2015年3月31日火曜日

機能的血行動態評価を用いた前負荷予備能の理解

Understanding preload reserve using functional hemodynamic monitoring.
Pinsky MR.
Intensive Care Med. 2015 Mar 26. PMID: 25810212


✔ はじめに
 血行動態モニタを用いて重症患者の心血管系の状態の安定性と変化を見定めることは重要である。血行動態評価は外的負荷に対する心血管系の反応を見ることでより正確になる。機能的血行動態評価(Functional hemodynamic monitoring; FHM)は可逆的外的負荷に対する動的反応を評価する方法である。

✔ 静的指標と動的使用
 ショック患者において最初に問題となるのは輸液によって心拍出量が増えるかどうかを判断することである。しかし、静的指標は輸液反応性を正確に判定できない。心筋は絶えず変化する前負荷に対応して収縮能を変えることができるが、時間が経って平衡状態となると前負荷の状態に順応して収縮能が安定してしまう。よって、静的指標では前負荷を正確に判定できず、より短時間の変化をみる動的指標が有用となる。

✔ 右心系
 血管系は二つのポンプを持つ並列回路であるため、どちらかの系統を評価することで全体を把握することになる。自発呼吸も陽圧呼吸も右室に対する静脈還流量を変化させるため、FHMでよく用いられる。上・下大静脈径や内頚静脈径を代用指標として用いることがある。10~15%の変化があるとき、輸液反応性ありと判定する。これらの指標は容易に行えるが持続的にモニタできない。

✔ 左心系
 一回拍出量変動(SVV)や脈圧変動(PPV)は持続的なFHMであるが、陽圧呼吸中で重度の肺性心や腹腔内圧上昇が無い患者に適応が限られる。低一回換気量設定でも高値であれば診断的価値がある。結果が曖昧な場合(グレーゾーンな場合)、少量の輸液負荷試験やPassive leg raisingを追加して行う。SVVもPPVも自発呼吸下、肺性心、高PEEP、低一回換気量では感度が低下するが、Passive leg rasingはこれらの状況下でも感度・特異度共に優れた検査となり得るが、腹腔内圧上昇がある場合は不正確となるうえ、持続的にモニタできない。

✔ おわりに
 実臨床においてはいくつか心に留めておくべきことがある。まず、モニタそのものは如何に正確なものであれ、予後を改善させうる有効な治療法と組み合わせないと意味が無いということである。輸液蘇生は虚血性機能障害のリスクのある組織を救うか、虚血性障害後の炎症反応を治療できるときにのみ有用である。ふたつめに、輸液反応性がある患者が全て輸液を必要としているわけではないし、輸液反応性が無くなるまで輸液をしなくてはならないわけでもないことである。治療の目標は組織灌流、臓器機能、全身状態に基づくべきで、ある特定の酸素運搬量や血圧を目標とすべきではない。みっつめに、輸液や心血管作動薬の最適の組み合わせは分かっておらず、患者の個体差に応じて適宜調節すべきであるということである。

輸液反応性とFHM(文献より引用)

FHMの限界(文献より引用)

◎ 私見
 観察するだけでは意味が無いことは自明。評価に基づいて”輸液に始まる”介入をする、というアプローチを世に広めたという意味でEGDTは有用であったのだと思う。近年の研究(PROMISE、ARISE、PROCESS)では有効性が否定されてしまったけど、これはつまりEGDTによってパラダイムシフトが起きたということではないか。
 さて、予後を改善しないからといってモニタが無くて良いとはならないはず。結果が伴わないからとモニタを揃えてもらえないのは納得いかないんだけどな…

2015年3月29日日曜日

生理学に基づく最近の進歩

Ten recent advances that could not have come about without applying physiology
Michael R. Pinsky, Laurent Brochard, John A. Kellum
Intensive Care Med 2015. DOI 10.1007/s00134-015-3746-9

1.輸液反応性の評価
 輸液反応性は前負荷を評価しているのではなく、前負荷の予備力を評価している。静的な指標は前負荷への反応性を予測できない。前負荷の増大に伴って一回拍出量が増加する時に輸液反応性があると定義される。陽圧換気と受動的下肢挙上(PLR)の両者によって前負荷が一過性に変化するため、実際に輸液をしないでも反応性を評価することができる。Vt≧8ml/kgの陽圧換気によってPVVやSVVが10~13%を超える場合、またはPLRによって心拍出量が10%以上増加する場合に輸液反応性があると判定する。呼気炭酸ガス濃度の増加を代用指標とする方法もある。

2.動脈圧波形による心拍出量推定
 動脈圧は血管トーヌス、インピーダンス、イナータンス、収縮能によって影響されるが、左室一回拍出量を反映するため、さまざまな機器を用いて心拍出量推定が行われるようになった。

3.蘇生輸液製剤の選択
 輸液によって電解質や酸塩基平衡に影響がでる。生理食塩水を大量に輸液すると高クロール性アシドーシスが起きうる。乳酸リンゲルより生理食塩水の方が血清Kは上昇しやすい(pH低下に伴い細胞内から細胞外へKがシフトするため)。晶質液は速やかに血管内から移動していくため、総体液量の補正には良いが過剰負荷となる可能性がある。輸液は血管内皮や臓器に影響を及ぼし得る。

4.透析と限外濾過は低血圧を起こしうる
 限外濾過により血管内水分量が除去されて循環血液量減少が起きる。間質からの水の移動がこの循環血液量減少を軽減する。CRRTやSLEDはこの循環への影響を弱め、虚血による臓器損傷を軽減しうる。しかし、血液透析は除水をしない時でも血圧を低下させることがある。すなわち、溶質の除去により血管内水分量が間質に逃げていくからである。CRRTなどはこの反応も軽減しうる。

5.プラトー圧と一回換気量の制限によってVILIを予防できる
 大きい一回換気量とプラトー圧は正常肺・異常肺どちらも傷つける。様々なコンプライアンスの領域が存在する肺において、有効なガス交換を実現しつつ肺胞壁ストレスや変形を最小限にすることが目的となる。

6.肺障害を最小としガス交換機能を最大とする腹臥位
 肺血流量や肺胞換気量は血管の状態や胸壁コンプライアンス、重力の影響を受ける。腹臥位にすることで血流に影響を及ぼすことなく肺側の肺領域の換気を増やすことができる。肺側優位の血流は腹臥位にしてもあまり変わらい。腹臥位は胸壁を固くし、コンプライアンスを低下させ、過膨張から来る肺障害を予防し、心圧迫を防ぐ。

7.心血管機能と気道内圧
 肺過膨張により肺血管抵抗は上昇する。吸気ホールドによって得られるプラトー圧が上昇して肺毛細血管圧を凌駕すると、肺高血圧症を起こす。PEEPや一回換気量を制限することでプラトー圧を低く保ち、肺性心を予防し、心血管の反応性を増大させることができる。

8.肺障害の重症度に応じたPEEP調節
 肺の開放と閉塞の繰り返しは危険なため、ARDSでは高いPEEPを要する。一方で過膨張から心血管系に悪影響を及ぼし得る。よって、高PEEPはかなりの肺胞障害をきたした患者に適用すべきものである。コンプライアンスと酸素化が最大になるようなPEEPを設定する。

