2015年8月12日水曜日

非侵襲的陽圧換気中の鎮静は安全か? Yes

Is sedation safe and beneficial in patients receiving NIV? Yes.
Hilbert G, Navalesi P, Girault C.
Intensive Care Med. 2015 Jul 7. PMID: 26149300


 Murielらの研究に対するEditorial。Pro-ConのProの方。

✔ 非侵襲的換気(NIV)は急性呼吸不全患者の合併症を減らして予後を改善すると言われている。しかし、痛み、不安、閉所恐怖症によってマスクに耐えられずNIVを継続できなくなり、気管挿管にいたることがある。このような場合に鎮静は有用だろう。
 Murielらは多施設前向き研究の二次解析を行い、NIV患者で鎮痛鎮静を受けた患者は20%に満たず、鎮痛や鎮静を単独で使用する限りは予後に影響が無い(一方で、併用するとNIV失敗率や死亡率を高める)ことを報告した。
 この研究の問題のひとつは、鎮痛薬や鎮静薬がNIV受容以外の理由で使用されている可能性があることである。また、鎮痛鎮静が開始されるまで、NIVがどれくらいの時間使用されていたのかも不明である。また、投与経路、薬力学、投与方法、プロトコルの有無なども検討できていない。
 いくつかの観察研究で、ミダゾラムやデクスメデトミジンのNIV患者に対する有用性が報告されている。どのような鎮痛薬・鎮静薬を使用するにしろその目的は、不快感を和らげ、望む鎮静レベルを達成し、NIV受容を高めることである。
 ミダゾラムもしくはデクスメデトミジンをCOPD急性増悪による呼吸不全でNIVを要した患者に24時間持続投与したRCTでは、両者ともNIV失敗が無く、デクスメデトミジンがより有用であると報告されている。ただし、この研究は24時間の観察期間のみをみており、最終予後を比較していない。肺水腫に対してNIVを使用した患者を対象としたRCTでは、ミダゾラムに比較してデクスメデトミジンはNIV失敗が少なく、望む鎮静レベルを維持でき、呼吸管理期間を短くできた。一方で急性呼吸不全に対してNIVを早期に開始した患者を対象としたRCTでは、プラセボに比較してデクスメデトミジンは特に有用性が無かった。これらの結果をまとめて考えると、鎮静薬の使用は有害ではないであろうと言えそうである。不穏などを治療するために使用する鎮痛・鎮静は気管挿管への移行を減らす。一方で、不穏などに対して予防的に使用した場合は、さほど有用性が示せないのだろう。
 Murielらの研究から言えることは、①NIV受容を良くする目的で使用される鎮痛・鎮静薬は単剤であれば多くの患者に利益をもたらす、②単剤でうまくいかないからといって併用すると有用でないばかりか有害である、ということである。
 我々はベンゾジアゼピンよりもデクスメデトミジンが有用であろうと考えている。今後の研究では、最も適した薬剤はなにか、また、最も適した投与方法はないかを探ることになるだろう。
 最後に、NIVにおいて鎮痛薬や鎮静薬を使用する際には、薬剤に頼る以前に除去可能な原因が無いかどうかを考えるべきであること、さらに、薬剤を使用した際には緊密なモニタと投与量調整が必要であることを強調しておきたい。

◎ 私見
 Murielらの研究については以前に投稿した。
 鎮痛薬や鎮静薬を”何のために”使用するのかをしっかり考えておくことが重要。なぜ鎮静するのか、なぜ鎮痛するのか、本当に必要なのか、どの程度を目標とするのか、いつ止めるのか。なんとなく始めた治療は有害で、注意深く始めた治療は有用となるのではないだろうか。それが同じ治療であっても。

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