2015年12月9日水曜日

敗血症と乳酸アシドーシス①

Lactic acidosis in sepsis: It's not all anaerobic. Implications for diagnosis and management.
Suetrong B, Walley KR.
Chest. 2015 Sep 17. doi: 10.1378/chest.15-1703. PMID: 26378980


✔ 乳酸値について
 乳酸アシドーシスは組織酸素供給量を意味し、予後不良に関与すると考えられているが、これは単純に過ぎる考え方である。乳酸値は嫌気的糖利用の結果生じた老廃物というだけではなく、エネルギー"シャトル(=運搬体)"ともいえる意義もある。
 1976年、CohenとWoodsらは高乳酸血症を組織酸素化不全の明らかなType Aと、組織炭素化不全がないType Bとに分類した。Type Bはさらに肝不全などの基礎疾患に関連するB1、薬物や毒物によるB2、先天代謝異常によるB3に分類される。

1.乳酸産生
 正常な状態でも乳酸は大量(およそ1.5モル/日)に産生されている。乳酸シャトル理論によると細胞レベルにとどまらず、離れた組織における酸化的糖新生の基質としても使用されうるとされる。通常、乳酸は骨格筋で産生される。皮膚、脳、小腸、赤血球も乳酸を産生する。肺は急性肺障害において組織酸素化不全が無くても乳酸を産生するし、白血球も貪食や敗血症の際に産生する。
 乳酸は糖の代謝の結果として生じる。解糖系において、糖はEmbden-Meyerhof経路のホスホフルクトキナーゼ(PFK)によってピルビン酸にまで代謝される。ピルビン酸はさらに二つの経路で代謝される。ひとつめは、好気的環境でミトコンドリアに入り、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)によってアセチルCoAとなりKrebs回路に入る経路である。この経路にはチアミンが補酵素として必要となることに注意する。Krebs回路でアセチルCoAは電子の受け渡しを経て大量のATPを生み出す。
 もう一つの経路は細胞質において乳酸に変換される経路である。この経路は乳酸デヒドロゲナーゼによって双方向性に調節されており、乳酸とピルビン酸の比はおよそ10:1になっている。酸素不足ではKrebs回路が使えないので乳酸が増える(Figure 1-A)。補酵素であるチアミンの欠乏でもKrebs回路に入れなくなるので乳酸が増える(Figure 1-B)。ピルビン酸から乳酸への変換にはNADHとH+が必要だが、細胞内にNADHが増えるような病態(ケトアシドーシスやエタノール中毒)でも乳酸が増える(Figure 1-C)。解糖系が活発化しピルビン酸が増えるような状態、例えば敗血症なのでも乳酸が増えるが、乳酸とピルビン酸の比は保たれる(Figure 1-D)。解糖系からの流入が増える状態としては、重度の呼吸窮迫やカテコラミン過剰、敗血症などが挙げられる。
Figure 1(文献より引用)

2.乳酸クリアランス
 乳酸は運搬可能なエネルギー基質であり、局所や離れた組織のミトコンドリア(ピルビン酸に変換されてからKrebs回路に入る)や糖新生(Cori回路)に使われる。乳酸は肝臓で代謝されるが、ある程度の量は腎臓でも代謝される。心筋は運動時やβ刺激やショックの状態で乳酸をエネルギー基質として用いる。脳も代謝需要が増えた際に乳酸をエネルギー基質として用いる。したがって、乳酸クリアランスの低下は単に組織低酸素のみを意味するわけではない。

3.酸
 糖からピルビン酸に代謝される際に生じた水素イオンと同量がピルビン酸から乳酸に変換される際に使用される。よって、乳酸が増えることそのものがアシドーシスを起こすわけではない。それでは、酸がどこからやってくるかというと、ATPの加水分解である。この酸はKrebs回路で消費されるが、組織低酸素状態ではKrebs回路が使われないので水素イオンが消費されず、アシドーシスになるのである。Krebs回路への流入が減ることによって付随的に乳酸が産生されるため、臨床的には乳酸アシドーシスと認識される(Figure 1-A)。乳酸産生の増加(Figure 1-BCD)や乳酸消費の減少(Figure 1-E)による可能性もあり、組織低酸素だけが原因とは言えない。

4.乳酸アシドーシスの病因
 臨床的観点からは、高乳酸血症は乳酸産生の増加や乳酸消費の減少、もしくはその両者によって生じると考えられる。敗血症やショックは高乳酸血症の原因となる。その要因の多くは組織低酸素に伴うものと考えられるが、酸素供給の減少と完全に関連しているかというとそうではない。全身の酸素供給低下が生じると通常数時間で死に至るが、敗血症患者では高乳酸血症が持続することからもそのように考えられる。CohenとWoodsらによる乳酸アシドーシスの分類によると、他の要因も敗血症における高乳酸血症に関連し得ることが理解され、これらも治療の際には考慮する必要があると言える。

◎ 私見
 乳酸は頻繁に評価するが、その正体について真剣に考えてこなかったので勉強してみた。あまりにも自分が不勉強であったことに反省です。
 エネルギーの基質になることは知っていたが、どのように、と言われると説明できなかった。組織低酸素だけでは説明できない高乳酸血症に対してどのようにアプローチするのか、考え直さないといけいないのかもしない。

0 件のコメント:

コメントを投稿