9.体外ガス交換
 ECMOやECCO2Rのような体外循環により肺障害を最小にして治癒を促す事ができるかもしれない。ECMOのARDSに対する効果はさらなる研究が必要である。ECCO2RはVILIを減らし、高炭酸ガス血症患者の挿管を減らすことができるかもしれない。

10.わずかな腎機能の変化が腎傷害の指標となる
 ヒトは大きな腎予備能をもっているが、血清クレアチニンのわずかな変化ですら長期予後悪化の予測指標となり得ることが分かっている。

2015年3月27日金曜日

炭酸ガス/酸素含量較差比は組織低灌流を反映する

Combination of arterial lactate levels and venous-arterial CO2 to arterial-venous Ocontent difference ratio as markers of resuscitation in patients with septic shock.
Ospina-Tascón GA, Umaña M, Bermúdez W, Bautista-Rincón DF, Hernandez G, Bruhn A, Granados M, Salazar B, Arango-Dávila C, De Backer D.
Intensive Care Med. 2015 PMID: 25792204 


✔ 背景
 静脈血と動脈血の炭酸ガス分圧較差は組織低灌流を示す指標であることが報告されている。実際、炭酸ガス分圧較差の継続的拡大が予後悪化を予測することが臨床研究で示されている。しかし、炭酸ガス分圧較差はHalden効果のため低灌流にもかかわらず正常値となることも知られている。そこで酸素含量較差との比を用いることで正確に嫌気性代謝の状態を検出できるのではないかと考えられるようになった。肺血症性ショック早期におけるCv-aCO2/Da-vO2比の予後推定能を調べる。
✔ 方法
 単施設前向き観察研究。135人の敗血症性ショックの患者を対象とした。初期蘇生においては平均血圧≧65、尿量≧0.5ml/kg/hr、PPV、CVP、混合静脈血酸素飽和度>65%、乳酸値正常化を指標として治療した。のあるアドレナリンを昇圧剤の第一選択として使用し、バゾプレシンは0.03UI/minまでとした。心機能低下が明らかなときや血管内容量補正や平均血圧≧65を達成しても混合静脈血酸素飽和度が低いときはドブタミンを併用した。6時間を経ても昇圧愛の必要量が減らない時はステロイドを併用した。血糖は150mg/dl未満となるように調整した。ストレス潰瘍と静脈血栓症の予防を行った。乳酸値とCv-aCO2/Da-vO2比に応じて患者を4群に分類した。
✔ 結果
 乳酸値が高く(≧2.0mmol/L)、Cv-aCO2/Da-vO2比も高い(>1.0)とSOFAが高く28日死亡率が悪い傾向があった。両指標が正常化した群の予後は良好であった。多変量解析の結果、6時間後の乳酸値のほか、0時間と6時間の時点でのCv-aCO2/Da-vO2比も予後推定に有用であることが判明した。
✔ 結論
 乳酸値とCv-aCO2/Da-vO2比は予後推定に有用な指標である。Cv-aCO2/Da-vO2比は敗血症性ショックの新しい治療指標となり得る。


Cf)計算式
・DO2=CaO2×CI
・VO2=(CaO2-CvO2)×CI
・ERO2=(CaO2-CvO2)/CaO2
・CaO2=(Hb×SaO2×1.34)+(PaO2×0.003)
・CvO2=(Hb×SvO2×1.34)+(PvO2×0.003)
・Pv-aCO2=PvCO2-PaCO2
・Da-vO2=CaO2-CvO2
・CCO2=PlasmaCCO2×[1-(0.0289×Hb)÷[(3.352-0.456×SpO2)×(8.142-pH)]]
・PlasmaCCO2=2.226×S×plasmaPCO2×(1+10pH-pK')
・S=0.0307+[0.00057×(37-T)]+[0.00002×(37-T)*2]
・pK'=6.086+[0.042×(7.4-pH)]+[[(38-T)]×{0.00472+0.00139×[7.4-pH]}]

◎ 私見
 組織低灌流の新たな指標。面白いんだけど計算が面倒すぎる…。
 組織低灌流が治療のゴールなわけで、入口(血圧、心拍出量など)だけでも出口(混合静脈血酸素飽和度、乳酸値など)だけでもだめ。かといって、組織低灌流そのものを見ようと思うと(組織酸素飽和度など)あまりにも局所の状態にフォーカスしすぎて全身の状態を反映しなくなる。この指標は全身の組織低灌流を見ることができるかもしれない、という点で興味深い。

2015年3月26日木曜日

アスピリンはARDSの予後を改善するかもしれない

Aspirin therapy in patients with acute respiratory distress syndrome (ARDS) is associated with reduced intensive care unit mortality: a prospective analysis.
Boyle AJ, Di Gangi S, Hamid UI, Mottram LJ, McNamee L, White G, Cross LJ, McNamee JJ, O'Kane CM, McAuley DF.

Crit Care. 2015 Dec;19(1):846. PMID: 25777929

✔ 背景
 ARDSは予後の悪い疾患だが、今のところ有効な薬物療法は報告されていない。ARDSは全身性炎症反応SIRSに伴って起きるが、併発する凝固障害によって微小循環が障害される。血小板は好中球を誘導するためARDS発症メカニズムのひとつであると考えられている。アスピリンはARDS発症リスクを減らす事が報告されているが、発症してしまったARDSに対してどのような効果があるのかはまだ分かっていない。
✔ 方法
 2010年~2012年までにARDSと診断された患者を対象として後向きに検討した。Primary outcomeはICU死亡率とした。
✔ 結果
 202人の患者が対象となった。28%の患者が病院前ないしICUでアスピリン投与を受けていた。多変量解析の結果、アスピリン投与は病院前であれICU在室中であれ、死亡のリスクを有意に減らす(OR 0.38)事が判明した。その他、ICU死亡と関連する危険因子は、昇圧剤使用(OR 2.09)、APACHEⅡ(OR 1.07)であった。ICU在室期間や病院死亡とは関連が無かった。
✔ 結論
 アスピリンはARDSによる死亡を減らすかもしれない。

カプランマイヤー曲線(文献より引用)

◎ 私見
 アスピリンによる血小板機能抑制がARDS進行を抑制するのではないかという研究。後向きなので、患者背景にかなりのばらつきがある(アスピリン群の方が年齢が高く、冠動脈疾患や脳血管疾患、糖尿病、COPD、喫煙者が多く、スタチン投与も多い。一方でアルコール多飲や肝硬変はアスピリン非使用群で多い)。ARDSに対するアスピリンの効果を検証する前向き研究がいくつか進行中のようなので(STAR、LIPS-A、ARENA)、結果が楽しみです。

2015年3月24日火曜日

VV-ECMO導入のタイミング(仮想症例検討)

Rescue therapy for refractory ARDS should be offered early: yes.
Combes A, Ranieri M.
Intensive Care Med. 2015 Mar 20. PMID: 25792205
Rescue therapy for refractory ARDS should be offered early: no.
Brodie D, Guérin C.
Intensive Care Med. 2015 Mar 20.PMID: 25792200 

Rescue therapy for refractory ARDS should be offered early: we are not sure.
Roch A, Papazian L.
Intensive Care Med. 2015 Mar 20. PMID: 25792201

