2015年4月30日木曜日

IT化は患者予後を変えるか?

Impact of the Electronic Medical Record on Mortality, Length of Stay, and Cost in the Hospital and ICU: A Systematic Review and Metaanalysis.
Thompson G, O'Horo JC, Pickering BW, Herasevich V.
Crit Care Med. 2015 Mar 9. PMID: 25756413


✔ 背景
 アメリカ政府はHealth Information Technology for Economic and Clinical Health(HITECH)を通じてHealth information technology(HIT)の発展のためにに多額の投資を行った。これは、HITがより良い医療を提供し、コストを削減することを期待して行われたものだが、HITの発展の臨床効果についてはあまり知られていない。
✔ 方法
 2013年7月までにHITについて発表された論文をReviewした。電子オーダリングシステム(Computized physician order entry; CPOE)、臨床診断意思決定支援システム(Clinical decision support systems; CDSS)、サーベイランスシステム(Surveillance systems; SS)、LANアナライザ("Sniffer")、電子診療録(Electronic Medical Record; EMR)の臨床的意義(死亡率、在院日数、コスト)を調べた者を選択した。
✔ 結果
 データベースから2736編、手検索で67編の論文が見つかった。そのうち45編が検討対象となり、26編を用いてメタアナリシスを行った。
・死亡率
 検討対象となった45編のうち33編が在院死亡率をエンドポイントとして検討していた。メタアナリシスによるとCPOEとEMRは死亡率に影響が無かった。CDSSはわずかに良い影響を与える傾向が認められた(OR 0.83; 95% CI 0.69-1.00)。Snifferは有意に死亡率を低減した(OR 0.85; 95% CI 0.76-0.94)が、研究の不均質性が認められた。
 ICU死亡率をエンドポイントしていたものは、CPOEが5編、CDSSが4編、Snifferが3編存在していたが不均質性が大きく、メタアナリシスでもその効果に一定の傾向は認められなかった。
 90日死亡率をエンドポイントとしていたのは、CDSSが2編、Snifferが1編あったが、有用性は認められなかった。
・在院日数
 CPOE4編、Sniffer1編、CDSS3編が在院日数を検討していた。CPOEが在院日数を減少させる傾向が認められた(Mean decrease 0.67; 95% CI -2.07-0.73)が、やはり不均質性が大きかった。3編がICU在室日数に言及していたが、有意な影響は認められなかった。
 観察研究などメタアナリシスに供することのできない研究が26編認められた。16編が在院日数に影響なしと結論し、1編が研究対象の1施設のみで在院日数を減少させたと報告した。8編は在院日数を減少する効果があると報告し、1編はEMRで在院日数が延長したと報告した。
・コスト
 14の研究があったが不均質性が著しく、メタアナリシスが行えなかった。CDSSで薬剤費が減少したとするものやEMRでコストが増大したとするものなどがある。
✔ 結論
 HITの導入が死亡率、在院日数、コストに対して大きな効果があることを証明できなかった。研究の不均質性が大きかった。効果を謳う前に、これらのテクノロジーの臨床効果を詳細に検討すべきである。

◎ 私見
 高度なテクノロジーが患者予後を変えるわけではないということ。使う側の影響が大きすぎるということだと思う。ちなみに自分の勤めるICUでは電子媒体と紙媒体が混在している。両方の媒体で指示を記載する、などのルールがあって、かえって非効率なんじゃないかと思ったりもしている。

2015年4月28日火曜日

心停止患者の生存率を高めるための10の戦略

Ten strategies to increase survival of cardiac arrest patients.
Cariou A, Nolan JP, Sunde K.
Intensive Care Med. 2015 Apr 10. PMID: 25860446


1.Bystander CPRの増加
 質の高いCPRによって初期リズムが除細動適応である可能性が高まり、長期予後の改善につながるとされている。通信指令係による電話でのCPR指示を含む、コミュニティーにおけるCPR教育が重要。

2.市民救助者による早期AED使用
 早期除細動は生存率を改善するため、最初のショックまでの時間をできるだけ短くするためにあらゆる努力を行わなくてはならない。AEDは警察や消防隊員、一般市民救助者が簡単に使用できる。

3.質の高いALS
 ALSとはCPR、除細動、気道管理、薬剤投与、治療機材の使用を組み合わせたものである。予後を改善させるという証拠はないが、ガイドラインに従って質の高いALSを提供するよう努力するべきと考える。薬剤の種類、薬剤の組み合わせ、胸骨圧迫装置などのデバイスが予後を改善するかどうかさらなる研究と発展が期待される。

4.ALSのモニタ
 質の高いALSを達成するためにはモニタが必要である。心拍出量を反映する呼気炭酸ガス濃度は、リアルタイムでCPRの質をモニタできる方法である。高度な気道確保を要するが胸骨圧迫の質を持続的に評価でき、ショック後のROSCとPEAを判別できる。NIRSや心室細動波形解析は循環や除細動の適正化に有用かもしれないツールである。蘇生困難例では心停止に至った原因の診断が重要であるが、超音波を用いた評価方法を確立することが特異的治療につなげるために必要である。

5.蘇生困難例に対する高度治療の開発
 蘇生困難例のでは胸骨圧迫装置を用いることで蘇生適応範囲を広げることができるかもしれない。重要臓器灌流を維持し、適切な病院への搬送を可能とし、ECLSを導入することができる。ECLSが標準的治療不応例の蘇生に有用であるという証拠が多く集まってきている。しかし、患者選択やその効果についてはまだ明らかになっていないこともある。

6.蘇生後ケアの改善
 心停止の原因を治療し脳を二次損傷から保護することで短期的にも長期的にも蘇生後患者の予後を改善することができる。近年のガイドラインでは冠動脈疾患が原因の場合は即時のカテーテル治療を推奨している。低酸素性/虚血性脳障害は院外心停止の死因で最も多い。現時点では脳機能の回復を最大にする治療は体温を最初の24時間、33~36℃に維持することである。早期再灌流療法と低体温療法を組み合わせることで、良好な長期予後が期待できる。

