2020年10月28日水曜日

呼吸器からの離脱と抜管を最適化する10のコツ

Ten tips to optimize weaning and extubation success in the critically ill
Boris Jung, Rosanna Vaschetto and Samir Jaber
Intensive Care Med 2020

人工呼吸管理期間の50%は離脱に費やされるといわれている(最初に離脱を試みてから実際に離脱に至るまでの期間)。この過程をいかに良くするかについてコツを10個まとめた

1.不必要な鎮静を避ける
 筋弛緩薬の使用を制限し、鎮静レベルを最適化する必要がある。鎮静プロトコルの使用が推奨される。

2.呼吸筋合併症を避けるために横隔膜保護を意識する
 長期間調節換気(Controlled ventilation)するとVentilator induced diaphragm dysfunction(VIDD)という呼吸筋の機能不全が生じて予後が悪化する。一方、高一回換気量、強い吸気努力、非同調もまた肺や横隔膜を傷害する。これはPatient self inflicted lung injury(P-SILI)といわれる。

3.自発呼吸テスト(SBT)の候補となるか毎日評価する
 気管挿管に至った原因が改善しており、バイタルサインが安定して臓器補助をほとんど要さない状態であればSBTの候補である。ただし、いくつかのクライテリアについては最高の余地がある(古典的にはP/F>150、FIO2<40%、PEEP<8)

4.SBTの方法を考える
 このSBTの方法・設定で呼吸器から離脱しても再挿管のリスクは低いか?という視点でSBTの方法を考えるべきである。強い設定のPressure support ventilation(PS 7とPEEP 5など)で短時間(30分など)でSBTを行った場合は、T-tubeで60~120分間SBTを行った場合に比べて抜管後呼吸不全のリスクが高いことに注意する。一方、T-tubeはSBT失敗率を高めて抜管を遅らせがちなので、”弱い設定のPSVで短時間”が望ましいだろう(PS 7+PEEP 0で30分など)

5.プロトコルもしくは半自動離脱戦略
 チェックリストを毎日用いて呼吸器設定を調節して離脱を試みると呼吸管理期間が短くなる。自動/半自動アルゴリズムによる離脱が同様の効果をもたらすかどうかはまだ明らかではないが離脱困難患者で有用かどうか検証されていくだろう。比例補助換気は一部の患者で有用かもしれない。

6.SBTに失敗したら直ちに介入する
 SBTは一種のストレス負荷試験であり、人工呼吸管理期間を短縮するという効果のほかに陽圧換気によって隠されていた問題点をあぶりだす効果もある。SBTに失敗したら原因を検索して次のSBTまでに治療する。

7.吸気負荷/筋力比
 SBTが失敗するということは吸気筋への負荷と神経筋機能とのあいだに不均衡が存在するということを意味する。呼吸筋力は四肢の筋力評価から推定することができないが、不均衡が存在すると呼気筋が動員される。このような点について近年明らかになってきている。

8.離脱失敗の危険因子と抜管失敗の危険因子
 離脱困難は重症患者の約20%に生じ、その危険因子は65歳以上、心肺系の合併症であるといわれている。一方、抜管失敗(48時間以内の再挿管)の危険因子は、女性、7日以上の呼吸管理、気道分泌物過多(以上は気道トラブルによる再挿管のリスク)、非肥満、SOFAスコア8点以上(以上は気道トラブル以外による再挿管のリスク)といわれている。

9.抜管後呼吸補助
 10~15%の患者は抜管後48~72時間以内に再挿管を要すると言われている。通常の酸素療法は離脱通いで抜管失敗の危険因子がほぼ無い患者に用いられる。高リスク症例ではHigh flow nasal oxygen(HFNO)にNon-invaseive ventilation(NIV)を組み合わせるとHFNO単独に比べて再挿管が減少すると言われている。低~中等度リスク症例ではHFNOが通常の酸素療法に比べて再挿管が減少すると言われている。同様に、HFNOはNIV単独に対して非劣性であるとも言われている。経験のある施設ではSBTに失敗した症例でNIVを用いて抜管し、気管チューブや鎮静による有害性を減らす試みを行っている。

10.気管切開
 神経疾患患者とは異なり通常の患者群では早期気管切開と後期気管切開の予後には変わりがない。一方、離脱に時間を掛けなければならない症例や気道分泌物のコントロールに時間がかかる患者では後期(10日以降)気管切開の適応となるだろう。
 

2020年5月13日水曜日

脳損傷患者に「GHOST-CAP」

Use a “GHOST-CAP” in acute brain injury
Fabio Silvio Taccone, Airton Leonardo De Oliveira Manoel, Chiara Robba & Jean-Louis Vincent
Critical Care volume 24, Article number: 89 (2020)

FAST-HUG(feeding, analgesia, sedation, thromboembolic prevention, head-fo-bed elevation, ulcer prophylaxis, glucose control)と同じように急性脳損傷患者(外傷、脳浮腫、脳虚血、てんかんなど)における二次損傷予防のacronymとして”GHOST-CAP”を提唱する。

G:Glucose
低血糖(≦80)も高血糖(≥180)も予後を悪化させるので避ける。
H:Hemoglobin
酸素供給量を決定する因子の一つとして重要である。7~9 g/dLを閾値として輸血することを考える
O:Oxygen
酸素供給量を決定する因子の一つとして重要だが、高濃度酸素も予後を悪化させることに注意が必要である。酸素飽和度94~97%を目標にする
S:Sodium
高浸透圧製剤、尿崩症、SIADH、塩類喪失症候群、AKIなどでナトリウム濃度が大きく変動して脳容量に影響する。低ナトリウム血症(<135)は予後を悪化させるので補正する。高ナトリウム血症は頭蓋内圧を減少させるための治療の結果として生じることがあり、その場合は155mEq/L程度までは許容する
T:Temperature
高体温は急性脳損傷に伴う全身性炎症反応によって生じることがあり、必ずしも感染が原因ではない。予後悪化の原因となるため38℃以上の高体温は避ける
C:Comfort(Control of pain, agitation, anxiety and shivering)
頭蓋内圧が上昇する可能性があるため、患者を静穏かつ快適な状態にする。頭蓋内圧亢進、てんかん重積、重度シバリングを認める場合では深鎮静にする
A:Arterial blood pressure
脳血流を決定する重要な因子。軽度低血圧でも脳低灌流となることあり。平均血圧≥80、脳灌流圧≥60が合理的だろう。脳循環のモニタリング手法の確立が望まれる
P:PaCO2
PaCO2が1mmHg上昇すると脳血流量は4%増加して頭蓋内圧が上昇するため、高炭酸ガス血症は避ける。一方、35未満の過換気も避けるべきである

2020年4月19日日曜日

頭部外傷患者に対する気管切開

Robba C, Galimberti S, Graziano F, Wiegers EJA, Lingsma HF, Iaquaniello C, Stocchetti N, Menon D, Citerio G; CENTER-TBI ICU Participants and Investigators.
Intensive Care Med. 2020

欧州65施設が参加する頭部外傷のデータベースより、気管切開のタイミングを検証。ICUでの治療を要した2138人のうち72時間以上在室した1358人を対象とした(19か国54施設)。このうち気管切開を要したのは433人(31.8%)、年齢(HR 1.04)、GCS≦8(HR 1.7)、胸部外傷(HR 1.24)、低酸素血症(HR 1.37)、対光反射消失(HR 1.76)が気管切開を予測する因子であった。国によって気管切開の頻度やタイミングには大きな差があった。入室7日以内の気管切開を早期、7日より後の気管切開を晩期としたとき、早期気管切開はより良い神経学的予後と在院期間短縮に関連していたが、因果関係は不明である

◎私見
胃管切開のリスク因子は納得できるものが並んだ。タイミングについて国ごとにみてみると、早期気管切開が多いとそのぶん晩期気管切開が少ないのかというとそういうことはなく、早期が多ければ晩期も多い、すなわち気管切開そのものが多いという点は面白かった。気管切開そのものに対する閾値がすべてを決めている感じがする。気管切開率は最も少ない国で7.9%、最も多い国では50.2%と実に6倍近い差がある。いったいどんな違いがあるのだろう。この点も興味がわいた。
当施設でも気管切開をするかしないかについてよく議論になるが、一般に遅い気がする。「一度は抜管したい」という思いにつられてしまっている例も見かける。果たしてそれが本当に良いことをしているのかという点についてはよく考えた方が良い。そういう「お試し抜管」はすべきではないときっちり主張した腹部外科の先生がおられたが、まさしくその通りだと思う。

2020年3月21日土曜日

術中筋弛緩薬は術後肺合併症を増やすか?


