2016年2月29日月曜日

乳酸値を指標とした蘇生は有用か?-No

Lactate-guided resuscitation saves lives: no.
Monnet X, Delaney A, Barnato A.
Intensive Care Med. 2016 Mar;42(3):470-1. PMID: 26831673


"複雑な問題には、常に明白かつ単純な誤った答えがあるものだ” H.L.Mencken.

 重症患者の蘇生のおいて相反する事柄が生じると、単純な指標に飛びつくのも理解できる。乳酸クリアランスがそれである。重症患者、特に敗血症患者における蘇生の適切性の指標とされるが、蘇生の指標として用いるにはエビデンスが不足している。
 乳酸が蘇生に有用だとする理論的背景は、高乳酸血症が組織低酸素によっておきるという誤った認識に基づいている。確かに好気的解糖が妨げられると乳酸値は上昇するが、好気的状況下でも様々な理由で乳酸値は上昇する。
乳酸値上昇のメカニズム(文献より引用)
 乳酸クリアランスに関する最近の二つのRCTについて解説する。乳酸値3mmol/l以上の348人を対象としてJansenらはふたつの血行動態管理法を比較した。ひとつは乳酸値を2時間ごとに20%以上低下させるプロトコルである。乳酸値を指標とした群は最初の8時間の輸液量はわずかだったが血管拡張薬を多く使用されていた。72時間の乳酸値には差がなく、リスク因子をそろえると院内死亡率が減ったが、そろえていないと院内死亡率も28日死亡率も差がなかった。
 ふたつめのRCTはJonesらによる300人の重症敗血症患者を乳酸値を指標にする群とScvO2を指標にする群に振り分けて検討したものである。治療の内容には差がなく、アウトカムにも差がなかった。これらの研究とは別に、重症患者におけるアドレナリンとノルアドレナリンの効果を比較したRCTでアウトカムには差がなかったがアドレナリン群で乳酸値が高くなったというものがある。これらの研究から、乳酸値そのものを指標としても予後が改善するかどうかは不明であると言わざるを得ない。

 乳酸値を指標とした蘇生が予後を改善しないのには三つの理由が考えられる。ひとつは乳酸値は嫌気性代謝の指標としては不完全であるということである。組織低酸素の指標として用いるには、偽陽性が多すぎる。組織低酸素はScvO2や静脈血動脈血炭酸ガス分圧較差などと合わせて評価すべきである。
 ふたつめは乳酸値はショックの重症度を示すにすぎないということである。乳酸値低下を治療の有効性ととらえてもよいが、乳酸クリアランスを指標にすべきではない。これはAKIにおける尿量の考え方と似ている。乏尿はAKIの原因疾患の重症度を反映しているが、尿量を利尿剤などで増やすだけでは治療経過を変えることができないし有害である可能性もある。同様に、高乳酸血症は原因疾患の重症度を反映しているといえるが、乳酸値そのものを変化させる治療は有用性より有害性が上回る可能性もあるのである。
 みっつめは乳酸は診断ツールに過ぎず、予後を変えるような治療戦略を提示するものではないということである。これは肺動脈カテーテルにみられる問題に似ている。

◎ 私見
 乳酸値そのものを変えても意味がない。AKIにおける尿量、肺動脈カテーテルになぞらえるあたりが面白かった。賛成意見のEditorialと本質的には同じことを言っている(同じ理解をしている)にもかかわらず、結論が真逆になるあたりも面白い。次回は中間意見。

2016年2月26日金曜日

乳酸値を指標とした蘇生は有用かーYes

Lactate-guided resuscitation saves lives: yes.
Bloos F, Zhang Z, Boulain T.
Intensive Care Med. 2016 Mar;42(3):466-9. PMID: 26831674


✔ はじめに
 ショックは組織における酸素需要と酸素供給のミスマッチと定義される。低血圧はショック患者にしばしばみられるが、病期が進んでから現れることもあるし血圧が下がらないものもある。血圧を測ることは容易だが組織の酸素化を評価することは難しい。乳酸値をショックの診断や治療戦略における指標として用いることには議論がある。

