2015年3月31日火曜日

機能的血行動態評価を用いた前負荷予備能の理解

Understanding preload reserve using functional hemodynamic monitoring.
Pinsky MR.
Intensive Care Med. 2015 Mar 26. PMID: 25810212


✔ はじめに
 血行動態モニタを用いて重症患者の心血管系の状態の安定性と変化を見定めることは重要である。血行動態評価は外的負荷に対する心血管系の反応を見ることでより正確になる。機能的血行動態評価(Functional hemodynamic monitoring; FHM)は可逆的外的負荷に対する動的反応を評価する方法である。

✔ 静的指標と動的使用
 ショック患者において最初に問題となるのは輸液によって心拍出量が増えるかどうかを判断することである。しかし、静的指標は輸液反応性を正確に判定できない。心筋は絶えず変化する前負荷に対応して収縮能を変えることができるが、時間が経って平衡状態となると前負荷の状態に順応して収縮能が安定してしまう。よって、静的指標では前負荷を正確に判定できず、より短時間の変化をみる動的指標が有用となる。

✔ 右心系
 血管系は二つのポンプを持つ並列回路であるため、どちらかの系統を評価することで全体を把握することになる。自発呼吸も陽圧呼吸も右室に対する静脈還流量を変化させるため、FHMでよく用いられる。上・下大静脈径や内頚静脈径を代用指標として用いることがある。10~15%の変化があるとき、輸液反応性ありと判定する。これらの指標は容易に行えるが持続的にモニタできない。

✔ 左心系
 一回拍出量変動(SVV)や脈圧変動(PPV)は持続的なFHMであるが、陽圧呼吸中で重度の肺性心や腹腔内圧上昇が無い患者に適応が限られる。低一回換気量設定でも高値であれば診断的価値がある。結果が曖昧な場合(グレーゾーンな場合)、少量の輸液負荷試験やPassive leg raisingを追加して行う。SVVもPPVも自発呼吸下、肺性心、高PEEP、低一回換気量では感度が低下するが、Passive leg rasingはこれらの状況下でも感度・特異度共に優れた検査となり得るが、腹腔内圧上昇がある場合は不正確となるうえ、持続的にモニタできない。

✔ おわりに
 実臨床においてはいくつか心に留めておくべきことがある。まず、モニタそのものは如何に正確なものであれ、予後を改善させうる有効な治療法と組み合わせないと意味が無いということである。輸液蘇生は虚血性機能障害のリスクのある組織を救うか、虚血性障害後の炎症反応を治療できるときにのみ有用である。ふたつめに、輸液反応性がある患者が全て輸液を必要としているわけではないし、輸液反応性が無くなるまで輸液をしなくてはならないわけでもないことである。治療の目標は組織灌流、臓器機能、全身状態に基づくべきで、ある特定の酸素運搬量や血圧を目標とすべきではない。みっつめに、輸液や心血管作動薬の最適の組み合わせは分かっておらず、患者の個体差に応じて適宜調節すべきであるということである。

輸液反応性とFHM(文献より引用)

FHMの限界(文献より引用)

◎ 私見
 観察するだけでは意味が無いことは自明。評価に基づいて”輸液に始まる”介入をする、というアプローチを世に広めたという意味でEGDTは有用であったのだと思う。近年の研究(PROMISE、ARISE、PROCESS)では有効性が否定されてしまったけど、これはつまりEGDTによってパラダイムシフトが起きたということではないか。
 さて、予後を改善しないからといってモニタが無くて良いとはならないはず。結果が伴わないからとモニタを揃えてもらえないのは納得いかないんだけどな…

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