2015年3月24日火曜日

VV-ECMO導入のタイミング(仮想症例検討)

Rescue therapy for refractory ARDS should be offered early: yes.
Combes A, Ranieri M.
Intensive Care Med. 2015 Mar 20. PMID: 25792205
Rescue therapy for refractory ARDS should be offered early: no.
Brodie D, Guérin C.
Intensive Care Med. 2015 Mar 20.PMID: 25792200 

Rescue therapy for refractory ARDS should be offered early: we are not sure.
Roch A, Papazian L.
Intensive Care Med. 2015 Mar 20. PMID: 25792201

✔ 症例
 特に既往のない51歳の女性(165cm、60kg)が重症市中肺炎と診断されてICUに入室した。入院6時間後に気管挿管され人工呼吸が開始された。数時間の経過で呼吸状態が悪化。12時間後のBGAはpH 7.36、PaCO2 47、PaO2 65、HCO3 26、FiO2 100、人工呼吸器の設定はVt 340ml、PEEP 8、RR 28でプラトー圧は28であった。血行動態と腎機能は正常であった。
(注:ちなみに、血液ガスの値や人工呼吸器の設定の細かい数値は一人目の回答者であるCombesらが自ら設定した数値であり、原稿依頼があった時点では無かった数値のようです)

✔ 回答者A:早期にECMOを導入する
 ベルリン定義で重症ARDSと判定される。コンプライアンスが低下(18ml/cmH2O)しており、換気駆動圧が高い(⊿P=20)。酸素化は重篤なレベルまで障害されており(OI=43)、このような患者の院内死亡率は45~60%と推定される。
 PEEP 8しか使用していないので、さらに上げる余地はあるかもしれないが、プラトー圧を上昇させてVILIを起こす可能性がある。NO吸入は酸素化を改善するかもしれないが長期予後を改善することが証明されていない。一方、このような重症ARDSの予後を改善することが報告されているので、腹臥位を直ちに行うべきである。さらに筋弛緩薬の持続投与を行うべきであろう。
 ARDSnetが推奨する保護的換気戦略を用いても30%で肺過膨張が生じていると言われている。さらにHagerらはプラトー圧が低ければ低いほど(30cmH2O未満でも)生命予後が良くなることを報告している。Terraganiらは超低容量(3.5~5ml/kg)かつ低プラトー圧(25cmH2O未満)により炎症性シグナルを低減できることを報告している。これら超保護的換気戦略は高炭酸ガス血症を引き起こすため、体外炭酸ガス除去(ECCO2-R)やVV-ECMOを使用しなければ達成不可能かもしれない。
 腹臥位にしても肺の状態が改善しないのならばVV-ECMOを導入する。理由は五つある。まず、超保護的換気戦略を採用するのなら、ECCO2-RよりVV-ECMOの方が効率的で望ましい。二つ目は現代のECMO装置はシンプルで安全で出血性合併症も少なく、数週間の管理が可能となっている。三つ目は、近年の研究(CESAR試験やH1N1インフルエンザにおける知見)で重症ARDSに対するVV-ECMOの有効性が報告されている。四つ目は、重症ARDSに対するVV-ECMOの予後不良因子である、高齢、ECMO施行までの長期人工呼吸管理、臓器不全数、低コンプライアンス、筋弛緩や腹臥位管理がないこと、免疫抑制に基づいて作られたスコア(RESP、PRESERVE)から考えても適当と考えられることである。最後に、低酸素が強いと長期的認知機能が悪化する可能性が指摘されているが、VV-ECMOはこれを早期に改善することで長期神経学的予後を改善しうる。以上より、この症例に対しては早期にECMOを導入することで、死亡率を20%未満に低減し、長期的な認知機能を改善しうると考える。現在行われている臨床研究(EOLIA)がこの仮説に対する答えを示すだろう。