✔ ショックと乳酸値
 解糖系では糖をピルビン酸に分解するのに酸素を必要としない。ピルビン酸はミトコンドリアに輸送され、PDHの作用を受けてアセチルCoAとなり、TCAサイクルに入って酸素を燃料としてATPを合成するか、LDHの作用を受けて乳酸となるか、どちらかの経路をたどる。作られた乳酸はその場で使用されるか血流に放出される。この経路をみると、ショックやストレス下で乳酸が上昇する理由がよくわかる。
 酸素需要が供給量を上回ると細胞低酸素が起き、ミトコンドリアの呼吸鎖における酸化還元反応が抑制される。これにより、ピルビン酸がミトコンドリアに輸送されなくなり、乳酸形成がすすむ。一方、高炎症状態によってサイトカインが放出され、解糖系が刺激される。このため乳酸産生がすすむことになるが、ミトコンドリアの機能が酸素需要に対して十分である限りは細胞質における乳酸とピルビン酸の比は一定に保たれる。これまでは前者の経路のみが強調されてきたが、近年は後者の経路(解糖系亢進)が重要であると考えられるようになってきている。しかし、HIFを介して低酸素そのものも解糖系を更新することが分かってきており、事態はさらに複雑である。
乳酸産生経路(文献より引用)
✔ ショックにおける高乳酸血症
 組織低酸素により乳酸値は上昇するので、高乳酸血症が予後不良に関係すると考えることができる。実際、敗血症をはじめとするいくつかの研究で高乳酸血症が短期予後不良に関係していることが報告されている。在院死亡率との線形関係が指摘されているだけでなく、救急外来受診患者の短期予後(3日以内)とも関係しているといわれている。必ずしも低血圧を伴っておらず(Cyptic shock)、ショック患者における警告サインとして有用であると考えられる。カットオフ値としては4mmol/Lを我々は推奨している。

✔ ショックにおけるクレアチニンクリアランス
 蘇生によって組織の酸素化が改善すると乳酸値は減少に転じると予想できる。乳酸クリアランスは継時的乳酸値の減少(一般に2~6時間)と定義される。実際、乳酸値が下がらなかった患者は予後不良であったのに対し、クリアランスが良好であった例は予後もよかったことが報告されている。敗血症早期に乳酸値を指標とした蘇生方法の有用性を評価した4つのRCTを用いたメタアナリシスで、乳酸クリアランスを指標にすると予後が改善することが分かった。しかし、乳酸が上昇することそのものが問題なのではない。乳酸値だけを下げようとしても意味はないし、過剰産生を直接的に制御するすべも持ち合わせていない。それに、一つの指標だけで血行動態を代表させることにも疑問がある。よって、早期の高乳酸血症を原因追及の警告機能ととらえ、クリアランスを指標とした介入をおこなう方向性が正しいのだろう。

◎ 私見
 乳酸値そのものよりはクリアランスを重要と考えれば、蘇生のフェーズにおいて有用だろうという意見。固執しちゃだめだけど、ちゃんとメカニズムを理解していれば使えるのじゃないかとは僕も思う。

2016年2月23日火曜日

Driving pressureを減らすために

Altering the mechanical scenario to decrease the driving pressure.
Borges JB, Hedenstierna G, Larsson A, Suarez-Sipmann F.
Crit Care. 2015 Sep 21;19:342. PMID: 26387728


✔ AmatoらはDriving pressure(ΔP)を減らすような人工呼吸器の設定により予後を改善することを示した。PEEPを適用することによってもたらされた肺の機械的状況、すなわち含気のある肺容量にΔPが関係していることから、肺保護換気は含気のある肺容量に応じて設定されるものであることが示唆される。これは、大部分の肺がつぶれてしまっているARDS患者において一回換気量や気道内圧を制限しても、Tidal hyperinflatioが起きると高濃度の炎症性メディエータが誘導されて非人工呼吸管理期間が延長してしまうことからもわかる。実験データからも換気の大部分を引き受ける小さい肺への負荷を取り除くことが重要であることがいえる。
✔ どのようにしてΔPを減らせばよいのだろうか。我々は肺リクルートメントと注意深いPEEP設定によって肺の”機械的状況”を積極的に変化させる方法に魅力を感じている。最大のリクルートメントを達成できる肺開放圧の分布は個々に異なるが、これを考えながら段階的に肺に圧をかけることで過膨張に陥った肺領域から新たにリクルートされた肺領域に換気の再分布をもたらすことができる。これによって経肺圧が均等となり、腹側肺の過膨張を解除することができる。さらに、肺リクルートメントがうまくいくと肺コンプライアンスが改善して機能的肺容量が増大し、換気量を減らすことなくΔPを減らすことができる。
✔ 肺リクルートメントは複雑な過程であり、リクルート可能な肺容量とそれを維持するためのPEEPによって効果が変わる。リクルートメント手技に関する問題点として肺過膨張が指摘されてきた。部分的/非個別化された手技は我々の経験にそぐわないうえに全く逆の効果があると考えており、最大/個別化された手技に比べて良くないと感じている。部分的リクルートメントは肺虚脱と換気不均等分布が残存するため、局所の過伸展を悪化させてしまう。リクルートメント戦略は最大限可能な肺リクルートメントを達成できるように計画しなくてはならない。
✔ ”新たにつくり出された”完全にリクルートされた肺においては、新たにリクルートされた肺容量を開放し続けられるようなPEEPを設定し、ΔPが最小となるような設定にしなくてはならない。これは、より均質化された肺の改善した機械的状況を維持するだけでなく、再虚脱に伴う肺損傷を予防する意味もある。
リクルートメントとPEEPレベルの設定の例(文献より引用)
図は肺炎によるARDS早期の患者のデータを示している。PEEPレベルを徐々に高くし、リクルートメント(RM)の後にPEEPを徐々に下げている。PEEPは上昇させるときと減少させるときは同じ値になっていることに注意。換気は重量式で6ml/kg。PEEPを上昇させると動的コンプライアンス(Cdyn)はPEEP14のときに急上昇してその後は同等の値となっているが、酸素化は変わっていない。これは有意なリクルートメントが起きていないことを意味しており、したがってDriving pressureも変化していない。新たな”機械的状況”はリクルートメント手技によってもたらされるが、これはRMによって酸素化とコンプライアンスが改善していることで確認できる。結果としてDriving pressureは減少する。このDriving pressureの減少効果は、PEEPを減らして肺虚脱が始まるまで維持される。

