2015年10月29日木曜日

"重症市中肺炎にステロイドは有用"の筆者による解説

What's new in severe community-acquired pneumonia? Corticosteroids as adjunctive treatment to antibiotics
Antoni Torres et al. Intensive Care Med 2015


JAMAに掲載された論文に対する筆者自らの解説。

✔ 重症市中肺炎(SCAP)は早期に適切な抗菌薬を使用しても死亡率が高い。局所ならびに全身性炎症反応の過剰が要因の一つであると考えられる。ステロイドは炎症反応を抑制するため、有用である可能性がある。ヒトにおいては院内肺炎に対していくつかのRCTがあり、SCAPのサブグループでステロイドが有用であったとされるが、重症の定義がはっきりしていない。近年のCAPに対するステロイドの影響を調査したメタアナリシスでは重症群で死亡率が低下する可能性が指摘されている。
✔ これらのRCTにはいくつかの問題点がある。ひとつめは重症ではない患者を含んでいる点。ふたつめは炎症の程度に関わらず対象としている点、みっつめは治療の内容が均一ではない点、よっつめはエンドポイントが研究間で異なる点である。
✔ そこで我々はメチルプレドニゾロン(0.5mg/kg 1日2回 5日間)とプラセボの効果をRCTで比較する臨床研究を行った。いくつかの重要なポイントがある。ひとつめはSCAP(ATSのPSIでクラスⅤ)のみを対象とした点、ふたつめは高度な全身性炎症反応(CRP>15)を伴う患者の身を対象としている点、みっつめは死亡率ではなく治療失敗率をエンドポイントとしている点である。よっつめは全身性炎症反応をCRPやプロカルシトニン、インターロイキンといったいくつかのバイオマーカを用いて計測している点である。なお、治療失敗は早期(72時間以内にショックに至る、侵襲的人工呼吸管理を要する、死亡する)と晩期(72~120時間の胸部写真所見の悪化、ショック、侵襲的人工呼吸管理、死亡)とに分けて定義した。
 研究の結果、ステロイドは治療失敗率を31%から13%に有意に減少させた。ORは0.34であった。死亡率には有意な差は無かった。治療失敗率の低下は晩期において有意に認められ、特に胸部写真所見の悪化が認められない点がこの結果に寄与していた。ステロイドは5日間投与した後に中止したが、中断に伴う副作用は認めなった。
 ステロイドはARDSへの進行と、恐らくJarish-Herxheimer反応を抑制することでこのような結果をもたらしたと思われる。SCAPに対してステロイドを治療の選択肢の一つに加えるべきであると考える。

◎ 私見
 自戦解説みたいな文献。JAMA誌に掲載された元論文も読むべき。意地の悪い言い方をすれば胸部写真が悪くならないだけとも言えるのだけど、過去のRCTの問題点を列挙し、これにきっちり応えるやり方で研究を完遂させているところは素直に凄いなあと思ってしまう。臨床研究とはこうあるべき、と思わされた。
 さて、重症市中肺炎の今後の診療をどうするのか考えなくては。

2015年10月26日月曜日

敗血症における血小板の役割

Understanding platelet dysfunction in sepsis.
Pigozzi L, Aron JP, Ball J, Cecconi M.
Intensive Care Med. 2015 Aug 13. PMID: 26266843


