2015年5月27日水曜日

非侵襲的陽圧換気中の鎮痛薬鎮静薬の影響

Impact of sedation and analgesia during noninvasive positive pressure ventilation on outcome: a marginal structural model causal analysis.
Muriel A et al
Intensive Care Med. 2015 May 14. [Epub ahead of print]


✔ 背景
 重症度(SAPSⅡ)や新規呼吸不全であることは非侵襲的陽圧換気(NPPV)の失敗に関わる因子である一方、NPPVの受容がよいことやBMIが高いことはNPPVが成功することを予測する因子であると言われている。不穏はNPPVを不成功に終わらせることが予想される因子であるが、鎮痛鎮静がどのような影響を及ぼすのかは知られていない。
✔ 方法
 30カ国322施設のICUで行われた多施設前向き観察研究。呼吸不全に対する初期治療として少なくとも2時間以上のNPPVを受けた患者を対象とし、marginal structural model (MSM)を用いて鎮痛薬や鎮静薬の影響を調べた。NPPV不成功とは侵襲的人工呼吸管理への移行と定義した。
✔ 結果
 842人の患者が解析対象となった。165人(19.6%)が鎮痛薬ないし鎮静薬を使用されていた。33人は両方の薬剤を投与されていた。鎮痛薬の使用と鎮静薬の使用はNPPV不成功に関連する因子では無かったが、両者を同時に使用することは不成功のリスク因子であった(OR 5.7)。
✔ 結論 
 20%程度の患者のみが鎮痛薬や鎮静薬を使用されていた。それぞれ単独使用では影響が無いが、両者を併用するとNPPV不成功のリスクとなる。

◎ 私見
 鎮痛薬と鎮静薬の併用は役に立たないばかりか有害である可能性がある、とのこと。ただ、何のために(何を達成するために)鎮痛薬や鎮静薬を使用しているのかが分析されていないので、NPPV中には鎮痛鎮静は不要ということにはならないだろう。”NPPVができる”ことが呼吸管理の目的ではないから。

2015年5月24日日曜日

プロプラノロールは熱傷患者に有用?

Propranolol attenuates hemorrhage and accelerates wound healing in severely burned adults
Arham Ali et al.Critical Care 2015 

✔ 背景
 非選択的β遮断薬であるプロプラノロールはα受容体刺激効果への拮抗効果を遮断するため間接的に血管収縮を起こす。我々はプロプラノロールが熱傷患者の末梢血管抵抗を上昇させ、血流を減少させることを報告した。本研究では、重症熱傷患者においてプロプラノロールが創傷治癒や周術期の血行動態に影響を及ぼすかどうかを検討した。
✔ 方法
 単施設無作為化試験。69人の成人熱傷患者(%TBSA≧30%)を対象とした。プロプラノロールを投与した群(35名)と投与しなかった群(34名)を比較した。プロプラノロールは受傷48時間以内に投与開始し、心拍数が入院時から約20%減少するところを目標にして退院まで投与した。創傷治癒は手術と手術の間の期間で評価し、出血量は術中所見から推定し、手術前後のヘマトクリットで評価した。
✔ 結果
 患者背景、熱傷範囲、死亡率は両群間で差が無かった。プロプラノロール群では平均3.3mg/kg/dayのプロプラノロールを投与され、非投与群に比べて心拍数は有意に低くコントロールされた。プロプラノロール群では手術間の期間が有意に短かった(10日 vs 17日)。プロプラノロール群でより広範囲の植皮術を要したが、赤血球輸血の必要量に有意差は無かった。植皮範囲が増えると周術期のヘマトクリットがより大きく減少する傾向が観察されたが、プロプラノロール群ではその植皮範囲に対するヘマトクリット減少率が有意に小さかった。
✔ 結論
 プロプラノロールは重症熱傷患者の創傷治癒を促進し、出血量を減らす。