◎ 私見
 自分の考え方、やり方に近い。注意すべきはリクルートメントを具体的にどのように行うかだろう。肺の虚脱が最大限改善しなくてはならないので。ひとつはKacmarekらのOpen lung approachに記載のある方法。過去の報告も参考にして、どれが自分に(自分の対象とする患者に)有用か考え直さないと。

2016年2月20日土曜日

Driving pressureを指標とした呼吸管理は有用

Open Lung Approach for the Acute Respiratory Distress Syndrome: A Pilot, Randomized Controlled Trial.
Kacmarek RM, Villar J, Sulemanji D, Montiel R, Ferrando C, Blanco J, Koh Y, Soler JA, Martínez D, Hernández M, Tucci M, Borges JB, Lubillo S, Santos A, Araujo JB, Amato MB, Suárez-Sipmann F;Open Lung Approach Network.
Crit Care Med. 2016 Jan;44(1):32-42. PMID: 26672923

✔ 背景
 Open lung approach(肺開放戦略・OLA)は肺リクルートメントとPEEP調整からなる人工呼吸戦略である。ARDS networkのプロトコルと予後を比較した。
✔ 方法
 他施設無作為化パイロット研究。20施設が参加した。AECCの診断基準でARDSと判断された18歳以上の症例で、P/F 200未満で急性発症であり、両側の浸潤影をきたすも左心不全が臨床的に否定されたものを対象とした。18歳未満、35kgPBW未満、BMI>50、COPD急性増悪、化学療法や放射線治療中の症例、重篤な心疾患患者は除外した。
 まずARDS networkが推奨する方法で12~36時間換気し、ARDSnet群とOLA群とに無作為に振り分けた。
人工呼吸器の設定(文献より引用)
・ARDSnet群:Table 1に示す通り、一回換気量を制限し、PEEP tableを使用してFIO2に応じたPEEPを設定、高炭酸ガス血症を許容した
・OLA群:肺リクルートメントとPEEP調整を行った。まず、患者を深鎮静して無呼吸とした。必要に応じて筋弛緩薬を使用した。最高気道内圧50~60㎝H2O、PEEP 35~45㎝H2Oとして肺リクルートメントを行う。続いて、VCV 4-6ml/kg、PEEP 25㎝H2Oの設定とし、3分ごとにPEEPを2㎝H2Oずつ低下させる。このとき最高気道内圧ーPEEPの値で一回換気量を割り、Dynamic complianceを計算する。Dynamic complianceが最大となるPEEPの値を採用し、これに3㎝H2Oを上乗せした設定とする。PEEPは最低24時間その値のままとし、下げるときは2㎝H2O以上減らさないようにする。
✔ 結果
 1874名がスクリーニングされ、200名が無作為化された。60日死亡率、ICU死亡率は有意差がなかったがOLA群で低い傾向があった。Ventilator free daysには差がなかった。Driving pressureとP/F比はOLA群で改善していた。Barotraumaには差がなかった。
✔ 結論
 OLAは酸素化とDriving pressureを改善し、死亡率やBarotraumaに影響することはなかった。
死亡率(文献より引用)
◎ 私見
 Driving pressureを指標とした管理が患者予後を変えるか調べたパイロット研究。残念ながら学会には来られなかったKacmarek先生の研究。自発呼吸のない患者で、リクルートメント後にDynamic compliance(呼吸器系コンプライアンスとほとんど同じと考えてよい)が最もよくなるPEEPを探す方法が有用かもしれないと示したもの。学会中も話題になっていた。
 自分のやり方(用手的リクルートメント+PEEP増加→換気量改善が得られるかどうかを判断)と似ているコンセプトだったりするし、腑に落ちる感じがした。ただし、あくまでパイロット研究。本当に有用なのかは今後の研究待ちだろう。