✔ 背景
 敗血症は感染に対する全身性炎症反応と定義され、死亡率が高い。血小板が敗血症において果たす役割は完全には解明されていない。通常、血小板は1×10*11が毎日産生されているが、生理的ストレスで20倍にまで産生量が増加しうる。
 炎症性サイトカインは血管内皮障害と相まって血小板を活性化する。さらに細菌は直接的/間接的に血小板を活性化する。活性化された血小板は白血球を誘導し、血小板・白血球・血管内皮細胞を凝集させ、白血球による貪食とNeutrophil extracellular traps (NETs)形成を促進する。敗血症ではフィブリン沈着と血小板活性化によって凝固亢進状態となる。これにより宿主の防御反応のひとつとして微小血栓が形成されるが、一方で臓器障害を引き起こし、さらにはDICに至ることもある。
✔ 血小板濃度
 重症患者で血小板が減少することはよくある。敗血症において、血小板減少は昇圧剤の使用や酸素化悪化と関連している。市中肺炎でも血小板が低いほど入院後に敗血症性ショックや死亡に至ることがおおくなるとされる。
 血小板の推移をみることも重要である。敗血症患者でICU入室後の遅発性血小板減少が生じた場合、死亡率が上昇することが示されている。
✔ Platelet volume indices (PVIs)
 Mean platelet volume (MPV)、Platelet distribution width (PDW)を計測することができる。局所感染にとどまっている場合と比較して敗血症ではMPVが大きくなることが示されている。つまり、MPVが増加している時はより侵襲的な感染症や抗菌薬治療の失敗を考えなくてはならない。ICU入室患者で生存者はMPVが減少していくのに対し、死亡者ではMPVが増加するとも報告されている。新生児では敗血症患者や死亡者でMPVやPDWが大きくなることが示されている。
✔ Immature platelet fraction(IPF)
 未成熟な血小板は大きく、RNAを大量に含む。IPFが大きいということは血小板産生の活動度が高いことを示す。IPFはDICやACSの予後予測に用いられる。敗血症では、血液培養陽性患者でIPFが大きくなっていたことが報告されている。また、敗血症発症2日前にIPFが増加するとも報告されており、感染症発症の予測に用いることができるかもしれない。
✔ 血小板凝集
 活性化した血小板の割合を知るには血小板凝集能を測ればよい。敗血症では血小板凝集能が低下すると報告されているが、これは血小板数が消費性に減少し、血管内細胞機能不全が存在し、凝固因子が減少している事が原因である。非感染性の重症患者や軽症敗血症に比べて、重症敗血症や敗血症性ショックでは血小板凝集能が減少している事が示されており、凝集能低下が死亡率増加と関連している事も示されている。
✔ トロンボポエチン(TPO)
 炎症の存在下ではIL6の作用によるTPOが増加する。敗血症の重症度が増加するとTPOも増加する。救急外来受診患者でSIRSを呈していたもののみを抽出して検討したところ、感染症性SIRSでTPOが有意に高いという結果であった。つまり、TPOは重症度を示しうる。
✔ 結論
 血小板は敗血症の病態生理で重要な役割を担っており、新しい治療戦略の指標として期待できる。
敗血症における血小板の役割(文献より引用)

◎ 私見
 炎症と凝固のクロストークはよく知られているが、そのひとつである血小板についてまとめてあるReview。IPFやMPVなどいくつかの新しい指標について紹介してあるが、これらの指標をルーチンで測定しているICUってあるのかな? 実際に臨床でモニタしてみてどうか、という手ごたえが知りたい。

2015年10月24日土曜日

動脈圧ライン挿入時の感染予防策

Arterial Catheter Use in the ICU: A National Survey of Antiseptic Technique and Perceived Infectious Risk.
Cohen DM, Carino GP, Heffernan DS, Lueckel SN, Mazer J, Skierkowski D, Machan JT, Mermel LA, Levinson AT.
Crit Care Med. 2015 Nov;43(11):2346-53. PMID: 26262949


✔ 背景
 近年の報告によると動脈圧ラインによる血流感染は0.9~3.4/1,000catheter-daysの頻度で発生しており、中心静脈カテーテルと同等の頻度であるとされている。2011年のCDCのガイドラインでは動脈圧ライン挿入の際に滅菌グローブ、手術用キャップ、マスク、滅菌ドレープを使用することを推奨している。本研究ではこの推奨の遂行度を調査した。
✔ 方法
 動脈圧カテーテル挿入時の感染予防策について無記名のウェブ・アンケート調査を行った。対象はSCCMの会員で、11,361人の医師、看護師、呼吸療法士など。
✔ 結果
 1,265人から回答があった(回答率11%)。過去1年圧ラインを挿入したことが無いなど除外して1,029人の回答を解析した。CDCの推奨する予防策をひとつでも使用しているものは44%しかおらず、その全てを行っているものは15%に過ぎなかった。動脈圧ラインに起因する血流感染発生率の平均値と中央値はそれぞれ0.3/1,000catheter-days、0.1/1,000catheter-daysであった。39%の回答者が強制的であれば予防策遵守をするつもりがあると答えた。
✔ 結論
 動脈圧ライン挿入時の感染予防は不十分であった。予防策を講じていたのは半数に満たなかった。動脈圧カテーテルによる血流感染のリスクを低く見積もっており、強制的な予防策遵守も効果が期待できない。さらなる調査と感染予防策の構築が必要である。
全感染予防策を行っているかどうか-専門科別(文献より引用)
全感染予防策を行うつもりがあるか-専門科別(文献より引用)
◎ 私見
 自分もそうだが、確かに動脈圧ラインはいい加減に挿入されているのが目立つ。かといってフル装備で予防を講じることを強制できるかというと難しい。これまで困って無かったからとかOpen-ICUだから、という言い訳はできない・・・ さて、どうしよう。
 それにしても、麻酔科医ってこんな感じかな? 僕も麻酔科医出身だがこんなに差があるとは思えないのだけど。アメリカと日本は違うと信じたいです。