◎ 私見
 皮膚への血流が減ると創傷治癒にはよくない気がしてしまうが、筆者らはβ2遮断作用によるkeratinocyteやfibroblastの誘導が創傷治癒に有利に働いたのではないかと考察している。%TBSAがプロプラノロール群で有意に小さい(59% vs 49%)にもかかわらず、植皮範囲は有意に大きい(3300cm*2 vs 4500cm*2)のをどう考えたらよいのかが問題かも。短期間に広い範囲を植皮できる、と捉えて良いのかどうか。壊死範囲は広くなる(植皮を要する部位は大きくなる)が出血も少なく次の手術をすぐに計画できるということじゃないかとか考えてしまう。うーん。

2015年5月21日木曜日

電子化された敗血症管理ツールの有用性

An Electronic Tool for the Evaluation and Treatment of Sepsis in the ICU: A Randomized
Controlled Trial
Matthew W. Semler, et al. 
Crit Care Med 2015

✔ 背景
 電子化された敗血症評価・治療ツールを組み込むことで敗血症ガイドラインに基づく治療が推進され、予後が改善するかどうかを検討した。
✔ 方法
 単施設無作為化試験。4か月の間にMedical & Surgical ICUに敗血症と診断された、もしくは電子ツールで敗血症と警告されて入室した407人の患者を対象とした。患者は通常の治療を受ける群と、電子ツールを用いる群に無作為に振り分けられた。
患者の振り分け(文献より引用)
✔ 結果
 電子ツールを治療に用いた群(218人)と通常治療群(189人)について検討したところ、プライマリアウトカムである「SSCGによる6時間以内の管理バンドル」を全て達成するまでの時間には有意な差が無かった。ICU死亡率、ICU-free days、Ventilator-free daysにも両群間で差が無かった。ただし、ツールをオーダ入力のために使用した医師は28%しかいなかった。
✔ 結論
 敗血症評価・治療ツールは安全に用いることができるが、ガイドライン順守率や臨床的予後を改善することが無かった。おそらく、ツールがあまり用いられなかったからであると思われる。
バンドル達成までの時間(文献より引用)

◎ 私見
 電子ツールを使うと、敗血症バンドルが遵守されやすくなるかもしれない(培養採取や乳酸測定は有意な差あり)。EGDTは絶対的に有利ではないと判明しているので、死亡率などに有意差がでなかったのは納得できる。それにしてもツールがちゃんと使われていたのが28%というのは…。

2015年5月18日月曜日

初回抗菌薬投与までの時間と敗血症の予後

The association between time to antibiotics and relevant clinical outcomes in emergency department patients with various stages of sepsis: a prospective multicenter study
Critical Care (2015) 19:194

✔ 背景
 敗血症早期における適切な治療が重症化を防ぐと考えられている。そこで、敗血症のために救急外来に搬送されて入院することになった患者において、来院から抗菌薬投与までの時間が短くなればなるほど予後が改善するかどうかを検討した。
✔ 方法
 前向き多施設研究。抗菌薬の静脈投与を要した敗血症患者を対象とし、PIRO(Predisposition、Infection、Response、Organ failure)スコアに基づく重症度で3群(1~7点、8~14点、15点以上)に層別化したうえで抗菌薬投与までの時間とアウトカムの関係を調査した。プライマリアウトカムはInverse measure of hospital lengths of stay(28日目時点における院”外”生存日数)とした。セカンダリアウトカムは28日死亡率とした。Cox回帰分析を用い、抗菌薬選択の適切性や救急外来における治療、重症度を考慮に入れたうえで抗菌薬投与までの時間とアウトカムの関係を解析した。
✔ 結果
 1,168名の患者が対象となった。112名(10%)が死亡した。85%の患者が3時間以内に抗菌薬を投与されており、6時間以内には95%の患者で抗菌薬が投与されていた。1時間以内に抗菌薬投与を受けたものをReferenceとしてHazard ratioを検討した。抗菌薬投与までの時間と院外生存日数、死亡率には関係が無かった。
✔ 結論
 救急外来到着後より6時間以内であれば、抗菌薬投与までの時間と予後には有意な関係はない。