2016年2月17日水曜日

敗血症性ショックの末梢循環不全の徴候

Understanding clinical signs of poor tissue perfusion during septic shock.
Ait-Oufella H, Bakker J.
Intensive Care Med. 2016 Feb 4. PMID: 26846520


✔ 感染に伴う急性循環不全である敗血症性ショックは代謝需要に対する組織灌流や酸素供給の不足によって特徴づけられる。このような不均衡は血管内皮細胞の機能的/器質的損傷によって生じる。血管内障害は細菌菌体成分や炎症性メディエータ、活性酸素、活性化白血球によって起きる。細胞や組織障害は虚血によって起き、さらにミトコンドリア機能不全なども関与する。微小循環を直接的に可視化する装置を用いた検討で、敗血症においては組織灌流が一様ではなくなり、全身的な血行動態と局所の血流量には差があることが分かってきた。局所組織灌流は舌下組織や胃粘膜を標的として評価できるが、本レビューでは対象とせず、ベッドサイドで行える皮膚循環の評価にフォーカスをおいた。
 末梢循環評価の原理は皮膚や筋肉のような末梢組織が最初に循環不全の犠牲になるという事実に基づいている。これは、皮膚循環には自己調節能が存在せず、交感神経活動更新によって初期から血管収縮が起きることによる。他にも、白血球集積、血小板活性化、フィブリン沈着などによって循環不全が起きる。皮膚循環は温度調節において重要であり、重症感染症においては直接的に皮膚の色調や温度に影響が生じる。

✔ 斑状変化
 皮膚がまだらになる斑状変化は重症患者でよくみられる所見であり、まだらな皮膚の変色として定義され、常膝周囲にはじまり指や耳に広がることもある。DICのような完全な血管閉塞を起こすような病態がなければ、この所見は皮膚の低灌流を示す所見である。NIRSを用いて評価したところ、変色部位は低灌流であると共に組織酸素化が減少している事が明らかになっている。斑状変化の客観的評価のために、皮膚から末梢組織に広がる変色部位によって点数化するシステムがある。斑状変化スコアは0点から5点までで評価され、点数が最も高いと皮膚斑状変化が膝から指まで全体に広がっている状態を示す。観察者間の一致もよい(κ=0.87)。我々は初期蘇生6時間後の斑状変化スコアが高いと14日死亡率が高いことを見出した。また、平均血圧とは全く関係していなかった。斑状変化スコアの有用性は救急外来における重症患者を対象とした試験などでも示されている。血管拡張で特徴づけられる臨床状況でも死亡率増加のリスクとなることが分かっている。肝硬変患者の敗血症で、斑状変化スコアが高いと死亡率が高くなったが、感度は低かった。感度が低くなることの理由として、コレラの患者はもともとの皮膚灌流量が多いことが理由であると推測される。

✔ 毛細血管再充満時間
 毛細血管再充満時間(CRT)は人差し指の詰めを押して、色調が元に戻るまでの時間である。CRTは末梢血管床に血液が戻るまでの時間を意味している。いくつもの観察研究が小児の重症患者をトリアージする際の有用性に言及している。非感染性の小児や重症成人を対象とした研究でも、CRTと乳酸値の挿管を報告している。健康成人を調査したSchrigerらの研究に基づき4.5秒をカットオフとしたとき、CRT延長は末梢循環の減少と臓器障害を反映している事が示された。腹部手術後の患者を対象とした研究では、人差し指のCRTが5秒を超えると術後合併症が多くなったり死亡が増えることが示されている。初期蘇生を終えた敗血症性ショックの場合、CRTは指先を用いた場合(AUC 84%)も膝を用いた場合(AUC90%)も14日死亡をよく予測できた。この研究では指先のCRT2.4秒をカットオフとして感度82%、特異度73%、膝のCRT4.9秒をカットオフとして感度82%、特異度84%と報告している。さらに重要なことに、CRTと尿量や乳酸値が相関している事も示された。さらに、近年の敗血症性ショック生存者を対象とした研究で、Hernandezらは生存はCRTの正常化によって特徴づけられるとした。