✔ 症例
 特に既往のない51歳の女性(165cm、60kg)が重症市中肺炎と診断されてICUに入室した。入院6時間後に気管挿管され人工呼吸が開始された。数時間の経過で呼吸状態が悪化。12時間後のBGAはpH 7.36、PaCO2 47、PaO2 65、HCO3 26、FiO2 100、人工呼吸器の設定はVt 340ml、PEEP 8、RR 28でプラトー圧は28であった。血行動態と腎機能は正常であった。
(注:ちなみに、血液ガスの値や人工呼吸器の設定の細かい数値は一人目の回答者であるCombesらが自ら設定した数値であり、原稿依頼があった時点では無かった数値のようです)

✔ 回答者A:早期にECMOを導入する
 ベルリン定義で重症ARDSと判定される。コンプライアンスが低下(18ml/cmH2O)しており、換気駆動圧が高い(⊿P=20)。酸素化は重篤なレベルまで障害されており(OI=43)、このような患者の院内死亡率は45~60%と推定される。
 PEEP 8しか使用していないので、さらに上げる余地はあるかもしれないが、プラトー圧を上昇させてVILIを起こす可能性がある。NO吸入は酸素化を改善するかもしれないが長期予後を改善することが証明されていない。一方、このような重症ARDSの予後を改善することが報告されているので、腹臥位を直ちに行うべきである。さらに筋弛緩薬の持続投与を行うべきであろう。
 ARDSnetが推奨する保護的換気戦略を用いても30%で肺過膨張が生じていると言われている。さらにHagerらはプラトー圧が低ければ低いほど(30cmH2O未満でも)生命予後が良くなることを報告している。Terraganiらは超低容量(3.5~5ml/kg)かつ低プラトー圧(25cmH2O未満)により炎症性シグナルを低減できることを報告している。これら超保護的換気戦略は高炭酸ガス血症を引き起こすため、体外炭酸ガス除去(ECCO2-R)やVV-ECMOを使用しなければ達成不可能かもしれない。
 腹臥位にしても肺の状態が改善しないのならばVV-ECMOを導入する。理由は五つある。まず、超保護的換気戦略を採用するのなら、ECCO2-RよりVV-ECMOの方が効率的で望ましい。二つ目は現代のECMO装置はシンプルで安全で出血性合併症も少なく、数週間の管理が可能となっている。三つ目は、近年の研究(CESAR試験やH1N1インフルエンザにおける知見)で重症ARDSに対するVV-ECMOの有効性が報告されている。四つ目は、重症ARDSに対するVV-ECMOの予後不良因子である、高齢、ECMO施行までの長期人工呼吸管理、臓器不全数、低コンプライアンス、筋弛緩や腹臥位管理がないこと、免疫抑制に基づいて作られたスコア(RESP、PRESERVE)から考えても適当と考えられることである。最後に、低酸素が強いと長期的認知機能が悪化する可能性が指摘されているが、VV-ECMOはこれを早期に改善することで長期神経学的予後を改善しうる。以上より、この症例に対しては早期にECMOを導入することで、死亡率を20%未満に低減し、長期的な認知機能を改善しうると考える。現在行われている臨床研究(EOLIA)がこの仮説に対する答えを示すだろう。

✔ 回答者B:早期にECMOは導入しない
 非常に重篤な低酸素状態であるが、いくつかの理由により直ちにECMOとはしない。いくつかの点について介入の余地がある。まず、EXPRESSやARMAに述べられているような低容量・低圧換気戦略を行うべきである。一回換気量の情報が無いため分からないが、予測体重に基づいて設定すべきである。また、PEEPが低すぎるため上昇させるべきである。PEEPを上昇させるとプラトー圧が上昇するかもしれないが、リクルートがすすむとプラトー圧は低下してくる。PEEPが酸素化を改善するかどうかを確かめるのに時間は要らない。プラトー圧に対する胸郭の弾性を考慮する余地はあるだろうか。Grassoらは胸郭弾性が高いH1N1インフルエンザによる重症ARDS患者に対し、経肺圧25cmH2Oを目標に高いPEEPをかけることでECMOを避けることができたと報告している。これには食道内圧計が必要である。最も簡便にPEEPを設定する方法はPEEP-FiO2表を用いる方法であり、この症例の場合、14~22cmH2Oということになる。リクルートメント手技も有用かもしれない。次に、鎮静や筋弛緩の適切性について考慮すべきである。酸素消費量を減らし、人工呼吸器との同調性を確保する上で深い鎮静にする。深い鎮静を達成できたら筋弛緩薬(シスアトラクリウム)を48時間まで投与する。これにより酸素化が改善し、気胸は減り、生存の可能性があがる。三つ目に、輸液バランスをチェックする。血行動態が安定して腎機能も正常なので、利尿薬を使用できる可能性がある。大規模試験では有用性を示す事ができなかったが、保守的輸液管理は酸素化を改善し、人工呼吸管理期間を短縮する傾向が示されている。また、低蛋白血症ならばアルブミン補充とともにフロセミドを投与することで有意に酸素化を改善したことが示されている。四つ目に、腹臥位管理である。これまでにのべたことを全て行うのに2時間もかからない。それでも低酸素が続くなら腹臥位とする。PROSEVA研究では、PEEP 5cmH2OをかけてもP/F<150の重症ARDSで予後を改善したことが示されているが、低酸素が重篤であるほどその利益が大きいことが示されている。五つ目は、血管拡張薬の吸入である。EpoprostenolやNOが候補となる。これらの薬剤は換気が維持されている肺領域の血管を拡張させることで酸素化を改善させることができる。
 ではどのようなときにECMOを考えるのか。生命の危険があるような低酸素でなければ、6時間程度の余裕はあると考える。以下のようなクライテリアが報告されている;P/F<80、PEEP 15~20、pH<7.15、プラトー圧>35~45。 
治療戦略(文献より引用)


✔ 回答者C:現時点では決められない
 ECMOはCESAR研究やH1N1インフルエンザの際に再注目された技術である。その目的は、①適切なガス交換を達成し低酸素やアシドーシスを改善すること、②人工呼吸器関連肺障害を軽減することの2点である。ひとつめの目的からすると、ECMO開始まではある程度の時間的余裕があると考えられるが、ふたつめの目的からすると直ちにECMOを使用しないといけないことになる。
 この患者はECMOの良い適応である。ただしPEEPやプラトー圧を見る限りさらなる介入が可能であると考えられる。筋弛緩薬を持続投与し、人工呼吸のパラメータを再評価すべきである。ただし、PEEPを上昇させる際には、この患者が市中肺炎のため肺病変に不均一性が強く、PEEP上昇効果が得られない可能性があることを考えておくべきである。腹臥位は重症ARDSに有用であるため、右室機能を評価したうえで行うべきである。もし右室機能が低下している場合はNO吸入を考える。腹臥位にした後にPEEPを再検討する。その後、数時間しても低酸素が続く場合はECMOを導入する。
 結論として、ECMOの適応となるかもしれないが、腹臥位を試していない現時点では行うべきではないのだろう。腹臥位は不要なECMOを減らすかもしれない。腹臥位を含む肺保護的換気戦略を行っても3時間以上P/F<55-60が続くのならVV-ECMOが望ましいだろう。