7.予後推定
 蘇生後の昏睡患者の神経学的予後を推定することは難しい。良好な経過の患者は数日で昏睡から覚醒することがあるため、この期間に延命治療を減らす(Withdrawする)のは早すぎる。臨床所見だけでは延命治療の継続に関する決断をするには不十分である。ERC/ESICMは蘇生後昏睡患者に関する予後推定のガイドラインを発効している。一般に、予後予測はROSCより72時間以降に行い、いくつかの予後予測因子(神経電気生理、画像検査、バイオマーカ)を組み合わせて行うべきである。それらの結果が食い違った場合の予後予測については分かっていないため、さらなる再評価が推奨される。

8.リハビリテーション
 神経学的予後はCPCなどによって評価されるが、良好と判断された場合でも認知機能やQOLが良い場合もあれば、重篤な記憶障害を持つ場合もあると報告されている。頭部外傷に対する積極的なリハビリテーションの有用性は広く認識されているが、心停止蘇生後の患者の身体的リハビリテーションの必要性についてはよくわかっていない。

9.レジストリ
 質の高いレジストリのデータを用いることで、異なるヘルスケアシステム同士を比較することが可能となる。リスク調整モデルを用いることでさらに信頼性が高まる。観察研究として用いる場合はバイアスが問題となるが、仮説生成やさらなる臨床研究につなげるという観点では重要である。いくつかの質の高いレジストリが知られており、ガイドライン変更や心停止に対する治療の効果を検討する意味でも有用である。

10.研究プログラム
 ガイドライン推奨の多くは質の低い証拠に基づいているため、質の高い研究が治療を改善するために必要である。しかし、心停止は極めて緊急度の高い病態であることに加えて、心停止に陥った患者は研究に同意できないため、臨床研究は極めて困難である。心停止患者の生存率は増えてきてはいるとはいえ依然として低率であり、有意差をもって治療の有用性を示すためには数千人の患者を集める必要がある。前向き研究を行うなら多施設・多国籍で行うことが必要だろう。

2015年4月26日日曜日

骨格筋酸素飽和度と外傷性出血性ショックの予後

Skeletal muscle oxygenation in severe trauma patients during haemorrhagic shockresuscitation.
Duret J, Pottecher J, Bouzat P, Brun J, Harrois A, Payen JF, Duranteau J.
Crit Care. 2015 Apr 6;19(1):141. PMID: 25882441


✔ 背景
 外傷性出血性ショックに伴い早期に組織酸素飽和度が低下すると予後が悪くなると考えられる。入院時の骨格筋酸素飽和度がその後の臓器障害を予測するかどうかを検討した。
✔ 方法
 ふたつのLevel 1外傷センターで54名の受傷6時間以内の外傷性出血性ショック患者を対象として調査が行われた。入院6時間毎72時間後の母指球酸素飽和度(StO2)と血管閉塞試験(VOT)によるその変化を計測した。72時間後のSOFAスコアが改善した群(改善群)と改善しなかった群(非改善群)で、これらのパラメータを比較した。
✔ 結果
 54名中34名のSOFAは改善し、20名は改善しなかった。両群間で外傷重症度に差はなかった。改善群はベースラインのStO2が高く、6時間時点におけるVOTに伴う酸素飽和度低下率が小さかった。これらのStO2の結果は、院内死亡と弱い相関があった。6時間時点でのVOT再灌流開腹時間は両群間で差が無かった。
✔ 結論
 SOFA改善群と非改善群とにおけるStO2の違いを示した。NIRSを指標とした外傷性出血性ショックの蘇生方法を検討すべきである。
骨格筋酸素飽和度の両群間の違い(文献より引用)
◎ 私見
 組織低酸素の徴候を示すと、同じような出血性ショックでも臓器障害が多いということらしい。骨格筋の血流と主要な臓器の血流は同じとは思えないので、”末梢循環が犠牲になるほど重症であれば臓器障害が起きやすい”ということを示しているに過ぎない気がするけど…。実際、両群間のベースラインデータを見てみると、SOFA非改善群ではすでに低体温やアシドーシス、凝固障害をきたしていて如何にも重症という感じだし。他のモニタと同様、これをどのように治療に結びつけるかが大事なのでしょう。

2015年4月23日木曜日

研修医の勤務形態と患者安全

Patient safety, resident well-being and continuity of care with different resident duty schedules in the intensive care unit: a randomized trial.
Parshuram CS, Amaral AC, Ferguson ND, Baker GR, Etchells EE, Flintoft V, Granton J, Lingard L, Kirpalani H, Mehta S, Moldofsky H, Scales DC, Stewart TE, Willan AR, Friedrich JO; Canadian Critical Care Trials Group.
CMAJ. 2015 Mar 17;187(5):321-9. PMID: 25667258


✔ 背景
 研修医の勤務時間を短くすることで患者安全と医師の健康を改善することができると言われている。しかし、治療継続性が阻害されることによる有害性が疲労を減らすことによる利益を上回る可能性もある。ICUにおける3種類の勤務形態と、患者安全、研修医の健康、治療継続性について検討した。
✔ 方法
 二つの大学病医院の2か月ごとにローテートしてくる研修医を無作為に夜間勤務24時間型、16時間型、12時間型の勤務体制に割り振った。
>24時間群
 8時に勤務開始し、翌8時30分に勤務終了する。カナダのICUで多い勤務形態。
>16時間群
 16時30分に勤務開始し、翌8時30分に勤務終了する。24時間群も16時間群も、夜勤明けは24時間の休暇とする
>12時間群
 20時30分に勤務開始し、翌8時30分に勤務終了する。夜勤は3~4回連続して行い、その後72時間の休暇が与えられる。
 総勤務時間は群間に差が無いようにしてある(それぞれ、59.4時間/週、53.2時間/週、52.4時間/週)患者安全に関するプライマリアウトカムは有害事象とした。研修医の健康に関するプライマリアウトカムは眠気(Stanford Sleepiness Scale)とした。セカンダリアウトカムは患者死亡、避けられる有害事象、研修医の身体症状、バーンアウトとした。治療継続性ならびにICUスタッフの研修医に対する評価も調査した。
✔ 結果
 47人の研修医について、971人の新入院、5894人・日の治療期間、関わった452人のスタッフを調査した。有害事象については勤務形態間(24時間、16時間、12時間)の差はなかった(81.3、76.3、78.2/1000人・日; p=0.7)。また、日中の研修医の眠気にも差が無かった。8件の避けられる有害事象のうち、7件は12時間群で認められたが有意な差はなかった。患者死亡率も群間有意差は無かった。研修医の身体的症状は24時間群で有意に多く、また重度であった(p=0.04)。しかし、バーンアウトは群間に差が無かった。ICUスタッフの評価によると、16時間勤務群で知識や臨床的決定能力が最も悪いと評価されていた。
✔ 結論
 今回の研究では短い勤務時間が利点があるということを証明できなかった。研修医の身体症状と患者安全に関わるセカンダリアウトカムとはトレードオフの関係にあり、勤務システムの変更を考える際には、この点に注意が必要である。