✔ 体温較差
 皮膚温を主観的に評価することで予後を予測するという研究があるが、その主観性をおいても問題なのは環境温の影響である。それゆえ、ある二つの部位の体温較差が研究で用いられる。Weilらは中枢-爪先温度較差の予後予測などの観点から有用性をひろく示した。しかし、これも低体温症であったり環境温が低い場合は影響を受ける。しばしば前腕と指先の温度較差(Tskin-diff)が末梢循環評価に用いられるが。いくつかの研究によってTskin-diffが0℃は血管収縮を意味しうるが4℃以上は重篤な血管収縮を示唆するといえる。この方法の利点は両計測部位が同様に環境温の影響を受ける点である。Tskin-diffはレーザードプラを用いた皮膚血流評価の結果と相関することが分かっている。臨床研究でも患者予後を予測することが分かっている。

✔ まとめ
 斑状変化、CRT延長、皮膚温低下で示される末梢循環不全が生じた場合、患者に対して輸液負荷などの治療がおこなわれる。初期蘇生の後に末梢循環不全が残存している場合、これを改善するために血管を標的とした治療がおこなわれることがある。例えば、Limaらはニトログリセリンによって末梢循環不全を治療した時(Max 16mg/hr)15人中12人の患者で少量(8mg/hr以下)で重武運無末梢循環を得ることができたと報告している。Tskin-diffは敗血症性ショックの輸液蘇生の指標として用いられることがある。30人を対象とした研究で、Tskin-diffやCRTが正常になった場合に輸液負荷をしないことで患者予後が改善したことが示された。末梢循環の評価はかなり有力なモニタであると考えられる。さらなる研究が必要である。
末梢循環不全の徴候(文献より引用)
◎ 私見
 どんな患者さんでも四肢末梢を必ず触るようにしている。場合によっては血圧よりも手足を触れることが重要だと思っているから。ということでこのミニレビューでは末梢循環の評価の有用性をコンパクトにまとめている。血圧の数字や検査の値だけでは集中治療の面白さは伝わらないと思っている。研修医にはこういった事をしっかり伝えられるようにならないと。


2016年2月14日日曜日

第43回集中治療医学会

無事に発表終了。

講演も、呼吸と循環にそれぞれテーマを決めて話を聞くことができた。Expert opinionというものはエビデンスとは言えないけれど(だいたい最先端を行く人ってなんらかのCOIもあるし)、試行錯誤しながら培った”いきいきとした”臨床が感じられるので実は好きだ。同じことがらについて、意識的にしろ無意識にしろ微妙に熱意を込めたり、醒めた目でつきはなしてみたり。そういった”距離感”も自分と比較できて面白い。これまでに勉強するうちに生じた疑問も解決できた。次にやりたい研究ネタも拾えたし。有意義な学会でした。

関係者の皆様。
お疲れさまでした。
ありがとうございました。


2016年2月10日水曜日

Passive leg raisingを理解する

Understanding the passive leg raising test.
Aneman A, Sondergaard S.
Intensive Care Med. 2016 PMID: 26846515


✔ 血管内容量の維持は血行動態管理の要であるが、安全で再現性のある輸液反応性評価方法はまだ確立していない。ひろく使われているが、CVPをはじめとした静水圧は循環血液量を示す指標ではない。このような状況の中、Passive Leg Rainsing法(PLR)が話題となっている。

✔ 心拍出量(CO)は静脈環流量(VR)と読み替えることができ、これは平均充満圧(Pms)と右房圧(RAP)の圧較差と静脈環流に対する抵抗(RVR)の関係で決定される。Pmsは循環血液量、もっと正確に言うとStressed volumeの正確な生理学的指標であると考えられており、輸液反応性はPmsを上昇させるような介入がRAPやRVRとの関係のなかでVRすなわちCOをどのように変化させるのかを評価することで行われる。Pmsを上昇させるために輸液をすることもできるが、血液の分布を変えることでこれを達成するkともできる。どちらもPmsを上昇させるという目的は共通しているが臨床的には全く異なる手技であると考えなくてはならない。両者ともCOの変化をモニタしなくてはならないという点では同じである。動脈圧や脈圧変動(PPV)のみを指標として用いるべきではないが、呼気炭酸ガス濃度を指標として用いる方法は有用かもしれない。

