2020年3月4日水曜日

乳酸値を解釈する際の10のピットフォール

Hernandez G, Bellomo R, Bakker J.
Intensive Care Med. 2019 Jan;45(1):82-85. PMID: 29754310

1.クリアランスとは単位時間当たりの溶質除去可能な血流量を意味するが、乳酸値は産生、排泄、代謝の要素を受けるので血中濃度の減少のみをクリアランスと表現するのは誤解を招く

2.乳酸値が上昇すると循環不全が続いていると判断し、乳酸値が減少すると改善していると判断しがちだが、クリアランス(排泄・除去)が悪くなっているだけかもしれないし、代謝の要素は全く予想できない

3.乳酸は糖やピルビン酸の代謝によって通常でも産生されるため、それらの基質の代謝が亢進すると循環不全が無くても乳酸値は上昇する。例えば敗血症に伴う炎症反応は解糖系を刺激しピルビン酸脱水酵素活性を抑制するので、細胞内のピルビン酸濃度が上昇し乳酸値も上昇する(糖とピルビン酸の比率は一定に保たれたまま)。

4.乳酸も糖のような基質の一種であり、エネルギーとして消費される(lactate shuttle)。臓器間シャトル(筋肉で産生され肝臓で使用)や、細胞間シャトル(脳)が知られている。

5.肝臓は乳酸代謝の約6割を担っており、遷延する高乳酸血症において肝障害が一役買っている可能性は高い。

6.大量(180ml/kg/hr)の乳酸リンゲル液は乳酸値を上昇させる可能性がある。

7.カテコラミン、アルカローシスに伴う糖代謝の亢進、乳酸を緩衝として使用した血液ろ過、肝機能障害、肺における乳酸産生、核酸逆転写酵素阻害薬やメトホルミンといった薬剤、エチレングリコールやメタノールなどの中毒によって乳酸は修飾されてしまう。

8.高乳酸血症が遷延する場合、低灌流部位における嫌気性糖代謝(特に微小循環障害)、ストレスに伴って起きるカテコラミン起因性好気性糖代謝、肝乳酸クリアランス低下、ミトコンドリア機能障害に伴うピルビン酸代謝異常が考えられる。臨床的にはこのなかから低灌流を見つけ出さなくてはならない。

9.乳酸値は重症度の指標である。

10.乳酸は分子であり、基質であり、バイオマーカであり、エネルギー源であり、輸液組成の一種であり、複雑な要素を持っているため、治療の目標とするには問題があるのでは?

◎私見
大事だけど固執してはいけないのが乳酸値。乳酸値がさがりきるまで治療するというアプローチは問題だし、遷延する高乳酸血症を放置するのも問題。要はバランスなのだが、バランスをとるには知識を持っていなくてはならない。何も知らないのにバランスをとっているふりをするのは専門家としていかがなものか、といつも思う。

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