◎ 私見
 研修医の勤務を見直す機会があったので、ちょっと気になっていた論文。Dutyを短くすると研修医の身体症状は軽減されるが有害事象が増える傾向があった。指導医の勤務形態がどうかとか、人数はどれくらいかとかの方が重要な気もするけど。研修医をとるか、患者をとるか…

2015年4月21日火曜日

ECMO施行数が多い施設ほど死亡率が低下する

Association of Hospital-Level Volume of Extracorporeal Membrane Oxygenation Cases and Mortality. Analysis of the Extracorporeal Life Support Organization Registry.
Barbaro RP1, Odetola FO, Kidwell KM, Paden ML, Bartlett RH, Davis MM, Annich GM.

Am J Respir Crit Care Med. 2015 Apr 15;191(8):894-901.

✔ 背景
 年間ECMO症例が多いほど死亡率が低下するのかどうかを検討した
✔ 方法
 ECMOレジストリを用いた過去25年間の後向き研究。患者は新生児(生後0~28日)、小児(28日~18歳)、成人(18歳以上)の三群に分けて検討した。各年齢群とECMO施行頻度で層別化し、死亡率との関係を検討した。アウトカムは在院死亡率とした。
✔ 結果
 1989年から2013年までに290の施設から56,222人の患者登録があった。死亡率には施設間格差が大きかった。通年で検討すると、成人では年間ECMO施行症例が多いほど在院死亡率が低い傾向があることが分かった。2008年から2013年(成人のECMOが増加した期間)で検討しても、ECMO施行症例が多いほど在院死亡率が低い傾向があった(年間1~5症例の施設に比較すると、30症例以上の施設のオッズ比は0.61)。ECMO施行症例数と死亡率の関係はCardiac ECMOでみられる傾向であり、VV-ECMO、Respiratory ECMOではこのような関係は認められなかった。近年では小児や新生児では施行症例数と死亡率の関係は認められなくなっていた。
✔ 結論
 新生児と成人では年間ECMO施行症例数が多いほど死亡率が低い傾向があるが、近年では成人にのみこのような傾向が認められる。
 ECMO施行施設を拡充するにあたっては施行症例数が多い施設でうけられる恩恵と、遠距離搬送に伴うリスクを勘案しなくてはならない。現在のECMOセンターが需要に見合う活動ができているのなら、本研究の結果を鑑み、あたらしいECMOセンターを増やすのではなく従来のECMOセンターでの治療を行うべきであろう。
文献より引用
◎ 私見
 結果は予想通りで特に目新しいことはない。経験が多いから成績が良いのか、成績が良いから症例が集まるのか、を考えることにはおそらく意味がない。なぜ、その施設では成績が良くなるのかを考えてみないといけない。目立たないけど基本的な診療を丁寧に行えて、スタッフが同じベクトルの熱意をもっていなければ成績は向上しないと思う。すくなくとも、「とりあえず、やってみよう」というものではない。その前にまず、自分たちが地に足のついた医療が提供できているかどうかを自問するところから始めるべきだと思う。

2015年4月19日日曜日

持続脳波モニタによる敗血症患者の評価


Acute brain failure in severe sepsis: a prospective study in the medical intensive care unit utilizing continuous EEG monitoring.
Gilmore EJ, Gaspard N, Choi HA, Cohen E, Burkart KM, Chong DH, Claassen J, Hirsch LJ.
Intensive Care Med. 2015 Apr;41(4):686-94. PMID: 25763756


✔ 背景
 重症患者の70%にせん妄や昏睡などの急性脳機能不全が認められる。脳波で検出された非痙攣性てんかん(NCS)や周期性放電(PD)は予後不良と関連しているとされる。敗血症はNCSやPDの危険因子のひとつで、非痙攣性てんかん重積(NCSE)の危険因子でもある。重症敗血症患者で認められる持続脳波モニタ(cEEG)の異常所見の頻度と危険因子、予後への影響を調査した。
✔ 方法
 単施設前向き観察研究。重症敗血症ならびに敗血症性ショックで脳症評価として少なくとも12時間のcEEGモニタを行った患者を対象とした(この施設ではcEEGは標準的なモニタとして積極的に使用されている)。
 cEEGは国際10-20法に基づき21個の電極を用いて記録した。痙攣性てんかん(CSzs)、痙攣性てんかん重積(CSE)、NCS、NCSE、PD(全般性PD(GPD)、限局性PD(LPD)、両側独立性PD(BIPD)、三相波を伴うGPDの有無を検討した。痙攣性・非痙攣性の定義は以前の報告に従って行い、PDはACNS Terminology for Critical Care EEGを基に定義した。なお、2.5Hz以上のPDや抗けいれん薬投与後に改善する2.5Hz以下のPDはNCSEとして扱った。1~2.5HzのPDで抗けいれん薬投与後に改善傾向にはなるものの明らかとは言えないものはNCSEの可能性ありとした。脳波反応性は、標準的な体外刺激法(名前を呼ぶ→名前を叫ぶ→軽く揺さぶる→鼻梁をくすぐる)によってバックグランド脳波の周波数や振幅が変化するかどうかで判定した。EMGの出現は脳波反応性ありとはしなかった。
✔ 結果
 98人、100回の入室が対象となった。50%が女性で年齢の中央値は60歳であった。APCHEⅡの中央値は23.5で、SOFAの中央値は8であった。25例にPDを認め、そのうち11例はNCSも認めた。PDを伴わないNCSはみられなかった。もともと神経学的疾患を既往に持つ場合にPDやNCSが多く認められた(45% vs 17%)。一方、APACHEⅡ、SOFA、循環不全の程度、鎮静薬はPD・NCSの低リスク因子であった。脳波反応性が認められないと1年死亡率が高い傾向にあったが、PDやNCSは死亡率とは関連が無かった。機能的予後、認知機能、遅発性痙攣/てんかんの予測因子は見つからなかった。
✔ 結論
 敗血症で意識障害のある患者ではNCSやPDは頻繁に認められる。これらの所見は本研究においては予後と関連が無かった。1年後の死亡率と関連していたのは脳波反応性であった。
カプランマイヤー曲線(文献より引用)