✔ MonnetとTeboulは下肢を持ちあげるのではなくベッドを傾けるPLR法を紹介している。PLRの感度は下肢挙上に先立って上体を45°持ち上げることで改善するが、この姿勢が無理な患者もいることに注意しなくてはならない。また、鎮痛薬や鎮静薬などRVRや血管のコンプライアンスを変化させるような介入は避けなくてはならない。さらに、PLR中に上体をさげるときには呼吸状態の悪化や頭蓋内圧の上昇にも気をつけなくてはならない。

✔ PLRによって移動する血液量は150~300mlと言われているが、体格や静脈弁の状態、弾性ストッキングなどの有無によって影響を受ける。心原性ショックや循環血液量減少性ショック、高用量の血管収縮薬を使用している時のように末梢血管が収縮している状況でも灌流量は減少する。PLRのCOに与える影響は一時的で短時間で消失するため、COのモニタは動脈圧波形解析や心エコーによる解析のように迅速かつリアルタイムに評価できるものでなくてはならない。ゴールドスタンダードは熱希釈法だが、これは時間がかかりすぎる。GuerinらはPLRによってVRが上昇する患者は500mlの輸液を10分で投与することでCOが15%上昇するとしている。

✔ 他の検査と同様、検査前確率を考えることは重要である。PLRは臨床的に循環血液量減少が強く疑われる様な患者、例えば敗血症性ショックの初期蘇生時や術後早期の患者で用いるのがよい。PLRのカットオフポイントをどこにするのかも感度・特異度に影響する。多くのシステマチックレビューやメタアナリシスによると、COの変化が8~15%をカットオフにするのが良いと考えられる。このとき、ROC曲線下面積は0.96となる。注目すべき点として、洞調律でも非洞調律でも有用である点や自発吸気努力の有無に左右されない点が挙げれる。

✔ 患者予後を決定的に変えるかどうかは不明で、ESICMによって血行動態モニタとしての意義が議論されたが結論がでていない。恐らくその意義は、輸液負荷試験と違い、輸液をしなくて済む点であろう。
PLRと輸液負荷の比較(文献より引用)
◎ 私見
 弾性ストッキングの有無だとか忘れがちな点をしっかりみなくてはならないし、ただ足を持ちげればよいというものでもない。でも、もっと使われてもいい評価方法だと思う。

2016年2月7日日曜日

肥満とAKI

Obesity, Acute Kidney Injury, and Mortality in Critical Illness.
Danziger J, Chen KP, Lee J, Feng M, Mark RG, Celi LA, Mukamal KJ.
Crit Care Med. 2016 Feb;44(2):328-34. PMID: 26496453


✔ 背景
 肥満はインスリン抵抗性や高血圧、心血管疾患に関係しているが、近年腎疾患との関連も指摘されている。すなわち、腎静脈のうっ血から腎機能が低下する可能性が指摘されている。肥満は慢性腎疾患(CKD)の危険因子であることはひろく知らているが、急性腎傷害(AKI)の危険因子となるかどうかは分かっていない。また、肥満はパラドキシカルにCKDの予後を改善することが知られているが、AKIの予後を改善するかどうかは分かっていない
✔ 方法
 単施設コホート研究。MIMIC-Ⅲというデータベースを使用し、身長や体重などのデータが揃っており、末期腎不全ではない患者約15,000人を対象とした。プライマリアウトカムはICU入室中のAKI発症とした。BMIに応じて肥満は低体重(BMI<18.5)、正常(18.5~25)、過体重(25~30)、Ⅰ度肥満(30~35)、Ⅱ度肥満(35~40)、Ⅲ度肥満(40~)とした。
✔ 結果
 AKIは21.1%の患者に認められた。AKIの発症頻度はBMIが高くなるほど高く、BMIが5上昇するごとに10%リスクが大きくなった。BMIで層別化して解析したところ、AKIを発症すると一貫して死亡リスクが高くなっていた。AKIの有無で層別化したところ、AKIの無い患者では肥満は予後改善効果を示していたが、AKIのある患者では肥満の予後改善効果は無くなっていた。
✔ 結論
 肥満はAKIのリスクではあるが予後には影響しない。
BMIごとのAKI発症頻度(文献より引用)
◎ 私見
 肥満が予後をよくするという一見奇妙な効果は重症患者でも認められるが、肥満はAKIのリスクになり、AKIを発症すると予後改善効果が無くなってしまう。やっぱり肥満はよくない。
 腎静脈のうっ血が肥満による腎障害発症のメカニズムなのではということでCVPを調べているが、確かにBMIが高くなるほどCVPも高くなってはいるもののAKI発症を予測できるかというとそうでもないらしい。というより、CVPを測定してもうっ血の有無は分からない、ということなのでしょう。