◎ 私見
 最重症群では数が足りずパワー不足であった可能性があるとか、培養陰性が多くて抗菌薬の適切性がうまく検討できていないなどの問題があるので、「ちょっとぐらい遅れてもいいや」とは言ってはいけない。ところで、発症から救急外来受診までの時間はどう考えたらいいのでしょう。

2015年5月15日金曜日

血糖を一定範囲に調節した時間が長いと予後が改善する

Time in blood glucose range 70-140 mg/dL > 80% is strongly associated with increased survival in non-diabetic critically ill adults
Critical Care (2015) 19:179

✔ 背景
 低血糖、高血糖、大きな血糖変動はいずれも重症患者の死亡に寄与する独立因子である。過去の研究では目標とする血糖値の範囲にコントロールできていた時間を検討していない。
✔ 方法
 2009年1月から2013年12月31日までにICU(Medical & Surgical ICU)に入室して1日以上在室した重症患者3,297名を対象として後向きに分析した。血糖値が70~140mg/dlの範囲におさまっていた時間の割合(TIR)と死亡率との関係を、糖尿病患者(DM)、非糖尿病患者(NON)でそれぞれ検討した。
✔ 結果
 NONで85,799回、DMで32,651回の血糖測定が行われ、それぞれ、75.5%と54.8%が70~140mg/dlの範囲であった(p<0.0001)。TIRの中央値はNONが80.6%、DMが55.0%であった(p<0.0001)。中央値で分けて検討(中央値より高いものはTIR Hi、中央値より低いものはTIR Lo)したところ、DMではTIR Hiの死亡率が16.09%、TIR Loの死亡率が14.44%と有意差が無かったのに対し、NONではTIR Hiの死亡率が8.47%、TIR Loの死亡率が15.71%と有意な差を認めた。NONにおける同様の有意差は、ICU在室日数や重症度で層別化しても認められた。NONにおいて検討したところ、多変量解析でTIR Hiは生存率上昇の独立した寄与因子であった。
✔ 結論
 非糖尿病患者において、血糖値を70~140mg/dlの範囲に調節した時間が長いほど生存率が改善する可能性が示された。

◎ 私見
 強化インスリン療法がよい、かどうかはこの研究からは分からない。血糖コントロールの臨床研究を行う場合は、例えば70~140mg/dlの範囲にコントロールした時間が長い群と140~180mg/dlの範囲にコントロールした時間が長い群と比較してみる、というような「コントロールできていた時間」を組み込んだ研究デザインを考えたほうがよいのかもしれません。

2015年5月13日水曜日

早期深鎮静は生命予後を悪化させる

Early deep sedation is associated with decreased in-hospital and 2-years follow-up survival
Critical Care (2015) 19:197

✔ 背景
 重症患者に対する深鎮静は有害であるとのエビデンスが蓄積されつつある。前向き研究では早期深鎮静は有害であるとの結論が出されているが、本研究では欧州のヘルスケアシステムにおける”現実世界での”臨床的意義を調査するため、後向きにICU入室後早期(48時間)の深鎮静が短期/長期予後に与える影響について調べた。
✔ 方法
 調査期間(6年間)にベルリンの大学病院ICU(心臓血管外科術後ICU、ARDS治療ICU)に入室して人工呼吸管理を受けた患者を対象とし、Matched-pair analysisを行った。18歳未満、在室48時間未満、ICU再入室、体外加温/冷却法実施時、ECMO、入室時非人工呼吸管理患者は除外した。
 鎮静管理はプロトコルに基づき、看護師によって各勤務帯で評価されるRASSを評価しながら行われた。深鎮静は以前の研究ではしっかりと定義されていなかったため、以下のように定義した。
1.一定期間のRASS計測回数のうち、RASS≦-3の割合を計算した
2.院内死亡をアウトカムとしてRASS≦-3の割合のカットオフ値を設定した。
✔ 結果
 ROC曲線の分析から、RASS≦-3の割合が85%を超える場合を深鎮静と定義した。深鎮静群(DS)は513名、非深鎮静群(NDS)は1,371名が該当した。Matched cohortとして510名ずつを選定し、検討を加えた。DS群はより若く、昇圧剤が多く、ベンゾジアゼピンが頻繁に使われていた。DS群は死亡率(ICU死亡率、院内死亡率)、在室/在院日数が長く、人工呼吸管理期間が長く、腎代替療法を受ける割合も多かった。
✔ 結論
 早期深鎮静は生存率を下げる。一方で、早期浅鎮静の効果については検討できていないので、今後研究すべきである。