【RECITE study】
Fortier LP, McKeen D, Turner K, de Médicis É, Warriner B, Jones PM, Chaput A, Pouliot JF, Galarneau A.
Anesth Analg. 2015 Aug;121(2):366-72.  PMID:25902322

Yu B, Ouyang B, Ge S, Luo Y, Li J, Ni D, Hu S, Xu H, Liu J, Min S, Li L, Ma Z, Xie K, Miao C, Wu X; RECITE–China Investigators.
Curr Med Res Opin. 2016;32(1):1-9.  PMID:26452561

Saager L, Maiese EM, Bash LD, Meyer TA, Minkowitz H, Groudine S, Philip BK, Tanaka P, Gan TJ, Rodriguez-Blanco Y, Soto R, Heisel O.
J Clin Anesth. 2019 Aug;55:33-41.  PMID:30594097

術後の筋弛緩薬の作用残存はTOF比<0.9と定義され、術後肺合併症(Postoperative pulmonary complications; PPC)のリスクである。筋弛緩作用残存の実状を調査した前向き観察研究(カナダ、中国、米国で施行されてそれぞれ別の論文として報告)。
カナダ:241人の患者のデータを解析。使用された筋弛緩薬の99%はロクロニウム。約7割の患者で拮抗薬としてネオスチグミンが使用された。筋弛緩作用残存は抜管時63.5%、PACU到着時56.5%に認められた。
中国:1571人の患者のデータを解析。拮抗薬として78%の患者にネオスチグミンを使用。抜管時の筋弛緩作用残存は57.8%に認められた。45歳未満、単回投与、ネオスチグミン投与から10分以上待ってから抜管、筋弛緩薬最終投与から1時間以上であることが筋弛緩作用が残存していないことと関連していた。
米国:255人の患者のデータを解析。筋弛緩作用残存は64.7%に認められた。男性、BMI高値、市中病院での手術が筋弛緩作用残存のリスク因子であった。


Alday E, Muñoz M, Planas A, Mata E, Alvarez C.
Can J Anaesth. 2019 Nov;66(11):1328-1337.  PMID:31165457

筋弛緩拮抗薬の種類とPPCの頻度を検討する目的で行われた無作為化試験。全身麻酔と硬膜外麻酔で腹部手術を受ける126人の患者をネオスチグミンを投与する群とスガマデクスを投与する群に無作為に割り付けた。術後のForced vital capacity(FVC)は両群同程度に低下した。ネオスチグミン群の39%、スガマデクス群の29%に無気肺が認められたが有意差はなかった。


【POPULAR study】
Kirmeier E, Eriksson LI, Lewald H, Jonsson Fagerlund M, Hoeft A, Hollmann M, Meistelman C, Hunter JM, Ulm K, Blobner M; POPULAR Contributors.
Lancet Respir Med. 2019 Feb;7(2):129-140. PMID:30224322

術中の筋弛緩薬使用がPPCに関連しているかどうかを検証した多施設前向きコホート研究。22803人が対象となった。筋弛緩薬を使用するとPPCの頻度が増えた(OR 1.86)。筋弛緩モニタを使用しても、筋弛緩拮抗薬を使用してもPPCは減らなかった.

Blobner M, Hunter JM, Meistelman C, Hoeft A, Hollmann MW, Kirmeier E, Lewald H, Ulm K.
Br J Anaesth. 2020 Jan;124(1):63-72. PMID:31607388

前述のPOPULAR studyのPost-hoc解析。TOF比0.9以上ではなく0.95以上を確認してから抜管したほうがPPCは少なくなった


Gerlach RM, Shahul S, Wroblewski KE, Cotter EKH, Perkins BW, Harrison JH, Ota T, Jeevanandam V, Chaney MA.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2019 Jun;33(6):1673-1681. PMID:30655198

術中の非脱分極性筋弛緩薬を避けることでPPCを減らせるかどうかを検証した無作為化試験。心臓血管外科手術を受ける100人の患者を対象とし、気管挿管時のサクシニルコリン投与のみにとどめる群とシスアトラクリウムを通常どおりに使用する群に割り付けた。PPCの頻度は両群共に16%と有意差が無く、術者はサクシニルコリン群で手術のしづらさを感じていた。


◎私見
臨床的な判断のみでは筋弛緩作用残存を知ることはできず、その頻度は極めて多いということがまず重要なポイントだろう。次いで大事なのはTOF>0.9をもって筋弛緩作用残存を否定することはできず術後肺合併症を予防できないという点。拮抗薬も信頼に足るかというとそうではないわけで、術後肺合併症のハイリスク群は極力筋弛緩薬を使用しないというアプローチが必要なのかもしれないが、サクシニルコリンを使えばよいというアイデアはどうもうまくないらしく難しいところ。PPCは起こるものとして術後ICUでしっかり評価と治療を行うのが良いのだろう。


2020年3月13日金曜日

超音波による臓器灌流の評価

Corradi F, Via G, Tavazzi G.
Intensive Care Med. 2019 Oct 25.  PMID: 31654077

循環不全(ショック)は組織低灌流で特徴づけられ、身体所見では三つの窓(皮膚、腎(尿)、意識)、検査所見では乳酸値や静脈血酸素飽和度PvaCO2 gapなどを評価することになる。超音波によって組織低灌流、特に腹腔内臓器の評価を行うことも可能である。

超音波ではドプラを用いてResistive index(DRI)を計測する。これは、低灌流状態では臓器の微小循環が変化して血管抵抗が上昇しDRIも上昇することを利用するものである。

腎臓のDRI(RDRI)は重症敗血症における急性腎傷害の発生を予測するなどの目的で使用される。RDRIが高いほど腎血管のコンプライアンスが悪いことを意味する。ただし、腹腔内圧、不整脈、低酸素、右心不全などに影響されることを知っておかなくてはならない。RDRIは1)血行動態が安定しているように見える患者における循環血液量減少の早期発見、2)腎血流量の評価、3)局所循環の改善を指標した平均血圧の推定などにおいて感度が高い。RDRI > 0.7は低酸素でなければ臓器灌流が異常であることを示唆する。腎静脈血流パターンが非連続性であったり間歇的であったりする場合は腎うっ血が示唆される。腎静脈血流の代替として門脈血流パターンを用いることもできる。門脈血流拍動指数(Portal vein pulsatility index; PVPI)> 50%では静脈系のうっ血が示唆される。

脾臓は心拍出量の10%、内臓器血流の約3分の2(800ml以上)の血液をプールしており、循環不全に伴って血管収縮が起こり臓器血流を維持しようとする。輸液負荷によって脾臓のDRI(SDRI)が4%以上減少した場合、輸液に反応して臓器血流が回復したことが示唆される。さらにSDRI >0.71では循環血液量減少に極めて感度が高いことが報告されている。

◎私見
単純に血圧だけ評価するのではなく、灌流をしっかり評価することが大事。その一つの手段として超音波が使えるのではないかという提案。単純に血圧にこだわって大量にカテコラミンを注ぎ込んではいけないのである。

2020年3月8日日曜日

気道閉塞圧(P0.1)

Telias I, Damiani F, Brochard L.
Intensive Care Med. 2018 Sep;44(9):1532-1535.  PMID:29350241

 P0.1(気道閉塞状態において吸気開始から100msec後に生じた圧)は非侵襲的に呼吸運動を評価できる指標である。Whitelawらは健常成人を対象とした調査で、P0.1は比較的一定の値を得ることができ、CO2負荷の程度と相関することを報告した。

 P0.1は呼吸中枢のアウトプットを評価するにあたって良い指標となる。吸気開始直後のわずかな気道閉塞は随意/不随意にかかわらず負荷として影響しない。呼気終末容積から吸気は始まるため、この気道内圧の低下は肺/胸郭のリコイルとは独立に生じる。気流は生じないため気道抵抗に影響されず、肺容積も変化しないため抑制的に働く反射や力速度関係も無視できる。P0.1は呼吸仕事量(WOB)や圧時間積(PTP)とよく相関する。自発呼吸さえ維持されていれば呼吸筋力が弱い状況でも信頼できる値を示す。

 正常では0.5~1.5cmH2Oであるといわれる。安定した状態にある非挿管下のCOPDでは2.5~5.0、人工呼吸管理中のARDSでは3.0~6.0、離脱試験中は1.0~13と報告されているようである。

 一呼吸毎に変動があるため、3~4回ずつ測定する必要がある。内因性PEEPがある場合は吸気運動が始まってから気道内圧が低下するまで遅れが生じる。非挿管患者でも口元で測定したP0.1は呼吸ドライブを過小評価すると言われるが、Contiらは気道内圧が低下し始めてから計測したP0.1は、吸気努力開始から100msecの間に低下する食道内圧の良い代替指標になると証明した(トリガー期間の気流が0のため)。両者の差は-0.3±0.5であり、臨床的に問題がない。
 呼吸器で測定したP0.1を解釈する際にはいくつか注意しなくてはならない点がある。回路内エアの減圧により過小評価となる可能性、呼吸器毎に異なる測定方法を用いているなどがある。いくつかの呼吸器は呼気終末に短時間の気道閉塞を行って計測しているが、いくつかはトリガーフェーズに基づき推定値を呼吸毎に表示している。最新の呼吸器のトリガーフェーズは50msec未満なので、特に呼吸努力が強い場合はP0.1を過小評価する。