2016年2月4日木曜日

VV-ECMOと心機能

VV-ECMO and brave heart: A subtle competition?
Pinto BB, Siegenthaler N, Tassaux D, Banfi C, Bendjelid K, Giraud R.
Int J Cardiol. 2015;186:45-7. PMID: 25804468


✔ H1N1インフルエンザは重症ARDSを合併し死亡率が高いが、VV-ECMOが予後を改善することが知られている。しかし、カニューレを正しい位置に留置してECMO流量を最大にしても難治性低酸素血症が遷延することがある。β遮断薬を用いて心機能を抑制することで低酸素血症を改善できたので報告する。

✔ 34歳の肥満(BMI34)男性が発熱、呼吸苦、咳、痰が2週間の経過で悪化したため救急外来を受診した。血行動態は安定しているものの頻呼吸であり、動脈血酸素飽和度は室内気で89%であった。胸部X線写真では右肺の浸潤影を認め、血液検査では白血球減少、CRP上昇、クレアチニン上昇を認めた。オセルタミビルとクラリスロマイシン、セフトリアキソンによる治療開始24時間後に重症ARDSとなりICUに入室した。鎮静して気管挿管し、筋弛緩のうえで低一回換気量による肺保護換気を行った。ステロイドとNOも開始した。この時点でインフルエンザと判明した。
 リクルートメント手技、PEEP 18~20cmH2O、腹臥位を行ったがP/F比は低いままだった。6日目にVV-ECMOを開始し、Lung-restとした。ECMO開始2日後、ECMO流量6.5L/min、Sweep gas 7L/min、FIO2 100%でも低酸素血症が遷延した。
 脱血カニューレの酸素飽和度は持続的にモニタしている。最初は80%であり、かなりのRecirculationが存在することを示唆するものであった。まず、カニューレをそれぞれ少しずつ引き抜いてみたが患者の状態が悪化するためうまくいかなかった。この状況では熱希釈法による心拍出モニタは計測できないため、スワンガンツカテーテルは抜去して食道ドップラープローブを挿入したところ、頻脈に伴う高心拍出量状態であった(11~12L/min)。
 SIRSにともなう高心拍出量状態がECMO流量の占める割合を減らして酸素化を悪化させていると判断した。これはVV-ECMOの弱点として知られるものである。そこで、メトプロロールを投与したところ血圧は変わらないものの心拍数が約70まで低下して心拍出量も8L/min程度まで減少した。脱血側酸素飽和度は70%まで減少し、動脈血酸素飽和度は上昇した。ECMOは18日目に離脱し、26日目に抜管、35日目にICUを退室した。

✔ 重症ARDSではVV-ECMO導入後も遷延する低酸素血症を認めることがある。低酸素はECMO流量が心拍出量よりもかなり低いときに起きることがある。本症例でもβ遮断薬による適切なECMO流量/心拍出量比が保たれたことが低酸素血症の改善に有用であったと考える。食道ドプラによる心拍出量モニタと近赤外スペクトロスコピーによるRecirculation率のモニタが患者予後の改善に有用だろう。

✔ VV-ECMOにおける遷延する低酸素血症に対しては三つの要素を検討すべきである。Schmidtらは大腿静脈-頚静脈VV-ECMOは血流量とECMO流量/心拍出量比が0.6以上あればよいと報告している。ふたつめ脱血/送血カニューレの先端間の距離が15cm以上でRecirculationが最小になるということである。みっつめはデュアルルーメンカニューレが有効であるということである。
 さらに我々はβ遮断薬による心拍出量コントロールを成功裏に行うことができた。食道ドプラでメトプロロール投与に伴う心拍出量の変化をモニタできた。ECMO流量/心拍出量比が低いときはECMO流量を増やすのがセオリーではあるが、本症例ではすでに最大流量となっていた。
 心拍出量を減らすことによる酸素化の改善には二つのメカニズムがある。ひとつめは心拍出量に占めるECMO流量が増えることによる酸素化の効率上昇である。もうひとつは心拍数減少に伴う拡張期の延長と収縮期の短縮である。なぜならRecirculationは三尖弁の閉じた収縮期に多くなると考えられるからである。