◎ 私見
 Expertの意見が分かれるのを見るのは面白い(企画のために分かれるように演出されているとしても)ものだが、今回は3人とも腹臥位→ECMOと同じような事を言っているにすぎない。ECMO開始を決断するタイミング(というより決断の過程をどのように表現するか)が異なっているだけ。つまり現時点の専門家の意見はみな同じで、ECMOについて前のめりなのか、そうではないのかの違いがあるに過ぎないのだろう。文中に出てきたEOLIAが終わるのは2016年1月で論文はその後。早く結果が知りたいところです。

2015年3月23日月曜日

ICU患者の予後に影響するのは患者-看護師比

The impact of hospital and ICU organizational factors on outcome in critically ill patients: results from the extended prevalence of infection in intensive care study*.
Sakr Y, Moreira CL, Rhodes A, Ferguson ND, Kleinpell R, Pickkers P, Kuiper MA, Lipman J, Vincent JL; Extended Prevalence of Infection in Intensive Care Study Investigators.
Crit Care Med. 2015 Mar;43(3):519-26. PMID: 25479111


✔ 背景
 ICUの運営形態に関わる多くの要素が患者予後と関係しているかどうかを検討した。
✔ 方法
 国際的多施設観察研究。EPIICⅡ研究(ICU患者の感染症についての疫学研究)のPost hoc解析。2007年5月7日に75カ国1,265施設のICUに入室した18歳以上の患者を対象とした。
✔ 結果
 13,796人の患者が対象となった。ICUや病院の運営形態は地域によって大きく異なっていた。北米のICUは欧州やラテンアメリカのICUと比較して24時間稼働する細菌検査室や救急外来を多く備えていた。82.9%のICUがClosedであったがこれも地域性があり、北米が最も少なく(62.7%)、オセアニアで最も多かった(92.6%)。集中治療医が24時間在室しているICUは北米で最も少なく(86.8%)、ラテンアメリカで多かった(98.1%)。ICU容量(ICUにどれだけ患者を受け入れているか。ICUの診療可能容量ともいえる)は北米に比べて西欧、ラテンアメリカ、アジアで有意に少なかった。多変量解析によると、Medical ICUないしMixed ICUはSurgical ICUに比べて院内死亡のリスクが高く、患者-看護師の比率が1:1.5以下であることは院内死亡のリスクが小さくすることが判明した。
✔ 結論
 患者-看護師の比率を高めることで患者の院内死亡を減らすことができる可能性がある。
多変量解析(文献より引用)

◎ 私見
 現在のICUにおける診療チームの主役は看護師さんである、ということを端的に示すデータでしょうか。もちろん単純に人が増えればよいという話ではないですが。ちなみに集中治療医の存在も有意ではないものの患者死亡を減らす傾向はある様子。こちらも患者-集中治療医の比率でみてみる必要があるのではないかと思ったりしています。

2015年3月22日日曜日

心エコーを用いた心外術後血行動態管理

Echocardiography-based hemodynamic management in the cardiac surgical intensive care unit.
Geisen M, Spray D, Nicholas Fletcher S.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2014 Jun;28(3):733-44. PMID: 24332922


✔ 心臓血管外科術後の血行動態管理
 モニター単独で予後を改善することはできない。Goal-directed therapy(GDT)の効果は限定的である。実際、どのようなGoalが適当なのかを決めることができていない。

✔ 超音波による血行動態評価
 低心拍出量、低血圧、低灌流、高乳酸血症は重篤な病態の前触れであるが、肺動脈カテーテルなどのモニターではこれらの徴候をとらえることができても原因まで明らかにすることはできない。術後合併症として即時に診断して対処が必要なものは、心のう血腫・心タンポナーデ、右室機能不全、左室機能不全、血管拡張性ショック、出血、循環血液量減少があるが、超音波で評価可能である。
 経胸壁エコーは簡便に行えるが、術後ではWindowが狭く、描出不良となることが多い。一方、経食道エコーは術後も有用である可能性があるが、抜管後では鎮静を要する、喉頭浮腫の原因になり得るなどまだその意義は定まっていない。

✔ 血行動態パラメータの評価
・循環血液量
 血圧を目標として輸液負荷がされているが、血圧は循環血液量や組織灌流の指標としては不適当である。近年、輸液反応性の指標が有用であると報告されているが、輸液反応性があるからと言って輸液をする必要があるとは限らないことに注意が必要である。
 LVEDAやLVEDVは循環血液量の状態を示す静的指標であるが、後負荷や心筋コンプライアンスなどによって影響を受けるうえに、正常範囲も広く(LVEDV 80-130ml)、これらを単独で指標とすることはできない。
 パルスドプラ法や組織ドプラ法で計測されるE/A比やE/E'比は左房圧やPAWPと相関すると言われているが、そもそもPAWPは輸液の指標としては妥当ではないことに注意が必要である。拡張能の変化が輸液負荷をやめる指標や昇圧剤選択の指標となる可能性はある。
 術後人工呼吸は循環にも影響を及ぼす。心室中隔シフトは肺高血圧や高い換気圧を使用している患者で有用である。
 左室流出路で計測されるVelocity time integral(VTI)の呼吸性変動は輸液反応性を知る指標となる。「VTI変動率12%未満」の「輸液負荷による心拍出量増加」に対する陰性的中率は100%である。100mlの膠質液を1分間で輸液負荷した際にVTIが10%以上増加した時、輸液反応性に対する感度は95%、特異度は78%と報告されている。これらの動的指標は自発呼吸がなく比較的多めの換気量を設定し、かつ不整脈が無い場合で有用であるため、その使用には注意が必要である。また、後負荷増大による右室機能不全でも変動率が多くなり、このような場合は輸液負荷はかえって状態を悪化させてしまう。
 上大静脈や下大静脈の呼吸性変動をみる方法もあるが、これらも腹圧が上昇していたり不整脈があったり自発呼吸がある患者では有用性が検討されていない。
 受動的下肢挙上(PLR)は可逆的輸液負荷試験である。PLRの最中に心拍出量が増加するか超音波で確認する。自発呼吸がある患者でも使用できるが、これはつまりSVVや大静脈の呼吸性変動と組み合わせることができないという意味でもある。
・心収縮能と心拍出量
 視覚的に収縮能を判断する。Mモードで計測されるFSやFAC、EFを使用して心拍出量を定量する。僧帽弁逆流波形からdP/dt maxを計測する。これは心収縮能を示す指標となる。一回拍出量を左室流出路のVTIから計測し、心拍数とかけることで心拍出量を定量することができる。
 右室機能を計測することもできるが、FACやEFはその形態学的特徴から計測が困難である。心室中隔シフトから右室圧の上昇・輸液過負荷を知ることができる。またTRPGから肺動脈収縮期圧を知ることができる。TAPSE<16mmは右室機能不全を示唆する。三尖弁逆流波形からdP/dtを計測することもあるが、左室と異なり1m/sと2m/sの二点を用いる。
 術後の心タンポナーデは局在する血栓による心腔圧迫で生じることがある。超音波でなくては診断できない。
 動的左室流出路閉塞は僧帽弁修復術や重度の心肥大がある患者で重要となる合併症である。前者は手術室の中で気付かれることがほとんどである。

アルゴリズムの一例(文献より引用)
◎ 私見
 術後管理を行う上でもエコーは有用。ただし、やはり練習は必要だし、得られた所見を正しく判断して正しい介入に結びつけなくてはならない。あらゆるモニターの持つ宿命ですね。

2015年3月20日金曜日

重症敗血症とSIRSの定義

Systemic Inflammatory Response Syndrome Criteria in Defining Severe Sepsis
Kirsi-Maija Kaukonen, M.D., Ph.D., Michael Bailey, Ph.D., David Pilcher, F.C.I.C.M., D. Jamie Cooper, M.D., Ph.D., and Rinaldo Bellomo, M.D., Ph.D.


