2016年3月27日日曜日

VCO2を用いてエネルギー消費量を推定できるか

Simple equations for complex physiology: can we use VCO2 for calculating energy expenditure?
Singer P.
Crit Care. 2016 Mar 21;20(2016) PMID: 26997171


✔ Stapelらは重症患者のエネルギー消費量を実用的かつ簡易な方法で推測する方法を報告した。エネルギー必要量の予測式に基づいて栄養投与量を決定することが多いが、正確性に欠けるため過剰栄養や栄養欠乏となりやすく、この予測式に基づく臨床研究も結果の解釈に疑問符がついてしまう。エネルギー消費量(EE)を酸素消費量(VO2)、炭酸ガス産生量(VCO2)、窒素排泄量(NM)計測に基づいて計算する場合、間接熱量計が標準的な方法である。しかし、高価で専門的な知識や技術的な問題があるため、ほとんど使用されていないのが現状である。もっとも正確だと言われているDeltatracⅡは広く利用されているわけではなく、その他の新しい機器も正確性が改善しているとはいいがたい。エネルギー消費量を求める式は以下のとおりである

  EE(kcal) = 3.581 VO2 (L) + 1.448 VCO2 (L) - 1.773 urinary nitrogen (g)

 最も重要なパラメータはVO2ということになる。VO2の10%の誤差は、EEにおいては7%の誤差に相当するが、VCO2の10%の誤差は、EEにおいては3%の誤差に過ぎない。多くの測定機器はVO2とVCO2、もしくはVO2のみを計測している。VCO2のみに基づくEE計測は25年前に既に報告されており、CO2のエネルギー等量の推定値を用いるものであった(エネルギー消費/CO2産生; エネルギー等量)。飢餓や経腸栄養に関連するCO2の変動を考慮に入れても、CO2産生量に基づく安静時エネルギー消費量(REE)推定はVCO2の万能の指標として採用すべきではない。にもかかわらず、VCO2のかわりにVCO2/0.84がEE計算のために用いられている。0.84は三つの主要栄養素の呼吸商の平均値である。人工呼吸器を用いればVCO2計測は容易なので、VCO2でEEが計算できる。Mehtaらは重症小児のEEをVCO2単独で計算し、REEはVCO2計測のみで計算できると報告している。修正Weir公式(REE = 5.5 × VCO2 × 1440(呼吸商は0.89で固定))と予測式が比較されたが、正確性に欠けたとも報告されている。しかしこれは呼吸商を固定していたためであろう。食事中の炭水化物と脂質の比率に基づいて呼吸商を決めると、VCO2単独で求めたREEも正確になってくる。

✔ Stapelらは人工呼吸管理中の重症患者において、より洗練された方法でVCO2単独でエネルギー消費量を計算する方法を提案したが、このとき呼吸商は固定値を用いず栄養投与内容に基づいてその都度計算する方法を採用した。間接熱量計を標準と仮定した場合、この新しい方法との誤差は141±153kcal/day、7.7%であった。

✔ しかし、複雑な数式を用いればよりバイアスは低く正確な値が出ると考えられるが、重症患者の病態生理の複雑性を十分に反映できるものではない。まず、投与された栄養は部分的にしか吸収されない。小腸における糖の吸収はかなり低下しているし、重症では脂質の吸収速度も半減することが知られている。また、内因性糖供給は栄養を投与しても抑制されるわけではないことも挙げられる。ストレス下ではインスリン抵抗性や脂質分解、重度蛋白融解を抑制できないことも知られている。

✔ まとめ
 Stapelらは吸収された主要栄養素が呼吸商を規定していると仮定している。これはこれまでの予測式より良い結果をもたらしているが、複雑な生理学的変化を反映しているとは言えない。

◎ 私見
 Stapelらの2015年の論文に関連したSinger先生のコメント。投与した栄養が完全に吸収・利用されているわけではないので、計算結果も信頼性が劣ってしまうとしている。
 栄養が分かりづらいのは効果判定が難しいから。過小栄養も過剰栄養もだめで、ちょうどよいところにもっていくのは理論上無理なんじゃないかと思ってしまう。そこで、なんらかの指標を用いることになるが、その場合はその方法の問題点についてちゃんと考慮すべきということ。利点と欠点、理想と現実、利益とリスク。両方考えて初めて「判断」になる。

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