◎ 私見
 脳機能不全は興味のあるところなのだけど、脳波の意義がまだまだよくわからない。反応性の有無は役に立ちそうだけど…。簡易脳波モニタでは意味が無いのかとか、BISだとどうかとか考えてしまう。

2015年4月17日金曜日

ICUにおける消化管出血の疫学研究

Prevalence and outcome of gastrointestinal bleeding and use of acid suppressants in acutely ill adult intensive care patients
Mette Krag, et al.

Intensive Care Medicine Online First - April , 2015 Pages 1 - 13

背景
 重症患者の消化管出血の頻度、危険因子、予後に対する影響、制酸剤の効果について検討した。
✔ 方法
 前向きコホート研究。プライマリアウトカムを臨床的に有意な消化管出血とし、ベースラインの情報や90日死亡率との関連を検討した。
 11カ国97施設に7日間のうちに入室した18歳以上の患者を対象とした。消化管出血のために入院した患者や再入室の患者は除外した。消化管出血は下記のように定義した。
・Overt GI bleeding(顕性消化管出血)
 吐血、コーヒー残さ様嘔吐、下血、血便、経鼻胃管からの血性排液のうちいずれか。
・Clinically important GI bleeding(臨床的消化管出血)
 顕性出血後24時間以内に血圧低下(20mmHg以上)、昇圧剤開始/増量(20%以上)、Hb低下(2g/dL以上)、輸血(2単位以上)のいずれかを認めた場合。ただし、消化管出血以外の原因を除外すること。
✔ 結果
 1034人が対象となった。顕性消化管出血は4.7%、臨床的消化管出血は2.6%に認めた。臨床的消化管出血の独立した危険因子は、3つ以上の共存疾患(OR 8.9)、肝疾患併存(OR 7.6)、RRT(OR 6.9)、凝固障害併存(OR 5.2)、急性凝固機能障害(OR 4.2)、制酸薬使用(OR 3.6)、臓器不全スコア高値(OR 1.4)であった。制酸剤は73%の患者で使用されており、その多くはPPIであった。臨床的消化管出血の90日死亡への影響は粗オッズ比 3.7、調整オッズ比 1.7(0.7~4.3)であった。
✔ 結論
 臨床的消化管出血はまれだが制酸剤は多く使用されていた。共存疾患、肝不全、凝固障害、臓器不全が主な危険因子であった。調整オッズ比でみると臨床的消化管出血は90日死亡率と有意な関係はなかった。粗オッズ比では有意に関連があるが、これは主に共存疾患や臓器不全、年齢による影響であると考えられた。
文献より引用
◎ 私見
 過去に報告された他の消化管出血の危険因子には48時間以上の人工呼吸などがある。この手の研究は対象とする患者群の違いによって危険因子がかなり変わるので、解釈には注意が必要。ストレス潰瘍予防、もう一度適応を整理し直しておかないと。

2015年4月15日水曜日

ICUにおける発熱

Persistent fever in the ICU.
Rehman T, Deboisblanc BP.
Chest. 2014 Jan;145(1):158-65. PMID: 24394828


✔ 発熱の病態生理
 発熱のメカニズムには二つある。
1)体温調節のセットポイントの上昇。LPSやTNFα、IL-1がPGE2産生を促し、セットポイントが上昇する。これをうけ、シバリングや代謝亢進とともに末梢血管が収縮し、体温が上昇する。
2)体温調節そのものの異常。悪性高熱や熱中症。

✔ 発熱の定義
 口腔で計測した体温の正常値は36.8℃で、0.5℃程度の日内変動がある。ACCMとIDSAの合同タスクフォースによる定義では、38.3℃以上をICUにおける発熱と定義している。臨床状態を勘案して発熱の閾値を考えるべきである。

✔ 体温測定
 口腔温や腋窩温は重症患者では信頼できない。肺動脈カテーテルで測定した血液温を核心温とする。直腸温、膀胱温、鼓膜温が核心温に近くなる。同一患者では、同じ部位・同じ機器・同じ測定方法で体温を測定するべきである。

✔ 疫学
 定義と対象患者によるが、ICUにおける発熱の頻度は26%~70%とされる。感染性発熱と非感染性発熱はほぼ同率で認められる。若年、男性、敗血症性ショック、外傷、緊急手術、中枢神経疾患では発熱しやすい。遷延性発熱(6日以上持続)と高熱(39.3℃以上)は感染性を示唆する。術後一日目は発熱しやすい。入院時の発熱と低体温はICU在室日数延長のリスクである。遷延性発熱と高熱は死亡のリスクである。

✔ 鑑別診断
 ICUでの発熱は時に感染性発熱とみなされ反射的にワークアップがなされる。培養(血液、痰、尿)を提出し、胸腹部の画像検査を行い、広域抗菌薬を投与される。より理性的にアプローチするために2008年のACCMとIDSAのガイドラインが策定された。頭の先からつま先までを詳細に評価する。
鑑別診断(文献より引用)