✔ 背景
 重症敗血症は臓器障害を伴う感染症でSIRS項目を2つ以上満たすものと定義されていた(CCM 1992)。この23年前に報告されたSIRS項目について、その感度や妥当性を検討した。
✔ 方法
 ANZICSによる疫学研究。2000年~2013年に172施設のICUに入室した患者を対象として、SIRS項目を二つ以上満たすSIRS-positive severe sepsis群と二つ未満のSIRS-negative severe sepsis群を比較し、さらにSIRS項目の数と死亡のリスクの関連について解析した。
✔ 結果
 109,663人の臓器不全を伴う感染症患者が対象となった。SIRS-positiveは87.9%、SIRS-negativeは12.1%を占めた。調査期間中、両群とも次第に死亡率が減少する傾向であった。SIRS項目がひとつ上昇するごとに死亡のオッズ比は1.13倍上昇した。この関係は線形で、二つ以上で急激に上昇することはなかった。
✔ 結論
 SIRS項目二つ以上を根拠に重症敗血症を診断しようとすると、同じような臓器不全徴候と死亡のリスクを持つ8人のうち一人を見逃すことになる。

SIRS項目と死亡のオッズ(文献より引用)

◎ 私見
 高齢者で特に多いと思うが、間違いなくSepsisと思っても頻脈にもならないし平熱だし白血球数も全く正常で、ちょっと呼吸がはやいくらいの患者さんはよくみるような気がしていた。この研究で「SIRS項目ふたつ以上」には強い根拠はないことが分かった。まあ、当然と言えば当然の結果でしょう。しかし、8人に一人はSIRS-negativeだそうで、これは結構な数字だと思った次第です。

2015年3月18日水曜日

EGDTは予後を改善しない(ProMISe)

Trial of Early, Goal-Directed Resuscitation for Septic Shock
the ProMISe Trial Investigators
March 17, 2015DOI: 10.1056/NEJMoa1500896


✔ 背景
 EGDTは敗血症性ショックに対する治療ガイドラインで推奨されているが、その臨床効果はまだ明らかになっていないところがある
✔ 方法
 英国の56施設で費用対効果を含めた無作為化試験を行った。患者は6時間のEGDTを施行される群と通常治療群に割りつけられた。一次エンドポイントは90日死亡率とした。
✔ 結果
 1260人が対象となり、630人ずつを無作為に割り付けた。90日死亡率はEGDT群で29.5%、通常治療群で29.2%であり、有意差は無かった。EGDT群は輸液、昇圧剤、赤血球輸血が多く使用された。また、EGDT群は6時間後の臓器不全スコア(SOFA)が有意に高かった(72時間後も高い傾向があるが有意ではなかった(P=0.056)。EGDT群は在室日数が有意に延長した。その他の2次エンドポイント(QOL、重篤な合併症)には差が無かった。EGDTはコストがかかる傾向があった
✔ 結論
 肺血症性ショックに対してEGDTプロトコルは予後の改善をもたらさない。

(文献より引用)
◎ 私見
 ProCESS(米国)、ARISE(ANZICS)に続いて、ProMISe(英国)でもEGDTの有効性が示されなかった。RiversらがEGDTを報告してから10年以上が経つ。その間に培われて人口に膾炙した知見、敗血症治療に対する治療のコツが通常治療群の予後を改善させているのかな。あまりにも愚直にプロトコルに従うことは決して良いことではないことを示しているとみることもできそう。

2015年3月16日月曜日

ICUの患者さんに毎日たずねるべき5つの症状

Five patient symptoms that you should evaluate every day.
Chanques G, Nelson J, Puntillo K.
Intensive Care Med. 2015 Mar 11.PMID: 25758669

✔ 背景
 症状に対処することは医療において重要。ICUでも症状を聴くべき

✔ 痛み
 ICU患者が最も頻繁に訴える症状である。痛みの存在から重大な疾患(腹膜炎、心筋梗塞、静脈炎など)や医原性の原因(血管拡張薬関連頭痛、経鼻胃管による咽頭痛など)を見つけることができる。多くの処置(胸腔ドレーンや創部ドレーンの抜去、動脈圧ラインの挿入、気管吸引など)が痛みを伴うが、驚くべきことに最もよくみられるのは体位変換に伴うものである。痛みはYes/NoではなくNRSなどを用いて定量すべきである。痛みの部位と強さを確認し、治療によって改善するかどうかをみる。適切なツールで疼痛を評価し対象することで予後を改善しうる。
✔ 渇き
 のどの渇きはICUで広く認められる強い症状であるが、多くは見逃されて対策をとられていない。可能ならNRSなどで評価をすべきである。渇きの存在は大量オピオイド投与(50 mg/day以上)や大量フロセミド投与(60 mg/day以上)に関連して起きる。強い渇きは消化管疾患患者が経口摂取を止められている時に起きやすく、渇きによる苦痛はマイナスの水バランス、降圧剤、人工呼吸、消化管疾患に関連して起きる。スポンジスティックや冷水スプレーの噴霧を唇の保湿剤を使用する前に使う。
✔ 不安
 不安はICU患者で苦痛をもたらす重要な症状である。不安は恐怖とは異なるが、自発覚醒や心配、興奮よりは恐怖とともに認められる。不安を誘起する原因として、治療的介入、身体拘束、カテーテル、チューブ、人工呼吸器非同調が挙げられる。自ら訴えることのできる患者は、Verbal rating scaleやFaces Anxiety Scaleで評価することができる。娯楽や音楽で軽減を試みることがある。医師は安心させ、励まし、指導する。鎮静薬も使用する。
✔ 呼吸苦
 呼吸苦はICU患者が感じる苦痛のなかでも重要なものである。人工呼吸患者の半数が呼吸苦を感じていると言われている。鎮痛薬や鎮静薬の使用量が減り、低容量換気が流布すると共に呼吸苦を訴える患者は増えているのかもしれない。VASやModified Borg scale、Faces scaleを用いて評価する。まず、「あなたは今、息苦しさを感じていますか?」と尋ねる。もし、答えが「はい」なら「息苦しさの程度は軽度、中等度、重度のどれですか?」と尋ねる。呼吸苦は薬物(オピオイド)や非薬物学的アプローチで対処する。非侵襲的換気も有用かもしれない。
✔ 不眠
 ポリソムノグラフィを用いた研究で、ICU患者は頻繁に睡眠を中断されている事が分かった。Richards-Campbell Sleep Questionnaireなどで評価する。不眠はせん妄や人工呼吸器離脱困難と関連している。夜間の人工呼吸器設定ではアルカローシスと筋疲労を防ぐように細やかに設定するべきである。