 P0.1は吸気努力とよく相関するので、呼吸器のサポートを調節するに用いることができる。補助換気においても自発呼吸モードにおいても、P0.1が大きい時はサポートが足りず、低い時は過剰サポートが示唆される。PCV、IMV、SIMVいずれにおいてもP0.1は吸気努力が亢進していることを検出でき、その閾値は3.5であった(感度92%、特異度89%)。Pletsch-AssuncaoらはWOB<0.3J/LもしくはIneffective effort>10%を過剰補助と定義したとき、これを診断するP0.1は1.6以下であると報告した(感度62%、特異度87%)。これは呼吸数17以下を診断に用いた場合に比べて精度が劣るものであったが、手動閉塞を行ったという計測方法の問題と、過剰補助の定義によるものだと考えられる。興味深いことに、P0.1を用いたClosed loop systemも可能であると報告されている。 
 P0.1は過膨張のある患者のPEEPを調節する際にも利用できる。ManceboらはPEEP付与によってP0.1が減少する場合、内因性PEEPとWOBも減少していると報告している。
 MauriらはVV-ECMO使用中のARDS患者においてP0.1は呼吸ドライブの良い指標であることを報告している。スウィープガスを変化することによって生じたPCO2の変化をP0.1は良く反映した。
 P0.1は離脱の指標となるかどうか多く調べられている。SBTの最中にP0.1が高いと離脱失敗する可能性が高いと予想される。Bellaniらはサポートを減らしていくSBTに失敗した患者は呼吸ドライブ増大(~P0.1高値)に呼応する形で酸素消費を増やすことができないことを示した。
 しかし、P0.1の閾値はオーバラップが大きく、P0.1単独でも他の指標との組み合わせでも定まった閾値が見つかっているわけではない。これは離脱失敗の要因が多岐にわたることや研究デザインが異なることが原因だと考えられる。P0.1はPSV中に計測されることが多いが、抜管後に計測すると過小評価となることが知られている。これらの限界にもかかわらず、臨床医は呼吸ドライブにかかわる情報を得ることができる。例えば、極めて高い値(6以上など)に意味を見出すなどの戦略が考えられる。

◎私見
 興味ある指標。測定可能な人工呼吸器を使用しているのだから、もう少し利用してみても良いのではないだろうか。

2020年3月4日水曜日

乳酸値を解釈する際の10のピットフォール

Hernandez G, Bellomo R, Bakker J.
Intensive Care Med. 2019 Jan;45(1):82-85. PMID: 29754310

1.クリアランスとは単位時間当たりの溶質除去可能な血流量を意味するが、乳酸値は産生、排泄、代謝の要素を受けるので血中濃度の減少のみをクリアランスと表現するのは誤解を招く

2.乳酸値が上昇すると循環不全が続いていると判断し、乳酸値が減少すると改善していると判断しがちだが、クリアランス(排泄・除去)が悪くなっているだけかもしれないし、代謝の要素は全く予想できない

3.乳酸は糖やピルビン酸の代謝によって通常でも産生されるため、それらの基質の代謝が亢進すると循環不全が無くても乳酸値は上昇する。例えば敗血症に伴う炎症反応は解糖系を刺激しピルビン酸脱水酵素活性を抑制するので、細胞内のピルビン酸濃度が上昇し乳酸値も上昇する(糖とピルビン酸の比率は一定に保たれたまま)。

4.乳酸も糖のような基質の一種であり、エネルギーとして消費される(lactate shuttle)。臓器間シャトル(筋肉で産生され肝臓で使用)や、細胞間シャトル(脳)が知られている。

5.肝臓は乳酸代謝の約6割を担っており、遷延する高乳酸血症において肝障害が一役買っている可能性は高い。

6.大量(180ml/kg/hr)の乳酸リンゲル液は乳酸値を上昇させる可能性がある。

7.カテコラミン、アルカローシスに伴う糖代謝の亢進、乳酸を緩衝として使用した血液ろ過、肝機能障害、肺における乳酸産生、核酸逆転写酵素阻害薬やメトホルミンといった薬剤、エチレングリコールやメタノールなどの中毒によって乳酸は修飾されてしまう。

8.高乳酸血症が遷延する場合、低灌流部位における嫌気性糖代謝(特に微小循環障害)、ストレスに伴って起きるカテコラミン起因性好気性糖代謝、肝乳酸クリアランス低下、ミトコンドリア機能障害に伴うピルビン酸代謝異常が考えられる。臨床的にはこのなかから低灌流を見つけ出さなくてはならない。

9.乳酸値は重症度の指標である。

10.乳酸は分子であり、基質であり、バイオマーカであり、エネルギー源であり、輸液組成の一種であり、複雑な要素を持っているため、治療の目標とするには問題があるのでは?

◎私見
大事だけど固執してはいけないのが乳酸値。乳酸値がさがりきるまで治療するというアプローチは問題だし、遷延する高乳酸血症を放置するのも問題。要はバランスなのだが、バランスをとるには知識を持っていなくてはならない。何も知らないのにバランスをとっているふりをするのは専門家としていかがなものか、といつも思う。

2020年2月28日金曜日

質の高い低体温療法/平熱維持療法を行うために

Taccone FS, Picetti E, Vincent JL.
Crit Care. 2020 Jan 6;24(1):6. doi: 10.1186/s13054-019-2721-1.  PMID: 31907075

背景
蘇生後の目標体温管理療法(TTM)は、TTM trial(NEJM 2013)の結果を受けて平熱維持が増えている。しかし、TTM trialには患者背景の異質性、蘇生時間が短すぎる点、TTM導入の遅さと復温の速さなどの問題点も指摘されており、実際、HYPERION study(NEJM 2019)において33℃に冷却したほうが予後が良いという結果であった。TTMについてはまだ議論の余地があり、臨床においては様々な”やり方”が横行している。臨床研究を行ってTTMの効果を検証するためには、まず正しい”やり方”を定義すべきではないか?

質の高いTTMとは?
開始時期:
虚血再灌流障害の軽減という観点からはできるだけ早期にTTMを開始することが望ましいが、冷却輸液を用いた早期冷却は有効ではない。一方、経鼻デバイスを蘇生中から用いた場合は有効との報告がある
体温測定:
膀胱温、食道温、血液温のような深部体温を指標にすべきである(実際の脳温はこれよりも0.4~2.0℃高いという研究があるが)。口腔温、腋窩温、直腸温は避ける。また、体温は持続的に測定して変動をできるだけ小さくすべきである
目標体温:
依然として何℃が最もよいのかはわかっていないが、厳密にコントロールする方が良いのは間違いなさそう。議論はあるが、出血、血行動態不安定などの問題点がある場合は36℃などの平熱を、長時間のCPR、痙攣、脳浮腫などの神経学的問題がある場合は33℃のような低い体温を目標にした方が良いかもしれない
冷却期間:
最低でも24時間は続けるべきである。24時間と48時間では神経学的予後に有意な差が無いが長時間の方が5%改善してはいる。新生児における長時間冷却(72時間など)や48時間以上のTTMで合併症が特に増えるわけではないという報告もある。いずれにしろ、TTMを短時間にとどめることはしない
復温速度:
専用の体温調節デバイスを用いてできるだけゆっくり(0.15~0.25℃/hr)復温すべきである。”Post-TTM fever”は有害だと言われており、患者の状態に応じて(目が覚めるなら短時間、脳損傷の証拠があるなら長時間)復温修了後48時間は体温を慎重に調節すべきである

質の高いTTMを行うために
鎮痛鎮静:
シバリングの抑制は重要である。薬剤の蓄積を考えると短時間作用型の薬剤(プロポフォールやレミフェンタニルなど)が好ましいがプロポフォールは血行動態に与える影響が大きい。鎮痛鎮静薬はTTM開始時に投与を始め、平熱になってから中止すべきである。平熱時にシバリングが起きた場合は鎮痛薬や少量の鎮静薬、マグネシウム、α2アゴニストで対処する。アセトアミノフェンやNSAIDsはTTMの最中にはあまり意義が無いが平熱復温後の体温管理には使用できる。筋弛緩薬はTTMにおいて体温管理を容易にし、特に高用量の鎮痛鎮静薬を使用してもシバリングを抑制できないような場合に有用である。Bedside Shivering Assessment Scale(BSAS)のような指標を用いることも考える
デバイス:
アイスパッドやアイスパックのような方法ではなく、専用の体温フィードバック機構を備えたデバイスを用いるべきである

