2015年4月9日木曜日

敗血症性ショックと血圧管理

Optimizing mean arterial pressure in septic shock: a critical reappraisal of the literature
Marc Leone, Pierre Asfa, Peter Radermacher, Jean-Louis Vincent and Claude Martin


✔ はじめに
 敗血症ガイドラインでは平均血圧65mmHgを目標にする事が推奨されているが、例えば高齢者や高血圧のある患者では高めの血圧が良いと考えられる等、個別化が必要であると考えられる。また、初期蘇生が終了した後の血圧の目標についてはよくわかっていない。

✔ 血圧と臓器灌流
 敗血症では心機能障害と血管拡張により血圧が低下する。臓器レベルでの灌流圧である平均血圧(MAP)の低下により臓器不全が起きる。臓器血流はある範囲で一定となる自己調節能によって調節されており、基礎疾患があるとこの調節範囲が変化したり、敗血症では自己調節能そのものが障害されたりすると考えられてきた。
 組織の微小循環はDICや末梢浮腫、ミトコンドリア機能不全により障害される。血圧がガイドラインで推奨されるレベルまで上昇してもこの微小循環は改善していないことがある。より高い血圧が必要ということかもしれないし、微小循環そのものは血圧と関係が無いのかもしれない。現時点の研究結果ではMAP 65mmHgはおそらく微小循環改善を考慮に入れても必要最低限の値なのだろうと思われるが、大量の昇圧剤投与で達成された高血圧も有害であると考えられる。
臓器血流の自己調節能(文献より引用)

✔ 敗血症と血圧の関係を調べた文献
 12の研究が見つかった。重症度はほぼ同等であったが死亡率には大きな差があった。
・MAPと血行動態パラメータ
 MAP 65と85を比較した研究と60~90で比較した研究があった。MAPは1.7±0.4γのノルアドレナリン投与で昇圧された。心拍数はあまり変化しなかったが心拍出量とSVRは上昇した。肺動脈圧は変化したが一貫した変化はなかった。
・MAPと臓器機能
 MAPを85mmHgまで上昇させても胃や腎の血流は変化しないが、観察研究では75mmHg未満ではAKIが増えたとするものがある。DeruddreらはMAPを65から75に上昇させると尿量が増えるが75から85に上昇させても尿量は変化しなかったと報告している。
・MAPと代謝
 心拍出量が増えても酸素消費量は増えず、乳酸値も変化しなった。混合静脈血酸素飽和度/上大静脈酸素飽和度は増加したとするものと不変であったとするものが混在していた。おそらく前負荷や心機能が患者によってさまざまであったことが関係しているのだろう。
・微小循環
 MAPと微小循環の関係は様々で結果は一貫していなかった。
・死亡率
 二つの研究で60~70mmHg未満では独立した死亡の寄与因子であったと報告されている。Asferらの大規模RCT(MAP 65~70 vs 80~85)では、死亡率に差が無く、高MAP群で新規Afが多いという結果であった。高血圧群で解析したところ高MAP群でAKIが少なかったということであったが、死亡との直接の関係は見いだせなかった。
・ノルアドレナリンとの関係
 血圧そのものよりノルアドレナリンが予後を悪化させるという研究がある。つまり、血圧を評価すればよいのかノルアドレナリン必要量を考えればよいのか難しいということを示唆している。

✔ 臨床適応
 MAPは敗血症性ショックの治療指標となり得るが、ある一定の値を全ての患者で目標にすることはよくないかもしれない。65~85mmHgの範囲が適切と思われるが、おそらく65~75が現実的な目標となるだろう。高い血圧は心房細動や大量の血管収縮薬を要するからである。ただし、高血圧患者では85mmHgに近い値を目標にした方が腎機能障害は減るかもしれない。Riversらの研究ではEGDT群で95mmHg、対照群でも81mmHgと高い平均血圧が達成されていた。この研究の対象患者の66%が慢性的高血圧患者であり、EGDT群で死亡率が低くなったことから高血圧患者では血圧が高めの方が良いことが示唆される。”適切な”MAPは患者によって異なるし、同じ患者でも時期によって変化すると考えられる。臓器機能評価を繰り返して適宜目標値を設定するべきであろう。
 血圧の目標値を達成するためには輸液蘇生、昇圧剤投与、それらのタイミングが重要である。Waechterらは初期蘇生開始1時間は積極的に輸液すべきであること、昇圧剤投与はショックから1~6時間以内に投与すると死亡率が低下すること、低血圧(<60mmHg)の持続時間は死亡を予測する因子であることを報告した。低血圧は直ちに治療すべきである。
 CVPは血管内容量を推定するには不正確である。臓器灌流圧を規定する因子は上流と下流の圧較差であるが、CVPは下流の圧を示しているにすぎない。CVP上昇はうっ血を示唆する所見と言える。よって、適切なMAPはCVPの値によって異なると考えられるが、CVPは下流の圧を正確に反映するわけでもないことが問題である。EGDTプロトコルではMAP 65、CVP 12が推奨されているが、最も適切な圧較差は調べられていない。
 末梢組織における微小循環を治療目標とすることは重要であると考えられる。SDFやNear-infrared spectroscopyのような非侵襲的装置で評価することができるようになってきている。いくつかの研究により、敗血症性ショックにおいて微小循環が障害され、それが長く続くと死亡に結びつくことが分かってきている。MAPと微小循環の関係を評価した研究は4つあるが結果はばらばらである。患者背景や測定方法・測定部位の差が問題なのだろう。
臓器灌流圧(文献より引用)

◎ 私見
 血圧も分からないことばかり。低すぎても高すぎても良くないことは分かる。微小循環を容易に評価できるようになれば、これが新しい目標となるのだろう。微小循環ではないけど末梢循環を指標とした新しいプロトコルなどが報告されており、今後の動向を注目すべきと思う。

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