◎ 私見
 正直に言って、渇きや不安は正確に評価できていなかった。浅い鎮静への流れの中で、患者さんとのコミュニケーションはもっと重要になるのだろうと思う。
 ところで、不安と恐怖はなにが違うのでしょうか。以前読んだ本の中で「経験不可能なものに対しては不安、経験可能なものには恐怖を感じる」と書いてあった。確か死を恐れることが可能かというお話の中での一節だったと思う。死は経験不可能なので、不安を感じることはあっても恐怖を感じることはない、というような結論だったかな。
 ICUの患者さんは全く未知の世界の中で毎日苦痛を経験していくのですから、しっかり評価して対処する必要がありそうです。

2015年3月14日土曜日

Communication Based Medicine

 それなりに責任ある立場である現職に就いたとき、ICUをもっと良くしたいと強く思いました。それまでのICUが間違っていたわけでは決してないのですが、首をひねらざるを得ないこともあったりして。なにか自分にもできることがあればやりたいなと思ったわけです。

 さて、ICUを変えるためにはなにをすればよいでしょうか? プロトコルや決まり事を作ればよいのでしょうか? 例えば「鎮痛薬や鎮静薬はこのプロトコルでやることにしたから、みんなしっかり勉強して使ってね」と言えばそれでICUが良くなるのでしょうか? 私はそう思いません。多職種が関わる集中治療室では、ある個人(多くは医師)が主導して決まり事を作って押しつけてもうまくいかないんじゃないかと考えています。

 プロトコルなんていくらでも作ることができます。でも作るだけではやっぱり意味が無くて、現場で咀嚼され根付かないと患者さんのためにはなりません。それよりも大事なのは、患者さんのために何かができるはずだ、何かをしてあげたいという「思い」が部門全体に行きわたることなのではないでしょうか。この「思い」を抱くこと自体は当たり前のことですが、実際のところ皆が足並みをそろえて同じ「思い」で目標に向かって進んでいける集団は少ないでしょう。

 共通の「思い」を醸成するためになにができるのか。一番有効なのはコミュニケーションをとることなんだと思います。看護師さん、多科の医師、理学療法士さん、薬剤師さんなど、たくさんの人が関わるなかで「思い」を共有するには会話しかなのではないか。そんな会話の中から自然と決まりごとが生み出されるようになったとき、真にICUが変わった・良くなったと言えるのだと思っています。

 このような会話と「思い」の共有を重視した医療をCommunication Based Medicineと勝手に名付けてみました(これまでに全く使われていない言葉ではないですが)。われわれ集中治療医はCBMにおいては触媒としての役割を担う、と考えてみたりしています。

2015年3月12日木曜日

High Flow Nasalは気管挿管中の低酸素を予防する

Use of High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy to Prevent Desaturation During Tracheal Intubation of Intensive Care Patients With Mild-to-Moderate Hypoxemia*.
Miguel-Montanes R, Hajage D, Messika J, Bertrand F, Gaudry S, Rafat C, Labbé V, Dufour N, Jean-Baptiste S, Bedet A, Dreyfuss D, Ricard JD.
Crit Care Med. 2015 Mar;43(3):574-83. 


✔ 背景
 非侵襲的陽圧換気が気管挿管中の低酸素血症を軽減するとされているが、挿管手技中の酸素化には用いることができない。High flow nasal cannula(HFNC)が気管挿管中の酸素化に有用かどうかを検討した。
✔ 方法
 Before-After研究。前酸素化として非再呼吸式リザーバ付酸素マスク(NRM)を用いていた時期とHFNCを用いるようになった時期とで比較した。Primary endpointは気管挿管中の低酸素血症とした。
・気管挿管手技
 鎮静薬(エトミデート)と短時間作用型の筋弛緩薬(サクシニルコリン)を使用してRapid sequence inductionを行った。最初の挿管手技はレジデントが行い、うまくいかなければ指導医が交代した。NRMを使用していた時期では15L/minで3分以上前酸素化した。挿管手技中はマスクは外したが、鼻カヌラで6L/minの酸素を投与しつづけた。HFNCを使用していた時期では100%酸素濃度、60L/minで3分以上前酸素化した。挿管中もHFNCは装着したままとした。
・対象患者
 ICUにおいて気管挿管される全患者を対象とした。18歳未満、心停止に対する気管挿管、重度の低酸素血症(NRM 15L/min使用してもSpO2<95%)、既にHFNC使用中の患者、非侵襲的陽圧換気使用中の患者は除外した。
✔ 結果
 101人が対象となった。気管挿管中の最低SpO2の中央値はNRM群は94%、HFNC群は100%で有意差を認めた。HFNC群では前酸素化終了時点の酸素飽和度が高く、低酸素状態に至るまでの時間も長かった。多変量解析でHFNCの使用は重度の低酸素血症を避ける独立した因子であった。
✔ 結論
 HFNCを気管挿管に使用することで重度の低酸素血症を避けることができる。

挿管手技中~後の酸素化などの比較(文献より引用)

◎ 私見
 個人的に試したことがあるが、確かに低酸素になりづらい。というより、NRMがちゃんと使えていない(フィットが悪いなど)だけではないかという気もするが。RSIで挿管するなら良いが、マスク換気をしようとするとチューブがかなり邪魔になるので注意が必要ではある。また、この研究ではもともと重度の低酸素血症がある患者を対象としていない点も注意が必要である。

2015年3月10日火曜日

肥満患者に対する超音波ガイド下経皮的気管切開

Ultrasound-guided percutaneous tracheostomy in critically ill obese patients.
Guinot PG, Zogheib E, Petiot S, Marienne JP, Guerin AM, Monet P, Zaatar R, Dupont H.
Crit Care. 2012 Dec 12;16(2):R40. PMID: 22390815


✔ 背景
 経皮的気管切開(PCT)が普及するに伴って様々な合併症が報告され、気管支鏡ガイドによる方法が編み出された。しかし、血管の走行や甲状腺についての情報は得られず、とくに合併症が多くなりがちな肥満患者において問題となる
✔ 方法
 50人の連続した患者を対象とした前向きコホート研究。PCTはCiaglia Blue Rhinoを用いて行った。超音波は12~3MHzのリニアプロ―べを用いた。実際の手技には3名を要する。まず、プロポフォールとスフェンタニルで深く鎮静し、シスアトラクリウムで筋弛緩を得た。100%酸素で従量式換気を開始した。皮膚消毒の後、まずは触診で穿刺部位を確認した。超音波はまず矢状団面を描出して輪状軟骨・気管軟骨を同定して穿刺点を確定し、次いで横断面を描出して血管と甲状腺と気管を調べ、気管までの深さを測定した。その後、頭側の医師が喉頭鏡で確認しながら気管チューブを声門近くまで引き抜いた。PCT施行者は超音波ガイドに穿刺針を予定の位置にすすめ、ガイドワイアを気管内に留置した。横切開をおき、ダイレートの後に気管切開チューブを挿入した。気管切開に要した時間や合併症の発生率を肥満患者とそれ以外とで比較した
✔ 結果
 50人の患者のうち、26人が肥満(BMI 32-38)であった。気管切開に要した時間は肥満患者と非肥満患者で有意差が無かった。また、合併症の発生率にも差が無かった。多くの合併症は重篤では無かった(低血圧、酸素飽和度低下、気管チューブのカフ穿刺、小出血)。肥満患者の2人が後に肉芽腫を生じ、非肥満患者の1人が創感染を起こした。
✔ 結論
 超音波ガイドのPCTは有用であり、特に肥満患者に対して有力な方法である。