✔ 感染性発熱
 ICUにおける発熱の50%を占める。ほぼ全ての患者は何らかのカテーテルが挿入されており、これらを抜去できるかどうかを毎日評価することで感染を減らすことができる。感染性の発熱が疑われたら血液培養を行う。
1.CLABSI
 サーベイランスでは48時間以上中心静脈カテーテル挿入されている患者の血流感染で他の部位の感染が無いと考えられた場合をCLABSIと定義している。この定義によるとCLABSIの発生率は1.4~5.5/1,000catheter-daysである。発熱の評価をする際には刺入部位の局所感染徴候を探す。浸出液はグラム染色と培養に提出する。血行動態が安定している場合は培養結果がでるまで局所感染徴候のないカテーテルを留置したままにしておける。不安定な患者ではカテーテルはすべて抜去した方が良い。カテーテルと末梢静脈から同時に2セットの血液培養を採取する。末梢血液よりカテーテルから採取した血液の方から2時間以上早く細菌が培養されたらCLABSIと確定診断できる。定量培養でカテーテル血が5倍以上細菌が培養された場合もCLABSIを示唆する。カテーテル末端5cmを半定量培養し15CFU以上細菌が検出された場合もCLABSIと考える。真にCLABSIというためには末梢静脈からも同じ菌が検出される必要がある。
2.VAP
 人工呼吸によって気道感染の確率は6~20倍になる。VAPは予防可能で即時治療により予後を改善することができる。発熱、白血球増多、膿性痰、酸素化悪化がある場合は胸部X線写真の適応である。画像所見はどのようなパターンもあり得るが、新規の浸潤影は診断的価値がある。浸潤影が無い場合はVAPの前段階と考えられているVATである。下気道検体の採取方法はいくつかあるが、2012年に報告されたメタアナリシスではどの方法でも予後には影響が無いとされている。
3.UTI
 尿道カテーテルに関連したUTIは多い(9~10/1,000catheter-days)が、菌血症は1~5%と少ない。排尿障害などの典型的な症状はICUではまれである。尿培養陽性でも発熱・白血球増多が無いこともある。尿検査をルーチンにしても診断の感度は上がらないが特異度は上がる。尿培養は他に感染源が無い尿道カテーテルのある患者に限って行うことが推奨されている。10*5CFU/mL以上という診断基準は尿道カテーテルのある患者では感度が足りない。他に感染源のない発熱患者で尿検査陽性であった場合はエンピリカルに抗菌薬を投与することが推奨されている。尿培養の結果をもってDe-escaltionする。
4.CDI
 定義上、固形便の出ている患者はCDIではない。発熱、白血球増多、下痢のある患者はCDIの検査を行う。発熱は30%、白血球増多は50%に認められる。重症では腹痛、イレウス、SIRSが認められる。毒素を検出する方法は感度が低い。細胞毒性を検出する方法は特異度が高いが時間がかかる。培養は時間がかかるうえに偽陽性がある。毒素のPCR法が最も迅速で正確である。重症患者では、内視鏡所見、CTでの大腸壁肥厚・大腸周囲濃度上昇・大腸拡張がCDIを示唆する。ICUにおける重症患者ではバンコマイシン±メトロニダゾール内服が推奨されている。敗血症性ショック、中毒性巨大結腸、急性腹症、高乳酸血症(>5mM)、白血球>50,000では手術を考慮する。
5.副鼻腔炎
 経鼻胃管などのデバイスがリスク因子となる。経鼻挿管された患者を対象とした研究によると、48時間以降の新規発熱の16%が副鼻腔炎単独で説明できる発熱であった。リスク因子があって他の感染源が否定的な場合はCTを撮影して診断する。超音波もCTほど正確ではないが有用である。抗菌薬を開始する前に中鼻道から検体を採取して培養に提出する。

✔ 非感染性発熱
1.高体温症候群
 熱中症、悪性症候群、悪性高熱、セロトニン症候群などである。コカインやメタンフェタミン、アルコールやベンゾジアゼピン離脱も高体温となり得る。サクシニルコリンや吸入麻酔薬は悪性高熱の原因となる。投与30分以内に発症するが、24時間までは発症の可能性がある。原因薬剤を中止して体外冷却と冷輸液を行い、ダントロレンを投与する。セロトニン症候群は5-HT1a、5-HT2a受容体の過剰刺激が原因で発症する。SSRIやTCIが原因薬剤となる。意識障害、自律神経過活動、神経筋異常が3徴候である。原因薬剤を中止することで速やかに症状は改善するが、重症ではベンゾジアゼピンやセロトニン拮抗薬を使用する。悪性症候群は抗ドパミン活性が原因で起きる。セロトニン症候群は原因薬剤投与数分~数時間で発症するが、悪性症候群は原因薬剤投与中であればいつでも発症の可能性がある。原因薬剤を中止し、ブロモクリプチンを投与する。
2.薬剤熱
 あらゆる薬剤が薬剤熱を起こすが、抗菌薬(特にβラクタム剤)、抗けいれん薬、抗不整脈薬で多い。比較的徐脈、皮疹、抗酸球増多が稀に認められる。薬剤開始後に発熱し、薬剤中止後に解熱すれば可能性がある。薬剤熱は除外診断である。
3.術後発熱
 術後72時間は発熱はよく認められ、これは非感染性である事が多い。発熱と白血球増多以外の徴候がある場合にのみワークアップを行う。
4.VTE
 PIOPED研究によると、他に原因のない37.8℃以上の発熱を認めた患者の14%に肺塞栓が見つかった。あまり高熱とはならず、短期間で、抗凝固療法によって解熱するという特徴がある。30日死亡と関連があると言われている。
5.無石性胆嚢炎
 重症患者では胆嚢の虚血や炎症が起きることがある。発熱、白血球増多、右上腹部痛のある患者では常に疑う。超音波の感度と特異度はどちらも80%以上である。手術のリスクが高い患者では経皮的胆嚢ドレナージが行われる。