2015年10月21日水曜日

非侵襲的ミトコンドリア機能評価法

Non-invasive monitoring of mitochondrial oxygenation and respiration in critical illness using a novel technique.
Harms FA, Bodmer SI, Raat NJ, Mik EG.
Crit Care. 2015 Sep 22;19(1):343. PMID: 26391983


✔ 背景
 敗血症の病態生理としてミトコンドリア機能不全は知られている。しかし、ミトコンドリア機能の評価方法は様々であり、このため研究結果も一定していない。この点を解決するために非侵襲的ミトコンドリア機能評価法が有用であると考えた。本研究では生体のミトコンドリア酸素分圧(MitoPO2)を非侵襲的に in vivoで計測する方法の可能性と敗血症動物モデルでの変化について検討した。
✔ 方法
 ラットを対照群とLPS投与群とLPS投与+輸液蘇生群の3群に振り分けた。敗血症はLPSの静注(1.6mg/kg/10min)によって再現し、輸液蘇生は膠質液を7ml/kg/hr持続静注+2mlボーラスすることで行った。MitoPO2と酸素消失率(ODR)はProtoporphyrin Ⅸ-triplet state lifetime technique(PpⅨ-TSLT)によって計測した。60秒の皮膚圧迫中のMitoPO2減少のKineticsを記録した。ODRはMitoPO2減少カーブの傾きである。計測はLPS投与前と3時間後に行った。
✔ 結果
 LPS投与により血行動態は有意に変化した。LPS投与前のMitoPO2とODRは3群間で有意差は無かった。投与3時間後で計測すると、LPS単独投与群(輸液蘇生なし)のみMitoPO2が有意に低下した。一方、ODRはLPS単独投与群とLPS投与+輸液蘇生群の両方で有意に低下した。
✔ 結論
 敗血症ラットモデルを用いた研究で非侵襲的ミトコンドリア酸素消費量モニタの有用性が示された。重症患者への応用も期待できる。
測定原理(文献より引用)

MitoPO2とODR(文献より引用)

◎ 私見
 ミトコンドリアで産生されるプロトポルフィリンⅨが緑色光で励起されて3重項の状態になり、これが酸素と反応して減少していくところを励起光(赤)を計測して調べる、ということらしい。皮膚を圧迫するのは微小循環の影響を排除してODRを計測するため。ALAクリームを塗っておいてミトコンドリア内のプロトポルフィリンⅨの量を増やしておかないといけないので完全に非侵襲かというとそうでもない気が。
 それでも、最終的な到達点であるミトコンドリアの状態を見ることができるというのは魅力的ではある。酸素飽和度モニタみたいに簡便に調べられるような時代が来るのでしょうか。

2015年10月18日日曜日

死腔換気率とARDSの予後

The association between physiologic dead-space fraction and mortality in subjects with ARDSenrolled in a prospective multi-center clinical trial.
Kallet RH, Zhuo H, Liu KD, Calfee CS, Matthay MA; National Heart Lung and Blood Institute ARDSNetwork Investigators.
Respir Care. 2014 Nov;59(11):1611-8. PMID: 24381187