◎私見
TTMに限らずICUで行われる介入の質の管理は、集中治療医にとって重要な職務だと考えている。人工呼吸器の設定を変える、輸液の指示を出すといった基本的な営為もそう。それこそが我々の存在意義だと思う。

2020年2月23日日曜日

鎮痛鎮静薬と非同調

de Haro C, Magrans R, López-Aguilar J, Montanyà J, Lena E, Subirà C, Fernandez-Gonzalo S, Gomà G, Fernández R, Albaiceta GM, Skrobik Y, Lucangelo U, Murias G, Ochagavia A, Kacmarek RM, Rue M, Blanch L; Asynchronies in the Intensive Care Unit (ASYNICU) Group.
Crit Care. 2019 Jul 5;23(1):245.  PMID: 31277722

人工呼吸管理中の非同調は、オピオイド単独の鎮痛鎮静によって減少するのかどうかを検証した前向き観察研究。79名の患者から記録したのべ14,166,469回の呼吸を解析。鎮静薬単独投与時、オピオイド単独投与時、鎮静薬オピオイド併用時の間で有意差は無いものの、鎮静薬単独投与時は鎮静薬オピオイド併用時に比べて非同調が多い傾向があった。鎮静薬を大量に投与すればするほど鎮静深度が深くなりDouble cycling(DC)が減った。オピオイドと併用している鎮静薬投与量を増やすとIneffective inspiratory efforts during expiration(IEE)が増えてAsynchrony index(AI)が増加した。一方でオピオイド投与量を増やすと鎮静深度にはそれほど影響を与えずに非同調が減少した。鎮静薬はオピオイドに比べて非同調を減らさない。オピオイドは意識障害をきたすことなくAIを減らせる。鎮静薬を増やして減らせるのはDCのみ。

◎私見
非同調を減らしたければオピオイドを増やした方が良さそう。鎮静薬で抑え込むのではなくオピオイドで「覚醒しているが静穏」な状態を目指す。でも、どうしても患者さんを寝かせたいという医療従事者は依然として多く、「眠らない」という理由で鎮静薬が増量されているのを頻繁に目にする。非同調という観点から 鎮痛優先を説くのもありかもしれない。

2020年2月19日水曜日

頭部外傷に対するトラネキサム酸の投与は妥当か?

Taccone FS, Citerio G, Stocchetti N.
Intensive Care Med. 2019  PMID:31820035

CRASH-3 trial(Lancet 2019)では、単独頭部外傷患者に対する受傷早期(3時間以内)のトラネキサム酸(TXA)投与の効果を検証したRCTだが、28日死亡率には有意な差は無かった(19.8% vs 18.5%、RR 0.94)。しかし、軽度~中等度の頭部外傷患者に限ってみると有意に死亡率が減少していた(R 0.75、95%CI 0.64-0.95)。
これをもって頭部外傷においてTXAは極めて有効であるとの言説が認められるが問題がある。そもそもサブグループ解析の結果でそこまで言えるのかどうか疑問であるし、All-cause mortalityをHead injury-related mortalityと解釈するのも問題である。研究の途中でプロトコルが変更されて多くの患者が除外されるに至っているし、機能障害には両群で差が無い(いつ機能障害を評価したのかもわからない)。血栓症に差が無かったとしているが明らかな血栓症のみを調べており実際の血栓形成を過小評価している可能性がある。GCS 13-15の軽度頭部外傷患者の背景が不明だし、もともと軽度と中等度を合わせて解析する計画ではなかった。TXAの機序に関するアウトカムデータ(血腫の量や凝固機能)についての報告もない。
ではどのように考えればよいか。まず、TXAは重度頭部外傷には推奨されないだろう。一方で軽度頭部外傷でもCTで出血があればTXA投与が正当化されるかもしれない。中等度頭部外傷(GCS 9-12)ではタイミングと瞳孔反応が許せばTXAを投与してよいだろう。

◎私見
TXAの神経毒性が心配で頭部外傷では使いづらいのではないかと思っていたが、CRASH-3でその懸念は無さそうだということが分かって安心していた。では、本来期待している作用である出血の抑制と死亡率の低下についてはどうかというと、あまり期待できるものではないのではないかというのが正直なところ。ICU入室する頭部外傷患者は軒並み重症だからだという理由もあるのだが、そのあたりのことを明確に解説したEditorial。こういうのは読んでいて面白い。

2020年2月12日水曜日

PIICSを判定するCRP値は?

C‑reactive protein clustering to clarify persistent inflammation, immunosuppression and catabolism syndrome
K Nakamura, K Ogura, H Nakano, et al
Intensive Care Med 2020

ICU患者は、ときに炎症が遷延し在院日数が伸びることがある(Persistent inflammatory, immunosuppressed, catabolic syndrome; PIICS)。PIICSを診断するためのCRPのカットオフを検討した。
5513人の入室患者から14日以上入院した539人を解析対象として抽出。14日目のCRPを解析して7つのクラスタに分類した。PIICSと判定するCRPのカットオフは3.0mg/dlであった。PIICSクラスタは退院時のBarthel index、アルブミン値、14日目のリンパ球数が有意に低かった。入院時のCK、アンチトロンビン活性、トロンボモジュリンはPIICSの独立したリスク因子であった。

*PIICS
慢性重症疾患Chronic critical illness(CCI)が知られているが、そのなかには遷延する炎症、持続する臓器不全、免疫抑制と異化に特徴づけられるPIICSが含まれていることが分かってきた。以下のような基準が低用されているが、これらはエビデンスに基づいた閾値ではない
14日以上の入院、CRP>0.15mg/dl、リンパ球数<800/㎜3、入院中の10%を超える体重減少もしくはBMI18未満への減少、アルブミン<10mg/dl、Retinol結合蛋白<10μg/dl

◎私見
PIICSについて少し調べていたところに発表された日本発の研究。
「なかなかすっきりよくならない」とあいまいに見られていた患者に名前がつくことで治療方法などが検証されやすくなる。”名づける”(≒定義づける)ことが観察研究の意義のひとつなのだと思う。

2020年2月8日土曜日

ARDSにデキサメタゾンは有効かもしれない

【DEXA-ARDS study】
Dexamethasone treatment for the acute respiratory distress syndrome: a multicentre, randomised controlled trial
Jesús Villar, MD , Carlos Ferrando, MD, Domingo Martínez, MD,Alfonso Ambrós, MD
Tomás Muñoz, MD, Juan A Soler, MD et al.
Lancet Respiratory Meidicne
February 07, 2020  DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30417-5

ARDSに対してステロイドが有効かどうかについては相反する報告があるため検証した。スペインの17のICUにおいて中等度~重度ARDS(P/F≦200かつPEEP≧5 OR FIO2≧0.5 OR ARDS発症から24時間以上)と診断された277人の患者を対象とし、デキサメタゾン(20mg/dayを5日間+10mg/dayを5日間)群139人と通常治療群138人に無作為に割り付けた。予定症例数の88%を組み込んだところで患者登録に時間がかかっているという理由で試験は中断された。デキサメタゾン群はVFDが大きく(群間差 4.8)、60日死亡率が低く(21% vs 36%)、副作用に差はなかった(高血糖 76% vs 70%、新規感染症 24% vs 25%、圧損傷 10% vs 7%)。

◎私見
2013年から始まっている研究で、途中で中断しているとはいえ9割近い症例数を集めることができている。これで微妙な結果だったら注目しないが、予想外にステロイド投与群の予後が良かった。現環境では抄録しか読むことができず患者背景が不明だが、外的妥当性が十分ならステロイド投与を考慮しても良いのかもしれない。

2020年2月6日木曜日

敗血症のタイプとステロイド

Antcliffe DB, Gordon AC.
Crit Care Med. 2019 Dec;47(12):1782-1784. PMID:31162195

敗血症は発現しているRNAによって二つのタイプに分けられる(Sepsis response signature (SRS) 1とSRS 2)。SRS1はSRS2に比べて免疫抑制と死亡率の高さで特徴づけられる。
敗血症性ショックにおけるHydrocortisoneの効果をみると、SRS1では死亡率がほとんど変わらず(OR 0.85)、SRS2では死亡率が悪化する(OR 7.9)。血圧はSRS1にしろSRS2にしろ上昇傾向になる。ADRENAL study(90日死亡率28%)ではステロイドの効果が証明できず、APROCCHSS study(90日死亡率46%)では有効であったという過去の研究はこのタイプの違いによって説明できるかもしれない。
ステロイドには糖質コルチコイド作用と鉱質コルチコイド作用があり、それぞれ免疫・代謝調整作用とNa・水貯留作用を有する。Hydrocortisoneは1:1の割合でそれぞれの作用を持つ。SRS2では免疫機能がある程度正常なので免疫抑制作用のある薬剤より鉱質コルチコイド作用がメインのFludrocortisoneによる心血管系作用を期待するのが良いかもしれない。