◎ 私見
 深鎮静が有害であることが後向きのMatched pair analysisでも検証されたということで、べつに新規性があるわけではないが、深鎮静の定義としてRASS≦-3の割合を検討しているところが面白かったので読んでみた。結論でも述べられているが、深鎮静の害を示したものであって浅鎮静の有益性を証明したものではないことに注意が必要。また、”非常に”深い鎮静の害を示しただけかもしれないことにも注意が必要。

2015年5月11日月曜日

ハロペリドールはせん妄を増やすかもしれない

Association of cumulative dose of haloperidol with next-day delirium in older medical ICU patients.
Pisani MA, Araujo KL, Murphy TE.
Crit Care Med. 2015May;43(5):996-1002. PMID: 25746748


✔ 背景
 せん妄は高齢重症患者で50-90%にみられ、予後を悪化させる独立因子であることが知られている。年齢、認知症、重症度、高血圧、喫煙、代謝障害など多くの危険因子が報告されている。薬剤もせん妄の原因となるが、せん妄に対して頻繁に用いられるハロペリドールの寄与については知られていない。
✔ 方法
 単施設前向き観察研究。Medical ICUに入室し、1回以上ハロペリドールを投与された60歳以上の高齢患者(93人)を対象とした。このうち72人が気管挿管されていた。せん妄の有無はCAM-ICUならびに電子カルテの記載をもとにしたアルゴリズムで判定した。
✔ 結果
 非挿管患者において、いくつかの要因を調整して検討したところ、ハロペリドールの累積投与量が多くなるほどその翌日のせん妄発症の危険性が高くなっていた(OR 1.05; 1.02-1.09)。気管挿管されることは翌日のせん妄発生を約5倍に増やした。気管挿管済みの患者においてはハロペリドールの累積投与量は翌日のせん妄発生とは有意な関係が無かった。
✔ 結論
 高齢重症患者で非挿管の場合、ハロペリドールをせん妄に対して使用することの意義を検証する必要がある。
翌日のせん妄発生に寄与する因子(文献より引用)
◎ 私見
 ハロペリドールはせん妄の原因を取り除くわけではないので結果には全く驚かなかったけど、"翌日のせん妄発症率とは関係が無い"と予測していたので少しびっくり。OR 1.05をどうとらえたらよいのかという問題はある。

2015年5月8日金曜日

頭部外傷後の抗凝固療法開始時期

Timing for deep vein thrombosis chemoprophylaxis in traumatic brain injury: an evidence-based review.
Abdel-Aziz H, Dunham CM, Malik RJ, Hileman BM.
Crit Care. 2015 Mar 24;19(1):96. PMID: 25887600


✔ 背景
 外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury; TBI)における深部静脈血栓症(DVT)予防の抗凝固療法開始時期については議論がある。TBI後の頭蓋内出血(Intra-cranial hemorrhage; ICH)進行の一般的経過、抗凝固療法中のICH進行、DVTの予防効果について過去の研究結果から検討した。

✔ TBI後のICHの一般的経過
 抗凝固療法の効果を検討する研究において、TBI24時間後ICHが進行していたのは14.8%、抗凝固療法の効果を検討しているわけではない研究においては29.9%と報告されている。初期CTでICHありの群を対象としても、24時間後にICHが進行していたのは13.5%と報告されており、初期評価で出血があっても進行度には関係が無いことが示唆される。
 低リスクICH群(硬膜外/硬膜下血腫<9mm、脳挫傷<2cm、単葉のみの脳挫傷、血管造影で異常のない外傷性くも膜下出血、脳室出血<2cm)、中リスクICH群(低リスク以外で高リスクではない)、高リスクICH群(低リスクではなく、減圧開頭やICPモニタを使用したもの)でわけて検討したところ、低リスク群では25%にICH進行が認められ、48時間までに最大となっていたのに対し、中リスクでは42.9%、高リスクでは64.2%にICH進行が認められ、72時間までに最大とならないものがそれぞれ22.2%、16.3%いた。