プレスキャン(文献より引用)
◎ 私見
 PCTのときには必ず超音波でプレスキャンをするようにしているが、リアルタイムガイド下に穿刺したことはない。肥満患者や解剖学的な異常がある場合は有用と思われる。
 超音波ガイドは中心静脈カテーテル挿入、末梢静脈/動脈ライン確保、末梢神経ブロックをはじめとした穿刺手技で、もはや必須と考えられる。

2015年3月8日日曜日

人工呼吸中の早期リハビリテーションと予後

Early mobilization and recovery in mechanically ventilated patients in the ICU: a bi-national, multi-centre, prospective cohort study.
TEAM Study Investigators.
Crit Care. 2015 Feb 26;19(1):81. PMID: 25715872


✔ 背景
 ICU acquired weakness (ICUAW)は25~57%の患者に見られ、人工呼吸期間やICU在室日数、在院日数の延長と関係があり、機能的な回復を妨げ、長期生存率にも影響すると言われている。人工呼吸中から早期リハビリテーションを行うことでICUAWを軽減し、長期予後を改善する可能性がある。
✔ 方法 
 オーストラリア・ニュージーランドの12のICUで6ヶ月間にわたって観察研究がおこなわれた。もともと自立歩行が可能な患者で、ICU入室72時間未満かつ24時間以上人工呼吸管理をうけており、さらに48時間以上の人工呼吸継続が必要と思われる患者を対象とした。ICUを退室するか死亡するか14日が経過するまで毎日データ収集を行った。早期リハビリテーションは人工呼吸中に行われる全ての自動運動訓練を対象としてICU mobility scaleを用いて計測した。合併症はMAP<60mmHg、3分以上続くSpO2<88%、吸入酸素濃度>0.6が新規に起きた場合と定義した。ICUAWはMedical Research Council Manual Muscle Sum Scale (MRC-SS)を使用して評価した。
✔ 結果
 192人が検討対象となった。平均APACHEⅡスコアは19.1であった。昇圧剤は66%の症例で使用されており、深めの鎮静管理がされていた(64%)。挿管されて深い鎮静となっていることが早期リハビリテーションを行えなかった理由で最多であった。ICU死亡率は18.8%、ICU在室日数は11日、90日死亡率は26.6%であった。
 122人(63.5%)は早期リハビリテーションを受けることができなかった。患者-理学療法士の1,288回のコンタクトのうち、1,079回は早期リハビリテーションに結びつかなかった。理学療法士の接見は早期(中央値2日目)であった。
 早期リハビリテーションを受けた70人(36.5%)のICU入室から早期リハビリテーション開始までの日数の中央値は5日(3~8日)であった。リハビリテーションの内容で最も多かったのは床上運動訓練(94%)であり、以下、受動的座位変換(52%)、端座位(22%)、立位(11%)、車いす移乗(4%)、歩行(12%)であった。大きな合併症は無かったが、呼吸循環の異常のため0.4%のリハビリテーションが中断された。
 ICU退室時のMRC-SSスコアの平均は43.3であり、52%の患者でICUAWと判断された。ICUAWの有無年齢、APACHEⅡスコアは有意な関係が無かったが、早期リハビリテーションを受けた患者退室時のMRC-SSスコアが高い傾向にあった。ICUを生きて退室しても90日までに死亡してしまった患者はMRC-SSスコアが低い傾向にあった。
✔ 結論
 早期リハビリテーションはあまり行われていなかった。その理由として最も大きいのは気管挿管されている事と過鎮静であった。ICU退室時の筋力低下が無い方が長期予後がよい傾向があった。

ICUAWと生存率(文献より引用)

◎ 私見
 わたしの勤める施設でも人工呼吸中の早期リハビリテーションはそれほど行えていない印象がある。長期予後を変える可能性があるということで、この研究者たちはダブルアームの試験を行っている様子。結果が楽しみです。

2015年3月6日金曜日

リバーストリガー

Reverse triggering in a patient with ARDS
Hodane Yonis, Florent Gobert, Romain Tapponnier, Claude Guérin
Intensive Care MedicineMarch 2015. 


✔ 症例
 50歳の肥満の女性(BMI 51)。軟部組織感染症に伴う敗血症性ショックで人工呼吸管理となった。酸素化不良のため腹臥位に。3日目に腹臥位にすることをやめ、4日目に筋弛緩薬・鎮静薬を終了した。7日目、依然としてRamsayスコア6点であったが、人工呼吸器との非同調を示すようになたため食道内圧、気道内圧、流速をモニタした。
 人工呼吸器による吸気の後に規則的に食道内圧の低下が認められ、リバーストリガーと考えられた。よって、鎮静薬の再導入は行わず、自発呼吸が出現するまで待ち、17日目に抜管できた。食道内圧が記録されていなかったら鎮静薬を再開していたと考えられる。


◎ 私見
 リバーストリガーと呼ばれる現象は、患者さんの呼吸運動をそば見ていると分かる場合がある。意外と頻繁に認められるような気がするのだが、肥満の人とかだと見た目では分かりづらいかもしれない。食道内圧は測定できる環境ではないので別のモダリティを考えないと。フローモニタと横隔膜エコーを組み合わせるとかかな。個人的には、「何もしないで待つ」のでよいというところが面白かった。

2015年3月4日水曜日

横隔膜エコーによる抜管予測

Diaphragm ultrasound as a predictor of successful extubation from mechanical ventilation.
DiNino E, Gartman EJ, Sethi JM, McCool FD.
Thorax. 2014 May;69(5):423-7. PMID: 24365607


✔ 背景
 適切なタイミングで抜管することが必要だが、抜管成功を正確に予測する方法はない。横隔膜の動きをMモードで計測する方法があるが、一回換気量や周囲の組織の抵抗やコンプライアンスに影響されてしまう。Zone of apposition (ZAP)を計測に用いることでこの欠点を回避できる。すなわち、吸気時の横隔膜肥厚が横隔膜の収縮力と考えることができる。この評価法によって抜管成功を予測することができるかどうかを検討した。
✔ 方法
 呼吸循環の安定した人工呼吸管理中の63人を対象とした。呼吸不全以外の臓器不全についてはその有無を問題としなかった。
・測定
 横隔膜厚(TDI)は7~10MHzのリニアプローブを用いた。第8~10肋間の中腋窩線上から右横隔膜を描出した。上体は20~40度挙上させて計測した。TDIは流量計を用いて吸気終末と呼気終末に測定した。⊿TDI%は((呼気終末TDI-吸気終末TDI)/呼気終末TDI)×100で求めた。⊿TDI%はSBTの最初の5分以内に計測して3~5呼吸分の値を平均した。
・プロトコル
 抜管に関わる医療チームははTDIの結果を知らされないようにした。抜管成功は気管チューブ抜去後48時間以上自発呼吸を維持できた場合とした。
✔ 結果
 63人中、27人は自発呼吸、36人はPSVで離脱試験が行われた。⊿TDI%>30%の抜管成功に対する感度、特異度は88%、71%であり、PPV、NPVは91%、63%であった。ROCは0.79であった。
✔ 結論
 抜管成功の予測に横隔膜エコーは有用である。

各指標と感度特異度(文献より引用)