◎ 私見
 VV-ECMOにおける酸素需給バランス評価で特に重要なのは、動脈血酸素飽和度、脱血側酸素飽和度、そしてECMO流量/心拍出量比だと思う。もちろん乳酸値や体温・意識レベル管理(酸素消費量に関わる)なども見ますが。麻薬をうまく使うのがコツだと思っていて、徐脈になるし、酸素消費量も減るし、何となくよい感じがしている。Remifentanilとか使えるともっと楽なのかもしれないが、長期間の使用でどうなるかが分からないのが問題か。

2016年2月2日火曜日

Arterial loadを理解する

Understanding arterial load.
Monge García MI, Saludes Orduña P, Cecconi M.
Intensive Care Med. 2016 Jan 22. PMID: 26801663


✔ はじめに
 心臓と動脈系は解剖学的にも機能的にもつながっているが、しばしば別々の器官であるかのうように扱われる。動脈系は単なる血液の導管ではなく心拍出を修飾し、拍動性の血流を定常流に変換し、拡張期に血圧を維持するといった機能を持つ。したがって、心血管系をつぶさに説明しようとするなら心機能だけでなく動脈系がどのように相互作用しているかを考えなくてはならない。

✔ Arterial loadは後負荷の指標である
 心臓が動脈系とどのように相互作用するかを知るためには心臓が血液駆出の際にうち勝たなくてはならない外的抵抗であるArterial load(AL)を知らなくてはならない。ALは動脈系のある特定の性質をあらわすものではない。血液が心臓から駆出されて体血管や肺血管に流入する際に生じる抵抗すべてを合わせた概念である。それゆえ、ALは正味の心後負荷と言える。
 心不全や肺高血圧/体高血圧はALのミスマッチの結果である。非侵襲的陽圧換気や血管拡張薬はALを減らすことによって治療効果を示す。

✔ Arterial loadは動脈圧の決定因子である
 血圧は血流とALの相互作用によって生じる。ALは心拍出を修飾して一定の組織灌流圧を生み出す。したがって、輸液負荷試験において血流の指標として血圧を用いる際には注意が必要である。輸液が血圧に与える影響はALが最終的に影響すると考えられるからである。

✔ Arterial loadの指標
 体血管抵抗(SVR)が従来より用いられてきたが、動脈系すべての抵抗の総和であると考えるのは誤りである。SVRは定常流に対する抵抗であり、拍動性の血流に対する抵抗を意味しないからである。また、SVRの分布は血管系の中で一定ではないし、CVPを下流の圧とみなして計算することにも問題がある。
 拍動性の圧と血流に対する抵抗を評価する際のゴールドスタンダードはArterial impedance(Zin)を測定することである。SVRとは異なりZinは複雑な拍動圧と拍動流の関係を説明し、動脈系の機械的特性や動脈反射波の影響を統合できる。残念ながらZinを臨床において計測することは困難であるため、例えば3-element Windkessel modelなどで単純化して代替するしかない。

✔ Effective arterial elastanceはArterial loadの指標である
 ALの全ての要素を一つの指標に統合することができ、これをEffective arterial elastanace(Ea)という。Eaは容量の変化に対する圧の変化を表している。Eaは動脈の固さを表す指標というだけではなく、ALの基本的な特性を含有する概念である。
 Eaは心室収縮末期圧と一回拍出量との関係で計算できる。心室収縮末期圧は収縮期血圧の90%を用いることで代替できる。一回拍出量は近年のモニタで計測することができる。Eaはベッドサイドで簡単に計算できる。Zinを評価する際のEaの信頼性は十分にあることがわかっている。

✔ Arterial loadの機能低評価:dynamic arterial elastance
 脈圧変動と一回拍出量変動の比であるDynamic arterial elastance (Eadyn)はALの機能的側面を表している。Eadynは呼吸性変動における血圧と一回拍出量の関係を示している事から、輸液負荷に対する反応性を予測する際に有用かもしれない。
心拍出・動脈圧とArterial load(文献より引用)
◎ 私見
 Arterial loadに関するMini review。Ventriculo-arterial couplingについての再考。流行りのモニタでSVRで計算する時、CVPを計算式に入れている事に不安を感じていたので読んでみた。実効動脈エラスタンス(Ea)は心拍出量とSVRとの関係を説明する指標であり、心室収縮末期圧を一回拍出量で割ることで求められる(単位:mmHg/ml)。これを後負荷の指標にした循環管理が有効かどうか、検証してみてもよいかも。