反映していた。骨格筋エコーは結構使えるのかも。簡単だし。どうやって自分の臨床に組み込むかが問題なので、もう少し勉強しないと。