◎私見
こうやって自分の意見を開陳してくれる先輩にめぐまれなかった自分としては、このような文献はありがたい。正しい、誤っている、どちらにしろ考えるきっかけになるから。
ステロイドを敗血症性ショックだからとむやみに使ってはいけないということを示しているのだが、では、この二つのタイプをどうやって簡便に見分けることができるか。

2020年2月3日月曜日

低体温療法と心電図変化

Khan JN, Prasad N, Glancy JM.
Europace. 2010 Feb;12(2):266-70. PMID:19948565

偶発性低体温症ではQT時間が延長することが知られているが、低体温療法でもそうなのかどうかを4名の心停止患者で調査。いずれも低体温療法導入に伴ってQT時間が延長し、復温後に元に戻った。体温とQT時間には逆相関の関係があった。


Mirzoyev SA, McLeod CJ, Bunch TJ, Bell MR, White RD.
Resuscitation. 2010 Dec;81(12):1632-6. PMID:20828913

低体温療法が低カリウム血症と不整脈に関連するかどうかを検討した院外心停止患者94人を対象とした後ろ向き研究。冷却開始10時間後にカリウムは平均3.9→3.2mEq/Lに低下した。11人に多形性心室頻拍(PVT)を発症し、そのうち8人は冷却期に発生た。QT時間も冷却に伴って延長した。低カリウム血症はPVTの発症と有意に関連しており、血清カリウム値が2.5未満で発症する可能性が最も高かった。リバウンドで高カリウム血症になる患者はいなかった。低体温療法中のカリウムは3.0以上に維持することが推奨される。


Nishiyama N, Sato T, Aizawa Y, Nakagawa S, Kanki H.
Am J Emerg Med. 2012 May;30(4):638.e5-8.  PMID:21459539

先天性QT延長症候群のある患者の蘇生後に低体温療法を導入したところ、QT時間がさらに延長したがTdPなど不整脈の再発は無かった


Lam DH, Dhingra R, Conley SM, Kono AT.
Clin Cardiol. 2014 Feb;37(2):97-102. PMID:24515670

低体温療法による心電図変化が院内死亡に関連するかどうかを検討した101人を対象とした後ろ向き研究。低体温療法に伴ってPRおよびQT間隔が延長し、心拍数・QRS間隔が減少た。対象症例のうち45人が死亡したが、生存者と非生存者では、心拍数、PR、QRS、QT時間に差は無かった。低体温に伴ってQT時間が短縮したものもいたが、延長したものと比較して死亡率には差が無かった。初期心電図で右脚ブロックがある患者は死亡率が高かった(OR 4.1)


Salinas P, Lopez-de-Sa E, Pena-Conde L, Viana-Tejedor A, Rey-Blas JR, Armada E, Lopez-Sendon JL.
World J Cardiol. 2015 Jul 26;7(7):423-30.  PMID:26225204

低体温療法に伴う心電図変化を検証。心拍数は平均19低下し再加温により16上昇。PR間隔の有意な延長はなく再加温により減少。QRS幅は延長し再加温で短縮。QT時間は平均58msec延長し細管により22.2msec短縮。J波は21.3%に認めた。新規不整脈は38.3%で発生し、その頻度は非持続性心室性頻拍(19.1%)、重度徐脈/ペースリズム(10.6%)、房室結節促進伝導(8.5%)、心房細動(6.4%)であった。致死的な不整脈は無かった。


Dietrichs ES, Tveita T, Smith G.
Cardiovasc Res. 2019 Mar 1;115(3):501-509.  PMID:30544147

低体温(治療的・偶発的)の心臓電気生理に与える影響を調査したレビュー。QT時間は延長するがQRS間隔よりも温度の低下に影響されやすいようである。重度の低体温になると催不整脈性が出現する。J波は低体温症例で常に認められるわけではない。低体温症における抗不整脈薬の有効性に関する臨床データはほとんどないが、実験データによるとクラスIII抗不整脈ブレチリウムなどの一部の薬剤が有効かもしれない。いずれにしろQTを延長させる可能性がある薬は避けるべきである。


◎私見
低体温療法が循環に与える影響とは具体的に何があるのかを知るために、心電図変化に注目していくつか研究をピックアップ。QT時間が延長することは重要だが、必ずしも予後を悪化させるわけでは無さそう。

2020年2月1日土曜日

重症筋無力症と呼吸器離脱

Liu Z, Yao S, Zhou Q, Deng Z, Zou J, Feng H, Zhu H, Cheng C.
J Int Med Res. 2016 Dec;44(6):1524-1533.  PMID:27856933

重症筋無力症クリーゼを発症した33名の患者の76のエピソードについて、早期抜管(7日以下)と長期呼吸管理(15日以上)に関連する因子を後ろ向きに検討。血漿交換は早期抜管に関与する因子であった。男性、高齢(50歳以上)、無気肺、人工呼吸器関連肺炎は長期呼吸管理の危険因子であった。


Seneviratne J, Mandrekar J, Wijdicks EF, Rabinstein AA.
Arch Neurol. 2008 Jul;65(7):929-33.  PMID:18625860

重症筋無力症クリーゼを発症した40名の患者の46のエピソードについて、抜管失敗(再挿管、気管切開、挿管中の死亡)ならびに再挿管に関連する因子を後ろ向きに検討。抜管失敗は44%、再挿管は26%に認められた。男性、繰り返すクリーゼ、無気肺、10日以上の挿管期間は抜管失敗の危険因子であった。低いpH、低いForced vital capacity、無気肺、抜管後のBIPAP使用は再挿管の危険因子であった。無気肺は両者に関与する強い因子であった。抜管失敗も再挿管も、長期ICU在室ならびに在院と関連していた。


Rabinstein AA, Mueller-Kronast N.
Neurocrit Care. 2005;3(3):213-5. PMID:16377831

重症筋無力症クリーゼを発症した20名の患者の26のエピソードについて、抜管失敗(再挿管、気管切開)に関連する因子を後ろ向きに検討。抜管失敗は27%に認められた。再挿管までの時間の中央値は36時間だった。高齢、無気肺、肺炎は抜管失敗の危険因子であった。抜管失敗した症例はICU在室日数や在院日数が有意に長かった。


◎私見
無気肺や肺炎を合併すると抜管は難しくなると言えそう。こういったものを起こさないように丁寧に管理するともしかすると抜管失敗を減らせるのかもしれない。ただし、これらは呼吸筋力を評価しているわけではなく、肺実質が回復過程にある呼吸筋力でも耐えうるような状態になっているかどうかを示すものに過ぎないことに注意が必要。徒手筋力テストや換気メカニクス、呼吸仕事量、呼吸筋のエコーによる評価で呼吸筋力そのものを評価し、抜管失敗を予想できないものだろうか。

PEEPの決め方

Rezoagli E, Bellani G.
Crit Care. 2019 Dec 16;23(1):412. PMID:31842915

ARDSでは虚脱する肺領域が存在するため、PEEPを付与することで呼気終末肺容量End-expiratory lung volume(EELV)が大きくなり、呼吸器系コンプライアンス(Crs)が改善し、換気駆動圧(DP)が減少する。現在のガイドラインでは中等度~重度ARDSにおいては高めのPEEPが推奨されているが、絶対値が示されているわけではないが、ここではDPと酸素化を指標にして血行動態が許す限りPEEPを高くするアプローチをとる方法を紹介する。

① 換気駆動圧DP
PEEPを高くするにつれてCrsは改善するが、過膨張が生じると逆に悪化するであろうことを利用する。換気量を一定にした状態でPEEPを増やし、DPが減少するのであればリクルートメントが生じていると判断する。この方法がうまくいくかどうかを判断する目的で軽度のリクルートメント手技(Diagnostic RM)を行うこともある(40cmH2O×20秒など)。PEEPを増やしてCrsが減少する(DPが増加する)ようであれば過膨張が生じていると判断し、PEEPもしくは一回換気量を減じる。
② 酸素化
P/Fは肺がリクルートされたかどうかの指標にはなり得ないが、PEEPによって酸素化が改善した症例の予後が良いとの報告もあるため酸素化はモニタする。PEEPによって酸素化が改善しなかった場合は吸入酸素濃度を増やす。PEEPを増やしたことによってPaCO2が増大する場合は過膨張が示唆される危険なサインである。

Electrical impedance tomography(EIT)が使用できる場合は、以下のようにPEEPを設定する。まずDiagnostic RMを行いリクルートメントが有効かどうかを判定する。次いでPEEPを2cmH2Oずつ増やしながらEELVが安定するレベルをEITで検索する。食道内圧を用いて調整をすることもある