✔ 背景
 生理学的死腔率(一回換気量に占める死腔の比 VD/VT)はガス交換に寄与しない換気量を示す。ARDSでは線維化の進んだ晩期に死腔率が上昇すると考えられてきたが、発症24時間以内に上昇することが分かってきた。ARDSにおいて死亡に寄与する因子であるかどうかを検討した。
✔ 方法
 前向き多施設観察研究。126名のALIならびにARDS(ACCPのクライテリア)患者が対象となったアルブテロールの効果を比較検討したRCTのサブスタディ。NICOモニタを使用。死腔率と各種パラメータは研究参加から4時間以内と1日目、2日目に測定した。生存群と死亡群で比較した。
 VD/VT=(PaCO2 - PETCO2)/PaCO2
✔ 結果
 ベースラインを比較してみると死亡群では死腔率が高い傾向があった(0.62 vs 0.56 P=0.08)。1日目、2日目では死亡群で死腔率が有意に高かった。同様に、1日目と2日目において、いくつかの因子を調整してみても死腔率は死亡の独立した予測因子であった。
✔ 結論
 ARDS早期の死腔率上昇(≧0.60)は死亡率が高いことが示唆される。ARDSを対象とした臨床研究において死亡率の高い群を検出するために死腔率は有用である。

◎ 私見
 ひとくちにARDSと言ってもその病態が一様ではないことは周知の通り。死腔率を用いて重症度で層別化してはどうかというアイデア。最近換気の評価に注目しているので読んでみた。問題は呼気炭酸ガス分圧の測定が信用に足るかどうかというところか。
 ところで、当科で研修中の先生方に伝えたいのは、この「一様ではない」というところ。すべての疾患や病態に通じるところだと思う。画一的な治療をするのではなく、いろいろと心を砕いて欲しい。高カリウム血症の治療は、どんな患者さんに対しても「それ」でいいの?

2015年10月15日木曜日

骨格筋量が小さいと再入院リスクが高まる

Bedside Assessment of Quadriceps Muscle by Ultrasound after Admission for Acute Exacerbations of Chronic Respiratory Disease.
Greening NJ, Harvey-Dunstan TC, Chaplin EJ, Vincent EE, Morgan MD, Singh SJ, Steiner MC.
Am J Respir Crit Care Med. 2015 Oct 1;192(7):810-6. PMID: 26068143


✔ 背景
 慢性呼吸疾患のある患者にとって入院は健康状態悪化や再入院のリスクである。入院後に調べることのできるいくつかの指標で短期的な予後は予想できるが、長期にわたる再入院の可能性を評価する方法は知られていない。これまでの研究で骨格筋機能が肺障害の程度とは関係なく死亡を予測する因子であることが報告されている。ここでは再入院を予測できるかを調査した。
✔ 方法
 慢性呼吸器疾患の急性増悪のために入院した患者を対象とした。骨格筋機能は大腿四頭筋量の超音波による評価で行い、その大きさで4群に分類して最終的な予後を評価した。
 大腿四頭筋量は7.5MHz 7cmのリニアプローブを用いて計測した。右下肢の大腿直筋を計測対象の筋肉とした。大転子と膝関節(膝蓋骨の上縁)の中点を計測ポイントとした。プローブは筋肉に垂直にあて、力を入れて押しつぶさないようにした。筋肉に垂直になっていることを確保するため、断面積が最も小さくなる切断面を選択した。画面をフリーズし、大腿直筋をトレースして面積を計測した。3切断面の平均値を採用し、身長で補正した。
✔ 結果
 191人が対象となった。130人(68%)が再入院もしくは死亡した。骨格筋量(大腿直筋面積)に応じて4群に分けた。0.816-1.407、1.408-1.722、1731-2.053、2.059-3.500(単位はcm*2/m*2)。再入院や死亡の危険因子は、年齢(OR 1.05)、呼吸困難の程度(OR 4.57)、在宅酸素投与(OR 12.4)、大腿四頭筋量(OR 0.34)、前年の入院(OR 4.8)であった。多変量解析によると、在宅酸素投与(OR 4.8)、呼吸困難の程度(OR 2.57)、大腿四頭筋量(OR 0.46)、前年の入院(OR 3.04)が独立した危険因子として検出された。骨格筋量が小さい患者は入院が長期間であった(28.1 vs 12.2)
 
✔ 結論
 大腿骨格筋量が小さい患者は再入院や死亡が多くなる。
大腿骨格筋量と再入院(文献より引用)

