2015年12月26日土曜日

腹臥位と筋弛緩薬は重症ARDSの標準治療となり得るか:NO

Prone positioning and neuromuscular blocking agents are part of standard care in severe ARDS patients: no.
Ferguson ND, Thompson BT.
Intensive Care Med. 2015 Dec;41(12):2198-200. PMID: 26399891


✔ ”標準的治療”とうい言葉の定義は使われる文脈によって異なるものである。我々は最良の治療という意味において腹臥位や筋弛緩薬を”標準的治療”として考えることができるかどうかを論じる。
✔ 腹臥位は三十年以上研究され、酸素化を改善するが一つの例外を除き死亡率を変えないとされてきた。しかし、メタアナリシスで特に重症なARDSに長時間適用することで予後が改善する可能性が指摘れたため、Guerinらは重症ARDSのみを対象として1日17時間という長い時間腹臥位を行うことの有用性を検証した。酸素化が改善し(肺リクルートメントを反映していると考えられる)、死亡率が減少した(肺保護効果を反映していると考えられる)。この結果をもとに標準的治療として腹臥位を導入できるかと言われると、そうではないと考える。
 まず、より高いPEEPが中等症~重症ARDSの予後を改善する可能性があるにもかかわらず、PROSEVAでは低いPEEPが使用されている。つまり、高PEEPによる標準的管理に比較して腹臥位が優れているかどうかが判明していない。また、経験のない施設で腹臥位を行うことの危険性を検証した試験もない。高PEEP・低一回換気量で管理した群との比較試験が行われるまでは重症ARDS患者の初期管理に腹臥位は行わない。高PEEPでリクルートメントが進まない(酸素化が改善しない)場合はPROSEVAで検証されたような低PEEP・腹臥位での管理で管理する。経験のない施設ではスタッフの訓練を行ってから導入すべきである。
✔ 同様の状況が筋弛緩薬に関しても存在する。筋弛緩薬の有用性は人工呼吸器との同調性の改善に依っている。自発呼吸のあるARDS患者は強い吸気努力を呈している事があり、目標とする一回換気量よりも大きい呼吸を頻回に行ってしまい、非同調からVolutraumaやBiotraumaを起こしてしまう。
 2010年にフランスのグループから筋弛緩薬のシスアトラクリウムがARDSの予後を改善するというACURASYS研究が報告された。しかし、この研究結果はいくつかの点で限界がある。まず、死亡率減少についてはベースラインをアジャストして初めて有意差がでており、筆者ら自身がアンダーパワーの可能性について言及している。次に、筋弛緩薬の副作用である筋障害について感度の低い評価方法を用い、過小評価している可能性がある。また、介入群と対照群両方とも高用量の鎮静薬を使用しており、長期間の機能的・神経学的予後を悪化させている可能性がある。つまり、高PEEPで鎮静薬を減らして行う通常の管理と比べて筋弛緩薬が優れているかどうかは判明していない。
✔ 腹臥位も筋弛緩薬も将来性のある治療ではあるがその意義はまだはっきりしていない。

◎ 私見
 トロントのFerguson先生からの意見。最初のパラグラフで「標準的治療」って何?という定義について述べた後に舌鋒鋭くPROSEVAやACURASYSの問題点を指摘していく。ここで挙げられている「高PEEP+低一回換気量+浅鎮静を対照群とした比較がなされていない」という視点は大切だと思う。

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