RM+高いPEEPが死亡率を増やすという報告もある(ART trial)。しかしこの研究はPEEPを増やしたことがDPを減らしたかどうかを検討していない、循環不全をきたすほどのRM、ベストPEEPに2cmH2O上乗せしたことが局所的に過膨張を引き起こした可能性などの問題があるため自分たちの方法とは異なる。


◎私見
もちろんこれは個人の(この施設の)やり方に過ぎないのですべての症例に推奨すべきものではないが、PEEPなんてとりあえず上げときゃいいんでしょみたいなやり方に比べればはるかにまし。
なかなかうまく言えないが、強固なエビデンスがない=どうでもよいということではないことを研修医の先生たちのはしっかりと理解してもらいたい。そんなの当たり前だと思うかもしれないが、実際は”どうでもよい”やり方で患者さんを治療している人が多い気がしている。




2020年1月29日水曜日

VILIを予防するためにどのようにパワーを制御するか

Marini JJ.
Crit Care. 2019 Oct 21;23(1):326.  PMID:31639025

人工呼吸器関連肺障害(VILI)は経肺圧(Stress)とそれに付随する肺容量の変化(Strain)の関係によって起きるが、それ以外にもいくつかの要因が関与する。呼吸数や呼吸管理期間、吸入酸素濃度、高体温、経肺胞肺血管圧較差、呼気(呼息)、そしてパワーである。パワーは一分あたりに加えられるエネルギーであり、分時換気量と三つの圧の合計(Flow resistive、Driving pressure、PEEP)によって定義される。このうちDriving pressureがもっとも直接的にVILIに関与する。
VILIを避けるために、まず肺の脆弱性を抑制し生体の換気・酸素化・血流の必要量を減らすことから始める。深鎮静±筋弛緩薬で経肺圧を最小にし、換気需要を減らして呼吸仕事量を軽減する。低酸素血症が重篤であったり推定した肺容量が小さい場合は腹臥位にする。腹臥位にすることで肺容量を増やして経肺圧(Stress)を小さくすることができるし、酸素化を改善することで吸入酸素濃度を減らせる。解熱、不穏への対処、原因の除去も重要である。次いで呼吸器設定を調節する。呼吸器設定は①換気駆動圧とPEEPの調節、②分時換気量の調節、③IE比と吸気パターンの調節を行う。換気駆動圧は15以下、プラトー圧は27以下にすることを目標にする(どちらも経肺圧で調節する)。PEEPは完全なリクルートメントを目的とせず、Decremental approachでリクルートメントと過膨張の最もバランスの取れた値を目指す。換気量はPaCO2 60程度までを許容することで制限する。IE比は1:1~1:1.5とする。自発吸気努力を消失させた場合は定常流の従量式換気とする。

◎私見
肺損傷を予防するために呼吸器設定をどのように調節するのかというMarini先生の解説。こうやって指導してくれる先輩が自分にはいなかったので、このような文章は貴重。

循環不全の新しい重症度スコア


Intensive Care Med. 2019 Nov 4. PMID:31686128





MIMIC-IIIとeICUデータベースを用いた解析。敗血症患者を対象に、循環の新しい重症度スコア(MAP/NEQ)の有用性を検討した。この重症度スコアは平均血圧(MAP)をノルアドレナリンの投与量で除したもので、バゾプレシンはノルアドレナリン投与量に換算して計算した(Vasopressin 0.02-0.05U/min=Noradrenaline 10μg/min)。
MAP/NEQの三分位は<136、136-324、≧325であった。Cardiovasucular-SOFA scoreやModified Cardiovasuxular-SOFA scoreと比較してICU死亡を良好に予測した。

◎私見
呼吸におけるP/Fのように、循環も比でみる指標があれば有用ではないかというアイデアを検証した研究。Cardiovascular SOFAにも血圧とカテコラミンの両方の要素が含まれるため、これを比較対象にしているが、しっかり比でみるMAP/NEQの方が勝つに決まっている気もする。
あとはこの指標を臨床応用できるようなプラスアルファのアイデアがあるかどうか。筆者らはステロイドの反応性を予測できないかどうかなどと考察している。

2020年1月25日土曜日

経頭蓋ドプラの使い方

Robba C, Taccone FS.
Crit Care. 2019 Dec 23;23(1):420. PMID:31870405

1)頭蓋内圧の評価
明らかな適応があれば侵襲的な頭蓋内圧測定法を用いるべきだが、適応がはっきりしないときや侵襲的手段がとり得ないときは経頭蓋ドプラ(Transcranial doppler; TCD)をトリアージとして使用する。Pulsatility index(PI)が増大し、かつ拡張期流速(diastolic FV)が減少した場合は頭蓋内圧が増大している可能性がある。ハイリスク群では1~2時間ごとにTCDを計測する

2)脳死の判断
TCDを副検査として使用する。Reverberating flow、Systolic spikes、Disappearance of previously recorded flow velocityのいずれかのパターンが認められた場合は脳循環停止(Cerebral circulatory arrest; CCA)と判断する

3)自己調節能
Static autoregulatory index(脳血管抵抗=平均血圧÷mean flow velocityが、血圧変化時に何%変化したか)もしくはTransient hyperemic response test(頸動脈を圧迫してSystolic flow velocityが10%以上増加するかどうか)で判定する

4)血管攣縮
くも膜下出血後には毎日1~2回血管攣縮をTCDで評価する。臨床的に血管攣縮を疑う神経所見があり、かつ中大脳動脈(MCA)のmean flow velocity>200cm/secであった場合には直ちに治療を開始する。もしmean flow velocityが120から200の間であった場合は頭蓋外の内頚動脈のmean flowvelocityで割ってLindegaard ratioを計測し、血管攣縮と脳過灌流を鑑別する。なお、MCAのmean flow velocityが120を下回っていても神経学的所見から血管攣縮を疑う場合はCTや脳血管撮影を行う

◎私見
TCDは流行ってもいいと思うのだが、技術的にやや難しいのと患者さんによってはまったく見えないのが問題。ただ、難しいからとプローブをあてもしないのは違うと思う。当然ながら神経学的所見もしっかりとるべきで、TCDだけやればよいというわけではないことは強調すべき。

2020年1月18日土曜日

P/Fに影響する因子

Benefits and risks of the P/F approach.
Gattinoni L, Vassalli F, Romitti F.
Intensive Care Med. 2018 Dec;44(12):2245-2247. PMID:30353385

P/Fは様々な要因によって影響を受けてしまうため、その解釈には注意を要する。P/Fが同じ値であっても、全く別の臨床状況を意味することがある。

1)肺胞酸素分圧の影響
本来PaO2/PAO2で考えるべきなのに、P/FにおいてはFIO2でPAO2を代用している点に注意が必要。肺胞換気式 PAO2 = FIO2 × (Pb―47)― (PaCO2 ÷ R)を考えると、大気圧すなわち高度が高くなるとPAO2 が小さくなり、PaO2/PAO2が大きくなる可能性がある。ECCO2Rを行っていると呼吸商 Rが小さくなるためPAO2が小さくなり、PaO2/PAO2は大きくなる。

2)シャント率や酸素需給バランスの影響
Rileyモデルによると、Venous admixture(シャント率)=(CcO2-CaO2)/(CcO2-CvO2)である。ここで、CcO2は肺胞気によって酸素化された血液の酸素含量、CaO2・CvO2は動脈・静脈血酸素含量である。P/FはCcO2-CaO2ないしCaO2/CcO2と同じ意味を持つ。P/FすなわちCcO2-CaO2=Venous admixture × (CcO2-CvO2)なので、P/Fはシャント率や混合静脈血酸素飽和度の影響を受けることになる。また、CvO2=CaO2-酸素消費量VO2/心拍出量Qtなので、酸素消費量や心拍出量の影響もうけることになる。

文献より引用
・Qva/Q:シャント率、幅は心拍出量による影響を示している、酸素消費量は一定としてある
・シャント率が高くなるとP/Fが低くなる
・心拍出量が大きくなると混合静脈血酸素飽和度が低下するためPaO2が上昇する(P/Fが上昇する)
・例えばシャント率20%で心拍出量6L/minのとき、FIO2 0.3~0.7ではmild ARDSと診断されても0.7~1.0ではARDSではないと診断されてしまうことになる

3)臨床応用
重症度を評価する際にはFIO2を一定に保って比較する方が良いかもしれない。PEEPはシャント率を低下させるが心拍出量を減少させる可能性もある。つまり、P/Fを上昇させることもあれば低下させることもあることに注意する。リクルートメントを行うときには注意。

◎私見
P/Fも単純なようでいて奥が深い。シャントが多くなるとP/Fは低くなる(酸素投与に全く反応しなくなる)こと、心拍出量の影響を受けること、FIO2が高い時はP/Fを過小評価する可能性があることあたりをおさえておけばよいか。

2020年1月13日月曜日

血圧ではなく臓器灌流を指標とした蘇生戦略

From a pressure-guided to a perfusion-centered resuscitation strategy in septic shock: Critical literature review and illustrative case
Raúl J.GazmuriMD, PhD, FCCMaCristina Añezde GomezMDb
Journal of critical care 2020

敗血症初期に低血圧と低灌流が同時に生じる。低血圧は炎症反応の結果として生じた血管拡張が原因であり、低灌流は相対的な前負荷不足や心機能障害もしくはもともとの弁膜症などの器質的心疾患の影響によって生じる。炎症反応の改善には時間がかかるため、低灌流が例えば輸液負荷によって改善しても低血圧が改善するには時間がかかることがある。血圧を指標にするのではなく、灌流状態を指標に敗血症蘇生を行うべきではないか?