◎ 私見
 いくつかの指標で感度・特異度をみている。加えて、SBTを完全な自発呼吸で行うかPSVで行うかでこれらの指標がどのように変化するかもみている。自発呼吸下では特異度が高く、PSV下では感度が高くなる傾向がある様子。自発呼吸の27人では⊿TDI%の特異度100%、というのがすごい。ただし63人中14人が抜管失敗しているというのは多すぎないだろうか。この手の臨床試験は、患者背景やそこで行われる治療の内容に大きく左右されるので、自分の臨床に取り入れるには慎重にならざるを得ない。 でも、横隔膜エコーは興味あるので、ちょっと測ってみようかな。

CTによる肺水腫とARDSの鑑別

Comparison of chest computed tomography features in the acute phase of cardiogenic pulmonary edema and acute respiratory distress syndrome on arrival at the emergency department.
Komiya K, Ishii H, Murakami J, Yamamoto H, Okada F, Satoh K, Takahashi O, Tobino K, Ichikado K, Johkoh T, Kadota J.
J Thorac Imaging. 2013 Sep;28(5):322-8. PMID: 23615573


✔ 背景
 単純胸部X線写真で心原性肺水腫とARDSを鑑別することは難しい。胸部CTで鑑別できるかどうかを検討した。
✔ 方法
 急性呼吸不全(P/F<300)のために救急外来を受診し、胸部X線写真で両側浸潤影を認めた症例を対象として検討した。ふたりの集中治療医が診療経過のみから、ふたりの放射線科医がCT所見のみから心原性肺水腫かARDSかを判断した。間質性肺炎(膠原病性含む)、急性冠症候群、腎不全、左室機能不全の既往、肺塞栓、重度COPDの患者は除外した。心原性肺水腫の患者は収縮期血圧とBNPが高く、CRPが低い傾向があった。また、心エコーは全例に施行されていたが、右心カテーテルは8人(11%)に施行されたのみであった。ARDSの原因は肺内が45%、肺外が55%であった。集中治療医の診断を最終診断として、放射線科医のCT所見(5mmスライス)の読影結果の精度を調べた。
・CT所見
 Ground-glass attenuation、airspace consolidation、small ill-defined opacities、air-bronchogram、interlobular septal thickening、peribronchovascular thikening、traction bronchiectasis、pleural effusion。
✔ 結果
 41人の心原性肺水腫、20人のARDS患者を検討対象とした。心原性肺水腫では上葉優位/中枢側優位のGGA、中枢側優位のairspace consolidation、peribronchovascular thickeningの所見をより多く認めた。一方、ARDSでは全葉にまたがるGGA・Airspace consolidation・small ill defined opacitiesがより多く認められた。

患者背景(文献より引用)

心原性肺水腫のCT(文献より引用)
ARDS(文献より引用)
診断精度(文献より引用)

◎ 私見
 心原性肺水腫/ARDSの鑑別にCTは有用であるという結果であった。胸部CTは苦手。いつも専門の先生方の読影に勉強させていただいている。とにかくたくさん読んでいかないと。

2015年3月2日月曜日

”年度初めに病院に行くと痛い目にあう”は本当か

Is an urban legend true in the teaching hospital that ‘‘you will get hurt if you go to hospital at the beginning of the fiscal year’’?
S. Inoue, R. Abe, Y. Tanaka, M. Kawaguchi

J Anesth (2015) 29:122–125

✔ 背景
 新人が多いため”年度初めに病院に行くと痛い目にあう”と都市伝説的に語られるが、これが本当かどうか確かめた。
✔ 方法
 末梢静脈ライン確保の失敗は患者の不快感に直接関係があると考えられる。ライン確保失敗をカテーテル消費量として算出することにした。手術室管理システムから末梢静脈カテーテルの消費量を調査し、研修医の数と関係があるのかどうか、また、患者満足度と関係があるのかどうかを調べた。
✔ 結果
 カテーテル消費量は年度初めに多くなるわけではなかった。しかし、研修医の数が多いほどカテーテル消費量が有意に多くなる傾向があった。また、有意ではないものの研修医の数が多いほど患者満足度が低下する傾向があった。
✔ 結論
 ”年度初めに病院に行くと痛い目にあう”は真実では無かったが、教育病院では患者が不利益を被る可能性について考えなくてはならない。

研修医が増えるとカテーテル消費量も増える(文献より引用)

◎ 私見
 教育病院に勤める身として、とても考えさせられる内容。患者さんは何を期待してこの病院に来ているのかを見失わないようにしないと、教育の名のもとに医療の本質が損なわれてしまう気がする。といって、教育をしないわけにはいかないわけで。そばでみている指導医がリスクヘッジをする必要があるのでしょう。それができてこそ良い指導者ということでしょうか。

2015年3月1日日曜日

人工呼吸中の非同調は死亡率上昇と関連している

Asynchronies during mechanical ventilation are associated with mortality.
Blanch L, Villagra A, Sales B, Montanya J, Lucangelo U, Luján M, García-Esquirol O, Chacón E, Estruga A, Oliva JC, Hernández-Abadia A, Albaiceta GM, Fernández-Mondejar E, Fernández R, Lopez-Aguilar J, Villar J, Murias G, Kacmarek RM.
Intensive Care Med. 2015 Feb 19. PMID: 25693449


✔ 背景
 人工呼吸器との非同調は鎮静薬や筋弛緩薬の使用量を増大させ、人工呼吸管理期間・ICU在室日数を延長し、呼吸筋障害を増やし、気管切開率を高めることが知られている。
✔ 方法
 Better Careというソフトウェアを用いて人工呼吸管理中の非同調について調査した。非同調
は①Ineffective efforts during expiration (IEE)、②Double-triggering、③Aborted inspiration、④Short cycling、⑤Prolonged cyclingの五つに分類して集計した。ソフトウェアは人工呼吸器のモードや吸気・呼気、非同調の出現を自動的にモニタできる。全集計時間のうち、CPAPもしくは分類不能であった時間を除いて解析した。非同調係数(Asynchrony index; AI)は、すべての非同調の回数を、呼吸数とIEE(ミストリガー)の総和で除して計算し、10%以上を高度非同調と定義した。これらの集計は1時間毎に行われた。
✔ 結果
 50人の患者における7,027時間、8,731,981回の呼吸を解析対象とした。全ての患者の全ての呼吸モードで非同調が観測された。AIの中央値は3.41%であった。最も多く認められた非同調はIEEであった(2.38%)。午後12時から午前6時までの間は非同調の頻度が減少していた。その時間帯では、90%が調節換気であった。AIが10%を超える患者と10%未満の患者を比較したところ、再挿管や気管切開の頻度は変わらないものの、ICU死亡率、院内死亡率、人工呼吸管理期間が高度非同調群で大きくなる傾向があった。
✔ 結論
 非同調は日常的に認められ、とくに日中に多かった。これらの非同調が患者死亡の危険因子となるのか、さらなる研究が必要である。

非同調と予後(文献より引用)

◎ 私見
 基本的に非同調はあってはいけないものと思っている。そのために患者さんのそばから離れられなくなることも。まだまだ非同調に対する理解が少なくて、結構見逃されている。まずはそういったことのないように地道に診療することが先決か。ソフトウェアで検出できれば知らなくてよい、とはならないと思うし。