2016年1月6日水曜日

敗血症と輸液③

A rational approach to fluid therapy in sepsis.
Marik P, Bellomo R.
Br J Anaesth. 2015 Oct 27. PMID: 26507493

✔ 過剰輸液の害
 敗血症に対する過剰輸液が有害であることは実験的研究やいくつかの臨床研究で報告されており、輸液バランスが大きいほど死亡率が高くなる傾向が示されている。輸液過剰が有害であることを示した臨床研究としてFEAST研究がある。これは南サハラの3141名の重症敗血症小児を対象とし、輸液量が大きいと死亡のリスクが高まることを示したものである。また、EGDTの検証のために行われたいくつかの臨床研究をみても、輸液量と死亡率の両者が時代とともに減少していることがわかる。全ての研究が適切な抗菌薬の早期投与を強調している一方で、72時間の輸液量が次第に減少しているのは注目に値する。さらに、それぞれの臨床研究で最初の6時間の輸液量と目標としたCVPの間に強い相関関係があることも重要である。ARISEやProMISeの通常治療群のCVPはEGDT適用群とほぼ同様の10mmHg以上で、輸液量も同等であった。担当医はCVPが8mmHg未満だと輸液せざるを得ないと考えがちであり、すでに蔓延しているこの問題を解決する唯一の方法はCVPを測ることをやめることである。

✔ 血行動態に基づく輸液管理
 血行動態に基づく輸液管理が必要である。循環血液量過多ではなく、循環血液量減少を扱うという観点に立たねばならない。過剰な輸液は重症患者の止血機構を破綻させ、死亡のリスクを上げる。低血圧や頻脈が過剰ではない輸液蘇生によって改善する患者がいるのも事実である。これらの患者は経口摂取不良や医療機関受診の遅れによって脱水を合併していたのであり、重症敗血症においては輸液そのものは血管拡張や血漿漏出・組織浮腫を悪化させるのみである。したがって、敗血症性ショックの初期蘇生としては500ml程度、多くても20ml/kgまでの細胞外液負荷にとどめるべきである。理想的には輸液蘇生は輸液反応性を指標にして行うべきである。生理食塩水は”生理的ではない”ので、急性脳損傷の患者以外は避けるべきである。生理食塩水は高Cl性アシドーシスの原因となり、腎血流を減少させ、腎不全を増やす。敗血症では細胞外液に比較して生理食塩水は死亡率を上昇させる。同様に、合成膠質液も腎不全や死亡を増やすので避けるべきである。
 緊急手術を要するような腹腔内感染症による敗血症はより積極的な輸液を要する患者群であると考えられている。しかし、過剰輸液は腹腔内圧上昇の原因となり、死亡に結びつく。これらの患者群では一回拍出量の持続モニタとミニ輸液負荷に対する反応評価が有用である。さらに、腹腔内圧モニタが必要になる。
 初期の制限された輸液蘇生の後も低血圧(MAP<65)ならノルアドレナリンを使用する。ノルアドレナリンは動脈血管に作用して血圧を上昇させ、臓器血流量を増やす。静脈容量血管は動脈抵抗血管よりも交感神経刺激に対する感受性が高い。すなわち、低用量のα1作動薬は動脈よりも静脈の方をより収縮させる。敗血症においてα1作動薬は内臓や皮膚のUnstressed volumeを移動させるため、静脈環流量が増えて心拍出量も増える。DattaとMagderは敗血症モデルを用いた実験で、ノルアドレナリンがMCFPを増加させ、静脈環流が増えることを示している。同様に、Persichiniらは敗血症患者においてノルアドレナリンを減らすとMCFPと静脈環流量が減少することを報告している。Kozierasらはノルアドレナリンが心係数と末梢血管抵抗と胸腔内血液量・全拡張末期容積を増やす事を示しているし(肺外水分量は不変)、Hamizaoulらは早期ノルアドレナリン投与により前負荷と心拍出量と平均血圧が上昇して血管拡張性ショックを改善したこと、Abidらは早期ノルアドレナリン投与がStressed volumeを増大させ、MCFPと静脈環流と心拍出量を増やしたと報告している。Stressed volumeの増加は血液の移動による結果であり、輸液負荷による一過性の血液量増加によるものではない。したがって、α1作動薬による作用は輸液と異なり長続きし、組織浮腫をもたらさない。ただしα1作動薬は既に末梢血管が収縮している循環血液量減少性ショック合併例(コレラなど)には使用すべきではないが、敗血症による動静脈拡張をきたしている患者では静脈環流量を増やして一回拍出量と灌流圧を増大させる。四肢の虚血は極めてまれだが、大量かつバゾプレシンとの併用しているときに認められることがある。DICが原因となることもある。早期ノルアドレナリンが四肢虚血の原因となるという報告はない。しっかり確保された末梢血管からでも低用量のノルアドレナリンなら安全に投与できる。敗血症モデルを用いた実験で、ノルアドレナリンはアドレナリンやフェニレフリンよりも血行動態安定に有用であると報告されている。ドパミンは不整脈や死亡を増やすので避けるべきである。
輸液量と死亡率・CVP(文献より引用)
✔ 結論
 多くの実験的・臨床的研究データにより、重症敗血症ならびに敗血症性ショックの対しては血行動態に基づく制限輸液管理が支持される。初期輸液は過剰とならないようにし、輸液反応性に基づいて投与すべきである。ノルアドレナリンは前負荷、末梢血管抵抗、心拍出量を増やすので、敗血症性ショックに投与すべきである。超音波検査により心機能をチェックし、血行動態の把握と治療の指標とする。早期ノルアドレナリン投与と制限輸液、血行動態に基づく治療戦略の有用性について臨床研究を行うべきである。

◎ 私見
 輸液を制限し、早期ノルアドレナリン投与を推奨。すでに多くの症例でこのような管理になっているような気もする。ショックの患者に輸液だけしてしばらく待ち、それからおもむろにノルアドレナリンの準備、、、なんてしていないから。
 輸液や抗菌薬、ノルアドレナリンだけでなく、敗血症に対して用いられうる全ての治療的介入は時間の要素が重要なのでしょう。そういったところを検証するために、まずはしっかりとした観察研究(レジストリ)をすべきなのだと思う。

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