症例
77歳の肺炎球菌性肺炎に伴う敗血症性ショック。輸液蘇生にもかかわらず血圧が低下しノルアドレナリンを投与しつつ気管挿管。肺動脈カテーテルを挿入して血行動態管理を行った。平均血圧は体血管抵抗の減少を反映して低いものの心拍出量は高く、酸素供給量も酸素消費量に比して十分であった。平均血圧は65未満であったもののノルアドレナリンを漸減中止した。患者は特に問題なく回復した。

▶ ガイドラインでは昇圧剤を必要とする敗血症性ショックでは平均血圧65以上を目標とするとされているが、そもそも昇圧剤の投与の根拠となる研究のエビデンスレベルは低い(昇圧剤を使った場合と使わなかった場合を比較した質の高い研究は無い)。
▶ 低血圧と臓器障害(心筋虚血や腎障害など)の関連を報告した研究は多いため”血圧を守る”パラダイムが生じたと思われるが、低血圧が直接的に臓器障害を引き起こしたことを証明した研究は無く、低血圧を治療するための薬剤が臓器障害をもたらした可能性すら指摘されている。
▶ 敗血症性ショックのメカニズムのひとつに過剰なNO産生がある。NO合成酵素阻害薬の効果を検証したRCTがあるが、血圧は有意に上昇するものの死亡率も上昇してしまったため早期に中止されている。肺動脈圧が上昇し心拍出量が低下したことが要因の一つと考えられている。つまり、血管拡張を治療することで平均血圧を上昇させても臓器灌流が改善するとは考えるべきではないことになる。
▶ カテコラミンは褥瘡、消化管血流減少、ICU-AW、敗血症性免疫麻痺、脳組織酸素飽和度低下、心筋障害・心房細動、Symmetric peripheral gangrene(SPG)に関与しており予後を悪化させる。もともと心機能が悪かったり弁膜症が存在したりする場合は後負荷の影響が大きくなるため昇圧剤は心拍出量を激減させ臓器灌流を悪化させる可能性がある。実際、輸液ではなくカテコラミンで平均血圧を維持しようとした研究では予後が悪化している。MIMIC-Ⅲを用いた解析では低血圧や他の因子とは独立してカテコラミン投与量が増えると死亡率が上昇することが示されている。低血圧は疾患の表現型であるのに対し、カテコラミンは人為的に行われることに注目すべきである。高用量のノルアドレナリンによる血管収縮がショックを悪化させたり過剰なβ1刺激が心機能を悪化させたりすることでこのような弊害がもたらされるのではないかと考えられる。
▶ ノルアドレナリンは静脈を収縮させて静脈還流を増やし(=前負荷が増え)心拍出量も増加する。Permpikulらはノルアドレナリン早期投与の効果をRCTで検証し、心原性肺水腫や新規不整脈が有意に減少し、死亡率も減少する傾向があったと報告している。ただし、蘇生後期にはOpen-labelでカテコラミンを使用することを許可しているため、これが本当に必要だったかどうかを検証する必要がある。
▶ Vasopressin、Selepressin、Terlepressinをノルアドレナリンと比較した試験では死亡率は改善していない。AngiotensinⅡの効果を検証したATHOS-3 studyでもカテコラミン必要量は減らすものの感染症が増加し、多臓器不全も減らさず、血栓症の危険性も指摘されている。しかし、腎代替療法を行っている患者では腎機能回復を促進し生存率が増加する可能性が指摘されている。
▶ 重症度が低いからなのか昇圧剤を使わなかったからなのかは不明だが、遷延する低血圧に対して昇圧剤を使わなかった方が死亡率が低かったという観察研究の結果がある(JAMA 2016)。また、EGDTは重症度が低い群には有用だが重症例では輸液過剰がネックとなって有用ではないことが示唆されており、平均血圧を指標にすることの限界が示されていると考えられる。
▶ ノルアドレナリンは心拍出量を増やすと言われるが、実際はその作用はそれほど大きくはなく、体血管抵抗を24~35%上昇させるのに対して心拍出量は3.4~10%程度しか上昇しない。

▷ 組成の指標を血圧ではなく臓器灌流、とりわけ微小循環にパラダイムシフトする必要があるのではないか
▷ 臓器灌流と微小循環には関連がある。ノルアドレナリンは血圧などの血行動態を改善する効果を持つが微小循環に与える影響は様々であり、血圧を上昇させたからと言って微小循環が改善しないことも実際に示されている。ドブタミンは心拍出量とは無関係に微小循環を改善することが示されている。毛細血管再充満時間(CRT)や末梢皮膚温などを指標とした灌流指向型の蘇生の有用性を検証する研究(TARTARE-2S trial)や65未満の血圧を指標とした研究(65 trial)が既に行われている。いわゆる血行動態指標(血圧など)と微小循環との間には細動脈が存在したい血管抵抗を規定する因子の一つとして作用する。そのため、平均血圧は毛細血管灌流圧の指標とはなり得ない。
▷ 心拍出量が不変で体血管抵抗が上昇すると平均血圧は上昇するが微小血管灌流圧は不変である。心拍出量が体血管抵抗上昇に伴って減少する場合は平均血圧はさほど上昇せず微小血管灌流圧はむしろ減少する。体血管抵抗が不変で心拍出量を増やすことができれば微小血管灌流圧は増加する。また、心拍出量が増えて体血管抵抗が減少した場合も平均血圧は増加しないものの微小血管灌流圧は増加する。つまり、心拍出量の増加が無ければ微小血管灌流圧は増加しないと思われるし、平均血圧が上昇しないことが微小血管灌流圧が改善していないことを示唆するものではないことになる。皮膚は細動脈収縮によって真っ先に犠牲になる臓器(それによって脳や心臓の血流を増やそうとする生理的反応)であり、皮膚温やCRTを指標に微小血管灌流圧を評価することは理に適っている。
▷ 灌流指向型蘇生戦略は輸液によって心拍出量が増えるかどうかを判断するところから始まる。心拍出量が増えないのであればそれ以上の輸液はしない。心血管作動薬は血管拡張作用を持つドブタミンやミルリノンを用いる。純粋な血管拡張薬であるニトログリセリンを使用する方法も考えられる。臓器灌流は皮膚温やCRTを指標とする。
▷ それでは血圧はどこまで低くなっても許容できるのだろうか? 明確な研究は無いが、平均血圧36±11で心停止に至るという研究があり、脳や冠動脈の灌流を維持できる最低ライン(45~50)を考えると、45~55mmHgではないかと推測される。

◎私見
読んでいてとても楽しかった。自分は平均血圧65mmHg以上を金科玉条のごとく守ることは無いし、循環管理は心拍出量をしっかり評価すべしというのは体に染みついているので、すごく意外というわけではない内容。血管拡張薬を用いるというアイデアも知っていたし、実際にSPGに対して使用したこともある。
しかし、こうやって網羅的かつ緻密に組み立てて説明できるかというと全く自信が無い。これができるのが真の集中治療医なのかもしれない。





2020年1月12日日曜日

輸液過剰という言葉は使わない方が良い

Vincent JL, Pinsky MR.
Crit Care2018 Sep 11;22(1):214. PMID:30205826

・循環管理において心拍出量を規定しているのは有効循環血液量(Effective circulation blood volume)であり、循環血液量の60~70%を占めるUnstressed volumeを除いたStressed volumeがその指標となる
・動脈血圧は抵抗の高い細動脈によって規定されているため、動脈血圧は有効循環血液量の指標とはならない
・静脈コンプライアンスとStressed volumeによって生じる圧が平均循環充満圧(Mean circulatory/systemic filling pressure; Pms)であり、蘇生における輸液の第一の目的は、Stressed volumeを増やしてPmsを増加させることということになる
・Hypovolemiaは血液量が少なくPmsが低い状態の事であり、血管外から血管内への水分や電解質の移動が起きている
・Hypervolemiaは血液量が多くPmsが高い状態の事であり、血管内から血管外へ水分や電解質が移動して浮腫を形成する
・Hypervolemiaは浮腫を伴うが、浮腫が生じているからと言ってHypervolemiaとは限らない。例えば敗血症性ショックなど炎症反応が高度な病態では血管透過性が亢進しており、浮腫を形成しつつ血管内容量が小さいということがありえる。つまり、高度の浮腫と全身の水分量増加があるにもかかわらずHypovolemiaとなっている
・ひとたび患者の状態が安定すれば循環蘇生の段階で負荷された水分を取り除くために利尿剤が投与されることがあるが、これはHypervolemiaが明らかな時にのみ行われるべきである。つまり、StabilizationからEvacuationのPhaseである
・Fluid overloadという言葉は取り除くべき水分の過剰を暗に示唆しており、利尿剤投与というPracticeに繋がりがちであるが、Hypovolemiaである可能性があるため、この言葉は不適切である