✔ 発熱の治療
 体温を下げるために二つのアプローチ(解熱薬、クーリング)がある。アセトアミノフェンは肝障害がある患者では避けるが、凝固障害や消化管出血、腎傷害がある患者では良い適応である。体外冷却は有効だが鎮静薬や筋弛緩薬を用いてシバリングを抑制する必要がある。頭部外傷を除いた外傷患者を対象とした研究で、積極的に解熱処置(アセトアミノフェン+体外冷却)を行うと死亡率や感染率が高くなるという報告がある。肺炎による敗血症性ショックを対象とした研究では一次エンドポイント(48時間で昇圧剤を半減)に差が無いものの、いくつかの二次エンドポイントが体外冷却で良好であったと報告されている。ただし、死亡率には差が無かった。中枢神経障害を除外したメタアナリシスでも解熱療法による死亡率の低減効果は無かったとされている。

✔ 結論
 高熱が遷延すると死亡のリスクとなる。反射的に感染のワークアップをするのではなく、詳細な評価を行うべきである。急性脳障害と高体温症候群を除き解熱療法の意義は定まっていない。


2015年4月13日月曜日

腹膜炎による敗血症性ショックにPMXは無効(ABDOMIX)

Early use of polymyxin B hemoperfusion in patients with septic shock due to peritonitis: a multicenter randomized control trial
Didier M. Payen, et al.
Intensive Care Medicine Online First - April , 2015 Pages 1 - 10


✔ 背景
 重症敗血症、敗血症性ショックの病因として呼吸器感染症と腹部感染症が多い。特に腹部感染症による敗血症性ショックの死亡率は高い。グラム陰性桿菌のエンドトキシンが病態形成に重要であると考えられているが、エンドトキシンが全身性炎症反応を誘起する経路を遮断するいくつかの臨床試験はいずれも失敗している(ACCESS、CHESS)。PMXはエンドトキシンを吸着除去することで予後を改善する可能性が示唆されているが、観察研究に基づくものであり、近年のRCT(EUPHAS)もそのデザインに問題が指摘されている。本研究では28日死亡率をプライマリアウトカムとしてPMXの有効性を検討するものである。
✔ 方法
 フランスで行われた多施設無作為化比較試験。消化管穿孔に対する緊急手術後12時間以内に敗血症性ショックに至った腹膜炎症例を対象とした。PMX群では通常の治療とともに2回のPMXを施行した。対照群では通常の治療のみを行った。プライマリアウトカムは28日死亡率、セカンダリアウトカムは90日死亡率、SOFAスコアとした。
✔ 結果
 PMX群の28日死亡率は27.7%であったのに対し対照群の死亡率は19.5%であった(p=0.14、OR 1.58)。90日死亡率(33.6% vs 24%)、治療開始7日後のSOFA改善(-5 vs -5)いずれも有意差が無かった。合併症の存在、手術の完遂度、PMX試行回数などいくつかのサブグループ解析でも同様の結果であった。
✔ 結論
 腹膜炎による敗血症性ショックに対するPMXは有効ではない。
有意差はないがPMX群で死亡率が高い傾向(文献より引用)
◎ 私見
 有効ではないというか、むしろ死亡率が高くなる傾向があるというか…。もともとPMXを行うことに積極的ではなかったので、自分の臨床にはあまり変化はないのだけど。

2015年4月11日土曜日

フェンタニル・ケタミン・ロクロニウムを用いたRSI

Significant modification of traditional rapid sequence induction improves safety and effectiveness of pre-hospital trauma anaesthesia
✔ 背景
 迅速導入(RSI)は外傷患者の緊急気管挿管で推奨される手技である。救急の現場ではシンプルで標準化されたRSIプロトコルが安全性と手技の成功率を改善すると考えられる。RSIに使用する薬剤は重要である。本研究ではエトミデートとスキサメトニウムを用いた従来のRSIと、フェンタニル、ケタミン、ロクロニウムを使用したRSIの安全性と有効性を比較することを目的としている。
✔ 方法
 病院前でドクターヘリの医療者によるRSIを要した重症外傷患者を対象としたコホート研究。研究のため、病院前で筋弛緩薬(スキサメトニウムやロクロニウム)を使用した気管挿管全てをRSIと定義した。RSIの適応は現場で個々に判断された。使用する薬剤と非侵襲的モニタ(心電図、血圧、酸素飽和度、カプノメータ)を準備し、最低3分間の前酸素化を行った。エトミデート(0.3mg/kg)とスキサメトニウム(1.5mg/kg)を使用したES群と、フェンタニル(3mcg/kg)、ケタミン(2mg/kg)、ロクロニウム(1mg/kg)を使用したFKR群を比較した(3:2:1レジメという)。血行動態が不安定な患者ではエトミデート(0.15mg/kg)、フェンタニル(1mcg/kg)、ケタミン(1mg/kg)に減量した(1:1:1レジメ)。薬剤以外の手技は同等とした。アウトカムは喉頭鏡視野、挿管成功率、喉頭展開や気管挿管に対する血行動態変化、死亡率とした。
✔ 結果
 ES群(116名)に比し、FKR群(145名)では喉頭鏡視野と初回挿管成功率が有意に高かった(95% vs 100%)。喉頭展開や気管挿管に対する高血圧反応はFKR群で有意に低かった(79% vs 37%)。低血圧は両群で少なかった(1% vs 6%; p = 0.05)。収縮期血圧が90未満になったのは両群1例ずつであった。死亡率は両群で変わりなかった。なお、多変量解析によると年齢、GCS、血圧が死亡と有意に関わる因子であった。
✔ 結論
 重症外傷患者に対するフェンタニル、ケタミン、ロクロニウムを用いたRSIは血行動態が安定し有用な方法である。

◎ 私見
 気管挿管の薬剤に関する研究。日本ではエトミデートは使用できないので、比較云々というよりFKRの使い方が参考になる。3:2:1(1:1:1)は覚えやすくて良い。それにしてもケタミンって良い薬だと思うのだけどあまり使われてない気がする。

2015年4月9日木曜日

敗血症性ショックと血圧管理

Optimizing mean arterial pressure in septic shock: a critical reappraisal of the literature
Marc Leone, Pierre Asfa, Peter Radermacher, Jean-Louis Vincent and Claude Martin