✔ 回答者B:早期にECMOは導入しない
 非常に重篤な低酸素状態であるが、いくつかの理由により直ちにECMOとはしない。いくつかの点について介入の余地がある。まず、EXPRESSやARMAに述べられているような低容量・低圧換気戦略を行うべきである。一回換気量の情報が無いため分からないが、予測体重に基づいて設定すべきである。また、PEEPが低すぎるため上昇させるべきである。PEEPを上昇させるとプラトー圧が上昇するかもしれないが、リクルートがすすむとプラトー圧は低下してくる。PEEPが酸素化を改善するかどうかを確かめるのに時間は要らない。プラトー圧に対する胸郭の弾性を考慮する余地はあるだろうか。Grassoらは胸郭弾性が高いH1N1インフルエンザによる重症ARDS患者に対し、経肺圧25cmH2Oを目標に高いPEEPをかけることでECMOを避けることができたと報告している。これには食道内圧計が必要である。最も簡便にPEEPを設定する方法はPEEP-FiO2表を用いる方法であり、この症例の場合、14~22cmH2Oということになる。リクルートメント手技も有用かもしれない。次に、鎮静や筋弛緩の適切性について考慮すべきである。酸素消費量を減らし、人工呼吸器との同調性を確保する上で深い鎮静にする。深い鎮静を達成できたら筋弛緩薬(シスアトラクリウム)を48時間まで投与する。これにより酸素化が改善し、気胸は減り、生存の可能性があがる。三つ目に、輸液バランスをチェックする。血行動態が安定して腎機能も正常なので、利尿薬を使用できる可能性がある。大規模試験では有用性を示す事ができなかったが、保守的輸液管理は酸素化を改善し、人工呼吸管理期間を短縮する傾向が示されている。また、低蛋白血症ならばアルブミン補充とともにフロセミドを投与することで有意に酸素化を改善したことが示されている。四つ目に、腹臥位管理である。これまでにのべたことを全て行うのに2時間もかからない。それでも低酸素が続くなら腹臥位とする。PROSEVA研究では、PEEP 5cmH2OをかけてもP/F<150の重症ARDSで予後を改善したことが示されているが、低酸素が重篤であるほどその利益が大きいことが示されている。五つ目は、血管拡張薬の吸入である。EpoprostenolやNOが候補となる。これらの薬剤は換気が維持されている肺領域の血管を拡張させることで酸素化を改善させることができる。
 ではどのようなときにECMOを考えるのか。生命の危険があるような低酸素でなければ、6時間程度の余裕はあると考える。以下のようなクライテリアが報告されている;P/F<80、PEEP 15~20、pH<7.15、プラトー圧>35~45。 
治療戦略(文献より引用)


✔ 回答者C:現時点では決められない
 ECMOはCESAR研究やH1N1インフルエンザの際に再注目された技術である。その目的は、①適切なガス交換を達成し低酸素やアシドーシスを改善すること、②人工呼吸器関連肺障害を軽減することの2点である。ひとつめの目的からすると、ECMO開始まではある程度の時間的余裕があると考えられるが、ふたつめの目的からすると直ちにECMOを使用しないといけないことになる。
 この患者はECMOの良い適応である。ただしPEEPやプラトー圧を見る限りさらなる介入が可能であると考えられる。筋弛緩薬を持続投与し、人工呼吸のパラメータを再評価すべきである。ただし、PEEPを上昇させる際には、この患者が市中肺炎のため肺病変に不均一性が強く、PEEP上昇効果が得られない可能性があることを考えておくべきである。腹臥位は重症ARDSに有用であるため、右室機能を評価したうえで行うべきである。もし右室機能が低下している場合はNO吸入を考える。腹臥位にした後にPEEPを再検討する。その後、数時間しても低酸素が続く場合はECMOを導入する。
 結論として、ECMOの適応となるかもしれないが、腹臥位を試していない現時点では行うべきではないのだろう。腹臥位は不要なECMOを減らすかもしれない。腹臥位を含む肺保護的換気戦略を行っても3時間以上P/F<55-60が続くのならVV-ECMOが望ましいだろう。

◎ 私見
 Expertの意見が分かれるのを見るのは面白い(企画のために分かれるように演出されているとしても)ものだが、今回は3人とも腹臥位→ECMOと同じような事を言っているにすぎない。ECMO開始を決断するタイミング(というより決断の過程をどのように表現するか)が異なっているだけ。つまり現時点の専門家の意見はみな同じで、ECMOについて前のめりなのか、そうではないのかの違いがあるに過ぎないのだろう。文中に出てきたEOLIAが終わるのは2016年1月で論文はその後。早く結果が知りたいところです。

0 件のコメント:

コメントを投稿