文献より引用

◎私見
輸液過剰に対して利尿剤を投与するのではなく、Hypervolemiaに対して利尿剤を投与すべきであるということ。「乏尿だからフロセミド」とか「浮腫があるからフロセミド」ではないということも大事。

2020年1月11日土曜日

早期急性腎傷害にフロセミドを持続投与しても効果は無い(SPARK study)

Bagshaw SM, Gibney RTN, Kruger P, Hassan I, McAlister FA, Bellomo R.
J Crit Care. 2017 Dec;42:138-146. PMID:28732314

フロセミドが急性腎傷害(AKI)患者の経過を修飾するかどうかを検討した多施設無作為化パイロット研究。RIFLE分類でRiskの早期AKI+SIRS2項目以上+循環蘇生のGoalは達成済みの患者を無作為にフロセミド群(0.4mg/kg loading+0.05mg/kg/hr Furosemide 2000mg/NS 500mlで調整)とプラセボ群に割り付けた。AKIの増悪、腎機能回復、腎代替療法導入は両群間で有意差がなかった(若干Furosemide群で悪い)。電解質異常は介入群で多かった

◎私見
体重50㎏の成人を仮定すると、Furosemide 1A(20㎎)をLoadingして1日3A(60㎎)を持続投与する計算になる。循環が安定した後も乏尿状態のAKIにFurosemideを持続投与しても良いことは無いようだ。対象のほぼすべてが内因疾患に起因する重症病態で人工呼吸管理をされており、APACHE IIスコアやSOFAスコアもかなり高いので、重症すぎて意味がないという解釈もできそうだが。
外科系の先生で同じような管理をする方がおられるのだが、さてどうしたものか。対象とする患者が違うのでこの文献は意味がない?

2020年1月7日火曜日

輸液過剰は呼息制限を起こす

Volta CA, Dalla Corte F, Ragazzi R, Marangoni E, Fogagnolo A, Scaramuzzo G, Grieco DL, Alvisi V, Rizzuto C, Spadaro S.
Crit Care. 2019 Dec 5;23(1):395. PMID: 31806045

呼息制限(Expiratory flow limitation; EFL)はCOPD、ARDS、心不全、肺線維症、脊髄損傷、肥満などで認められ、呼吸器系のみならず循環動態にも悪影響を及ぼすことが知られているが、重症患者における頻度とリスク因子を明らかになっていない。
ICUで72時間以上人工呼吸管理を受けると予想された121名の患者を前向きに集積して解析した。EFLは吸気終末でPEEPを3 cmH2Oから0 cmH2Oに下げた際に呼気流速が増えるかどうかで判断した(呼気流速が増えなかったらEFLが存在するということ;PEEP test)。PEEP testの結果はNegative Expiratory Pressure test(NEP)で確認した。さらにIncremental PEEP trialを行い、EFLが解除されるPEEPを計測した。これらのテストは入院初日と3日目に行った。
人工呼吸管理開始時にEFLを認めたのは31%で、肥満(BMI高値)、心肺疾患の既往、呼吸苦スコア高値、内因性PEEP高値、気道抵抗高値などの特徴が認められた。3日目には17%の症例に新たにEFL(New onset EFL)を認めた。New onset EFLの危険因子は輸液過剰(3日目までの輸液バランス103.3 ml/kg vs 65.8 ml/kg)であった。EFLを認めた症例は人工呼吸管理期間やICU在室期間が長く、ICU死亡率も高かった。

◎私見
先日、まさしく輸液過剰に起因すると思われるEFLを経験した。輸液過剰の有害性に無頓着な人が多すぎる気がする。その気になれば様々な合併症が起きていることがわかるのに、輸液し過ぎなのかもという思考回路がなければ気づくことすらできない。
それはさておき、EFLは注目すべき所見だと思っている。かなりの頻度で起きていると思われるため、もう少し積極的に評価してみても良いかもしれない。

2020年1月6日月曜日

術中の呼息制限は術後肺合併症を予測する

Spadaro S, Caramori G, Rizzuto C, Mojoli F, Zani G, Ragazzi R, Valpiani G, Dalla Corte F, Marangoni E, Volta CA.
Anesth Analg. 2017 Feb;124(2):524-530. PMID:27537927

術中の呼息制限(Expiratory flow limitation; EFL)が術後肺合併症(Postoperative pulmonary complications; PPC)を予測するかどうかを検討した前向き観察研究。対象は腹部手術を受けた330名で、EFLが存在するかどうかはPEEPテスト(吸気終末にPEEPを突然 3 cmH2O低下させることで呼気流速が増えるかどうか)で判定した。EFLは31%に認められ、年齢やMedical Research Council dyspnea scoreと同様にEFLもPPCの予測因子(リスク比 2.7)であった。

◎私見
EFLが予後予測因子ということなので、次はEFLをカウンターするような適切なPEEPをかけたらどうかというアイデアが出てくる。実際にEFLcore studyという心臓血管外科症例を対象としたRCTが計画されているらしいので、結果を楽しみに待つことにする。

2020年1月5日日曜日

感染源をどう探すか

De Waele JJ, Sakr Y.
Crit Care. 2019 Nov 29;23(1):386. PMID:31783896

1)疫学…呼吸器感染症と腹腔内感染症が多い
2)病歴…既往歴、手術歴、各種デバイスの使用期間などを詳細に
3)所見…局所所見は感染巣を示唆する有用な証拠
4)画像…術後や原因の良くわからない感染症では腹部CTの閾値を低く
5)検査…腰椎穿刺など。緊急ドレナージが必要な病態は閾値を低く
6)血液…CRPやプロカルシトニンは変化の傾向が大事
7)時相…時間的猶予を考慮した戦略

推奨されるソースコントロールの時期
1)超緊急(1時間以内)…壊死性筋膜炎、CRBSI、創感染ドレナージ、
              腹部コンパートメント症候群を伴う腹腔内感染
2)緊急(6時間以内)…消化管穿孔、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、膿瘍ドレナージ
3)待機的…感染性膵壊死

◎私見
集中治療医にとって感染巣探しは、当たり前のことを当たり前にできるかどうかが問われる大切な営為だと思う。ここには記載がないが敗血症以外の原因で感染症のような症状を呈することもあるので、そちらの知識も必要。

2020年1月4日土曜日

輸液反応性を心拍出量以外の指標で予測できるか?

How to detect a positive response to a fluid bolus when cardiac output is not measured?
Ait-Hamou Z, Teboul JL, Anguel N, Monnet X.
Ann Intensive Care. 2019 Dec 16;9(1):138. PMID: 31845003

輸液反応性を心拍出量以外で予測できるかどうかを検討した後ろ向き研究。対象となったのは敗血症の症例が7割を占める491名。生理食塩水500mlをボーラス投与し、経肺熱希釈法で心拍出量が15%以上増加したものを輸液反応性ありとしたとき、心拍数や血圧でこれを予測できるかどうかを検討した。心拍数はほとんど役に立たず(AUROC≒0.5)。収縮期血圧、平均血圧、脈圧、脈圧変動、ショックインデックスのうち最も有用だったものは脈圧であった(AUROC=0.719、閾値 10%、感度72%、特異度64%)。輸液反応性を正確に知りたければ心拍出量を計測すべきである。

◎私見
タイトルをみて少し期待したが、結果は予想通り輸液反応性を血圧で知るのは難しいということが改めて明らかになったもの。心拍出量を計測するしかないということ。
対象患者には注意が必要。低血圧をトリガーにして輸液負荷をしたのは2割で、頻脈や乏尿をトリガーにしたものがそれぞれ4割近くいる。また、人工呼吸管理を行っていたのは67%であり、明確に記載されていないが多くの患者は自発呼吸が残っていたと思われるので、自発呼吸が全くない状態では少し結果が変わった可能性はあるだろう。この研究は後ろ向きだが、筆者らはCVPを計測してあったら補正できてよかったかもと言っているので、今後そのような前向き研究が計画されているのかもしれない。
それにしても、対象患者のノルアドレナリン投与量の中央値が0.7μg/kg/minって書いてあるんだけど本当か?