✔ はじめに
 敗血症ガイドラインでは平均血圧65mmHgを目標にする事が推奨されているが、例えば高齢者や高血圧のある患者では高めの血圧が良いと考えられる等、個別化が必要であると考えられる。また、初期蘇生が終了した後の血圧の目標についてはよくわかっていない。

✔ 血圧と臓器灌流
 敗血症では心機能障害と血管拡張により血圧が低下する。臓器レベルでの灌流圧である平均血圧(MAP)の低下により臓器不全が起きる。臓器血流はある範囲で一定となる自己調節能によって調節されており、基礎疾患があるとこの調節範囲が変化したり、敗血症では自己調節能そのものが障害されたりすると考えられてきた。
 組織の微小循環はDICや末梢浮腫、ミトコンドリア機能不全により障害される。血圧がガイドラインで推奨されるレベルまで上昇してもこの微小循環は改善していないことがある。より高い血圧が必要ということかもしれないし、微小循環そのものは血圧と関係が無いのかもしれない。現時点の研究結果ではMAP 65mmHgはおそらく微小循環改善を考慮に入れても必要最低限の値なのだろうと思われるが、大量の昇圧剤投与で達成された高血圧も有害であると考えられる。
臓器血流の自己調節能(文献より引用)

✔ 敗血症と血圧の関係を調べた文献
 12の研究が見つかった。重症度はほぼ同等であったが死亡率には大きな差があった。
・MAPと血行動態パラメータ
 MAP 65と85を比較した研究と60~90で比較した研究があった。MAPは1.7±0.4γのノルアドレナリン投与で昇圧された。心拍数はあまり変化しなかったが心拍出量とSVRは上昇した。肺動脈圧は変化したが一貫した変化はなかった。
・MAPと臓器機能
 MAPを85mmHgまで上昇させても胃や腎の血流は変化しないが、観察研究では75mmHg未満ではAKIが増えたとするものがある。DeruddreらはMAPを65から75に上昇させると尿量が増えるが75から85に上昇させても尿量は変化しなかったと報告している。
・MAPと代謝
 心拍出量が増えても酸素消費量は増えず、乳酸値も変化しなった。混合静脈血酸素飽和度/上大静脈酸素飽和度は増加したとするものと不変であったとするものが混在していた。おそらく前負荷や心機能が患者によってさまざまであったことが関係しているのだろう。
・微小循環
 MAPと微小循環の関係は様々で結果は一貫していなかった。
・死亡率
 二つの研究で60~70mmHg未満では独立した死亡の寄与因子であったと報告されている。Asferらの大規模RCT(MAP 65~70 vs 80~85)では、死亡率に差が無く、高MAP群で新規Afが多いという結果であった。高血圧群で解析したところ高MAP群でAKIが少なかったということであったが、死亡との直接の関係は見いだせなかった。
・ノルアドレナリンとの関係
 血圧そのものよりノルアドレナリンが予後を悪化させるという研究がある。つまり、血圧を評価すればよいのかノルアドレナリン必要量を考えればよいのか難しいということを示唆している。

✔ 臨床適応
 MAPは敗血症性ショックの治療指標となり得るが、ある一定の値を全ての患者で目標にすることはよくないかもしれない。65~85mmHgの範囲が適切と思われるが、おそらく65~75が現実的な目標となるだろう。高い血圧は心房細動や大量の血管収縮薬を要するからである。ただし、高血圧患者では85mmHgに近い値を目標にした方が腎機能障害は減るかもしれない。Riversらの研究ではEGDT群で95mmHg、対照群でも81mmHgと高い平均血圧が達成されていた。この研究の対象患者の66%が慢性的高血圧患者であり、EGDT群で死亡率が低くなったことから高血圧患者では血圧が高めの方が良いことが示唆される。”適切な”MAPは患者によって異なるし、同じ患者でも時期によって変化すると考えられる。臓器機能評価を繰り返して適宜目標値を設定するべきであろう。
 血圧の目標値を達成するためには輸液蘇生、昇圧剤投与、それらのタイミングが重要である。Waechterらは初期蘇生開始1時間は積極的に輸液すべきであること、昇圧剤投与はショックから1~6時間以内に投与すると死亡率が低下すること、低血圧(<60mmHg)の持続時間は死亡を予測する因子であることを報告した。低血圧は直ちに治療すべきである。
 CVPは血管内容量を推定するには不正確である。臓器灌流圧を規定する因子は上流と下流の圧較差であるが、CVPは下流の圧を示しているにすぎない。CVP上昇はうっ血を示唆する所見と言える。よって、適切なMAPはCVPの値によって異なると考えられるが、CVPは下流の圧を正確に反映するわけでもないことが問題である。EGDTプロトコルではMAP 65、CVP 12が推奨されているが、最も適切な圧較差は調べられていない。
 末梢組織における微小循環を治療目標とすることは重要であると考えられる。SDFやNear-infrared spectroscopyのような非侵襲的装置で評価することができるようになってきている。いくつかの研究により、敗血症性ショックにおいて微小循環が障害され、それが長く続くと死亡に結びつくことが分かってきている。MAPと微小循環の関係を評価した研究は4つあるが結果はばらばらである。患者背景や測定方法・測定部位の差が問題なのだろう。
臓器灌流圧(文献より引用)

◎ 私見
 血圧も分からないことばかり。低すぎても高すぎても良くないことは分かる。微小循環を容易に評価できるようになれば、これが新しい目標となるのだろう。微小循環ではないけど末梢循環を指標とした新しいプロトコルなどが報告されており、今後の動向を注目すべきと思う。

2015年4月7日火曜日

敗血症性ショックに対する低用量ステロイドの効果

Low-dose corticosteroid treatment in septic shock: a propensity-matching study.
Funk D, Doucette S, Pisipati A, Dodek P, Marshall JC, Kumar A; Cooperative Antimicrobial Therapyof Septic Shock Database Research Group.
Crit Care Med. 2014 Nov;42(11):2333-41. PMID: 25072758