◎ 私見
 骨格筋量が小さい群(全体の4分の1)が予後が悪く、それ以外の群についてはそれほど差が無い。つまり、筋肉量が著しく落ちてしまうような状態(栄養状態が極めて悪いとか)の人のみが予後が悪くなる、ということらしい。実際に測ってみて、どんな患者さん達が該当するのかをみてみないと、実感がわかないな。ということで、今度測ってみよう。

2015年10月12日月曜日

適切な脳灌流圧を達成するために

Clinical and Physiological Events That Contribute to the Success Rate of Finding "Optimal" Cerebral Perfusion Pressure in Severe Brain Trauma Patients.
Weersink CS, Aries MJ, Dias C, Liu MX, Kolias AG, Donnelly J, Czosnyka M, van Dijk JM, Regtien J, Menon DK, Hutchinson PJ, Smielewski P.
Crit Care Med. 2015 Sep;43(9):1952-63. PMID: 26154931


✔ 背景
 頭部外傷では脳灌流圧を適正化する必要性があると考えられている。脳灌流圧と動脈圧の間にはU字型の関係があり(圧反応性指数Pressure reactivity index)、適切な脳灌流圧を知る上で重要である。本研究では、適切だと考えられる脳灌流圧といくつかの生理学的指標、臨床因子、治療的介入の関係を調査した。
✔ 方法
 観察研究。二つの大学病院の神経集中治療室に1年半の間に入室した48人の頭部外傷患者を対象とした。
✔ 結果
 患者は全例動脈圧、頭蓋内圧、脳灌流圧を持続的にモニタし、ICM+ソフトウェアを使用してリアルタイムで圧反応性指数と適切な脳灌流圧を計算した。生理学的指標の変化、鎮痛鎮静薬、血管作動薬、頭蓋内圧亢進に対する内科的/外科的治療を記録した。得られたデータは4時間毎に集計した。動脈圧変動の消失(OR 2.7)、高い圧反応指数(OR 2.9)、少ない鎮痛鎮静薬(OR 1.9)、多い血管作動薬(OR 3.2)、筋弛緩薬の不使用(OR 1.8)、減圧開頭後(OR 1.8)が脳灌流圧が不適切となる独立した危険因子であった。
✔ 結論
 適切な脳灌流圧を保つため重要な6つの危険因子を明らかにした。

◎ 私見
 脳灌流圧を適切に維持するためにどのような事象に注目すればよいのかを調べた研究。我々の施設では頭蓋内圧を見るのは稀なのでこういう研究には興味がある。しかし、この研究で明らかになったとされる指標をみる限りものすごく役に立つという感じでもない。悩みは尽きない。

2015年10月9日金曜日

排便コントロールは重症患者の予後を改善する

Daily laxative therapy reduces organ dysfunction in mechanically ventilated patients: a phase II randomized controlled trial.
de Azevedo RP, Freitas FG, Ferreira EM, Pontes de Azevedo LC, Machado FR.
Crit Care. 2015 Sep 16;19:329. PMID: 26373705


✔ 背景
 ICUで便秘はよくみられる。不動化、脱水、鎮痛鎮静、昇圧剤の使用が要因となり得る。便秘は腸管不全の一症状で、独立した予後規定因子のひとつであると考えられている。毎日の排便を促すための下剤の使用が臓器不全を減らすかどうかを検証した。
✔ 方法
 前向き無作為化非盲検のPhaseⅡ臨床研究。3日以上人工呼吸管理を受けると予想される患者を対象に、毎日の排便を促す群と対照群とに無作為に振り分けた。介入群はラクツロースと浣腸を行って毎日1~2回の排便がみられるようにした。具体的には、ラクツロース 20ml/8hrsを排便がコンスタントに認められるようになるまで継続し、下痢を起こしたらラクツロースは中止した。対照群では便秘は5日まで許容する。直腸診と下剤は適宜使用した。プライマリアウトカムはSOFAスコアの変化とした。
✔ 結果
 88人の患者が対象となった。介入群は一日当たりの排便回数が有意に多くなり(1.7 vs 0.7)、入室期間に対する排便のない日の割合が減った(33.1% vs 62.3%)。介入群では対照群に比較してSOFAスコア減少が大きかったが(-4.0 vs -1.0)、死亡率や生存期間には差が無かった。介入群では下痢を含む合併症が多かったが、重篤な合併症には差が無かった。
✔ 結論
 人工呼吸管理患者の排便を促すと、臓器不全をより改善することができる可能性がある。
生存率に差があるように見えるが有意差無し(文献より引用)
◎ 私見
 排便コントロールは見過ごされがちな問題のひとつ。便秘も下痢もよくないので、適切なところを狙って頑張るのだが、なかなかうまくいかない。この研究では便秘に対して積極的に介入することで予後を改善する可能性を示しているところが興味深い。