✔ 抗凝固療法後のICH進行
 ICH進行が起きた後に抗凝固療法を開始した研究を対象にして検討したところ、抗凝固療法を1~3日の間に開始した場合のICH進行は5.6%、4日以降に開始した場合のICH進行は1.5%に認められた。この開始時期の違いによる進行割合の差は有意であった。
 ICH進行が起きる前に抗凝固療法を開始した研究を対象にして検討したところ、抗凝固療法を1~3日の間に開始した場合のICH進行は3.1%、4日以降に開始した場合のICH進行は2.8%に認められた。この開始時期の違いによる進行割合の差は有意ではなかった。
 びまん性軸索損傷(DAI)を対象とした研究では、ICH進行はすべて72時間以内に認められており、4日目以降に抗凝固療法を開始した場合にICH進行が起きる率は1.6%であった。
 未分画ヘパリン使用群でICH進行が認められたのは9.2%であったのに対し、低分子ヘパリン使用群でICH進行が認められたのは3.9%であり、有意な差であった。

✔ 深部静脈血栓症の割合
 8日目以降に抗凝固療法を開始した群でDVT発生率が有意に高まった。未分画ヘパリン使用群では4.6%に認められたが、低分子ヘパリンでは2.8%であり、この差は有意ではないものの(p=0.09)未分画ヘパリンで有用な傾向があった。

✔ 結論
 中~高リスクICHがある場合は受傷1~3日は抗凝固療法は行わず、4日目以降に開始する。低リスクICHがある場合は48時間以内にICH進行しなければ抗凝固療法を開始、48時間以内にICH進行しても4日目以降であれば抗凝固療法を開始できる。DAIでは72時間以内にICH進行しなければ抗凝固療法を開始する。TBI患者においては低分子ヘパリンの方が未分画ヘパリンより安全かもしれない。

◎ 私見
 毎回議論になるので整理。4日目以降の低分子ヘパリンが良さそう。軽症であればCTをフォローしたうえでもう少し早めに始めてもいいみたい。ただし、一緒に診てくださっている脳神経外科の先生方の意見も重要。あくまで参考にとどめておく。

2015年5月6日水曜日

アルブミンは抗炎症作用をもつ

Albumin infusion for the critically ill - is it beneficial and, if so, why and how?
Das UN.
Crit Care. 2015 Mar 30;19(1):156. PMID: 25886819


Critical Careに掲載されたEditorial

 低アルブミン血症は敗血症でしばしば認められる予後悪化因子のひとつである。アルブミンは低アルブミン血症の補正や循環血液量の補正のために使用されるが、その臨床的意義には議論がある。ところで、アルブミンは肝などの組織から多価不飽和脂肪酸(PUFA; アラキドン酸、EPA、DHA)を誘導し、細胞保護作用を持つ可能性がある。

 PUFAは炎症性物質であるプロスタグランジンやトロンボキサン、ロイコトリエンの基質になる一方、リポキシン、レゾルビン、プロテクチンといった抗炎症性物質の基質にもなる。つまり、これらの物質のバランスが病状の進行に大きく関わると考えられる。アルブミンはPUFAを誘導し、リポキシンなどの抗炎症性物質の合成を促進することで細胞保護作用を持つと考えられている。
 例えば、出血性ショックモデルにアルブミンを投与すると、TNFαやIL6が減少する一方でIL10が増加することが知られている。リポキシンなどの合成量はPUFA量や合成酵素(COXやリポキシゲナーゼ)活性によって変わる。敗血症ではアルブミンの半減期が減少し、利用率も低下するため、抗炎症作用が発揮されないのかもしれない。