✔ 背景
 敗血症性ショックに対して低用量ステロイドが用いられることがあるが、これを指示する質の高い研究はない。敗血症性ショックに対して早期に低用量ステロイドを開始する意義を評価した。
✔ 方法
 後向き多施設研究。1996年から2007年までの間に28施設のICUに入室した6,663人の敗血症性ショック患者を対象として、Propensity matched cohortを用いて早期(48時間以内)低用量ステロイドの効果を検証した。Primary outcomeは重症度(APACHEⅡスコア)で層別化した30日死亡率とした。
✔ 結果
 早期低用量ステロイドは30日死亡率を変化させなかった(35.5% vs 34.9% HR 0.98)。サブグループ解析をしたところ、APACHEⅡスコア30以上では低用量ステロイド群で死亡率が低くなった(50.6% vs 55.8% HR 0.81)。ロジスティック解析を行ったが、ICU死亡率、院内死亡率、Ventilator-free days、Pressor/inotrope-free daysに差はなかった。
✔ 結論
 早期低用量ステロイドの有効性は確認できなかったが、より重症度の高い敗血症性ショックでは有用かもしれない。
死亡率に対する影響(文献より引用)
◎ 私見
 低用量ステロイドの効果についての後向き研究。似たような結論を報告したものは過去にも存在する。輸液や昇圧剤投与でも反応が悪く、にっちもさっちもいかなくなりそうなときに投与することがあるが、少なくとも悪い事をしているわけではなさそう。

2015年4月4日土曜日

末梢循環に対する疼痛の影響


Tissue oxygen saturation and finger perfusion index in central hypovolemia: influence of pain.
Høiseth LØ, Hisdal J, Hoff IE, Hagen OA, Landsverk SA, Kirkebøen KA.
Crit Care Med. 2015 Apr;43(4):747-56. PMID: 25513787


✔ 背景
 組織酸素飽和度やPeripheral perfusion index(PPI)は外傷患者の循環血液量減少を早期に検出しうる間接的指標である。循環血液量減少は交感神経緊張を伴うが、疼痛のような刺激も交感神経を緊張させる。外傷に痛みは多くみられるため、循環血液量の評価において疼痛の影響を除外する必要があるのかもしれない。本研究の目的は、循環血液量減少と疼痛の組織酸素飽和度ならびにPPIへの影響を明らかにすることである。
✔ 方法
 20人のボランティアを対象とした実験的研究である。循環血液量減少は下半身に陰圧(-60mmHg)を付加することで再現した。疼痛は冷水刺激で再現した。それぞれの有無で2×2の4通りの組み合わせができる。実験対象者はそれぞれの刺激を8分間負荷された。組織酸素飽和度は脳、三角筋、前腕、母指球で測定した。PPIは指で測定した
✔ 結果
 循環血液量減少によって、すべての部位の組織酸素飽和度とPPIが減少した。一方、疼痛刺激では脳を除くすべての部位の組織酸素飽和度が減少し、PPIも減少した。両刺激が加わると、疼痛単独と比べて大きく全ての部位の組織酸素飽和度とPPIが減少した。
✔ 結論
 循環血液量減少と疼痛は組織酸素飽和度とPPIを減少させる。疼痛存在下では循環血液量減少によってより大きく組織酸素飽和度が減少することから、循環血液量減少を評価する際には疼痛の影響を考慮しなくてはならないといえる。
組織酸素飽和度の変化(文献より引用)
◎ 私見
  組織酸素飽和度以外にも、血圧や心拍数、心拍出量や末梢血管抵抗に対してどのような影響を及ぼすのかが示されていて興味深い。外傷に限らず苦痛に伴う交感神経過緊張は身体所見やバイタルサインを”乱す”。まずは鎮痛をしっかり行うことの重要性を新たな視点から提示した良い研究と思う。これは健常ボランティアによる研究なので、重症患者でどのような意義があるのかを調べる必要はあるだろう。

2015年4月2日木曜日

PEEP反応性とARDSの予後

Oxygenation response to positive endexpiratory pressure predicts mortality in acute respiratory distress syndrome. A secondary analysis of the LOVS and EXPRESS trials. 
Goligher EC, Kavanagh BP, Rubenfeld GD, Adhikari NK, Pinto R, Fan E, Brochard LJ, Granton JT, Mercat A, Marie Richard JC, Chretien JM, Jones GL, Cook DJ, Stewart TE, Slutsky AS, Meade MO, Ferguson ND
Am J Respir Crit Care Med. 2014: 190:70–76

✔ 背景
 ARDSに対して一回換気量を減らす換気戦略は有用であることが示されているが、高PEEPが有用であるかどうかを検討した研究では優位性を示す事ができていない(ALVEOLI、EXPRESS、LOVS)。これらの研究からは、中等度~重度ARDSで高PEEPを行うと予後が改善する傾向があることが分かっているが、最善のPEEP値を決定する手段については議論が残っている。ARDS肺の状態は様々であり、PEEP付与に対する反応性の違いから予後を予測できるかもしれない。
✔ 方法
 LOVS研究(n = 983)の二次解析し、初期のPEEP付与に対する反応と死亡率との関係を調査した。さらに、ここで得られた結果をEXPRESS研究の高PEEP群(n = 749)で検証した。
✔ 結果
 初期PEEPによる酸素化の変化は様々(中央値 9.5mmHg; -16~47mmHg)であり、付与前のP/FやPEEPの変化率とは弱い相関関係しかなかった。無作為化によってPEEPを上昇させた群でみてみると、P/Fが上昇すればするほど死亡率が有意に減ることが分かった(OR 0.8/25mmHg)。この傾向はもともとの酸素化が悪い(P/F≦150)ほど強く認められた。コンプライアンスや死腔の変化は死亡率と関係が無かった。これらの知見はEXPRESSのデータでも検証され、同様の傾向が確認された。
✔ 結論
 PEEP付与によって酸素化が改善する場合は予後が良い。PEEPに対する反応性の有無で高PEEPの恩恵が受けられるかどうかを判定できるかもしれない。
無作為化後にPEEPを上昇させた群(⊿PEEP>0)では酸素化が改善するほどと死亡率が低下する(文献より引用)

◎ 私見
 リクルートできる肺胞があるかどうかでPEEPの臨床的意義が変わる、と読み替えられるだろうか。画像所見との関係もみてみたいところ。