2015年10月6日火曜日

便秘はせん妄の危険因子

Constipation is independently associated with delirium in critically ill ventilated patients.
Smonig R, Wallenhorst T, Bouju P, Letheulle J, Le Tulzo Y, Tadié JM, Gacouin A.
Intensive Care Med. 2015 Sep 10. PMID: 26359169


✔ 背景
 せん妄はICU入室患者の多くに認められ、予後悪化因子であるとされる。一方、便秘も重症患者で頻繁に認められる。中枢神経系と腸管は相互に影響しているとされる研究結果があり、便秘とせん妄の関係を調査することにした。
✔ 方法
 1年間の前向き観察研究。18歳以上で2日以上人工呼吸管理を受けた患者を対象とした。便秘の管理は個々に自由とした。全例で選択的腸管除染を行った。せん妄はCAM-ICUを1日2回チェックして有無を判定した。排便は半定量的に毎日評価した。
✔ 結果
 1,052人がICUに入室した。168人がせん妄評価を受け、105人がせん妄と診断された。最初の排便が認められるまでの時間の中央値は5日であり、せん妄と診断されるまでの時間の中央値は7日であった。排便の遅れ、人工呼吸期間、ベンゾジアゼピンの使用は独立したせん妄の危険因子であった。排便の遅れのAUCは0.76であり、ベンゾジアゼピンの試用期間(AUC 0.65)、人工呼吸期間(AUC 0.64)よりも有意に大きかった。排便の遅れの最も有用なカットオフ値は5日であった。
✔ 結論
 ICU入室後の排便の遅れはせん妄の独立した危険因子である。

◎ 私見
 腸管と脳の相互作用、というものがあるらしい(不勉強で知りませんでした)。単施設の観察研究であり、結果も微妙なのでそのまま鵜呑みにはできないけれど、排便コントロールというあまり注目されない分野が今後重要な意味を持ってくるかもしれないという点で興味深かった。

2015年10月4日日曜日

心肺停止蘇生後の酸素分圧と炭酸ガス分圧

Association of arterial carbon dioxide and arterial oxygen concentrations with hospital mortality after resuscitation from cardiac arrest
Hendrik J. F. Helmerhorst et al
Crit Care 2015;19:348-

✔ 背景
 ICU入室後の動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)と酸素分圧(PaO2)は心肺停止蘇生後の組織灌流と予後に影響すると言われている。両者の院内死亡率に対する影響を調査した。
✔ 方法
 NICEレジストリを使用したコホート研究。2007年から2012年の間に心肺停止蘇生後で人工呼吸管理を受けた患者を対象とした。ICU入室24時間で酸素化が最も悪かった時点のデータを参照した。炭酸ガス分圧の正常値は35~45mmHg、酸素分圧の正常値は60~300mmHgとした。院内死亡率との関係を解析した。
✔ 結果
 82のICUに入室した5,258人の心肺停止蘇生後患者が対象となった。低換気であったものが22%、過換気であったものが35%存在した。低酸素血症と高酸素血症はそれぞれ8%と3%であった。炭酸ガス分圧も酸素分圧も、値と院内死亡率にはU字型の関係があった。関連因子を調整して検討したところ、過換気と低酸素血症は院内死亡率の有意な予測因子であった(それぞれOR 1.37、1.34)。炭酸ガス分圧と酸素分圧は相乗的には作用しなかった。
✔ 結論
 炭酸ガス分圧と酸素分圧は院内死亡率にそれぞれ独立して影響する。
炭酸ガス分圧と院内死亡率(文献より引用)

酸素分圧と院内死亡率(文献より引用)

◎ 私見
 きれいなU字型を描いている。酸素分圧の一番死亡率が低くなるところが100mmHgよりも高いのが気になるところだけど。ガスを測って調節するのなんてそんなに手間ではないのだから、面倒くさがらずにちゃんとやるべきということ。