 敗血症ではTNFαやIL6が増加するが、これらは直接低アルブミン血症を引き起こし、PUFAを欠乏させることが分かっている。したがって、敗血症に対してはアルブミンとPUFAを併せて投与するべきと考える。

 アルブミンの効果を規定する因子としては、PUFAの量、合成されたリポキシンなどの量、COXなどの酵素活性、TNFαなどのサイトカイン量、PUFAを減らす活性酸素量、プロスタグランジンなどの炎症性物質量が挙げられる。投与にあたってはこれらの影響を考慮しなくてはならない。

 A-FABPは重症患者で増加し、インスリン抵抗性に関わっていると言われているが、PUFAやリポキシン、レゾルビン、プロテクチンはA-FABPの発現を抑制し、インスリン抵抗性を改善し、炎症を抑制し、敗血症において有用となる可能性がある。
(文献より引用)
◎ 私見
 アルブミンの抗炎症作用は、恥ずかしながら知りませんでした。まだ確立した事実ではないでしょうが、「炎症を制御する」薬剤ってほとんどありませんからちょっと興味がわきました。ちなみに、この観点から行われている臨床研究はないようです。

2015年5月2日土曜日

電子カルテのコピペ

Prevalence of copied information by attendings and residents in critical care progress notes.
Thornton JD, Schold JD, Venkateshaiah L, Lander B.
Crit Care Med. 2013 Feb;41(2):382-8. PMID: 23263617


✔ 背景
 電子カルテは紙媒体のカルテに比べて落ちが無く臨床的決断をするうえで適切な記載がなされるとされ、導入のために多くの資金がつぎ込まれてきた。しかし、IT化の進歩に伴って患者に害が及ぶ、”e-iatrogenesis”とも言うべき現象が生じてきた。そのひとつがコピペに伴う問題である。コピペは、記載の誤りや助けにならない情報、古い情報が長い間修正されずに残ってしまう。ICU勤務医師の電子カルテ上の記載のコピペの頻度とメカニズムを明らかにする。
✔ 方法
 大学病院のICU14床に入室し、連続した72時間在室した患者を対象とし、電子カルテの記載を後向きに検討した。
✔ 結果
 62人の研修医Residentと11人の主治医Attendingによる、135名の患者に対する2,065の電子カルテの記載(評価と方針の部分の記載)が検討対象となった。平均在室日数は7日で、ひとりあたり平均16のカルテ記載がされた(研修医と主治医の記述はほぼ同数)。
 カルテの”評価と方針”の項目は主治医に比べて研修医の方が平均92語長く記載されていた。研修医の記載の82%、主治医の記載の74%に20%以上のコピペ記述が認められた。研修医は主治医よりコピペの頻度が高いが、臨床情報のコピペ量は主治医より少なかった(55% vs 61%、p<0.001)。休日前(つまり一昨日)のカルテからのコピペをする行為は研修医の方が少なかった(66% vs 94%, p<0.001)。休日前の自分のカルテからにしろ、昨日の同僚のカルテからにしろ、研修医も主治医もほぼ同じ量の情報を複写していた。上級医のカルテからのコピペ量は20%未満であった(主治医→研修医も、集中治療指導医Critical care physician→主治医 or 研修医も)。
 コピペに関わる患者要因は見つからなかった(ICU在室日数、年齢、性別、人種、保険、SOFAスコア、SOFAの変化率、診断、人工呼吸日数)。コピペ量の医師間の差は大きかった。
✔ 結論
 ICUにおけるカルテのコピペは頻繁に行われている。研修医は頻繁にコピペし、担当医は一回当たりの情報量を多くコピペする傾向があった。
コピペの頻度と量(文献より引用)
◎ 私見
 ちょっと古いがコピペの話題。カルテを電子化することで便利な反面、記録の複製が容易に行えるようになってしまっている。時折見かけるし、明らかに古い情報をあたかも現在進行形のように記載しているのを見たこともある(いま勤めているICUではない)。ICUでは毎日介入を繰り返すので患者さんはどんどん状態が変わる。だから現在の状態を評価して方針をたてたのならコピーには絶対にならない…はず。